• 検索結果がありません。

第 7 章 協調と競争を表す四節リンク機構 131

7.5 まとめ

結 言

本論文では,複数のエージェントによる相互依存的なバランス運動の最単純モ デルとして,結合倒立振子モデルを提案し,このモデルをヒトが協調的もしくは 競争的に操作したときの基本的性質を明らかにした.

第3章では,協調と競争のダイナミクスを有し,すべてのシステム・パラメータ を機械工学的に同定可能な結合倒立振子モデルを提案した.数値シミュレーショ ンにより振子の初期角度に対する応答の吸引域を求め,提案モデルが四重安定性 を持つことを確かめた.

以上より,第1章で目的1に掲げた,個体単体の非線形力学特性が協調と競争の 直接要因となるような小自由度モデルの具体例を示すことができた.

第4章では,結合倒立振子モデルの簡約化モデルを導出し,ヒトの反応遅れと ゆらぎを考慮した拡張を行い,数値シミュレーションを行った.その結果,同等 の制御性能を持つ制御器が結合することにより,安定性および追従性の向上が見 られた.次に,数値シミュレーションに用いた制御器を,ヒトの視覚性運動に置 き換えるための実験システムを開発し,実験を行った.その結果,単体では同等 の制御性能を有する被験者が結合することにより,安定性が平均的に向上し,追 従性が非対称化する傾向が見られた.

以上より,目的2に掲げた,一対のヒトが協力的にバランス運動を行う際の基 本的性質を,計算と実験で示すことができた.

第5章では,一対のヒトによる協力的なバランス運動において,ヒトの操作と 操作から受ける感性を測定し,両者の関係性を明らかにするため,因子分析を行っ た.その結果,ヒトの協調バランス運動においては,一般的な制御系設計とは異 なり,自分の積極性と引き換えに,自他の操作の安定性の悪化を許容するという 傾向が明らかになった.また,自分の操作の追従性が向上すると,自分の活動性 が強いという官能を受けることが明らかになった.

こうした,感性工学的な手法の導入により,目的3に掲げた,ヒトの協調的な バランス運動における操作と感性との関連を一部明らかにすることができたと思 われる.

第6章では,結合倒立振子モデルにバンバン入力を付加することにより,相手

7.5 まとめ を転倒させようとする競争的な状況を表現した.ヒトが実際にバンバン入力を結 合倒立振子モデルに付加可能な実験システムを開発し,ヒトによるバンバン入力 付加実験を行った.その結果,試行回数の増大に伴い,目標姿勢への到達頻度が 向上し,特定の操作に漸近する傾向がみられた.この特徴に注目し,被験者が獲 得した運動戦略の分類を行った.分類の結果,試行回数が増大し,学習が進んだ 状態において,本研究の被験者は大きく分けて3種類に分類される運動戦略を獲 得したことが明らかになった.例えば,各被験者の操作方法の個数とその類似度 に注目すると,単一の操作方法,複数の類似する操作方法,複数の相異なる操作 方法の3種類の運動戦略が見いだされた.

以上より,目的4に掲げた,自らの働きかけで相手を転倒させようとする状況 下においてヒトが獲得する運動戦略の特徴を明らかにし,その特徴に基づいて被 験者が獲得した運動戦略の分類を行うことができた.

第7章では,まず,永久磁石と強磁性体のカムによる単純構造を用いた結合双 安定振子機構を試作し,実験により試作した機構の各振子の初期角度に対する応 答の吸引域を求めた.この吸引域より,試作した結合双安定振子機構が結合倒立 振子モデルと同様の四重安定性を持つことを確かめた.次に,結合双安定振子機 構の解析モデルを導出し,数値シミュレーションにより初期角度に対する応答の 吸引域を求めた.結合双安定振子機構と解析モデルの吸引域を比較することによ り,導出した解析モデルが結合双安定振子機構の解析モデルとして妥当であるこ とを確かめた.

以上より,目的5に掲げた,結合倒立振子モデルと同等の四重安定性を現実の 四節リンク機構として実現させ,その解析モデルを導出することに成功した.

