1.1 低品位炭利用技術に対する需要(ニーズ)と政策目標
1.1.6 日本
(1)低品位炭の利用が想定される産業分野と利用状況
我が国において、石炭は、発電、鉄鋼、セメント、製紙工場等で使用されている。低品 位炭については、発電、鉄鋼の高炉吹き込み燃料(PCI)、セメントキルンや製紙工場等の 産業用ボイラの燃料用途としての利用が想定される。低品位炭は、コークス原料としては 単に脱水処理しただけではコークス化性がない。現状では、コークス原料として使用する 際には高価なバインダーが必要となり、用途としては適さないと考えられる。化学原料等 として使用するためには、水素添加反応等の改質操作が必要となる。
比較的発熱量の高い亜歴青炭はすでに輸入され、事業用及び産業用ボイラで使用されて
いるが、発熱量の低い高水分炭の利用はこれからの課題である。
神戸製鋼所とJCOALがインドネシアの南カリマンタンにおいて共同で運転している高 水分炭の脱水実証プラント(600トン/日)から製造した脱水ブリケット(Upgraded Brown
Coal, UBC)を日本に運搬し、事業用ボイラでの燃焼試験を実施している。通常使用して
いる石炭に20%程度脱水ブリケットを混炭して使用する範囲では、特段の問題は発生しな いことが確認されている。
石炭価格が上昇傾向にある中で、脱水等の改質コストが見合えば、脱水ブリケットを日 本に運搬して、事業用や産業用ボイラでの利用が進む可能性がある。
(2)低品位炭利用技術の利用に向けた政策
我が国は殆ど全量の石炭を輸入しており、昨今の世界的な石炭需要の増加の中で我が国 の石炭の安定供給を確保するためには、産炭国での権益を確保することが重要となってい る。この状況の中で、石炭の生産国において、従来の亜瀝青炭、瀝青炭を中心とした石炭 の利用が高水分の亜瀝青炭や褐炭等の低石炭化度炭(Low Rank Coal:LRC)にまで拡大 している。特に、豪州やインドネシア等のLRCの保有国では、LRCの利用が重要な課題 となっている。
日本のエネルギー政策は、市場原理に基づくとともに、安定供給と環境に配慮したエネ ルギーの生産と消費を基本としている。その中で、エネルギー基本計画に基づく石炭政策 は、二つの大きな柱で構成されている。第一に、国内と海外の石炭火力発電の低炭素化の 推進であり、第二として日本に対する石炭資源の安定供給確保を掲げている。その手段と して石炭の自主開発比率の拡大をにらんだフロンティア開拓、産炭国協力の推進及び低品 位炭の有効活用等を目指している
低品位炭の有効活用としては、産炭国と協力して石炭のクリーン・コール技術(CCT)を ベースにした利用技術を開発し、中でも褐炭や水分の多い亜瀝青炭等の LCR をガス化し て SNG のようなクリーンエネルギーを製造することにより、エネルギーの安定供給に資 することが期待される。なお、LRC利用技術の開発と導入を産炭国との協力の下に推進す るために、政府として国際的な技術協力を図っており、その実施にあたって補助金等のイ ンセンティブが付与されている。
(3)低品位炭利用技術の開発・導入状況と政府支援
LRCの利用に関する技術として以下があり、一部は上記(の考え方に基づいて、政府と して実用化を支援している。
【脱水・乾燥分野】
1)スチーム・チューブ・ドライヤ(STD)
既に、半商業的に利用できる脱水技術として月島機械のスチームによるロータリードラ
イヤがある。水分が多いLRCを乾燥させて燃焼効率を高めるため、2010年 12月からイ ンドネシアで採掘した LRC を日本に運び、火力発電所の燃料に適した石炭に乾燥させる 実証実験を始めた。LRC を入れた乾燥機を回転させながら、内部の管を通る蒸気の熱で LRCを乾燥させる。重量の 4~6 割を水分が占めるLRCを乾燥させる速度や火力発電所 から出る蒸気を熱源として使う方法などを検証。商業設備の第1弾としてインドネシアの 電力会社インドネシアパワーがジャワ島西部で運営するスララヤ石炭火力発電所への納入 を目指している。
出所: 月島機械ウェッブサイト(http://www.tsk-g.co.jp/tech/equip/kanso/STD.html)より
図 1.1.11 スチーム・チューブ・ドライヤ(STD)
2)コール・イン・チューブ(CIT)
川崎重工はコークス炉原料炭の調湿用としてチューブ・ドライヤを販売しており、既に 420乾燥トン/時の規模の商業機を国内製鉄会社に納入した実績がある。原料炭の水分量は 褐炭や高水分の亜歴青炭と比べてかなり低いが、ボイラ炭の微粉砕前の予備乾燥にも適用 可能としている。
