その選択を行うという現行方式に租税債権の公益性といった抽象的な理念 とは別に租税債権の一般的優先権の現実的な正当性を見出すことができる のである。 すなわち, 租税債権の公益性という抽象的な理念から離れたと ころ32)で, 選択性のない租税債権に一般的優先権を与え, これに抵触しな いように私債権者が選択できるようにするという現行の仕組みが正当化さ れるのである33)。 このように租税債権と私債権との個別具体的な優劣の判 定において租税債権の無選択性と私債権者の予測可能性の確保にその基礎 を置くことによりその具体的基準を導き出すことが現実的なものとなり, したがって, 債権者間の衡平を図ることが可能であると考えるのである。
租税債権は担保物権のように公示がされるわけではないが, 納税証明書発 行制度によりその存否・金額が公示されることになるから, これを担保権 の公示と同列に扱うことによって租税債権も私債権と同一の土俵に上げる ことが可能となる。
2. いわゆるぐるぐる回りが生じた場合の調整に関する
が国税の法定納期限等以前に設定されているときは, その国税はその 換価代金35)につき, その質権により担保される債権に劣後して徴収さ れる (徴収法15条1項)。 この設定の時期については登記・登録され ているものについてはその登記・登録がされたときとなり, 登記・登 録をすることができる質権以外の動産質などの質権については, 質権 者は質権設定の事実につき所定の証明をすることが国税に優先するた めに必要とされる (同条2項前段)。 同一の動産につき数個の質権が 設定されているときは, その質権間の優劣は設定時期の先後により決 せられる (民法355条) が, これにより民法上優先する質権の設定に つき所定の証明がされず国税に劣後する場合において, 民法上劣後す る質権がその設定につき所定の証明がされ国税に優先するといういわ ばぐるぐる回りが観念できるが, この場合には, この民法上劣後する 質権は所定の証明がされなかった民法上優先する質権が国税に劣後す る金額の範囲以内においてその証明をした民法上劣後する質権に劣後 するとされている (徴収法15条4項)。 有価証券以外のものの質権設 定の事実の証明は, 公正証書等による確定日付のある特定の証書36)に よって証明されなければならない (同条2項後段)37)。 有価証券につ いて格別の証明方法が限定されていないのは, 金融機関等において大 量回帰的に有価証券に質権が設定されるような場合において個々に所 定の証明手続きを取ることは極めて煩瑣であることが理由とされたの ではなかったかと推測される38)。 同一の財産上に複数の質権が設定さ れたときの私法上の質権の優先劣後が国税債権の参入により, 国税が 第二順位質権に劣後し, 第二順位質権が第一順位質権に劣後し, 第一 順位質権が国税に劣後するといういわゆるぐるぐる回りの生ずること が観念されるが, 国税徴収法15条4項は私法上の質権者の順位を強 制的に変更することでこれを調整することとしている。 これは, 第二 順位質権者としては国税に優先することを確認し, 換価代金が第一順
位質権者に優先的に充てられても配当を受けられるとの期待があると ころ, 第一順位質権者が証明できなかったことにより国税に劣後する こととなった事情は第二順位質権者の責に帰すべきものではなく, し たがって, 証明責任を十分に果たさなかったという第一順位質権者の 過失等があっても第二順位質権者の期待を裏切らないようにするもの である。 その意味で私法秩序の尊重ということができるが, 国税徴収 法が質権の設定時期に確定日付のある特定の証書による証明を求める という厳格な手続きを定めていることを前提とすれば, 第一順位質権 者がこのような証明ができないことが私法上の優先順位まで変更を及 ぼす結果となる必要があるか否かについてはなお検討が必要と思われ る。 すなわち, 第二順位質権者の期待を裏切らないという点において 私法上の順位を覆すことに合理性を認めるにしても, 第一順位質権者 は, 他の担保権者等に対する対抗要件を具備することで満足するのが 通常であり, 国税との関係で確定日付けのある特定の書面による質権 設定の証明が求められるとは通常想定しないものと思われるのであっ て, 質権の設定において確定日付のある特定の証書による証明をしな いことが直ちに過失があるということにはならない。 