著しい経済発展が進みつつある東アジア地域においては、エネルギー需要が増大するこ とが見込まれ、特に石炭に対する需要が急速に拡大するものと予想されている。このよう な背景に基づき、石炭の需給バランスの緩和と環境対策から、ERIA 域内に資源的にも豊 富に存在する低品位炭を有効利用する重要性が増している。
低品位炭を有効利用するため、様々な利用技術開発に向けての取組みがなされてはいる が、現状では、低品位炭の利用技術の導入・普及を阻害する障壁が存在する。これらの障 壁を国別に、政策面、経済面、技術面等に別けて第1章で記述したが、ここでは低品位炭 利用技術の普及に向けての課題について述べる。
3.1.1 普及に向けての課題
(1)政策面での課題
低品位炭利用技術の中で最も重要な技術は脱水・乾燥であるが、現状では、商業的、経 済的、効率的な脱水・乾燥技術は確立されていない。この技術の商業化に向けた取組みに 対する政府の支援が、非常に重要と考える。豪州や日本では低品位炭利用技術開発に向け て政府が積極的な財政的支援を行っているが、他のERIAメンバー国においても低品位炭 利用技術開発に対する政府の支援が望まれる。
また、低品位炭利用技術開発に向けた各国単独での取組みは重要ではあるが、単独での 開発への取組みは予算面や保有技術等の面で制約があるため、技術開発をより効果的かつ より迅速に進めるには二国間や多国間で協力して取り組むことが重要と考えられる。
低品位炭の利用拡大はERIA域内のエネルギー安定供給に大きく寄与するため、低品位 炭資源の保有国と利用技術保有国が協力して利用技術開発を進めることが重要である。多 国間及び二国間の協力により技術開発を進める場合、当然ながら、利用技術保有国の知的 財産権が保護されることが前提となる。知的財産権については国毎に既に関連する法令は 施行されているが、技術保有国の知的財産権が技術移転を受ける国において厳格に保護さ れるのかどうかが課題となる。
(2)経済面での課題
低品位炭利用のための技術開発は、まず脱水・乾燥技術の開発が最も重要であるが、こ の脱水・乾燥技術を含め、低品位炭利用技術開発のための設備投資には多額の資金が必要 となる。
低品位炭には水分が多く含まれており、脱水・乾燥するためのコストが高く、この脱水・
乾燥コストの低減が低品位炭の改質技術の商業化に最も重要な要素となる。例えば、イン
ドネシアにおいて日本の協力の下に実施されているUBC(褐炭改質)プロジェクトでは、
実証プラントによる低品位炭の利用技術開発が進められているが、現状では経済性の面で 商業化できるまでには至っていない。現在、開発中の技術の実証と商業化を目指した取組 みが今後の課題となる。
経済性のある低品位炭の脱水・乾燥技術が確立されれば、低品位炭のガス化・液化等の 転換技術の開発も進展していくことになる。
また、インドネシアでは発熱量3,500kcal/kg程度の褐炭そのものが輸出されているが、
高水分の低品位炭を長距離の陸上あるいは海上輸送することは単位エネルギー当たりでの 輸送コストが高くつくことになる。低品位炭をそのまま輸入するのは、インドネシア近隣 周辺国に限定される。低品位炭の有効利用を促進するためには、輸送も考慮して、経済性 のある効率的な脱水・乾燥技術の開発が重要と考えられる。
なお、低品位炭利用技術のコストについては、技術開発途上にある現状では定量的数値 はない。WGメンバーからは、「石炭ガス化の設備コストについて、あらゆる瀝青炭ガス 化技術において少なくとも3,000米ドル/kWを超える」、と非常に高いことが言及された。
また、「脱水・乾燥に係る設備コストについては、超臨界圧、超超臨界圧あるいはIGCC を含め、実証プロジェクトを実施することにより、初めて設備コストは予想できるもので ある」、とのことであった。
(3)技術面での課題
低品位炭利用技術については、混炭等による直接利用技術の他に、脱水・乾燥や CWM 等の流体化等の改質技術、ガス化や液化といった転換技術がある。低品位炭の利用を促進 するために最も重要となる技術は、改質技術の中の脱水・乾燥技術である。
現状では、商業的、経済的、効率的な脱水・乾燥技術の開発が実現していないため、こ の脱水・乾燥技術の商業化が最優先課題となる。上述のように、インドネシアでは UBC
やBCB(Binderless Coal Briquetting)プロジェクトで改質技術の開発が進められている
ものの、商業化には至っていない。
また、低品位炭を脱水・乾燥した改質炭は非常に自然発熱し易い性質があり、海上輸送 等による長距離輸送には不向きであることから、ガス化による液体燃料を製造する転換技 術が重要となる。現状の低品位炭のガス化技術開発はパイロット・プラントによるもので あるが、豪州ビクトリア州では褐炭を使用しての大規模な乾燥・ガス化の実証プロジェク
