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新任教員の適応および初任者研修に関する研究

ドキュメント内 イラレ8_表紙No4-A4 (ページ 81-91)

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1.はじめに

 本研究の目的は、新任教員の抱える困難感を調査検討 し、各自治体の教育委員会が行っている初任者研修(以 下、初任研と略記)による自治体の適応援助システムの 調査を通して、新任教員への適応援助の在り方をさぐる ことにある。新任教員の離職者数が平成16年以降急増 している。山崎は「初任校でどのような研修を受ける かは、その後の教員としての資質や指導観に大きく影響 する。教員としての成長は、初任校での研修によって左 右されるといっても過言ではない」と述べている。今後 の教育の向上を考える時に、教員養成の質の充実および 新任教員へのよりよい支援は重要である。

(1)1年以内に離職する新任教員の増加

 文部科学省は、毎年「条件附き採用について」として 教員採用試験に合格しながら、1年以内に離職してし まった教員の人数の統計をとっている。表1は、平成15 年度からの推移を表にまとめたものである。それによる と、平成15年から5年間に離職者数は3倍になり、連続 して過去最多を更新している。

表1 新任者の離職の推移

 離職者数は増加しているが、採用者数も増えているた め、離職率、および病気による離職者の割合を計算した。

それが表2である。

表2 新任者の離職率の推移の割合

 離職率を見ると、平成19年の1.38%をピークとして、

20年度に1.32%と初めて減少に転じている。同様に増 加し続けていた病気による離職者の割合も、平成19年の 0.47%をピークに平成20年度に初めて0.39%へと減少 に転じている。各自治体、各学校における新任教員への 適応援助の努力が実を結びつつあるのかもしれないが、

今後の推移を見つつも、引き続き新任教員への適応援助 を推進する必要がある。

(2)教師のメンタルヘルスの悪化

 表2でわかるとおり、離職理由で最も多いのは依願退 職である。中でも「病気」を理由とした依願退職者は、

平成16年以降約3〜4割を占めている。新任教員の「病 気」の内容はあきらかではない。しかし、教員全般に病 気休職者が増加していることと、その休職者の6割が精 神疾患によるものであるという文部科学省の統計から、

「病気」の多くが精神疾患によるものであることが推察 できる。教員のメンタルヘルスの研究を行ってきた保  坂は、ある市の教育委員会の協力によって、公立小中 学校の教員の1年間の休職者と30日以上の病気休暇者

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を調査した。その結果25人に1人以上の教員が1年間 に30日以上休んでいたとして、学校という職場のメンタ ルヘルスの悪化を指摘している。さらに、保坂は聞き取 り調査を行い「教師にとって転勤は危機であり、ストレ ス要因になる」と述べている。保坂の調査では、新任教 員は対象から外している。新採用で学生から社会人とな る新任教員にとって、環境の変化はかなり大きいことで あり、転勤と同様にストレス要因になり得ることが推察 できる。

 また、文部科学省の「平成20年度 病気休業者の学校 種別・年代別・性別・職種別状況」からは、病気休業に 至る教員は、校種では小学校、性別では女性、職種では 教諭の割合が高いことがわかる。小学校の女性教諭に対 しては特に、メンタルヘルスの向上を図る必要があるこ とがうかがえる。

(3)新任教員への適応援助の重要性

 表1は、平成19年度の公立小学校教員の年齢構成を 表した文部科学省の統計資料である。現在、公立学校 は35歳未満が全体の2割しかいない。そして、約3割 が50代以上となっている。これから10年のうちには、

35歳以下が教員の過半数になる。年齢構成が逆転し、現 在採用されている新任教員が学校教育を中心になって 担っていくことを要請される時期が10年後には来るの である。

