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第 6 章 ヒトによる競争的なバランス運動 94

6.4 ヒトによるバンバン入力付加実験

6.4.1 実験システム

ヒトが実際に結合倒立振子モデルにバンバン入力を付加することが可能な実験シ ステムの構成を図6.5に示す.この実験システムは,数値シミュレータ,コンピュー タスクリーン,キーボードから構成されており,コンピュータスクリーンには結 合倒立振子モデルの力学アニメーションが表示される.

図 6.5: 実験システムの構成

数値シミュレータによる入力のサンプリングタイムは,2.0×102[s]であり,ディ スプレイのリフレッシュレートは61[Hz](1.64×102[s])である.以上のシミュレー タのサンプリングタイムとディスプレイのリフレッシュレートの組み合わせでは,

アニメーションの描画による被験者への影響はない.

6.4 ヒトによるバンバン入力付加実験 図6.6に,スクリーンデザインを示す.

図 6.6: コンピュータ・スクリーンのデザイン

スクリーンサイズは,縦600[pixcel],横1200[pixcel]とし,画面のその他の領域 は黒で塗りつぶしてある.スクリーン中央に結合倒立振子モデルの力学アニメー ションが表示され,スクリーン下部にはバンバン入力の大きさと向きを示す矢印 が表示される.被験者は,スクリーンに表示される力学アニメーションを目視し ながらキーボードの左右の矢印キーを押すことにより結合倒立振子モデルにバン バン入力を加える.

なお,実験システムのシステムパラメータ値は,第6.3.1節に示すとおりである.

6.4.2 実験条件および操作の手順

第6.4.1節で述べた実験システムを用いて,ヒトによるバンバン入力付加実験を

行う.被験者は,初期姿勢ξ1((θ1, θ2) = (0,0))で静止する結合倒立振子モデルを目 標姿勢ξ3((θ1, θ2) = (π,0))に到達させるため,キーボードの操作を行う.

実験条件は,以下に示すとおりである.

被験者:本実験未経験者である20代男性6名

試行回数:各被験者に対して100回/日を5日間連続で実施し,計500回の試 行を実施

被験者自身に,初期姿勢から目標姿勢への到達方法を獲得させるため,被験者 に対しては1日目の実験開始直前に以下の5種類のみの説明を行った.

実験システムの操作方法 : キーボードの押すキーおよび押し方

バンバン入力が付加される振子 : 振子A2B2

初期姿勢 : ξ1(引き分け,(θ1, θ2) = (0,0))

目標姿勢 : ξ3(勝ち,(θ1, θ2) = (π,0))

操作の試行回数 : 100回/1日を5日間連続で実施

被験者への説明に用いた用紙をCに示す.なお,実験期間中は,被験者間におい て本実験に関する一切の情報交換を禁止し,被験者が他の被験者の操作方法や成 功頻度等の情報の影響を受けないようにした.

次に,試行1回分の手順を示す.被験者はスクリーンを目視しながら試行を行 い,以下の手順でキーボードの操作を行う.

1. 右矢印キーを押す : これと同時にシミュレーションが開始し,振子A2 B2の制御入力u2にバンバン入力β(t1,t2)が加わる(時刻t= 0).

2. 左矢印キーを押す : バンバン入力の向きが逆になる(時刻t=t1).

3. 左矢印キーを離す : バンバン入力をβ(t1,t2)= 0とする(時刻t =t1+t2).

結合倒立振子モデルの姿勢が式(3.9)の4状態のいずれかに安定したときに1回の 試行が終了とする.本実験では,右矢印キーを押してから左矢印キーを押すまで の時間t1と左矢印キーを押してから離すまでの時間t2を測定する.なお,本実験

6.4 ヒトによるバンバン入力付加実験

6.4.3 実験結果

第6.4.1節で述べた実験システムを用いた実験結果を,各実験日における切換時

刻(t1, t2)の確率密度関数で示し,試行回数の増大に伴う確率密度の分布の変化に ついて述べる.また,各被験者の目標姿勢への到達頻度に注目し,試行回数の増 大に伴う成功確率の向上について述べる.

