2.2 高効率石炭火力発電所の普及を阻害する政策、経済、技術的障壁
2.2.4 その他の障壁
なお、その他として、石炭火力発電全般に係わる障壁について記す。
(1)豪州
豪州では環境汚染に対する国民の評価が厳しく、高効率石炭火力発電技術に対する国民 理解の不足が普及の障壁となっている。
(2)中国
特に指摘すべき事項はない。
(3)インド
石炭火力を使用する上では、CO2排出が他の電源と比較して多い、高灰分の国内炭利用 に由来する灰処理の問題、石炭を輸送する鉄道能力の問題がある。
特に灰処理については、高効率石炭火力発電を導入しても石炭灰問題に関しては有効な 解決策にはならないため、障壁のひとつとなる可能性は高い。
(4)インドネシア
高効率石炭火力発電技術支援国にとっては、IPPプロジェクトにおいて、用地取得も役 務の提供範囲に含まれることがあり、そのような場合は参入ハードルが高くなるとの意見 があった。
(5)韓国
特に指摘すべき事項はない。
(6)タイ
タイでは、過去にEGATのMae Moh発電所が引起した公害問題から、石炭火力に対す る国民の反対が強い。以前、日本のトーメンと中部電力が石炭火力発電所を建設しようと した際に、地元住民の反対に遭い、建設許可が下りず、ガス発電に変更を余儀なくされた。
このように、国民の環境に対する意識は高く、石炭火力発電所を新規に建設するのは難し い状況となっており、石炭火力に対する国民理解(パブリック・アクセプタンス)がタイ における最も大きな障壁となっている。
【参考:日本企業の支援事例】
(1)豪州
IHI は、電源開発(以下、Jパワー)及び三井物産と、豪州クイーンズランド州のカラ
イド(Callide)石炭火力発電所で行われる日豪酸素燃焼CCS実証プロジェクトに参画す
るため、2008年3月20日に日豪参加企業間7者で実証実験の実施母体となるJV設立の 協定書を締結した。
本プロジェクトは、既設石炭火力発電所に酸素燃焼技術を導入し、CCS 技術(CO2 分 離・回収、輸送、貯留)の一貫システムを検証する世界初の実証試験。プロジェクト費用 総額は、2億6百万豪ドル(約200億円)を予定している。豪州からは、クイーンズラン ド州営電力会社(CS Energy)、エクストラータ社(Xstrata)、シュルンベルジェ社
(Schlumberger)が参加するとともに、豪州石炭協会(ACA)が設立したCOAL 21ファ
ンドから資金が拠出される。
酸素燃焼技術は、1974 年に日本で発案されたもので、予め空気から窒素を取り除いた 後の高濃度の酸素で石炭を燃焼するため、排ガス中の二酸化炭素(CO2)の分離回収が容 易となる。Jパワー、IHI及び三井物産は、APPへの提案者である石炭エネルギーセンター
(JCOAL)の協力を得て、本プロジェクトを通じて信頼に足るCCS技術を実証し、世界
的に関心の高まる地球温暖化問題に積極的に取り組むとしている16。
(2)インド
インドにおいては、三菱重工、東芝、日立等がインド企業と合弁会社を設立、インド国 内に工場を建設し、技術移転を行いながら事業を展開している。
① 三菱重工17
三菱重工業は、インドの独立発電業者(IPP)2社が建設する高効率の石炭火力発電 所向けに、出力 660MW~700MW の超臨界圧(SC)石炭ボイラ及び蒸気タービンを 各5基続けて受注した。そのうち、ラーセン・アンド・トウブロ社(Larsen & Toubro
16 2008年3月31日、IHIプレスリリース
17 2011年2月2日、三菱重工HP
Limited:L&T)傘下のNabha Power Limitedがパンジャブ(Punjab)州に建設して いる発電所向けの各 2 基は 2011 年半ばから納入を始め、一方の Sangam Power
Generation Company Ltd.がウッタル・プラデーシュ(Uttar Pradesh)州に計画する
発電所向けの各3基は2011年末頃に納入を開始する予定となっている。
今回の受注は2件とも、三菱重工がインドの建設・重機最大手L&Tと2007年に設 立した合弁会社 2 社を通じて成約した。ボイラについては L&T-MHI ボイラ(L&T
-MHI Boilers Private Limited)、蒸気タービンについてはL&T-MHIタービン・
ジェネレーター(L&T-MHI Turbine Generators Private Limited)がそれぞれ担当 し、三菱重工はボイラ耐圧部や蒸気タービンローター部分などの中核部品を 2 社に納 入する。発電機の中核部品については三菱電機が担当する。
パンジャブ州のラジプーラ(Rajpura)に建設中の超臨界圧石炭火力発電所は、パン ジャブ州電力公社(Punjab State Power Corporation Ltd.:PSPCL)の主導する電力 開発プロジェクトに従ってNabha Power Limitedが建設している。同社はL&Tの子
会社で、PSPCLと電力売買契約を結んでいる。同発電所は、製造業の集積も急速に進
む同州の東部一帯における電力需給逼迫の緩和を担う。
一方、ウッタル・プラデーシュ州のカルチャナ(Karchana)に開設される発電所は、
同州が進めている電力開発プロジェクト案件の一つである。Sangam Power Generation
