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ヒトの運動と感性

第 5 章 ヒトのバランス運動と感性 66

5.2 ヒトの運動と感性

本節では,ヒトの運動を測定するための実験システムと,ヒトの運動と感性を 評価するための方法について述べる.

第5.2.1節では,一対のヒトが行うバランス運動を測定するための実験システム

をについて述べる.第5.2.2節では,ヒトの操作の評価方法,第5.2.3節では,ヒ トが操作から受ける感性の評価方法について述べる.

5.2.1 実験システム

本実験には,第3.3節で述べた結合倒立振子モデルを用いる.結合倒立振子モデ ルの各台車を,ヒトが操作することが可能な実験システムを開発する.

まず,結合倒立振子モデルのヒトによる操作を実現させるための制御入力につ いて述べる.次に,結合モデルを用いた実験システムの構成および表示画面につ いて述べる.最後に,シミュレーション条件を示す.

ヒトによる目標位置の入力

ヒトによる結合倒立振子モデルの操作を実現するため,図3.4の各台車Aiおよ び振子Biに加える制御入力を

uhi =−A(xi−xhi)−Bx˙i, Ehi = 0 (i= 1,2) (5.1) とおく.ここで,xhiは各台車Aiの目標位置であり,この目標位置xhiの値をヒト の操作によって入力する.xiおよびx˙iは各台車Aiの位置および速度であり,Aお よびBはフィードバックゲインである.この制御入力により,一対のヒトが結合 倒立振子モデルを同時操作することが可能となった.

5.2 ヒトの運動と感性

結合倒立振子モデルの操作性の向上

式(5.1)の制御入力を用いた実験システムにおいて,実験システムの操作性を向

上させるために,結合倒立振子モデルが受ける粘性抵抗を考える.

まず,倒立振子モデル単体に関する粘性抵抗を考える.倒立振子モデルが受け る粘性抵抗を外力として与えるために,剛体の運動に作用する粘性抵抗を求める.

図5.1の剛体は,微小面積∆sをもち,速度~vxで並進運動,角速度で回転運動 している.

図 5.1: 剛体が受ける粘性抵抗

この剛体は回転中心をO,剛体重心の回転半径をrとしているので,θを鉛直方 向からの角度とすると,この剛体の重心座標~rと速度~v

~r=r [

sinθ cosθ ]

, ~v =vx [

1 0 ]

+ [

cosθ

sinθ ]

(5.2)

となる.速度~vで運動している物体が受ける粘性抵抗は−c0~vと表される.ただし,

c0 = ∆s×cvisであり,cvisは温度などによって決定される定数である.まず並進 方向について,式(5.2)より

∆F =c0(vx+rωcosθ)

= ∆scvis(vx+ cosθ)

(5.3)

が得られる.次にトルクは符号付き面積として計算できるのでX~Y~ の符号付き 面積をX~∧Y~ と書くことにすると回転方向について,式(5.2)より

∆T =~r∧c0~v

=c0(~r∧~v)

= ∆scvisα

(5.4)

が得られる.ただし,αは~r~vの内積である.

以上より,図5.1の剛体に作用する並進方向の粘性抵抗∆F と,回転方向の粘性 抵抗∆T が求まった.

同様の剛体が面積Sをもつときに受ける粘性抵抗をF,T とすると F =

S i=0

∆F

=

S 0

cvis(vx+cosθ)ds

=cvisS(vx+cosθ)

(5.5)

T =

S i=0

∆T

=

S

0

cvisαds

=cvisαS

(5.6)

となる.

5.2 ヒトの運動と感性 次に,図3.4の結合倒立振子モデルに作用する粘性抵抗を求める.ただし,この 結合倒立振子モデルにおいては,台車は運動方向に面積を持たないので,振子に対 する粘性抵抗のみを求める.式(3.11)より,各振子の重心座標は(Xj, Yj)(j = 2,4) である.この結合倒立振子モデルの並進方向はx方向,回転方向はθ方向である から,x方向に作用する粘性抵抗をuvi(i = 1,2),θ方向に作用する粘性抵抗を Evi(i= 1,2)とすると,式(5.5),式(5.6)より

uvi =−cvisrX˙j

=−cvisr( ˙xi+˙icosθi) (i, j) = (1,2),(2,4)

(5.7)

Evi =−cvisr(XjY˙j−X˙jYj)

=−cvisr{(x1+rsinθi)(−rθ˙isinθi)( ˙xi+˙icosθi)rcosθi}

=cvisr{(x1+rsinθi)rθ˙isinθi+ ( ˙xi+˙icosθi)rcosθi}

(i, j) = (1,2),(2,4)

(5.8)

となる.ただし,この倒立振子モデルの振子の断面積S =rとする.

以上より,式(5.1),式(5.7),式(5.8)から図3.4の結合倒立振子モデルに作用す る外力ui,Ei

ui =uhi+uxi

=−A(xi−xhi)−Bx˙i−cvisr( ˙xi+˙icosθi)

(5.9)

Ei =Ehi+Exi

=−cvisr{(x1+rsinθi)(−rθ˙isinθi)( ˙xi+˙icosθi)rcosθi} (5.10) となる.

実験システムの構成

第3.3節で述べた結合倒立振子モデルの制御入力を式(5.1)に置き換えるために,

図5.2に示すように実験システムを構成する.

実験システムは,結合倒立振子モデルの数値シミュレータ,マウス2台,スク リーンから構成されており,スクリーンには結合倒立振子モデルの力学アニメー ションが表示される.被験者は,このアニメーションを目視しながらマウスを左 右に動かすことにより,結合倒立振子モデルの台車の目標位置xhiを入力する.