図6.7に被験者S1の実験結果に関する確率密度関数を示す.図6.7(a)は1日目,

(b)は2日目,(c)は3日目,(d)は4日目,(e)は5日目の確率密度関数である.ま た,各図中のPsは各実験日の目標姿勢への到達頻度である.これを成功確率とよ ぶことにする.

0 0.5 1 1.5 2

0 0.5 1 1.5 2

8 16 24

t1 t2

P(t1,t2) Ps = 0.25

R1

(a) 1日目

0 0.5 1 1.5 2

0 0.5 1 1.5 2 15 30 45

t1 t2

P(t1,t2) Ps = 0.72

R2 R3

(b) 2日目

0 0.5 1 1.5 2

0 0.5 1 1.5 2 10 20 30

t1 t2

P(t1,t2) Ps = 0.85R4

R5 R6

(c) 3日目

0 0.5 1 1.5 2

0 0.5 1 1.5 2 10 20 30 40

t1 t2

P(t1,t2) Ps = 0.86R7

R8

(d) 4日目

0 0.5 1 1.5 2

0 0.5 1 1.5 2 15 30 45

t1 t2

P(t1,t2) Ps = 0.80R9

R10

(e) 5日目

図 6.7: 被験者S1の各実験日における切換時刻(t1, t2)に関する確率密度関数およ び目標姿勢への到達頻度Ps

6.4 ヒトによるバンバン入力付加実験

1日目(図6.7(a))は,確率密度のピークがR1 で示した領域に集まっているが,

ピークの拡散が見られる.このときの成功確率は,Ps= 0.25である.これは,実 験開始直後で,被験者S1が試行錯誤的に操作を行っているためである.図6.4の 相手を倒すことのできる(青色の)領域と比較すると,成功確率Psは低いが,確率 密度の領域R1が図6.4の領域Bと一致している.

2日目(図6.7(b))は,確率密度のピークがR2とR3で示した領域に集まってい る.このときの成功確率は,Ps = 0.72であり,1日目よりも大幅に向上している.

図6.4の相手を倒すことのできる領域と比較すると,確率密度の領域R2およびR3

が図6.4の領域Bと一致している.1日目と比較すると,ピークの拡散が減ってい る.また,1日目のR1 で示した領域が,R2とR3 で示した2つの領域に分かれ,

ピークを高くしている.

3日目(図6.7(c))は,確率密度のピークがR4とR5で示した領域に集まってい る.また,R6で示した領域に低いピークの集まりがある.このときの成功確率は,

Ps = 0.85であり,2日目よりも向上している.図6.4の相手を倒すことのできる

領域と比較すると,確率密度の領域R4およびR5が図6.4の領域Bと一致してお り,領域R6が図6.4の領域Aと一致している.2日目と比較すると,2日目のR2

で示した領域はR4で示した領域と一致するが,ピークを高くしている.2日目の R3で示した領域は,ピークを低くしつつR5で示した領域にわずかに移動してい る.また,領域R6にピークの集まりがみられるようになった.

4日目(図6.7(d))は,確率密度のピークがR7とR8で示した領域に集まってい る.このときの成功確率は,Ps = 0.86であり,3日目とほぼ同じである.図6.4の 相手を倒すことのできる領域と比較すると,確率密度の領域R7およびR8が図6.4 の領域Bと一致している.3日目と比較すると,3日目のR4およびR5で示した領 域はそれぞれR7とR8で示した領域と一致し,ピークの幅を狭くし,ピークを高 めているが,R6で示した領域はピークの集まりがほとんど見られなくなった.

5日目(図6.7(e))は,確率密度のピークがR9とR10で示した領域に集まってい る.このときの成功確率は,Ps= 0.80であり,4日目よりも下がっている.図6.4 の相手を倒すことのできる領域と比較すると,確率密度の領域R9およびR10が図 6.4の領域Bと一致している.4日目と比較すると,4日目のR7およびR8で示し た領域は,それぞれR9とR10と一致し,ピークの範囲を狭くし,ピークをより高 めている.

