第 17 章
7.3 接辞・助詞を伴う動詞句
否定の場合は,7qZoやKdHoの前に否定接頭辞を置く。
LRc=ZoM`o7qZoˆsyaðˆmin¨u¨u (建立することができない) L<\!VoM`oKdHo¯kyur `hmip¨o¨o (捨てることができない)
C.必要の補助動詞:H<dZo
H<dZoˆk¨o¨o, ´koは「〜しなければならない」といった必要の意味を表す形式である。主
動詞は未完了形となる。
T2FdoH<dZo´ndro ˆk¨o¨o (行かなければならない)
1>cHoH<dZo´tyhe ˆk¨o¨o (しなければならない)
また,VH<dZoは要求や意志表明の意味を表すことがある。これについては第IV部「単
文>モダリティ」(p. 175)で後述する。
D.願望の補助動詞:THdHo
「〜したい」という願望の意味を表すにはTHdHo ˆnd¨o¨oが用いられる。前に来る主動詞 は未完了形である。
T2FdoTHdHo´ndro ˆnd¨o¨o (行きたい) XcZoTHdHo`syeðˆnd¨o¨o (知りたい) E.懸念の補助動詞:Hd<Zo
Hd<Zoˆthoo「〜してしまうのではないかと恐れる」「〜してしまう懸念がある」などの
ように,望ましくないことが起こる可能性があることを表す。主動詞は完了形。
X`oHd<Zo¯syi ˆthoo (死んでしまうのではないかと恐れる)
LDdZoHd<Zoˆtrh¨o¨o ˆthoo (逃げてしまうのではないかと恐れる)
「〜しないのではないかと恐れる」という場合は,主動詞を否定にして次のように言う。
MoS`IoHd<Zo´masiðˆthoo (終わらないのではないかと恐れる)
1. 付帯状況の接続助詞 V5[oV,VJVoV (〜しに〜,〜しようと〜) 2. 並列・付帯状況の接続助詞 V>`=oV (〜して,〜しながら〜) 3. 同時の接辞 V-;=`IoV (〜しながら〜)
4. 根拠の提示・対比の接続助詞 V;=`oV (〜するために〜) 5. 継起の接続助詞 VIZoV (〜して〜)
6. 説明・継起・対比・逆接の接続助詞 VFcoV (〜して〜) 7. 累加・目的・理由の接続助詞 VWoV (〜して〜)
A.〜しに〜,〜しようと〜:V5[oV,VJVoV
到格助詞と同形で付帯状況を表す接続助詞5[otuを間にはさむと「〜しに」「〜するた めに」「〜しようと」という目的の意味を表すことができる。特に移動動詞との組み合わ せで用いられることが多い。連声による形態変化がある点は到格助詞と同様である。
WcIo6qoT2Fdo´leðtu ´ndro (取りに行く)
<ZdHo6qoTd=o`s¨o¨o tu ´oð(殺しにくる) L9KVoT2Fdo`tar ´ndro (見に行く) TOVVoT2Fdo`tshor ´ndro (放牧しに行く) TGLoJVo?Zo¯tha par `tyh¨a¨a (戦いに行く)
<ZdWoLVoT2Fdo¯s¨o¨o war ´ndro (お祀りしに行く)
移動動詞以外にも,使役の意味を付加するものとして次のような例がある。
TLD`oVboT@b<o´ndri ru ˆnjuk (書かせる) ZVdLo5[o<Fd=o`lop tu ¯toð(学びに行かせる)*5 その他,次のような例もある。
GdLo5[oVco`thop tu ´re (得ようと願う)
?cVo<\@co`tyher ¯kye (大きくなる) B.〜して〜,〜しながら〜:V>`=oV
並列・付帯状況を表す接続助詞>`=otyiðを付すと,「〜して〜」という意味になるほか,
「〜しながら〜」という意味にもなる。動詞の形態は未完了形の場合も完了形の場合も見 られる。
*5V5[oT@b<o,V5[o<Fd=oは第IV部「単文>重要な構文>使役構文」(p. 157)で取り上げているので参照さ
れたい。
LZHo>`=oL>dMo`s¨a¨a tyið`tyom (殺して征服する) LZ`WoR`=o2F=o¯sii syið´trhað(涼しくて寒い) ScVoR`=o=bo´ser syið´Nu (言いながら泣く)
なお,「〜している」という進行中のアスペクトを表すV>`=oUdHo,ないしV>`=oT6q<o は助動詞化したものである。これらについては第IV部「単文>テンス・アスペクト>進 行中・習慣反復」(p. 163)で後述する。
後代のテキストに見られるVLR`Iosyið「〜しながら」という形式は『王統明鏡史』に は見られない。
C.〜しながら〜:V-;=`IoV
同時を表す接辞-;=`Io-kiðを動詞未完了形に付すと「〜しながら」という意味になる。
意志的他動詞の場合は未完了能動形である。
