第 3 章 協調と競争を表す機械モデル 11
3.4 結合倒立振子モデルの初期値依存性
3.4.2 数値シミュレーション条件
数値シミュレーション条件を示す.
• 数値積分法:Runge-Kutta-Gill法
• 積分刻み:0.01[s]
• フィードバックゲイン:K = 100,L= 10
数値シミュレーションに用いるシステムパラメータ値を表3.5に示す.
表 3.5: 結合倒立振子モデルのシステムパラメータ値 台車A1,A2および振子B1,B2の質量 m= 1.0 [kg]
振子B1,B2の長さ r= 0.3 [m]
柔軟リンクB1B2の自然長 `0 = 1.0 [m]
柔軟リンクB1B2の内的ばね定数 k` = 5×104 [N/m]
柔軟リンクB1B2の内的粘性係数 c`= 5.0 [Ns/m]
x1,x2方向の減衰係数 cx= 1.0 [Ns/m]
θ1,θ2方向の減衰係数 cθ = 1.0 [Nms]
重力加速度 g = 9.8 [m/s2]
初期角度θ1(0),θ2(0)は,それぞれ−π ≤ θ1 ≤ π,−π ≤ θ2 ≤ π の範囲で 設定し,初期角度の刻みはπ/250[rad]とした.また,その他の初期条件として,
x1(0) = 0[m],x˙1 = ˙x2 = 0[m/s],θ˙1 = ˙θ2 = 0[rad/s]とした.
3.4.3 数値シミュレーション結果
数値シミュレーションにより得られた結果を吸引域としてまとめたものを図3.6 に示す.吸引域とは,式(3.9)に示した4つの安定した姿勢ξi(i= 1,2,3,4)へ至る 初期角度(θ1(0), θ2(0))の集合である.
図3.6の横軸は初期角度θ1(0),縦軸は初期角度θ2(0)であり,それぞれの初期 角度は領域[−π, π]× [−π, π]を等分割した500 ×500 の直交格子上に配置した.
また,結合倒立振子モデルの最終的に安定した姿勢を,白,赤,青,黒の4色に 色分けした.白色の領域がξ1((θ1, θ2) = (0,0))に属する初期角度,赤色の領域が ξ2((θ1, θ2) = (0, π))に属する初期角度,青色の領域がξ3((θ1, θ2) = (π,0))に属する 初期角度,黒色の領域がξ4((θ1, θ2) = (π, π))に属する初期角度である.
- π
0
π
- π 0 θ 1 (0) π
θ 2 (0)
図 3.6: 結合倒立振子モデルの吸引域
図3.6の吸引域は4色に塗り分けられていることから,結合倒立振子モデルは初
3.4 結合倒立振子モデルの初期値依存性 可能であることがわかる.
初期姿勢(θ1(0), θ2(0))に応じて4状態のいずれかに到達していることから,結 合倒立振子モデルは初期値依存性を有する.また,結合倒立振子モデルの左右対 称性から,直線θ1(0) +θ2(0) = 0に関して対象な結果が得られている.さらに,4 状態の全てに隣接する点の存在が(θ1, θ2) ≈(±π/2,±π/2),(±π/2,∓π/2)付近に 確認できる.これらの隣接点近傍では,初期姿勢のわずかな変化により全ての姿 勢へ移行可能であることから,結合倒立振子モデルは初期値敏感性を有する.
以上より,図3.4の結合倒立振子モデルは,各台車A1,A2に付加したPD制御 器u1(t),u2(t)によって,四重安定性を持つことを確かめた.
3.5 まとめ
本章では,まず,一般的な倒立振子モデルおよびその双安定性について述べた.
次に,協調と競争のダイナミクスを有する機械モデルの具体例として,結合倒立 振子モデルを提案し,提案した結合倒立振子モデルの四重安定性について述べた.
第3.2節では,これまでの研究で用いられている一般的な倒立振子の力学モデ ルと運動方程式を示した.また,PD制御器による倒立振子の双安定性について述 べた.第3.3節では,協調と競争のダイナミクスを有し,すべてのシステム・パラ メータを機械工学的に同定可能な結合倒立振子モデルを提案し,PD制御器による 四重安定性について述べた.また,ペナルティ法を用いて結合倒立振子モデルの 運動方程式を導出した.第3.4節では,数値シミュレーションにより,初期角度に 対する応答を求め,その結果を吸引域として示した.また,結合倒立振子モデル の吸引域より,提案した結合倒立振子モデルが初期値依存性,初期値敏感性を有 することを明らかにし,四重安定性を持つことを確かめた.
第 4 章
ヒトによる協調的なバランス運動
4.1 はじめに
本章では,数値シミュレーションおよびヒトによる実験により,一対のヒトが 協力的にバランス運動を行った際の基本的な性質を明らかにする.
第4.2節では,第3.2節で述べた倒立振子モデルと第3.3節で提案した結合倒立 振子モデルについて,それぞれ簡約化および低次元化を行い,小自由度モデルを 導出する.第4.3節では,第4.2節で導出した小自由度モデルに対し,ヒトの反応 遅れとゆらぎを考慮した拡張を行い,数値シミュレーションにより一対のヒトが 行う協調的なバランス運動の基本的な性質を明らかにする.第4.4節では,第4.3 節の数値シミュレーションに用いた制御器を,ヒトの視覚性運動に置き換えるた めの実験システムについて述べる.第4.5節では,第4.4節で述べた実験システム を用いた実験について述べ,ヒトによる実験においても,一対のヒトが行う協力 的なバランス運動の基本的な性質を明らかにする.