図 5.2: 協力的なバランス運動を測定するための実験システムの構成

5.2 ヒトの運動と感性

表示画面の設計

実験システムのスクリーンデザインを図5.3に示す.

図 5.3: スクリーンのデザイン

アニメーションを表示させるウィンドウのサイズは,縦400[pixcel],横 1200[pix-cel]とし,画面のその他の領域は黒で塗りつぶしてある.スクリーン中央には結合 倒立振子モデルの力学アニメーションが表示される.だたし,被験者がマウスに よって入力する各台車の目標位置は表示されない.

システムパラメータ

アニメーションを表示させるためのシミュレーション条件を示す.

数値積分法:Runge-Kutta-Gill法

積分刻み:0.02 [s]

初期値:x1(0) =0.5[m], x˙1(0) = 0.0[m/s], x2(0) = 0.5[m], x˙2(0) = 0.0[m/s], θ1(0) = 0.0[rad], θ˙1(0) = 0.0[rad/s], θ1(0) = 0.0[rad], θ˙1(0) = 0.0[rad/s]

実験システムの結合倒立振子モデルのシステムパラメータ値は,表5.1に示すと おりである.

表 5.1: 結合倒立振子モデルのシステムパラメータ値 台車A1,A2および振子B1,B2の質量 m= 1.0 [kg]

振子B1,B2の長さ r= 0.3 [m]

柔軟リンクB1B2の自然長 `0 = 1.0 [m]

柔軟リンクB1B2の内的ばね定数 k` = 5×104 [N/m]

柔軟リンクB1B2の内的粘性係数 c`= 5.0 [Ns/m]

x1,x2方向の減衰係数 cx= 0.0 [Ns/m]

θ1,θ2方向の減衰係数 cθ = 0.0 [Nms]

粘性係数 cvis= 0.5 [Ns/m2]

重力加速度 g = 9.8 [m/s2] 比例ゲイン A= 5.0×104

微分ゲイン B = 250

5.2 ヒトの運動と感性

5.2.2 ヒトの操作の評価

本節では,一対のヒトが協力的にバランス運動を行った際の操作の評価方法に ついて述べる.本研究では,第4.3.3節と同様に,実験によりヒトの操作を測定し,

以下に述べる2つの指標を用いてヒトの操作の安定性と追従性を評価する.これ らの実験により得られた評価値を物理量とよぶ.

安定性について

結合倒立振子モデルの各振子の安定性を評価する指標として,本節においても

第4.3.3節と同様にバランス誤差のRMS値を用いる.

ここで,結合倒立振子モデルにおけるバランス誤差∆xiとは,図5.4に示すよ うに,台車Aiと振子Biの水平方向の相対変位であり

∆xi =rsinθi (i= 1,2) (5.11)

で与えられる.

図 5.4: 各振子のバランス誤差

追従性について

結合倒立振子モデルの各振子の追従性を評価する指標として,本節においても

第4.3.3節と同様に反応遅れ時間を用いる.応遅れ時間は,式(4.15)を用いて算出

し,反応遅れ時間が短いほど,機敏マウスを動かしてバランスを保っていること を意味し,追従性が良いことを示す.

5.2 ヒトの運動と感性

5.2.3 ヒトの感性の評価

感性や感情のように曖昧なシステムを評価する場合,言語を媒介とする手法を 用いることが多い[39].

本研究では,言葉と感性の関係を論じるために心理学的な研究でよく用いられ るSemantic Differential法(SD法)を用いる.これは,まず評価対象に対して,意 味的に対になる形容語対を評価対象に対する「尺度」として複数個用意する.次 にそれを何段階かに分割し,被験者は評価対象から受ける感性がその形容語対の 間のどこに位置するかを選択するという手法である.本研究では,SD法により協 調的なバランス運動における自分の操作と相手の操作をそれぞれ評価する.SD法 により得られた評価値を官能量とよぶ.

SD法に用いる形容語対は,SD法の提案者であるC.E. Osgoodによる形容語対 (全76項目)[40]と独自の形容語対(14項目)を含めた計90項目から,協調的なバ ランス運動の実験システムを用いた予備実験により,自分および相手の操作の評 価に用いる形容語対を15項目選定した.選定した形容語対を表5.2に示す.

表 5.2: 自他の操作の評価に用いた形容語対

自分の操作を評価する形容語対 相手の操作を評価する形容語対

1 自由な— 不自由な 16 自由な— 不自由な

2 調和のとれた— 不調和な 17 調和のとれた—不調和な

3 敏感— 鈍感 18 敏感 —鈍感

4 激しい — 穏やか 19 激しい —穏やか

5 間に合った — 間に合わない 20 間に合った — 間に合わない

6 積極的 — 消極的 21 積極的 —消極的

7 楽しい — つらい 22 楽しい —つらい

8 上手— 下手 23 上手 —下手

9 簡単— 難しい 24 簡単— 難しい

10 安心— 不安 25 安心 —不安

11 意図的な —意図的でない 26 意図的な —意図的でない

12 攻撃的 — 防御的 27 攻撃的 —防御的

13 頼りになる —頼りにならない 28 頼りになる —頼りにならない 14 信じられる — 信じられない 29 信じられる — 信じられない

15 理性的 — 直感的 30 理性的 —直感的

自分と相手の操作に対する評価を比較するため,自分および相手の操作の評価 に用いる形容語対は同一とし,自分の操作を評価する形容語対をN o.1〜15,相手 の操作を評価する形容語対をN o.16〜30とした.また,各形容語対の左側に示し た形容語を評定値1,右側の形容語を評定値6とする.自他の操作の評価に用いた 評定用紙を付録Dに示す.

以上の自他の操作の評価と自他が操作から受けた感性との関係性を明らかにす るため,相関分析および因子分析を行う.