第 3 章 協調と競争を表す機械モデル 11
4.3 擬似神経制御モデルへの拡張
4.3.3 数値シミュレーション結果
本節では,数値シミュレーションの結果および解析結果について述べる.まず,
安定性の向上について述べ,次に,追従性の向上について述べる.
安定性について
図4.4に単体モデルおよび結合モデルのバランス誤差を示す.
0 20 40 60
0 200 400 600 800 1000 1200
∆ x
(t) [m]t
[s]rms = 5.8
0 0.2 0.4
0 200 400 600 800 1000 1200
∆ x
1(t) [m]t
[s]rms = 4.2x10-2
図4.4: 単体モデルのバランス誤差∆x(t)および結合モデルのバランス誤差∆x1(t)
図4.4の上側が単体モデル,下側が結合モデルに関するグラフであり,横軸は時 間t[s],縦軸はバランス誤差∆x(t)[m]および∆x1(t)[m]である.
バランス誤差∆x(t)は単体モデルのターゲットBとコントローラAの位置の差,
4.3 擬似神経制御モデルへの拡張 差の値である.結合モデルのバランス誤差∆x2(t)は∆x1(t)と同様になるので省 略する.図4.4中のrmsは,∆x(t)および∆1x(t)の二乗平均平方根(Root Mean Square)値である.
図4.4より,最大振幅が単体モデルでは61.151[m]であったのに対し,結合モデ
ルでは0.357[m]と,約0.6%まで小さくなった.また,RMSにおいても単体モデ
ルでは5.8[m]であったのに対し,結合モデルでは4.2×10−2[m]と約0.7%にまで 小さくなった.このことから,単体モデルよりも結合モデルの方が安定性が向上 していることがわかる.
また,ノイズのサンプルを変えた場合のバランス誤差のRMS値を図4.5に示す.
0 500
Root mean square
2.7x102
rms of
∆ x
0 500
Root mean square
2.7x102
0 500
100 105 1010 1015
Index of sample
1.5x10-1
rms of
∆ x
10 500
100 105 1010 1015
Index of sample
1.5x10-1
図 4.5: ノイズのサンプルを変えた場合のRMS値
図4.5の左側は単体モデル,右側は結合モデルに関するグラフである.横軸はノ イズのサンプル数,縦軸はそれぞれのモデルにおけるバランス誤差のRMS値であ る.RMS値は対数表示であり,図中の青の実線はRMS値の集合平均の値を表わ
付近から1.0×105[m]付近まで分布しており,集合平均は 1.5×10−1[m]である.
集合平均値を見てもRMS値が5.5×10−2倍となり,図4.4の結果と同様に,結合 モデルは単体モデルよりも安定性が向上している.
単体モデルの速度誤差∆ ˙x(t)および結合モデルの速度誤差∆ ˙x1(t)の確率密度分 布の比を図4.6に示す.∆ ˙x(t)は単体モデルのターゲットBの速度とコントローラ Aの速度の差,∆ ˙x1(t)は,結合モデルのターゲットB1の速度とコントローラA1
の速度の差である.
1 1.2 1.4 1.6 1.8 2
-4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4
p ( ∆ x .
1) / p ( ∆ x . )
∆x . , ∆x .
1
図 4.6: ∆ ˙x(t)および∆ ˙x1(t)の確率密度分布の比
図4.6の横軸は∆ ˙x(t)および∆ ˙x1(t)の値であり,縦軸は確率密度の比である.
∆ ˙x(t)と∆ ˙x1(t)の値が0の付近では確率密度の比が約2倍になっている.これ は,結合モデルの制動性が単体モデルよりも高いことを意味している.
以上,振幅の減少に加えて,制動性の向上の意味から,結合による安定性の向 上が確かめられた.
4.3 擬似神経制御モデルへの拡張
追従性について
安定限界付近の条件では,ランダムゲインの時間遅れ制御器による棒下端での修 正動作は,制御器の遅れ時間より短い遅れ時間で運動が行われる可能性がある[38].