したがって, 質 権の設定に後続する国税債権の成立・確定は当該質権者の予想できる ものではないことから, 国税徴収法15条4項の規定を前提とした場 合には, 質権の設定をする者は登記・登録できるもの及び有価証券を 除き, 常に同条2項後段所定の確定日付けのある特定の書面による証 明ができるようにしていなければ安心できないということになる。 現 行国税徴収法が私債権者の予測可能性を確保しつつ国税に一般的優先 権を認めていることの基本的な理念が十分に生かされていないのでは ないかと思われるのである。 質権の設定時期の証明が必要であるとし ても, また, その証明がなされない場合には第一順位質権者は他の担 保権者等に対する対抗要件を具備したにも関わらず私法上の優先順位
が変更される結果とならざるを得ないとしても, その質権の設定の事 実の証明は有価証券を目的とする質権と同様の証明でよいのではない かと思われる。 要は租税徴収庁において質権の設定時期が確認できれ ばよいのであって, 特定の書類による一定の形式に閉じ込める必要は ないものと思われるのである39)。 このことは, 同項後段を準用する同 法17条2項及び24条8項の規定の適用がある場合も同様である。
同法15条4項はこのように私法上のルールを強制的に変更するも のであるから, 実務は国税徴収法15条4項の規定の直接適用がある 場合を除き, 他にいわゆるぐるぐる回りが生じる場合には同項の類推 適用はせず同法26条を類推適用することとしている40)。
国税と地方税との関係は, 基本的には同順位にあるものとして, 担 保を徴した租税債権を除き41), 差押先着手主義 (国税徴収法12条, 地方税法14条の6) 及び交付要求先着手主義 (国税徴収法13条, 地 方税法14条の7)42)が採用されているのに対して, 国税又は地方税と 私債権との間においては, 法定納期限等と担保権の設定・成立時期の 先後によって優劣を決することを原則としている。 このような, 優劣 の決定基準に相違があるため, これらの間においていわゆるぐるぐる 回りの関係が生じる場合, すなわち, 国税が地方税に優先し, その地 方税が私債権に優先し, その私債権が国税に優先することなどが生じ る場合43)がある。 徴収法26条 (国税及び地方税等と私債権との競合 の調整) はこのような場合について次のように基準を置いている。
イ 共益費用等の優先 (国税徴収法26条1号)
次の①〜⑤に掲げるものは次に掲げる順位により優先的に配当を 受けることができる。
① 強制換価手続の費用又は直接の滞納処分費
② 強制換価の場合の消費税等 (地方税法の規定によりこれに相当 する優先権を有するものを含む。)
③ 国税に優先する留置権により担保される債権
④ 差押えを受けた滞納者の動産・自動車等の賃借権者が支払った 前払賃料
⑤ 不動産保存の先取特権等の被担保債権 (付表2参照)
ロ 国税・地方税・公課のグループと私債権グループとの調整 (同条 2号)
国税, 地方税, 公課及び私債権 (上記イに該当するものは除く。) をすべて法定納期限等と担保権の設定, 登記, 譲渡若しくは成立の 時期によって換価代金から上記イに当てられる金額を控除した残額 に達するまで古いものから国税徴収法第2章 (国税と他の債権との 調整) 又は地方税法その他の法律の規定を適用して並べ44), そのう ち国税・地方税・公課グループに充てられる金額の合計額と私債権 に充てられる金額の合計額を算出する。
ハ 国税・地方税・公課グループ間での調整 (同条3号)
上記ロにより国税・地方税・公課グループに充てられるべき金額 の合計額を, 国税優先の原則 (徴収法8条), 差押先着手主義 (同 法12条), 交付要求先着手主義 (同法13条), 担保を徴した国税の 優先 (同法14条) の規定及びこれらの規定に相当する地方税法の 規定45)により, 順次国税, 地方税又は公課に充てる。
ニ 私債権間での調整 (同条4号)
上記ロにより私債権グループに充てられるべき金額の合計額は, 民法その他の法律の規定に従い順次に各私債権に充てられる。
