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第 4 章 「感情」の体現 42

4.3 実験結果

4.3.1 評価結果

図4.3にValence軸(不快–快の評価軸)とArousal軸(沈静–覚醒の評価軸)におけ る全振動パターンの平均評価値を示す.図からValenceとArousalの評価値に相関傾向 が見て取れる.そこで,相関分析を行ったところ,相関係数r = 0.75となり有意に正の 相関があることがわかった(t(83) = 10.23p<0.01).つまり,快感情が高い振動パ ターンは覚醒感情が高くなり,不快感情が高い振動パターンは沈静感情が高い値を示 す.このことから,少なくとも本実験で用いた85の振動パターンにおいてはValence

とArousalが強く関係することがわかった.

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Valence

Arousal

図 4.3: Valence,Arousalにおける全振動パターンの平均評価値

4.3.2 振動パターン特徴量と感情の関係

表3.4で定義した7つの振動パターン特徴量とValenceおよびArousal軸における 平均評価値との相関関係を表4.1に示す.前項で述べたとおり,ValenceとArouzalは 強く関係するため,概ね同様の相関関係が見られた.両軸において,各軸の平均評価 値とIntegrationMaxの間に正の相関が,Minとの間には負の相関が見られた.これ らはすべて振動の強度に関する特徴量であり,例えばValence軸においては,ユーザ は振動の強度が高いほど振動パターンが快感情を表しているように感じる.ただし,

IntegrationMaxにおいてはArousalの方がValenceに比べ,強い相関傾向が見られ た.一方で,Minにおいては両軸で同等の負の相関傾向が見られていることから,振 動の強度が強いほどArousalの評価に特に影響を与えることがわかった.

また,ZeroにおいてはArousalにおいてのみ有意に負の相関が見られた.このこと から,振動しない区間数が多いほどArousalの評価が低くなる,沈静の感情を抱いて いるようにユーザは感じることがわかった.そこで,振動しない区間の有無がValence

とArousalの違いに関係があると推測し,Zero≧ 1である振動しない区間を持つ45振

動パターンにのみ焦点を当てて追分析を行った.45振動パターンの評価値と特徴量と の相関関係を表4.2に示す.概ね同様の相関結果を示したが,Valenceの評価値とPeak の間にのみ負の相関が見られた.このことから,振動が途切れるパターンにおいては,

振動と停止を頻繁に繰り返す振動パターンの方がユーザは不快感情を表しているよう に感じ,逆に停止する時間があった場合でも連続する振動であれば快感情を表してい るように感じることが明らかになった.

表 4.1: 感情評価値と振動パターン特徴量との相関係数

特徴量 Valence Arousal

Integration 0.65 (t(83) = 7.87,p <0.01) 0.91 (t(83) = 20.34,p< 0.01) Variation 0.11 (t(83) = 0.99,p = 0.33) 0.14 (t(83) = 1.32,p = 0.19) Difference 0.19 (t(83) = 1.74,p = 0.09) 0.19 (t(83) = 1.78,p = 0.08) Max 0.38 (t(83) = 3.76,p <0.01) 0.62 (t(83) = 7.24,p < 0.01) Min 0.41 (t(83) = 4.10,p <0.01) 0.47 (t(83) = 4.91,p <0.01) Zero 0.19 (t(83) = 1.27,p = 0.21) 0.23 (t(83) = 2.19,p <0.05) Peak 0.14 (t(83) = 1.27,p = 0.21) 0.09 (t(83) = 0.78,p = 0.44)

表 4.2: Zeroに着目した場合の特徴量との相関係数(∗∗p < .01, p < .05) 特徴量 Valence Arousal

Integration 0.81∗∗ 0.90∗∗

Variation 0.01 0.20 Difference 0.25 0.24 Max 0.52∗∗ 0.69∗∗

Min 0.31∗∗ 0.37∗∗

Zero 0.44∗∗ 0.37∗∗

Peak 0.44∗∗ 0.04

4.3.3 振動パターンと基本情動

Takiら [109]はラッセルの円環モデルのグラフ軸を45度回転させることで,第1–4

象限にそれぞれ喜(Joy),怒(Anger),哀(Sadness),楽(Relaxation)の基本的な 情動を当てはめた.そこで,本章においても同様の手順で振動フィードバックが表す 基本情動を分析する.1–7で評価された不快–快および沈静–覚醒の平均評価値を1か ら1の範囲に正規化を行い,それぞれの値をViAii = 1, 2, 3, . . . , 85)とした.ま ず,振動パターンがどの象限,基本情動に属するかを式4.1から算出した.その結果,

各基本情動に属する振動パターンの数は,軸上の4パターンを除き喜怒哀楽それぞれ 39,15,24,3となった.このことから,図4.3を見ても明らかであるが,本研究で用 いた振動パターンにおいては喜と哀の感情は表しやすく,楽の感情は表現することが 困難であることがわかった.

θi =arctanAi

Vi (4.1)

次に,ラッセルの円環モデル上のベクトルの大きさと位置から感情の強さ(感情値)

Eiを式4.2を用いて算出した.ただし,本章では原点から離れるほど,また2次元上 の軸から離れる(45に傾く) ほど感情値が大きくなるものとした.そして,属する 振動パターンが少ない哀の感情を除いた3感情について振動パターンの特徴量との関 係を分析した.分析結果を表4.3に示す.喜と哀の感情は反対に位置しており,振動パ ターンではValenceとArousalが強く関係することから反対の相関関係をIntegrationMaxで示した.また,怒の感情に関しては,Maxのみにおいて有意に正の相関が見ら れたが,Integrationにおいては有意な相関は見られなかった.このことから,怒りの 感情をできるだけ強く表現したい場合は,全体的に強度を中程度に高い振動にするよ りも,強度が非常に高い振動区間を多く設ける方が効果的であると考えられる.

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表 4.3: 各基本情動の情動値と特徴量との相関係数(∗∗p < .01, p < .05

特徴量 喜 怒 哀

Integration 0.38 0.45 0.77∗∗

Variation 0.17 0.05 0.07 Difference 0.15 0.14 0.02

Max 0.40 0.63∗∗ 0.39

Min 0.15 0.08 0.37

Zero 0.29 0.14 0.15

Peak 0.25 0.01 0.03