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第 5 章 「切迫感 · 不快感」の体現 50

5.4 振動フィードバックによる操作への影響調査

5.4.1 実験概要

本実験の目的は,ユーザの切迫感や不快感に影響を与える振動フィードバックを明ら かにすること,およびユーザが対象を操作している最中に多様な振動パターンをフィー ドバックし,それらがタスク中の行動に及ぼす影響,特にユーザビリティや作業負荷を 調査することである.本実験で行うタスクは前章の予備実験で行った円形経路ドラッ グタスクとした.図5.3にドラッグタスク中の実験風景を示す.実験協力者は振動デ バイスが付随したスマートフォン上でドラッグタスクを行い,その後行ったタスクの 作業負荷について評価した.ただし,ユーザが無意識のうちに振動パターンより受け る影響(本実験におけるユーザビリティ)も調査したいため,実験協力者には「振動 を付加したタスクにおける作業負荷度測定実験」とのみ説明した.

5.4.2 実験装置

図5.4にスマートフォンに付随させた振動デバイスを示す.振動デバイスは指が対象 に触れている間振動し,指を対象から離すと振動が停止する.対象に触れているかど うかの情報はスマートフォンのタッチスクリーンで取得し,マイコンボード(Arduino Uno)に送信される.振動を付加する際にはマイコンボードから振動デバイス内の振 動モータ(Silicon Touch Technology Inc.,LBV10B-009)に電圧が印加される.振動 デバイスはスマートフォン(LG,Nexus 5)を想定した66×138×8 mmに設計し,

図 5.3: ドラッグタスク時の実験風景

振動モータ

振動デバイス

図 5.4: 振動デバイスを付加したスマートフォン

4 mmのアクリル板のみ振動モータの形を切り抜き,そこに振動モータを埋め込んだ.

振動モータはデバイスの下方1/3に振動モータの中心がくるように,デバイス下端か

ら46 mmの位置に配置した.そして,その振動デバイスは4 mmのアクリル板の面を

スマートフォン(LG,Nexus 5)の背面に両面テープで固定した.

5.4.3 振動パターンの選出

本実験で用いる振動パターンを,3章で用いた85の振動パターンから選出した.た だし,これらの振動パターンは最大1000 msに固定されている.本実験においてはド ラッグ時間が一定ではないためそのままのパターンを利用することはできない.その ため,連続した形に加工することで特徴が失われかねない振動パターンに関しては選 出段階で除外した.そして最終的に,本実験のサンプルとして12パターンを選出した.

選出した振動パターンに標準的な振動だと考えられるパターンと振動なしのパターン を加え,ナンバリングを行った振動パターンが図5.5矢印左の全14パターンである(標 準的な振動パターンと振動なしのパターンは,それぞれ,パターン13,14).そして,

1000 msより長いドラッグに対応できるように,選出した振動パターンを図5.5矢印右

に示すように連続した形に加工した.

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図 5.5: 選出した振動パターン一覧

5.4.4 実験方法

実験協力者は予備実験に参加した協力者と同様の15名であった.本実験のタスクは 予備実験と同様に,対象となる黒丸を内側と外側に設けた境界線にできるだけ触れな いように2周ドラッグを行い1試行終了とした.ただし,予備実験の結果をもとに周回 方向は時計回りに固定した.また,予備実験では内側と外側の境界線の幅kは1.3 cm に固定したが,本実験では図5.6(a)–(c)に示すように幅kは1.0 cm(高難易度: H),

行ずつ無作為な順序で行い,これを4回行うことで計12試行の1セットとした.そし て,選出した14の振動パターンが各セットに設定され,1セットを通して同じパター ンで振動する.そのため,計14セットを行い実験終了となる.実験中は実験協力者に イヤーマフ(3M,H540A-411-SV)を装着するよう教示した.また,タスクはできる だけ早く,できるだけ正確に行うよう教示も行った.実験開始前に実験協力者は振動 パターンの確認もかねてタスクに慣れるための練習を14試行行った.練習においては 振動パターンは1試行ごとに異なる.

また,実験協力者は1セットが終了するごとにNASA-TLX(NASA Task Load Index)

[122]を用いて,現在行ったセットに対する作業負荷度の評価を行った.同時に,現在

行ったにおいて気づいたことを自由記述形式で実験協力者から得た.NASA-TLXの評 価方法を以下に記す.

(a) 㞴᫆ᗘ H (b) 㞴᫆ᗘ M (c) 㞴᫆ᗘ L

図 5.6: 各難易度における円形経路

5.4.5 NASA-TLX を用いた評価方法

本実験では,ノートPCを用いて評価を行った.評価手順および日本語訳は三宅[123]

の研究を参考にした.各セット終了後,実験協力者は2段階の評価を行った.

まず,6つの評価項目(Mental Demand: MD,Physical Demand: PD,Temporal Demand: TD,Own Performance: OP,Effort: EF,Frustration: FR)について一対 比較を行った.図5.7に一対比較の評価画面を示す.実験協力者は直前のセットで行っ たタスクのワークロードについてより重要な関わりを示している尺度を選択した.各 項目の下にはその項目の詳細の説明が表示される.すると次のペアが画面に表示され,

実験協力者は再度比較を行った.ペアの提示順は実験協力者ごとに無作為にし,左の

項目と右の項目の位置もランダムに入れ替えて提示した.この比較作業を15回繰り返 し,一対比較の段階は終了とした.

次に,実験協力者は図5.8に示す評価画面において負荷度の評価を行った.実験協 力者は各項目において直前のセットで行ったタスクの負荷度合いにスライダーのつま みを合わせることで評価した.項目右の詳細ボタンを押すことで実験協力者は常に項 目の詳細を確認できた.

図 5.7: NASA-TLXの一対比較画面

図 5.8: NASA-TLXの負荷度評価画面