以上の研究成果により,複数のエージェントがお互いに影響を及ぼしあう状況 の具体例が示され,協調的もしくは競争的な状態にあるエージェントの基本的性 質を明らかにすることができた.特に,一対のヒトによる協調的なバランス運動 に関しては,ヒトの操作と感性との関係性について基礎的な知見を得た.さらに,

協調と競争を表すモデルを現実の四節リンク機構として実現することができた.こ れらの成果は,私達の身の回りにロボットが増え,ヒトとロボットが直接的に触 れ合う機会が増えるであろう近い将来において,ヒトやロボットの行動のみなら ず,ヒトの感情やロボットが我々に与える官能をも考慮することが可能な,未来 のロボットシステムの実現に向けた基礎的な知見となりうると考える.また,本 研究で行ったヒトによる実験において,被験者の操作と性格とに関係性が見受け

まず,一対のヒトによる協調的なバランス運動においては,感性以外にも性格 や感情などが操作に影響を及ぼしていると考えられる.今後,性格や感情に関し ても測定を行い,操作との関係性を明らかにしていく必要がある.

次に,本研究では,ヒトとロボットによる協調的なバランス運動に関しては未 検討であった.ヒトとロボットとが共存する未来に向けて,ヒトとロボットが協 調的にバランス運動を行った際の基本的性質や,操作と感性との関係性に関して 十分に検討していく必要がある.

さらに,エージェント間の競争的な問題に関しては,相手が自分を倒そうとす る状況は考慮していない.今後,このような状況に関しても本研究と同様に,被 験者が獲得する運動戦略の特徴を明らかにしていく必要がある.また,競争的な 状況に関しては,ヒトの操作と感性との関係性については未検討であるため,こ れは今後の課題である.

参考文献

[1] 向井 利春, ”介護支援ロボット「RIBA(リーバ)」による移乗作業の実現”, WEB Journal, No.109-2010, pp.11-14, (2010.5).

[2] 玄 相昊,森本 淳,城垣内 剛,森 悦宏,水井 晴次,川人 光男, ”歩行・姿勢リハビリテー ションのための空電ハイブリッド式外骨格ロボットの提案”,電子情報通信学会技術研 究報告. NC,ニューロコンピューティング”, Vol.109, No.461, pp.161-166, (2010.3).

[3] 金子 健二,原田 研介,金広 文男,木村 勉,宮森 剛,赤地 一彦, ”ヒューマノイドロボッ HRP-3の開発”,日本ロボット学会誌, Vol.26, No.6, pp.658-666, (2008.8).

[4] 西沢 俊広, 服部 浩明, ”サービスロボットの安全化事例(1) : チャイルドケアロボッ ト「PaPeRo”,日本ロボット学会誌, Vol.25, No.8, pp.1159-1161, (2007.11).

[5] 柴崎 晃一,光吉 俊二, ”抑揚からの感情認識の評価: 感性制御技術(ST)の評価と、人間 の感情の評価法について”,電子情報通信学会技術研究報告. TL,思考と言語, Vol.105, No.291, pp.45-50, (2005.9).

[6] 佐々木 大輔,目加田 慶人,春日 正男,植田 信夫, ”パーツの特徴に基づく動きパター ンを用いた表情分類法に関する検討”,電子情報通信学会技術研究報告. HCS,ヒュー マンコミュニケーション基礎, Vol.100, No.376, pp.33-38, (2000.10).

[7] Sigmund, K., Hofbauer, J.,Evolutionary Games, Population Dynamics, Cambridge University Press, (1998).

[8] 長田 正,石川 正俊,浅間 一, ”自律分散をめざすロボットシステム”,オーム社, (1995).

[9] 生天目 章, ”マルチエージェントと複雑系”,森北出版, (1998).

[10] 森田 昌彦,新保 智之,蓮尾 高志,山根 健, ”選択的不感化ニューラルネットを用いた 強化学習の効率化”,電子情報通信学会研究報告, NC, ニューロコンピューティング, Vol.107, No.542, pp.355-359, (2008).

[11] 関口 明生,鴇田 正俊, ”倒立平行二輪車の制御”,高等専門学校の教育と研究, Vol.13, No.2, pp.15-20, (2008).