そこで,コントローラの修正動作がターゲットの運動にどの程度すばやく追従し ているかを見るために,ターゲットとコントローラの運動の時間相関を算出する.
x(t),y(t)が比較対象の時系列,∆tを短時間平均のための時間間隔とするとき,
短時間相互相関係数は式(4.15)で定義される[38].
R(x, y, τ)(t) = C(x−mx, y−my;τ, t) σxσy
(4.15)
ただし
C(x−mx, y−my;τ, t) :=hx(s)y(s+τ)i[t,t+∆t], mx :=hx(s)i[t,t+∆t],
σx:=h(x(s)−mx)2i1/2[t,t+∆t]
(4.16)
である.また,hx(s)i[a,b]は以下に示すように区間[a, b]でのX(s)時間平均である.
hx(s)i[a,b]:= 1 b−a
∫ b a
X(s)ds (4.17)
式(4.15)より,単体モデルおよび結合モデルそれぞれのターゲットとコントロー
ラの速度について,相互相関係数を導出し,遅れ時間の変化を評価するために最 初のピーク値に注目する.
図4.7に結合モデルの短時間相互相関係数のサンプルを示す.横軸は遅れ時間 τ[s],縦軸は相互相関係数である.
R( ˙xt1,x˙m1;τ)はターゲットB1( ˙xt1)とコントローラA1( ˙xm1)の相互相関係数(赤 色の実線),R( ˙xt2,x˙m2;τ)はターゲットB2( ˙xt2)とコントローラB2( ˙xm2)の相互相 関係数(青色の点線)である.また,t = 36[s],∆t= 5[s]とした.
0 0.1 0.2 0.3
0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25
τ
Short-time cross- ncorrelation coefficient
t = 36
τ
^
x.1
τ
^
x.2
R(x.
T,x.
M1;τ) R(x.
T,x.
M2;τ)
図 4.7: t = 36[s]における短時間相互相関係数
短時間相互相関係数の最初に現れる支配的なピーク点を単体モデルではτˆx˙,結 合モデルではτˆx˙i(i= 1,2)とする.このピークが現れる時間を,反応遅れ時間とよ ぶことにする.
図4.7より,コントローラA1の反応遅れ時間がτˆx1 = 0.105[s],コントローラA2 ではτˆx2 = 0.035[s]と得られる.コントローラA1の制御器の修正動作は平均的に 制御器の遅れ時間0.1[s]と同程度の時間スケールで起こり,コントローラA2の制 御器の修正動作は,平均的に3倍程度短いスケールで生じている.
これより,力学的に対称的に置かれた結合モデルであっても,非対称な挙動を 示していることが分かる.
4.3 擬似神経制御モデルへの拡張 次に,追従性に対する結合による影響を見るために,反応遅れ時間τˆx˙,ˆτx˙1の確 率密度関数を図4.8に示す.確率密度関数は時間区間[0,1200]上で数値計算した ピーク値の確率密度関数を,ノイズのサンプルを変えて100個取得し,それらを 平均して得たものである.ˆτx˙2の結果はτˆx˙1と同様であったため省略した.
0 2 4 6 8 10
0 0.05 0.1 0.15 0.2
Probability Density
τ
^
9.59 6.94
p(τ^
x.) p(^τ
x. 1)
図 4.8: 最初のピークポイントの確率密度
図4.8の横軸が反応遅れ時間τ[s],縦軸が確率密度である.また,赤色の丸印はˆ 単体モデル,青色の四角印は結合モデルの値である.
図4.8より,結合モデルの確率密度は,単体モデルに比べて38%程度高いピー クが生じ,20%程度短い反応遅れ時間τˆで生じている.すなわち,単体モデルを 結合したことで,制御器の追従性が平均的に向上しているといえる.