Company Ltd.は、インドの財閥系企業ジェイピー(Jaypee)グループのジェイプラカ
ッシュ電力会社(Jaiprakash Power Ventures Ltd.:JPVL)傘下の企業で、同州都の ラクナウ(Lucknow)に本社を置いている。
L&Tとの合弁2社を通じた受注は、超臨界圧ボイラが4件10基、蒸気タービンが5
件12基と好調で、両社の新設工場も本格稼働を始めている。三菱重工は今後も、この 合弁事業を通じて、インドにおける高効率の石炭火力発電設備の受注活動を積極的に 展開し、電力の安定供給とCO2の排出抑制など環境改善に貢献していく、としている。
② 東芝18
東芝は、インド大手財閥エッサールグループから、同グループの独立発電事業者で あるエッサール電力グジャラート社のサラヤ第 2 期超臨界圧石炭火力発電所(インド 西部グジャラート州)向け蒸気タービン発電設備を受注した。
今回、東芝が受注した火力発電設備は、発電効率が高く環境負荷の低減にもつなが る超臨界圧方式の出力660MW蒸気タービン発電設備 2基で、2012年に順次納入し、
2013年に順次運転を開始する予定である。
東芝は、超臨界圧方式の蒸気タービン発電設備について、国内65 基、海外16基の 受注実績がある。また、インド市場ではウタルプラデッシュ電力庁アンパラ火力発電
18 2011年1月12日、東芝HP
所向けに500MW 蒸気タービン発電機2基や、タタ電力ムンドラ火力発電所向けに超 臨界圧方式の800MW蒸気タービン 発電機5基の受注実績がある。今回の受注は、こ れまでの実績や技術力、機器信頼性、短納期が評価されたものとしている。
今後、東芝は、電力需要が急増しているインドにおける同種プロジェクトでの更な る受注を目指すとともに、超臨界圧火力発電所の建設需要が高いアジア市場などでも、
火力発電設備の受注活動を強化することとしている。
③ 日立製作所19
日立製作所と、子会社であるHitachi Power Europe GmbH(本社:ドイツ/以下、
日立パワーヨーロッパ社)は、インドのエンジニアリング・重電機器製造会社である BGR
Energy Systems Limited(本社:インドチェンナイ市/以下、BGRエナジーシステム
社)と、それぞれ、660MW~1,000MW クラスの超臨界圧火力発電用蒸気タービン・
発電機とボイラの設計、製造、販売、サービスに関する合弁会社設立に合意した。イ ンドにおける蒸気タービン・発電機及びボイラを一括で提供できる体制を構築し、イ ンドでの事業拡大を図るのが狙いである。
BGRエナジーシステム社はインド国内でEPC事業と発電設備製造の実績を保有し、
発電所の建設を一括して取り纏めるEPC事業を積極的に展開中である。今後さらなる 市場の伸張が見込まれるインド国内において、石炭火力発電用を中心とする蒸気ター ビン・発電機とボイラ事業を一貫して本格展開を図りたい日立グループと、さらなる 事業拡大に向けて海外メーカーからの技術移転によって製品競争力の強化をめざすBGR エナジーシステム社との意向が一致し、今回の合意に至った。
今回の合意に基づき、日立及び日立パワーヨーロッパ社は、それぞれ蒸気タービン・
発電機及びボイラの製造・販売合弁会社を設立した。蒸気タービン・発電機の合弁会 社は、BGRエナジーシステム社が74%、日立が26%を出資し、名称はBGR Turbines
Company Private Limited(以下、BGRタービン社)となる見込みである。ボイラの
合弁会社は、BGRエナジーシステム社が70%、日立パワーヨーロッパ社が30% を出 資し、名称はBGR Boilers Company Private Limited(以下、BGRボイラ社)となる見 込みである。BGRタービン社及びBGRボイラ社はともに 2010年8 月の設立を予定 しており、今後、両社合わせて約 500 億円を設備投資し、それぞれ新工場を建設する 予定となっている。両工場ともに2012年の生産開始を予定しており、段階的に生産能 力を高め、年間 3GW の生産体制とする計画である。2017年度には BGRタービン社 及びBGRボイラ社合計で1,000億円規模の売上を目指している。
19 2010年8月6日、日立製作所HP
(3)タイ
2001年8月、中部電力、トーメン、豊田通商(株)の3社は、タイにおけるIPP事業
「ヒンクルット石炭火力プロジェクト」の参画を発表した。本プロジェクトは、タイの首 都バンコクから南西約380キロのプラチャップ・キリカン県に、出力1,400MW(700MW×2 基)の石炭火力発電所を建設。2002年 4月に発電所建設を開始し、2005年10月に1号 機、2006年1月に2号機の運転を開始する計画であった。
本プロジェクトでは、タイ国営の電力事業者である「タイ発送電公社(EGAT)」と25 年間にわたる電力購入契約を締結、中部電力が保有する、石炭火力発電所の建設から運転 保守に至るまでのノウハウ、技術が移転されることにより、タイの環境負荷低減、経済発 展にも資するものと考えられていた。
しかし、本プロジェクトは、現地住民の激しい抗議行動の結果、発電所の立地や発電用 燃料の変更を余儀なくされ、中止に追い込まれた