<ZdWoLoTHcLZo<`IoT2Fdo¯sowa ´ndepkið´ndro (祈りを捧げながら行く)*6 TG<o<`IoTd=o¯thaakið´oð(挽きながら来る)
なお,「〜している」という進行中のアスペクトを表すV-;=`IoUdHo,ないしV-;=`IoT6q<o は助動詞化したものである。これらについては第IV部「単文>テンス・アスペクト>進 行中・習慣反復」(p. 163)の項目を参照。
D.〜するために:V;=`oV
根拠の提示の接続助詞;=`okiを動詞未完了形に付すと,「〜するために〜」という意味 になることがある。『王統明鏡史』では下記の,T`oiを用いた一例のみである。*7
L9KT`oT2Fdo¯ta i ´ndro (見に行く)
E.〜して〜:VIZoV
起格助詞と同形で継起の意味を表す接続助詞IZon¨a¨aを間にはさむと「〜して〜」とい う継起的,または付帯状況的な意味を表すことができる。
;?cVoIZoTd=o¯kyher n¨a¨a ´oð(持ってくる) L<KIoIZoT2Fdo¯t¨aðn¨a¨a ´ndro (示していく)
*6この用例の接辞の形態は連声規則に則っていないが原文ママ。
*7現代のアムド・チベット語では目的を表すのにこれと関連すると思われる形式が用いられている。
F.〜して〜:VFcoV
継起を表す接続助詞Fcoteを挿入した動詞句である。
9C<oL,@Lo<KcoT2Fdo`tyaa ˆkyap te ´ndro (鞭を打って行く)
L<?dVoFcoL8q<Zo¯kor te ˆsyuu (囲まれていらっしゃる)
G.〜して〜:VWoV
与格助詞と同形で累加の意味を表す接続助詞Wolaを間にはさむと「〜して〜」という 継起的,または付帯状況的な意味を表すことができる。
L<KIoWoLR<o¯t¨aðla ˆsyaa (見せておく) L>dMoWoLR<o`tyom la ˆsyaa (蹂躙してしまう)
H. VJVo1>cHoとVJVoT!^Vo
動詞句のうち,「する」「なる」という意味を表す動詞1>cHo´tyhe,もしくは「なる」と いう意味を表す動詞T!^Vo´ngyurを用いるものがある。独特の意味を帯びて用いられる ので,ここでまとめて紹介する。
VJVo1>cHopar ´tyheは,属性動詞との組み合わせで,「〜という状態になる」という状
態変化の引き起こしの意味を表すことがある。そのような状態が起こるという状態変化の 側面を表すことができる。
MdZoˆm¨o¨o (信じている)→ MdZoJVo1>cHoˆm¨o¨o par ´tyhe (信じるようになる) MbIo´m¨uð(暗い) → MbIoJVo1>cHo´m¨uðpar ´tyhe (暗くなる)
実際の用例では,VJVo1>Zopar ˆtyh¨a¨aという完了形で,「信じるようになった」「暗く なった」という変化が完了したことを表している。
また,意志動詞との組み合わせでは,「〜するようにする」という行為の引き起こしの 意味になる場合があるようである。この場合,使役ではなく,行為者自身が,自らの行為 を引き起こす決意をする,という意味である。
<MdHoJVo1>cHoˆt¨o¨o par ´tyhe (留まることにする)
1>cHo ´tyheは未完了能動形であるので,そのまま言い切れば,「〜するつもりだ」とい
う意志のモダリティを表すことができる。また,未完了所動形1>o´tyhaを用いれば,「〜
しよう」という意志のモダリティ,または「〜するべきだ」という義務のモダリティを表 すことができる。意志および義務の意味を表す例文については,第IV部「単文>モダリ ティ」(p. 175)を参照。
なお,1>cHo´tyheが「言う」という意味でも用いられることから,VJVo1>cHopar ´tyhe で「〜であると言う」という意味になるケースがある。これについては第V部「複文>補 節>引用の補節」(p. 228)で後述する。
動詞未完了形にJVoT!^Vopar ´ngyurを組み合わせると,そのような事態が実現するこ とになる,という変化の側面を表すことができるようになる。
1>cHoJVoT!^Voˆtyhee par ´ngyur (することになる)
9MIoJVoT!^Vo´nd¨aðpar ´ngyur (持つようになる)
T!^Vo ´ngyur は未完了形であるので,そのまま言い切れば,「〜するようになるだろ
う」「〜することになるだろう」という未来の事態を表すことができる。また,完了形!^Vo
´kyhurを用いれば,「〜するようになった」「〜することになった」のように変化が完了し
たということを表すことができる。未来および完了を表す例文については,第IV部「単 文>テンス・アスペクト」(p. 162)を参照。