以上より,被験者S1は,試行を重ねることにより確率密度のピークの個数を減

図6.8に被験者S2の実験結果に関する確率密度関数を示す.図6.8(a)は1日目,

(b)は2日目,(c)は3日目,(d)は4日目,(e)は5日目の確率密度関数である.ま た,各図中のPsは各実験日の目標姿勢への到達頻度である.

0 0.5 1 1.5 2

0 0.5 1 1.5 2

8 16 24

t1 t2

P(t1,t2)

Ps = 0.35

(a) 1日目

0 0.5 1 1.5 2

0 0.5 1 1.5 2

5 10 15

t1 t2

P(t1,t2)

Ps = 0.59 R1

(b) 2日目

0 0.5 1 1.5 2

0 0.5 1 1.5 2

5 10 15

t1 t2

P(t1,t2)

Ps = 0.86 R2

(c) 3日目

0 0.5 1 1.5 2

0 0.5 1 1.5 2

5 10 15

t1 t2

P(t1,t2)

Ps = 0.89

R3

R4

(d) 4日目

0 0.5 1 1.5 2

0 0.5 1 1.5 2 10 20 30

t1 t2

P(t1,t2)

Ps = 0.96

R5

(e) 5日目

図 6.8: 被験者S2の各実験日における切換時刻(t1, t2)に関する確率密度関数およ び目標姿勢への到達頻度Ps

6.4 ヒトによるバンバン入力付加実験

1日目(図6.8(a))は,確率密度が全体に拡散している.このときの成功確率は,

Ps = 0.35である.これは,実験開始直後で,被験者S2が試行錯誤的に操作を行っ

ているためである.

2日目(図6.8(b))では,全体的にピークの拡散がみられるが,確率密度のピーク

がR1で示した領域にピークが集まっている.このときの成功確率は,Ps = 0.59 であり,1日目よりも向上している.図6.4の相手を倒すことのできる領域と比較 すると,確率密度の領域R1が図6.4の領域Cと一致している.1日目と比較する と,R1で示した領域にピークが集まってきている.

3日目(図6.8(c))では,確率密度のピークがR2 で示した領域に集まっている.

このときの成功確率は,Ps = 0.86であり,2日目よりも向上している.図6.4の 相手を倒すことのできる領域と比較すると,確率密度の領域R2が図6.4の領域C と一致している.2日目と比較すると,ピークの拡散が減り,2日目のR1で示し た領域はR2で示した領域と一致し,ピークがより集まってきている.

4日目(図6.8(d))では,確率密度のピークがR3とR4で示した領域に集まって いる.このときの成功確率は,Ps = 0.89であり,3日目ほぼ同じである.図6.4の 相手を倒すことのできる領域と比較すると,確率密度の領域R3が図6.4の領域C と一致しており,領域R4が図6.4の領域Dと一致している.3日目と比較すると,

3日目のR2で示した領域がR3で示した領域と一致するが,ピークを低くし,R4

で示した領域にピークを移動させている.

5日目(図6.8(e))では,確率密度のピークがR5 で示した領域に集まっている.

このときの成功確率は,Ps = 0.96であり,4日目よりも向上している.図6.4の 相手を倒すことのできる領域と比較すると,確率密度の領域R5が図6.4の領域D と一致している.4日目と比較すると,4日目のR4で示した領域がR5で示した領 域と一致し,ピークを高めている.また,4日目のR3で示した領域のピークの集 まりがほぼ見られなくなり,R5で示した領域に移動している.

以上より,被験者S2は,試行を重ねることにより確率密度のピークの個数を減 らし,ピークをより高めている.また,試行回数の増大に伴い,成功確率Psの向 上が見られた.つまり,試行回数の増大により,特定の切換時刻に漸近するよう な操作を行うようになると共に,目標姿勢への到達頻度が向上することがわかる.