 そのことからも、新任教員の適応援助を含んだ成長支 援がますます重要になってきているといえる。

(4)一般の離職率との比較

 厚生労働省の調査を用いて、教員の離職の特徴を他の 職種と比較した。表4は、厚生労働省の資料をもとに、

一般の離職率を20−34歳の範囲での年代別・性別に整理 したものである。 新卒新任教員の年齢である20−24歳 を見ると、男性はおよそ4人に1人が、女性はおよそ3 人に1人が離職していることがわかる。これらの数値と 比較する限り、公立学校の新任教員の離職率1.39%は、

増加の傾向にあるとはいえ、かなり良い定着を示してい

るといえる。

 次に離職率の推移を一般の職種の場合と比較してみた い。同じく厚生労働省の調査では、一般の離職率は平 成18年から連続して下降していたが、公立学校のみ、離 職率が上昇しつづけていた。平成20年度に入って初め て公立学校も減少に転じたことになる。

 続いて、離職の理由を一般の職種と比較したい。厚生 労働省の調査では、離職理由には性差が認められると いう。男性で最も多い理由は、「会社の将来への不安」で、

女性は「労働条件が悪い」ことを挙げている。文部科学 省の調査では、教員の離職理由は、多い方から、定年

(勧奨を含む)・転職・病気・死亡・大学等入学、の順に なっている。その順番は、男女とも同様であった。対し て、公立学校の新任教員の場合、表1にもあるように、

離職の理由として多い順に、自己都合・病気・不採用・

死亡・免職となっている。

 精神的な不調から教職が続けられなくなり離職してい る割合が増加している公立学校の新任教員と、会社の将 来性や労働条件で離職する一般の離職者と比較すると、

一般の離職者の方が能動的に離職していると推察できる。

(5)初任研制度による適応援助

 1988(昭和63)年に教育公務員特例法が改正され、初 任研に関する条項が追加された(20条の2)。初任研は、

「公立の小学校等の教諭等のうち、新規に採用された者 に対して、採用の日から1年間、学級や教科・科目を担 当しながら、教諭の職務の遂行に必要な事項に関する実 践的な研修を行う」というものである。平成15年度より

「拠点校方式」が導入され、初任研に専念する教員とし て初任者4人当たり1人の拠点校指導員を配置する自治 体が増えた。さらに、校内にコーディネーター役の校内 指導員を置き、教科指導、生徒指導、学級経営等、必要 な研修分野を初任者配置校の全教員で分担しての指導が 行われている。つまり、校内研修においては、週2日(年 間60日程度)指導員から教科指導や学級経営などについ て指導を受け、校外研修においては、教育センター等で 週1日(年間30日程度)、講義、演習、実技指導を受け、

あるいは他の学校、社会教育施設、民間企業を参観した り、またボランティア活動や、4泊5日程度の宿泊研修 に参加したりする中で、新任教員は育てられているので 表3 公立学校教員の年代別構成比率

構成比率 本務教員数

9.8%

78,702人 20代

22.4%

184,080人 30代

36.0%

295,941人 40代

32.0%

263,132人 50代

100%

321,855人

平成19年度学校教員統計調査報告書より

表4 離職の年齢別・性別割合

3034歳 2529歳

2024歳 年 齢

10.0%

15.4%

25.2%

男性離職率

10.0%

15.9%

29.8%

女性離職率

平成20年度雇用動向調査より(厚生労働省)

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ある。

 以上のことから、新任教員に対しては3つの次元での 成長支援が行われていることになる。第1は、教育委員 会が行う初任者教員研修である。第2は、指導員の行う 初任研である。第3は、校内の同僚による支援である。

 年間90日以上となる初任研は、新任教員の成長援助の みならず適応援助の役割を果たしていることが推察でき る。本研究では、特に各自治体の校外で行われている初 任研プログラムを検討することによって、初任者の適応 援助に有効な研修を探る。

2.研究方法

 本研究の研究課題は、(1)新任教員の適応の実態をさ ぐり、現場で抱える困難感をあきらかにすること (2)