CITドライヤはスチームを熱源とし、多管式熱交換器の構造をした間接加熱型の乾燥機 である。月島機械の STD がチューブ内に蒸気を通すのに対して、CITドライヤは石炭を チューブ内に供給することから、乾燥条件がマイルドになる。自動化により原料石炭の水 分と処理量を検知し、最適な乾燥条件(回転数、蒸気圧力など)を自動的に与える。
出所: 川崎重工ウェッブサイトより
(http://www.khi.co.jp/kplant/business/industry_infra/industry/charcoal.html)
図 1.1.12 コール・イン・チューブ(CIT)
3)UBC(Upgraded Brown Coal)プロセス
UBC プロセスは、60%以上の水分を含有する豪州褐炭の液化プロセスの前処理プロセ スのスラリー脱水法に基づいて、神戸製鋼所により開発された蒸発法の改質技術であり、
油中で脱水することを特徴とする。改質技術の中で処理条件が最も穏和であるとともに、
脱水後に回収した蒸気の蒸発潜熱を熱源に利用することによりエネルギー消費量の削減を 図ることや、重質油の吸着による改質炭の安定化を図ることで、従来の蒸発法の欠点を克 服している。2006年からインドネシアにおいて600トン/日プラントの大型実証プラント の開発を行っている。
図 1.1.13 UBC実証プラント(600トン/日)
プロセスは、図1.1.14に示す工程から構成されている。
出所: NEDO、JCOAL「日本のクリーンコールテクノロジー」
図 1.1.14 UBCプロセスのプロセスフロー
a. スラリー調製工程
粉砕された原炭と軽質油(循環溶剤)及び少量の重質油(アスファルト等)を混合しス ラリー化する。
b. スラリー脱水工程
スラリーを加熱し石炭中の水分を油中で除去後、石炭表面等に重質油が吸着し、脱水・
改質・安定化する。
c. 油分離・回収工程
改質後の石炭から軽質油を分離・回収し、回収油は循環する(改質炭は粉状で得られる)。
d. 成型工程
粉状の改質炭を成型する(山元以外で使用する場合の輸送用のため、山元発電等の場合 には成型せずに直接利用することが可能)。
UBC法の主な特徴は以下の通りである。
脱水条件が穏和(140~180℃、350kPa)なため化学反応が起こらない。このため廃 水処理が容易。
分離された水分(蒸気)の潜熱を利用することによるエネルギー消費量の低減。
アスファルト等の重質油が多孔質な低品位炭内部の細孔に吸着し石炭性状を安定化 し、自然発火性を抑制。石炭からの脱水後に、低品位炭内部の細孔へ吸着するため、
比較的低い温度、圧力での操作が可能。
LRCの改質は、主に脱水が中心であり石炭性状そのものの変化は少ない。改質により水 分が大きく減少し発熱量が増加しているが、灰分、揮発分等は改質前後でほとんど変化し ない。これは、処理条件が穏和なため、熱分解反応や化学反応等が生じていないことによ る。また、自然発火性のある豪州ハンターバレー炭及びインドネシアの KPC 炭に比べ、
UBCは自然発火しにくい結果が示されている。
日本へ UBCを輸送しての実炉による燃焼試験の結果は、20%程度の混炭が可能である こと、NOx濃度が瀝青炭に比べて低く、未燃分が少ないことから良好な燃え切り性を有し ていること、低 NOx 燃焼条件下でも未燃分をほとんど排出しないことなど、優れた特性 を示した。
4)熱水改質コールスラリー(Hot Water Treating-Coal slurry, HWT-cs)
日揮は、石炭利用総合センター(現、石炭エネルギーセンター)及び日本 COM(平成 14 年解散)とともに、「低品位炭の改質技術」の開発を通産省石炭利用技術振興補助事業 として 1991年より1996年までの5年間に亘り共同で実施した。この共同開発の初期段 階において、低品位炭の改質方法としてエネルギー効率が良く、改質炭の利用方法として のスラリー燃料(CS:Coal Slurry)化に適した熱水改質法(HWT:Hot Water Treating) を低品位炭改質プロセスに選定した。1994年には日本COM小名浜工場内に世界最大級の HWT法改質パイロットプラント(6トン/日)を建設すると共に、豪州褐炭及びインドネ シア亜瀝青炭2炭種の計3炭種を代表低品位炭として改質試験、スラリー化試験、燃焼試 験、及びガス化試験を実施した。図1.1.15にHWT-csの製造プロセスフローを示す。
出所: APECクリーン化石燃料専門家会合(EGCF)、福岡、2010年9月
図 1.1.15 熱水改質スラリー製造(HWT-cs)プロセスフロー