第 5 章 ヒトのバランス運動と感性 66
5.3 ヒトによる協力的なバランス運動の測定実験
5.3.3 因子分析による関係性の解明
5.3 ヒトによる協力的なバランス運動の測定実験
因子分析結果
実験により得られた物理量と官能評価から得られた官能量について因子分析を 行い,得られた因子負荷量を図5.6に示す.
(a) 第1因子-第2因子 (b) 第3因子-第4因子
図 5.6: 因子分析結果
図5.6(a)は第1因子と第2因子に注目したグラフであり,横軸が第1因子,縦軸 が第2因子である.図5.6(b)は第3因子と第4因子に注目したグラフであり,横軸 が第3因子,縦軸が第4因子である.図中の赤色の丸印は自分に関する形容語対,
青色の四角印は相手を表す形容語対であり,番号は表5.6の形容語対と対応してい る.また,緑色の三角印は測定結果より得られた物理量であり,番号は以下に示 した表5.7と対応している.
表 5.7: 因子分析に用いる物理量
自分の操作を評価する物理量 相手の操作を評価する物理量 31 自分のバランス誤差のRMS 33 相手のバランス誤差のRMS 32 自分の反応遅れ時間 34 相手の反応遅れ時間
因子の解釈
図5.7は第1因子と第2因子に注目したグラフであり,横軸が第1因子,縦軸が 第2因子である.
図 5.7: 因子の解釈 : 第1因子—第2因子
図5.7の第1因子に注目すると,Iの丸で囲った範囲に自分に関する形容語対「2.
調和のとれた—不調和な」,「5.間に合った—間に合わない」と,相手に関する形 容語対「17.調和のとれた—不調和な」,「20.間に合った—間に合わない」が含 まれている.これらの形容語対と第1因子との間には強い正の相関がある.自他 共に同種の形容語対が第1因子と強い正の相関を示すことから,第1因子は協働 的な因子であると考える.また,形容語対に注目すと,調和がとれているか,間 に合っているかを評価する形容語対を含んでいるため,秩序性を評価していると 考える.以上より,第1因子は「協働秩序性」についての因子であると考える.第
5.3 ヒトによる協力的なバランス運動の測定実験 間τに相関がみられない.これは,協働秩序性については,これらの物理量を重 視していないことを示している.
図5.7の第2因子に注目すると,IIの丸で囲った範囲に「31.自分のバランス誤
差のRMS」,「33.相手のバランス誤差のRMS」が含まれている.これらの物理量
と第2因子との間には強い正の相関がある.自他共に同種の物理量が第2因子と 強い正の相関を示すことから,第2因子は協働的な因子であると考える.バラン ス誤差のRMSは,自他の活発性の指標であるので,以上より,第2因子は「協働 活動性」についての因子であると考える.また,因子負荷量の絶対値が最も大き い形容語対は,IIIの丸で囲った自分に関する「6.積極的—消極的」である.この 形容語対と第2因子との間には弱い負の相関がある.これは,自他共にバランス 誤差が大きい場合,自分の積極性が強いという官能を受けていることを示してい る.一般的な制御系設計においては,バランス誤差のRMSを小さくすることを重 視するが,ヒトの操作には,積極的に操作を行う際にはバランス誤差のRMSを重 視しない傾向があることを示している.一方,相手に関する「21.積極的—消極 的」とは相関がみられなかった.
図5.8は第3因子と第4因子に注目したグラフであり,横軸が第3因子,縦軸が 第4因子である.
図 5.8: 因子の解釈 : 第3因子—第4因子
図5.8の第3因子に注目すると,IVとVの丸で囲った範囲それぞれに「32.自 分の反応遅れ時間」,「34.相手の反応遅れ時間」が含まれている.自分の反応遅 れ時間と第3因子は強い正の相関,相手の反応遅れ時間と第3因子は強い負の相 関があることから,これらの物理量間には強い負の相関がある.自他共に同種の 物理量が強い負の相関を示すことから,第3因子は相補的な因子であると考える.
これは,自分の反応遅れ時間が短くなると,相手の反応遅れ時間が長くなり,反 応遅れ時間が非対称となる傾向を示している.以上より,第3因子は「相補的反 応遅れ」についての因子であると考える.また,因子負荷量の絶対値が大きい形 容語対は,VIの丸で囲った自分に関する「4.激しい—穏やか」,「6.積極的—消 極的」である.この形容語対と第3因子との間には弱い正の相関がある.これは,
5.3 ヒトによる協力的なバランス運動の測定実験 ことを示している.一方,相手に関する「19.激しい—穏やか」,「21.積極的—
消極的」とは相関がみられなかった.
図5.8の第4因子に注目すると,VIIの丸で囲った範囲に相手に関する「21.積 極的‐消極的」,「19.激しい‐穏やか」を含んでいる.これらの形容語対と第4因 子との間には強い正の相関がある.相手に関する形容語対が第4因子と強い正の 相関を示すことから,第4因子は相手に関する因子であると考える.また,形容 語対に注目すると,相手に関しての積極性と活発性に関する形容語対であるため,
第4因子は活動性についての因子であると考える.以上より,第4因子は「他者 活動性」についての因子であると考える.第4因子に関して物理量に注目すると,
自他共にバランス誤差のRMS,反応遅れ時間τに相関がみられない.これは,他 者活動性については,これらの物理量を重視していないことを示している.
因子分析のまとめ
以上の因子分析により,ヒトの協力的なバランス運動の測定により得られた物 理量と,ヒトが操作から受ける感性との間に以下に示す関係性を見いだすことが できた.
まず,自分および相手の物理量について以下に示す結果が得られた.
• 自他のバランス誤差には,強い正の相関がみられた.これは,一方のバラン ス誤差が大きくなると,他方のバランス誤差も大きくなる傾向を示す.
• 自他の反応遅れ時間には,強い負の相関がみられた.これは,一方の反応遅 れ時間が短くなると,他方の反応遅れ時間が長くなる傾向を示す.同様の傾 向は,第4.5節におけるヒトによる実験においても見られた.
この結果と官能量の結果とを総合して,因子分析によって得られた因子負荷量 の第1因子を「協働秩序性」,第2因子を「協働活動性」,第3因子を「相補的追 従遅れ」,第4因子を「他者活動性」の因子であると同定した.
このうち,第1因子と第4因子は官能量に基づく因子,第2因子と第3因子は物 理量に基づく因子である.特に,物理量に基づく因子については次のような結果 が得られた.
• 第2因子「協働活動性」は,自他のバランス誤差と強い正の相関をもち,自分 の積極性に関する官能と弱い正の相関をもつ.一方,自他のバランス誤差と 相手の積極性とは相関は認められなかった.この結果より,ヒトの協調バラ ンス運動においては,一般的な制御系設計とは異なり,自分の積極性と引き 換えに,自他のバランス誤差の拡大を許容するという傾向が明らかになった.
• 第3因子「相補的追従遅れ」は,自分の反応遅れ時間と強い正の相関,相手 の反応遅れ時間と強い負の相関をもち,自分の活動性に関する官能と弱い正 の相関をもつ.一方,相手の活動性に関する官能とは相関は認められなかっ た.この結果より,自分の反応遅れ時間が短くなると,自分の活動性が強い という官能を受けることが明らかになった.
その他の第1因子と第4因子については,本報で測定した物理量との相関は認 められなかった.