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第 3 章 「印象」の体現 12

3.3 収集結果と考察

3.3.1 収集した振動パターンの多様性

実験協力者10名が15の印象語対に対して振動パターンを生成したため,本実験で は計300パターンを収集した.収集した全パターンは印象語ごとに付録Aに示す.収 集した300パターンの中には,まったく同じ波形の振動パターンが複数回生成されて いた.これらの重複を排除すると,本実験で収集できた振動パターンの総数は245で あった.

ここで,図3.8に生成回数の多かった上位5パターンを示す.まず,図3.8(a),図

3.8(b)の振動パターンはそれぞれ,17回,9回生成された.この2パターンは主に「つ

まらない」,「暗い」,「陰気な」といった印象語に対して生成された.次に,図3.8(c),

図3.8(d)の振動パターンはそれぞれ7回,6回の生成が確認された.これらは主に「あ

りふれた」,「はっきりとした」などの印象語に対して生成された.最後に,図3.8(e) の振動パターンは計6回生成され,主に「力強い」,「不快な」といった印象語に対す るものであった.また,10名中8名の実験協力者が「ありふれた」の印象語に対して,

図3.9のような単調な振動パターンを生成した.この8名のうち5名は生成したパター ンに対して「普段利用するような…」や「スマートフォンの通知とかに使われるよう

な…」などとコメントした.このように,収集したパターンには,1.2.3節で挙げた関 連研究で用いられていた振動パターンと同様の単調なパターンも多く含まれていた.

(a) (b)

(e)

(c) (d)

図 3.8: 生成回数の多かった上位5パターン

(a) (b)

図 3.9: 「ありふれた」で生成された単調なパターンの一例

ここで,収集した振動パターンの多様性についての検証を行う.本論文では,振動 の強度Iintint = 0, 1, 2, . . . , 19の全区間について振動の強度が一定のパターン,振 動の強度が一定かつ振動しない区間が等間隔で設定されているパターンを既存の振動 パターンと定義した.このような既存の振動パターンは計51パターン生成されており,

残りの194パターンは,既存の振動パターンにはない特有の特徴を持つパターンであ ることが確認された.そのため,本実験の目的でもある多様な振動パターンの収集は 十分に達成されたといえる.

3.3.2 振動パターンを生成しやすい印象語

本調査では,振動パターンの生成しやすさを,生成した振動パターンが印象語にふ さわしいかどうかを表す値である「自信度」と「生成までの経過時間」より推測する.

自信度が高く,経過時間が短い印象語は振動パターンを生成しやすいと捉えることが できる.

振動パターンを生成するまでの経過時間の平均値および標準偏差と印象語ごとの自 信度の平均値を図3.10に示す.なお,図3.10は経過時間を左から昇順並べ替えた際の グラフである.自信度の平均値と振動パターンを生成するまでの経過時間の平均値と のピアソンの積率相関係数はr = 0.56(p < 0.01)であり,負の相関が確認された.

これは,高い自信度で生成した振動パターンは生成するまでに経過した時間が短く,低 い自信度で生成した振動パターンは生成するまでに長い時間を要していることを表し ている.このことから,印象語によって振動パターンの生成しやすさに違いがあるこ とがわかった.

一方で,自信度の平均5.3,自信度の標準偏差の平均64.8,経過時間の平均109.6 s に対し,「かっこ良い」の印象語においては自信度4.8,自信度の標準偏差49.5,経過時

間89.8 sを示した.これは,多くの実験協力者が比較的低い自信度で生成したにも関

わらず,その経過時間は短かったことを表している.つまり,生成時の自信度と生成 時間には一定の関係があるものの例外となる印象語も存在することがいえる.

3.3.3 ユーザにより表現の異なる振動パターン

ユーザ定義のアプローチを採用し,実験者ではなくユーザが生成したことにより見 られた多様な振動パターンを以下に記す.図3.11(a)に示すような時間が経つにつれ振 動が強くなる,振動の強度が上昇するパターンが「力強い」の印象語に対して生成さ れた.さらに,同じ上昇するパターンでも直線的な上昇ではなく,図3.11(b)に示すよ うな非線形に上昇するパターンが「軽い」や「かっこ良い」の印象語において確認で きた.この結果から,言葉に表すと同じ表現となる振動パターンでも,ユーザによっ て波形の表現が違うことがわかった.複数のユーザが様々な表現の振動パターンを生

1 2 3 4 5 6 7

0 50 100 150 200 250 300

地味な ない 規則 力強い 細かい ふれた 良い 心地 陰気な 重たい 派手な 粗い 陽気な なめかな 穏やかな たたかい 悪い めたい 不快な 斬新な 不規則な 暗い

経過時間

[S]

経過時間 自信度

図 3.10: 経過時間の平均値および標準偏差と自信度の平均値

成することで,多様な振動パターンを収集できた.このことが,ユーザが定義する振 動パターン生成の重要性を裏付けているといえる.