[12] 季 祖枢,高橋 隆行,柳 基鎬,諸岡 光, ”トルクに制限がある場合の振り子の制御:イン

pp.317-318, (2007).

[14] 江村 超,酒井 高男, ”反動力によって立位を維持する倒立振子の研究”,バイオメカニ ズム, Vol.2, pp.321-328, (1973).

[15] 成川 輝真,高橋 正樹,吉田 和夫, ”二重倒立振子における不安定平衡点への知的安定 化制御”, Dynamics, Design Conference 2003 CD-ROM論文集, No122, (2003).

[16] 山本 創太,成田 一也,水野 陽介,田中 英一,水野 幸治,原田 敦, ”高齢歩行者転倒の モデル化と障害予測”, Dynamics, Design Conference 2009 CD-ROM論文集, No388, (2009).

[17] Cecile, S., Wilson, C. H., Thomas, A. M., ”Disturbance type, gait speed affect fall direction, impact location”, Journal of Biomechanics, Vol.34, No.3, pp.309-3017, (2001).

[18] 柿元 泰,藪 厚生, ”小型ヒューマノイドロボットの開発 : 不安定な足場での姿勢安定 化制御”,高等専門学校の教育と研究:日本高専学会誌, Vol.14, No.3, pp.17-22, (2009).

[19] 丸山 淳一, 松原 崇充, HALE Joshua G., 森本 淳, ”強化学習を用いたヒューマノイ ドロボットによる転倒回避ステップ動作の学習日本ロボット学会誌, Vol.27, No.5, pp.527-537, (2009).

[20] 金広 文男, 金子 健二, 藤原 清司, 原田 研介,梶田 秀司,横井 一仁, 比留川 博久, 地 一彦,五十棲 隆勝, ”ヒューマノイドの転倒回復機能の実現”,日本ロボット学会誌, Vol.22, No.1, pp.37-45, (2004).

[21] 李 春艶,朝廣 雄一,山下 雅史,鈴木 一郎,浅間 一, ”移動ロボットによる長尺物運搬問 題に対する分散アルゴリズム”,数理解析研究所講究録, Vol.1093, pp.242-247, (1999).

[22] Inoue, Y., Tohge, T., Iba, H., ”Cooperative transportation system for humanoid robots using simulation-based learning”, Applied Soft Computing, Vol.7, pp.115-125, (2007).

[23] Shao, J., Wang, L., Yu, J., ”Development of an artificial fish-like robot, its applica-tion in cooperative transportaapplica-tion”, Control Engineering Practice, Vol.16, pp.569-584, (2008).

[24] 井口 雅一, ”2人以上の制御者を含む手動制御系”, 日本機械学會誌, Vol.66, No.530, pp.344-350, (1963.3).

[25] 星野 攻,森永 聡,村川 正宏,平岡 和幸,吉澤 修治, ”倒倒立振子の協調制御における 言語の自発的形成”,電子情報通信学会技術研究報告AI 人工知能と知識処理, Vol.99, No.95, pp.47-54, (1999).

[26] Song, Z., Sukthankar, P., Chen, Y. Q., Gu, J., ”Progressive Fuzzy Fusion Control of Two Coupled Inverted Penduli”,Proceedings of 2003 IEEE International Sympo-sium on Computational Intelligence in Robotics, Automation, Vol.3, pp.1457-1462, (2003).

[27] Fradkov, A., Andrievsky, B., Boykov, K., ”Control of the coupled double pendulums system”,Mechatronics, Vol.15, pp.1289-1303, (2005).

[28] 杉江 明士,井上 雄二郎,木村 英紀, ”結合倒立振子の安定化制御”,計測自動制御学会 論文集, Vol.14, No.5, pp.591-597, (1978).

[29] 森田 信義,山本 明,古橋 猛, 鳥居 孝夫”4節リンク機構の動力学的設計法(節点力作 用方向について)”, 日本機械学会論文集C, Vol.59, No.558, pp.535-540, (1993).

[30] Vahit Mermertas, ”Optimal design of manipulator with four-bar mechanism”, Mechanism, Machine Theory, Nol.39, pp.545-554, (2004).

