では, キャリア教育は誰が担うべきなのであろうか。 基本的には, 大学 の教職員すべてが担うべきであろう。 それぞれが教育活動, しくみ・仕掛 けづくりなどを分担する必要がある。 前述のとおり, キャリア教育は広く 正課教育・正課外活動の各領域にわたり, それぞれの活動の中でキャリア 教育として位置づけられる部分をしっかり担うことが重要だからである。
しばしば, 就職担当部署や学生指導担当部署の教職員に負担が多くなりが ちであるが, 教務担当部署も関わりは大きいといえる。
また, 学生自身が積極的に参加するようなしくみを作り, 選択を促して いくことが重要である。 学生同士の交流・教え合いなどによる成長も重要 である。 その意味では, 大学横断的な取り組みへの参加も有効であろう。
さらに, 行政機関や地域などとの連携, 外部組織 (企業・NPOなど) の活用も必要かつ有効と考えられる。 外部組織の例としては, アントル プルヌールシップの育成に長けたNPOのETIC.4), 高校生への教育ボラ ンティアNPOのカタリバ5), 多くの大学に拠点を置き近年ではキャリア 形成支援にも熱心な大学生協6)などがある。
キャリア教育は手間もコストもかかり, 内容も幅広く, しかも継続的な 取り組みが求められるために非常に苦労が多い。 すべて自前で行うのは困 難なこともありうる。 そこで外部組織と連携するのは当然あってよいこと であり, 必要でもある。 しかし, 外部組織に丸投げするのは大学としての
責任を果たしたことにはならない。 あくまで全体のプログラムの一環とし て外部組織を活用するべきであろう。 また, 学生の主体的な取り組みを促 すことは重要ではあるが, 反社会的, あるいはあまりに危険な内容に入り 込むことがあってはならない。 積極的な学生がかえって不利益を被ること のないように, 適時適切なアドバイスや相談体制の充実などが望まれる。
8. キャリア教育の事例紹介
ここで, キャリア教育の事例を紹介する。 筆者の知る限りかなり進んだ 事例として, 京都産業大学の事例を紹介したい7)。 同大学では1998年の インターンシップ科目の設置を契機にキャリア教育の充実が図られ, 現在 では 「キャリア形成支援プログラム」 がつくられている。 これは教養・専 門科目とは別系列で, 全学共通プログラムとして設定されている。 企画・
運営は 「キャリア教育研究開発センター」 であり, 2008年時点では専任 教員1名・職員10名 (一部兼務者あり) で運営されていた。
このプログラムの年間参加者は約3,000名 (実数。 学生の約1/6) であ る。 プログラムは基本講義4科目 (キャリア・デザインの基礎, ゲストス ピーチ型講座。 1科目を除き1年前期から), 参加型のグループ学習科目4 科目 (1科目を除き1年後期から), インターンシップ (2年前期から) で 構成されており, 4年間にわたる独自プログラム (インターンシップおよ びゼミナール形式の科目) である。
この事例の特徴としては, 1年前期からの継続的・体系的プログラムで あること, 目的は前述の 「社会人基礎力」 にあたる力の養成におかれてい ること, 講義科目と参加型科目 (ゼミナール・実習など) の組み合わせで あって, 基本知識の修得やや意識づけは講義で行うことになっていること, ゲストスピーチ型講義も目的に応じて3科目設置していること, このほか に資格等対策の課外講座があること, どの科目も必修にはしておらず学生
の主体性を尊重していること (ただし入学直後の 「自己発見レポート」 は 全員に課し, 意識づけを行っている), キャリア・アドバイザーが半常駐 していること (就職指導とは別である。 週4日7時間程度), もともとは 教務部主導でその後独立組織を立ち上げていること (運営委員会に学部・
他部署から参加している), 就職担当部署とは直接連携していないことが あげられる。
4年間にわたる整備された体系 (一部分の履修も可能にはなっている) やプログラムの充実ぶりもさることながら, 正課教育を担当する部署が主 導したことが, 大学の教育全体におけるキャリア教育の位置づけを明確し ているという意味で, 特筆すべき事例であろう。
9. キャリア教育の事例紹介
次に, 筆者自身が行ったキャリア教育の実践例を紹介する。 筆者はこれ まで, 前任校の短大, 非常勤先の大学, 現任校でキャリア教育を主とする 科目を担当した。 内容的には十分とはいえないところもあるが, 一事例と して紹介したい。
事例1 前任校 (愛知県の女子短大ビジネス系学科 200607年度) 筆者担当のゼミナールで, 1年半 (1年後期〜2年) の間, 「キャリア・
デザイン」 についての指導を行った (約15名)。 ここでは 「仕事観・勤労 観」 に関する一般的な講義科目があったため, この内容には触れなかった。
内容は次のとおりである。
・1年後期:キャリアとは何か, キャリア観の変化, キャリア・デザイ ンとは何か, キャリア発達とは何か, 各人のキャリア志向 (キャリア・
アンカー) の認識
・2年:生涯にわたるキャリア発達, キャリア形成の潮流, 人的資源管
理とキャリア形成, 女性のキャリア形成, キャリア形成の実例研究な ど
まずキャリア・デザインやキャリア発達について学び, 自己のキャリア 志向, 他者のキャリアの尊重, 企業によるキャリア形成施策などに進んで いった。 流れとしては, キャリアについての知識習得―キャリア志向の認 識―他者とのかかわりの中でのキャリア・デザインの理解と進んでいった。
各期の学習内容を示す意味でレポート課題をあげる。
・1年後期:各人の 「キャリア・アンカー (キャリアに関する自己イメー ジのこと)」 について
―自分のキャリア・アンカーの特徴
―自分の望む進路とキャリア・アンカーはどう関わっているか (例え ば, 自分の望む職種は自分のキャリア・アンカーのどういう部分と 関わっているか, など)。 もしあまり関わりがないのであれば, そ れはなぜか
・2年前期:キャリア発達に関する 「トランジション・サイクル (新し い環境に入り, いろいろな経験を積んで次第に慣れていく過程)」 に ついて
―今の状況 (例えば短大に入って) と前の状況 (例えば高校時代) で, 各段階の課題にどのように対処してきたか, 各段階でどんな感じ方, 考え方をしたか。 またうまく課題に対処できたか, 苦労したか。
―周りの大人1人にインタビューして, その人のトランジション・サ イクルをまとめる。
・2年後期:
―「あなたのプランニングシート (現在から20年後までのワークプラ ン・ライフプランのシート)」 を作成する (内容は漠然としていて もよいが, 現在・1ヶ月後・3ヶ月後・半年後は具体的に書くこと)
―作成したシートのうち2つ以上の時期を選んで, その時期のキャリ