次に, キャリア教育の内容について考えたい。 川喜多 (2004) によれば,
キャリア教育の要素として次の7つが挙げられている。
① 積極態度の教育:社会を知るための基本的心構え
② 職業倫理の教育:仕事観・勤労観
③ 職 業 知 の 教 育:多様な産業・職業と, そこで必要な知識・技能 を知る
④ 自己理解の教育:自己の能力・適性の理解とキャリアの棚卸
⑤ 職業選択の教育:自分に適した職業を選び, 研究する
⑥ 職業能力の教育:選んだ職業のために必要な知識・技能の修得
⑦ 職業技法の教育:選んだ職業への就職のための技法
では, 前節で述べた 「基礎的能力」 「仕事観・職業観」 「主体的なキャリ ア形成能力」 の教育はこの要素とどうつながり, どのような場で修得させ ていけばよいのであろうか。
まず 「基礎的能力」 の教育には, 上記①積極態度の教育と⑥職業能力の 教育が含まれると考えられる。 具体的には, 各専門分野の知識や技能に加 え, 言語や計算能力・情報機器の操作などの基礎的なリテラシーの教育が ある。 これは主に各大学・学部等のカリキュラムに沿って正課教育で行わ れるべきであるものであろう。 ただ, 入試形態の多様化などのため, 入学 者の学力に差がある場合などに鑑み, 一部は補習等で行うことも考えられ る (大学入学前に行うことも, 入学後に行うこともありえよう)。 基礎的 能力にはこれに加えて, いわゆる 「社会人基礎力」2)や 「学士力 (のうち
「知識・理解」 以外の部分)」3)があると思われるが, これらは正課教育に 加えて正課外の活動で身につけるべきものであろう。 ただ, 正課外の活動 は大学・学部によって, また学生の状況や志向によってもさまざまであろ うから, 各大学において学生の達成すべき内容・レベルを示したり, 学生 が自分の能力を評価できるようなしくみがあったりした方がよいと思われ る。
次に 「仕事観・職業観」 には上記②職業倫理の教育と③職業知の教育が
含まれ, 「主体的なキャリア形成能力」 には上記④自己理解の教育・⑤職 業選択の教育および部分的に③職業知の教育が含まれると考えられる。 こ れらは従来, 学生がおのずと修得するものと考えられ, 大学が (少なくと も正課教育において) 担うべきではないという議論もあった。 しかしこれ からは, 大学において意識的・体系的に修得させていく必要があるべきで あろう。 形式としては講義・演習・実習 (例えばインターンシップ) など いろいろな形が考えられる。 これらの中で学生の主体的な取り組みを促す 仕掛けも有効であろう。 なお, ここでいう 「主体的なキャリア形成能力」
には, キャリア形成の前提となる 「自己分析力」 を含めて考えるべきであ ろう (上記④自己理解の教育はこれを修得させる教育である)。
ここで, 「就職のための指導」 (上記⑦職業技法の教育) はどう位置づけ られるべきであろうか。 これは従来, 就職指導担当の部署 (就職部・キャ リアセンターなど) が主に正課外で行ってきたものであり, これからもキャ リア教育の中で重要な位置を占めるべきものである。 しかし, 前提として 少なくとも, 学生にある程度の 「仕事観・職業観」 「主体的なキャリア形 成能力」 が身についていなければ, 指導の効果は期待しがたいのではなか ろうか。 その意味では, 初年次教育からの正課教育を含めた継続的な取り 組みが不可欠であろう。 学生にも教職員にもまだ, 就職活動は大学での学 習の成果 (主に正課による) とは別の対策が必要という認識が少なからず あると思われる。 しかし, 採用する企業側はむしろ, 大学生から社会人へ の連続性を重視している (長尾, 2010)。 つまり, 大学生として身につけ てきたことがもとになって, 社会人としても活躍できると考えるようになっ てきているのである。
吉本 (2007) によれば, 大学教育には 「遅効性」 があり, 卒業後すぐに 役に立つとは限らない。 大学教育の有用性に関連するのは, 在学中の学習 時間が多いこと, カリキュラムについてアカデミック志向が強いこと, カ リキュラムについて職業志向が強いこと, 専門分野と関連した就業体験を
持つこととされる。 すなわち, きちんとした学問体系に沿ってしっかり学 び, かつ将来の職業に向けた経験を正課・正課外のいずれか (ないし両方) で積むことが重要なのである。