ト(IDGCC)が近い将来開始される見通しであり、その成果が期待されている。
低品位炭利用技術の開発を進める上で重要なのが人材の育成である。技術の継承や技術 開発を継続的に進めるための若手技術者や研究リーダーを育成するためのプログラムが必 要であり、二国間及び多国間における協力プロジェクトを実施する場合には、人材育成の 観点から、若手技術者の参画が考慮されることが望まれる。
(4)その他の課題
今後のERIA地域におけるエネルギー需要の増大に対して、石炭は大きな役割を担うこ とが期待されている。このエネルギー需要増に対応するため、同地域内においても低品位 炭を含む石炭火力発電所の建設計画が作成されているが、タイの例のように既存の石炭火 力発電所の操業に伴う環境問題が生じたことにより、新規の石炭火力発電所建設に対して、
建設予定地の周辺住民やNGOが反対運動を続けている国もある。
このような国では、一般市民向けに石炭に対する理解を深めてもらうためのパブリック・
アクセプタンス活動を地道に継続することが重要である。
3.1.2 普及に向けての取組みの方向性
以下に低品位炭利用WGメンバー及びヒアリング調査により聴取した低品位炭利用技術 の普及に向けた期待・要望を示す。
(1)豪州
低品位炭の利用技術開発に向けて、脱水及びガス化技術開発のためのパイロット試験及 び実証試験への移行が早急に必要である。脱水及びガス化技術の実証試験が成功すれば、
褐炭を利用した製品が輸出可能となり、新たな市場が生まれることとなる。
国際協力が技術開発の鍵であり、複数の国が取り組んでいる技術(乾燥、ガス化、水素 利用)について、技術の提供が可能な日本企業や石炭業界が果たすことのできる役割は大 きく、低品位炭の利用技術開発の促進のために日豪間で学生、研究者、及び技術者の交流 を強力に進めることが重要である。
また、豪州における産業界の技術者も、大学が開催する研究会等へ参加することが奨励 されるべきで、また、その逆に、石炭科学者、大学等の研究者が産業界にも関与すること が奨励されるべきである。
(2)中国
先進的で大規模な褐炭改質及び転換(ガス化・液化)技術が緊急に必要である。また、
褐炭利用の研究開発及び実証に向けた国内及び国際的な情報交換や技術協力を強化推進す ることが重要である。
褐炭の乾燥・脱水技術に関して、以下の要望が出された。
適正なコストで3,500kcal/kgレベルの原炭を5,000kcal/kgレベルに改質
低消費エネルギー型、5,000~10,000トン/日規模の乾燥・脱水技術、設備
未利用熱源(低中温排熱など)の適用技術
脱水後回収した水の処理、有効利用技術
(3)インドネシア
インドネシアで低品位炭利用を促進するには、以下の対応が必要と考えられる。
現在開発中の技術の実証と商業化を急ぐ。
天然ガスと価格的に競争できない段階の石炭ガス化についてもモデルとなる産業 化プロジェクトを官民合同で早急に進める。
同時に制度・政策的障壁の検討を進め、税制等のインセンティブを制度化する(例 えば、特定技術の利用についての補助金、減税措置等)
低品位炭利用技術の開発に向け、先進国との二国間及び広域的な多国間の国際協 力を積極的に推進する。
(4)タイ
タイにおいては、石炭利用に対する地域住民の反対運動を解決するためのパブリック・
アクセプタンス活動を強化することが最も重要である。
低品位炭利用のためのプロトタイプ装置による実証試験の実施が必要であると同時に、
低品位炭利用に係る技術移転の国際的支援が必要である。
(5)韓国
アジア地域での低品位炭利用技術の導入・普及のために、多国間及び二国間の研究開発 が必要である。
韓国政府は、KETEP(韓国エネルギー資源技術評価企画院)等が管轄する国際協プロ グラムを支援しており、このプログラムを通して低品位炭利用技術を開発する多国間及び 二国間の研究開発プロジェクトを支援していく用意がある。
(6)日本
WG会合において、低品位炭利用に係る技術的課題として、以下の事項を協力して検討 することが提案された。
低石炭化度炭(LRC)の乾燥・脱水と安定化技術。特に、革新技術と後工程のリ ンクによるコスト削減。
LRCの反応活性の制御と利用。例えば燃焼促進添加剤としての利用、マイルドな ガス化条件の設定、炭化における3次元構造の積極的展開。
高灰分炭に対応した電気集塵機の最適化と燃焼灰の利用技術開発
高硫黄炭、高窒素炭に対応した高負荷対応型脱硫・脱硝技術の開発
微量元素処理技術の開発
過酷環境下での水処理技術(特に低温対応型)