(a) (b)

図 3.11: 振動の強度が上昇するパターンの一例

3.3.4 不快な振動パターン

「不快な」の印象語に対して,ほとんどの実験協力者が図3.12に示すような最も強 度の大きい振動(Iint = 7)を用いて振動パターンを生成した.さらに,そのうち8名 の実験協力者は「強い」や「最大の」といった単語を使用してそのパターンを説明した.

3.3.5 パターンによるリズムの表現

「陽気な」の印象語に対して,3名の実験協力者が3つの山を用いて振動パターンを 生成した(図3.13).そのうち2名は生成したパターンを「スキップのリズム」と説 明し,残りの1名は「ホップ・ステップ・ジャンプ」とコメントした.これは振動と 静止を繰り返すことでリズムが生まれ,そのリズムがユーザの印象に影響を与えるこ とを意味している.印象語のイメージにふさわしい既存の行動を想像し,その行動の リズムに合わせて振動パターンを作成することで印象語を表現したと考えられる.ま た,「陽気な」以外の印象語においても同様に,行動のリズムをパターンに適用する場 面が見受けられた.

3.3.6 振動しないパターン

本実験中2名の実験協力者が「斬新な」と「なめらかな」の印象語に対して,図3.14 に示すまったく振動しないパターンを生成した.そして,それぞれ「あえて振動させ ない.」,「指で触っても凹凸がないイメージなので振動させない.」とコメントした.

(a) (b)

図 3.12: 「不快な」で生成されたパターンの一例

(a) (b)

図 3.13: 「陽気な」で生成されたパターンの一例

図 3.14: 「斬新な」と「なめらかな」で生成されたパターン

3.4 実験 2: 印象評価実験

3.4.1 振動パターンの集約

実験1で収集した振動パターンがユーザに与える印象を調査する目的で実験を行っ た.実験協力者は提示された振動パターンに対して抱く印象を評価した.そして,評 価結果をもとにユーザの抱く印象と振動パターンの特徴との関係を明らかにした.

実験を行うにあたり,事前に類似した振動パターンの集約を行った.まず,245の振 動パターンにおいて相互相関関数(最大2位相ずれ,± 1または± 2)を考慮し,ピア ソンの積率相関係数を全組み合わせで算出した.次に,各組み合わせ内で最も高い相 関係数の値が0.7以上の組み合わせ1662組を抽出した.そして,抽出した組み合わせ の振動パターンの波形を,位相のずれがある場合はそのずれを反映し,目視で比較し た.最後に,比較したパターンの実験協力者のコメント内容が似ているものは同じ振 動パターンとしてまとめ,最終的に245パターンを85パターンに集約した.

3.4.2 実験方法

図3.15に実験風景を示す.実験には20代前半の大学生および大学院生計10名が参 加し,うち5名は実験1にも参加した実験協力者であった.本実験は実験1で使用した 表3.1に示す印象語対を用いたSemantic Differential(SD)法[85]を採用し,PC上で 評価を行った.振動の提示には実験1で用いた振動パターン生成システムの振動デバ イスのみを用いた.実験協力者には85パターンを無作為な順序で提示した.実験協力 者は,1–5の5段階SD尺度から,それぞれの振動パターンの印象として最もふさわし い評価を選択した.なお,「ぼんやりとした–はっきりとした」の印象語対の場合,1–5 はそれぞれ,ぼんやりとした,ややぼんやりとした,どちらでもない,ややはっきり とした,はっきりとした,に対応する.また,振動パターンは評価を選択するまで何 度でも確認できるようにした.各実験協力者が全85パターンを15の印象語対を用い て評価したため,1名あたりの評価回数は計1275回であった.実験協力者の疲労を考

慮し,実験中には適宜休憩時間を設けた.実験1と同様に実験中はイヤーマフを装着 するよう教示し,振動デバイスには振動モータが見えないようにシートを貼った.

図 3.15: 印象評価実験風景