租税債権に常に優先する上記イを除き, 上記ロ〜ニのとおり, 優 劣の基準の異なる租税・公課と私債権との2グループに区分し (上 記ロ), 各グループの中ではそれぞれ固有の基準により優劣をつけ ることとし (上記ハ及びニ), そして, この2グループへの振り分 けは, 法定納期限等と担保権の設定・成立の時期の先後により決す
ることとしているものである (上記ロ)。 この2グループへの振り 分けがこの調整規定の本質的な機能を果たすものであるが, この振 り分け基準は, 租税・公課の法定納期限等が租税・公課の存否・金 額が公示される時期であるとみなせば, この規定は基本的には私法 のルールとの調和を図り, 私債権者の予測可能性を確保するとの基 本的な考えを前提にした基準を採用していると評価できるものであ る。 したがって, 徴収実務において, 下記〜の徴収法17条, 18条の規定の適用において同法26条が類推適用46)されることにつ いては十分合理性が認められるものである。 このように, 上記ロの 2グループへの振り分けは公益的債権と私債権との区分ということ ではなく, 物権公示の原則の下で担保権の設定・成立の順序を基本 ルールとする債権と, これと異なるルールを採用する租税・公課と をグループ分けするものであるということができる。
この国税徴収法26条の規定の類推適用が可能と思われるいわゆ るぐるぐる回りが生じ又は生じると観念できる場合として下記〜 の場合が考えられよう。 なお, のロは現行破産法の問題であり, 国税徴収法26条の規定の類推適用はもとよりできないが, いわゆ るぐるぐる回りが生ずると観念できる場合であることから本稿の検 討の対象とした。
国税徴収法17条1項は 「納税者が質権又は抵当権の設定されて いる財産を譲り受けたときは, 国税は, その換価代金につき, その 質権又は抵当権により担保される債権に次いで徴収する」 としてい る。 これは, 譲渡人を債務者とする債権者において譲受人の租税債 権の存否・金額を確認することができないことから当該債権者の被 担保債権を譲受人の租税債権に優先させるものであり, 私債権者の 予測可能性を確保するという基本的な考えは同法15条1項及び16 条と変わるところはない。 この場合, これらの被担保債権は当該譲
受前に担保権が設定されている事実につき所定の証明47)がされなけ れば優先できない (同法17条2項前段)。 したがって, 納税者が譲 り受けた財産上に2以上の質権又は抵当権があり, これらの担保権 の間で優先する質権がその譲受前に設定されている事実につき所定 の証明がされない場合にはこの質権, この質権に劣後する質権・抵 当権及び国税との間でいわゆるぐるぐる回りが生ずることになる。
そして, この場合において, 実務上, 徴収法26条を類推適用する こととされている (国税徴収法基本通達17条関係6)。 同法17条2 項後段は15条2項後段及び同条3項を準用することとしているこ とから徴収法15条4項の規定の類推適用も考えられるが, 明文の 規定なく同項が類推適用されるべきではなく48), 合理性を有する取 扱いと評価できるものである。
納税者がその有する財産に設定した質権又は抵当権が国税に劣後 する場合において, これらの担保権が設定された当該財産を第三者 に譲渡し, これを納税者が買い戻しても, 徴収法17条1項の規定 の適用ないものと解される (実務上の取扱いにつき国税徴収法基本
通達17条関係2) が, 当該第三者である譲受人を債務者として譲
受後に質権又は抵当権を設定し, その後に納税者が買い戻した場合 には, この設定された質権又は抵当権は徴収法17条1項の規定の 適用がある。 したがって, 納税者が設定した担保権, 第三者が設定 した担保権及び国税との間でいわゆるぐるぐる回りが生じることに なり, 実務上, 徴収法26条を類推適用することとされている (国 税徴収法基本通達17条関係7)。
国税に先立って徴収される根質又は根抵当権によって担保される 債権の元本の金額は, その国税に優先する他の債権者を害すること となる場合を除き, これらの担保権者に対する差押又は交付要求の 通知を受けた時における債権額が限度とされる (国税徴収法18条