初任研プログラムから見える自治体の適応援助システム を調査すること、を通して、新任教員への適応援助の在 り方をさぐることである。これらを具体化するために、

以下の方法で調査検討を行った。

(1)卒業生への聞き取り調査

 平成21年3月に名古屋女子大学を卒業して平成21年 4月に小学校教諭として採用された卒業生28名に聞き 取り調査の依頼を行い、都合のついた9名からの聞き取 りを行った。そのうち4名からは、複数回話を聞き、2 名に関しては学校を訪問して管理職、指導員にも話を聞 いた。聞き取り時間は、それぞれ平均1時間であった。

聞き取りの期間は平成21年5月から22年1月まで断続 的に、のべ16回行った。形式は、一人に対して行ったも のもあれば、集団インタビューの形で行ったものもある。

半構造化形式で、次の項目について質問した後、自由に 話をしてもらう、という形をとった。

 質問項目は以下のとおりである。

① 現在ぶつかっている壁、これまでに感じた困難

② 困難の解決にあたって助けられたこと

③ 初任研の印象

 聞き取り対象者の勤務校のある自治体は次のとおりで ある。

 愛知県3名、名古屋市3名、三重県1名、川崎市1名、

神奈川県1名

(2)各自治体への聞き取り調査

 以下の自治体を対象に初任研プログラムの収集と、初 任研担当者への聞き取り調査も行った。聞き取りの内容 は、初任研プログラムの内容と、新任教員へのサポート 体制である。聞き取りを行ったのは、以下の11の自治体 である。

愛知県・名古屋市・神奈川県・横浜市・川崎市・千葉県・

千葉市・埼玉県・さいたま市・大阪府・滋賀県 3.新任教師の抱える困難感と初任研

(1)新任教員が感じる困難感

 小学校に新任教諭として勤務している卒業生への聞き 取り調査を行った結果のうち、校内における困難感を時 期ごとにまとめたのが表5である。

 次に、聞き取り調査から得られたことを参考に、初任 者への適応支援として有効だと考えられることを述べる。

表5 小学校の女性新任教員が校内で感じた困難感

・重要事項を短期間にたくさん一度に教わり追いつ かない。

・何もかもが初めてで、何を準備したらいいかわか らない。

・学校のシステムがつかめない。

・職員室の用語で理解できない言葉が多い。

・今やっていることの見通しが立たない。

・方針として決まっていることと、自由にやってい いことの違いがわからなくてとまどった。

・何でも尋ねていいということは言われるし、尋ね たらみんな親切に教えてくれるが、いつ何を誰に 尋ねたらいいのかがわからない。

・毎週の授業案づくりと授業が本格的になり、準備 が追いつかず大変だった。

・通知表の記載等、評価を指導された。助かった、

または、指導員と価値観が異なり、難しかった。

・5月中旬〜6月中旬が最もつらかった。

・学級経営・学力差・発達障がいが疑われる子ども の対応・行事の指導・保護者との対応に悩んだ。

・忙しすぎて毎日の帰宅が遅くなる。

・単学級で、全てを自分で決めていかなければなら ないのが大変だった。

・4月からずっと子どもたちと共にいて、少ししん どく感じることがあった。(夏休みがいい切り替 えになった。

・周囲の教員が忙しそうで、尋ねられない。

・相談しても、助言が人によって違ってとまどう。

・助言されてもうまく実行できない。

授業案づくりが大変で授業もとても緊張する、(ま たは、授業案づくりも授業も慣れてきたし、助言が 役立った。

・子ども理解の難しさ。家庭環境の複雑さがわかっ てきて悩む。

・発達障がいの疑いのある子どもへの支援。

・行事と授業の見通しが難しく、行事のために授業 が遅れて追いつくのが大変だった。

・行事で係としてまかせられたことが、何をしてい いかわからず、周囲も手伝ってくれずに悩んだ。

ドキュメント内 イラレ8_表紙No4-A4 (ページ 81-91)