[31] 鳥居 孝夫,櫻井 武仁,森田 信義,馮 彬対偶部に弾性を持つ4節リンク機構の運動解 ”,日本機械学会2001年度年次大会講演論文集, Vol.3, pp.229-230, (2001).

[32] 渡辺 克巳,山崎 勇一,小沢 豪志, ”非グラスホフ平面4節リンク機構の駆動法”, 本機械学会第4回機素潤滑設計部門講演会講演論文集, pp.79-80, (2004).

[33] A. Trevisani, ”Feedback control of flexible four-bar linkages: a numerical, experi-mental investigation”, Journal of Sound, Vibration, Vol.268, pp.947-970, (2003).

[34] 吉田 勝俊, ”工学系の数学入門 短期集中 振動論と制御理論”, 日本評論社, (2003.3).

[35] 日本機械学会, ”マルチボディダイナミクス〈1基礎理論—”,コロナ社, pp.201-206, (2006.4).

[36] R. Borman, J-L. Cabrera, J.G. Milton, C.W. Eurich, ”Visuomotor tracking on a computer screen — an experimental paradigm to study the dynamics of motor control”, Neurocmputing, 56-60, pp.517-523, (2004).

[37] Juan L. Cabrera, John G. Milton, ”On-Off Intermittency in a Human Balancing Task”, PHYSICAL REVIEW LETTERS, Vol.89, No.15, 158702, (2002).

[38] Katsutoshi Yoshida and Atsushi Higeta, ”Coupling Effects in Human Balancing Tasks”, Proceedings of 40th International Symposium on Stochastic System Theory and its Applications, November 14-15, 2008, Kyoto, pp.264-269, (2009-5).

[39] 渡邊信一, 大根田浩久, 斎藤栄之,尾崎功一, ”粒子群に対する触感覚の評価とある特 徴量の推定”,日本感性工学会論文誌, Vol.9, No.2, pp.369-375, (2010).

(2008).

謝 辞

本論文は,私が学部4年で宇都宮大学工学部機械システム工学科システム力学 研究室に配属以来行ってきた,6年間の研究をまとめたものです.この6年間に渡 り,吉田勝俊准教授には,指導教官としてご指導いただきました.科学に深く,工 学に広く,さらには他分野にも多くの興味を持つ吉田准教授のご指導は,私の研 究生活の最大の原動力であったことは,疑う余地もありません.常に,様々な分 野の情報に耳を傾け,学生とのコミュニケーションや研究指導に熱心に取り組む その姿は,常に私の憧れであり,いつしか私の目標となっておりました.吉田准 教授には,私が研究が行き詰まっている時や私生活において落ち込んでいる際も,

叱咤激励をいただき,そのおかげもあり,途中で心が折れずにここまで研究をや り通すことができました.また,私が研究を職業とすべく決意することができた のも,吉田准教授のご指導を受ける機会に恵まれたためであり,この幸運に感謝 の念を禁じえません.ここに深甚の謝意を表します.

また,本研究の遂行にあたって,遠藤博教授,横田和隆教授,平田光男准教授 には,他分野のご専門の立場から貴重かつ有益なご指導をいただきました.忙し い時期に時間を割いていただいてのご指導は,とかく自分の専門分野に閉じこも りがちな研究生活において,新鮮そのものであり,自らの視野の狭さ,知識の乏 しさを痛感する良い機会となりました.ここに深く感謝致します.

本論文の執筆にあたっては,松岡猛教授,畑沢鉄三教授,遠藤博教授,横田和 隆教授,嶋脇聡准教授に親身のご指導をいただきました.論文構成の甘さや帰結 の妥当性のあり方などに対するご助言のみならず,今後の研究の発展に繋がる貴 重なコメントまでいただきました.ここに深く感謝致します.

言うまでもなく,本論文に掲載した研究成果は,同室の学生諸氏との共同作業 によって生み出されたものです.私が研究室に配属された当初,先輩の大学院生 として,研究に関する様々なアドバイスをいただいた大根田浩久氏,非線形力学 やC言語の初歩をご指導くださった,笠原耕樹氏,小島孔明氏,西沢祐介氏,福 田賢一氏,横田圭一氏,氏家裕隆氏,琴野瑛仁氏,菅原勇太氏,柳橋志遠氏に深