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携帯端末において概念的情報の体現を可能にする振動フィードバックの確立と実証 利用統計を見る

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博士課程 学位論文

Doctoral dissertation

携帯端末において概念的情報の体現を可能にする

振動フィードバックの確立と実証

Embodiment of Conceptual Information in Vibration Feedback on Mobile Devices

2018

3

山梨大学大学院 医工農学総合教育部

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概 要

近年のスマートフォンをはじめとする端末のタッチスクリーン化により,視覚への フィードバックに頼ったユーザインタフェースが広く使用されている.これと同時に, 会議中や運動中といったデバイスの画面を注視できない,視覚を利用できない状況での フィードバックとして触覚,特に振動によるフィードバックの重要性が HCI(Human-Computer Interaction)分野において議論されている.振動フィードバックに関する研 究の多くは,伝達された振動に対する知覚やその効率に焦点を置いており,振動自体 の意味や表現は考慮されていない.そのため,既存の振動フィードバックはユーザに 対する通知としての役割しか果たしていないのが現状である.一方で,振動フィード バックでオブジェクトの触感という情報を表した振動触覚というアプローチが注目さ れている.これは,触感という情報を付加し,振動に新たな表現を与えることで,通 知としての役割しか果たしていなかった振動フィードバックの拡張を図ったものであ る.しかし,振動触覚では表すことができない,触れることのできない概念的な情報 も存在する.過去の研究では印象や共感度,数字など様々な概念的情報が扱われてい る.これらの概念的情報に物理的実体を付与する,すなわち本研究では振動パターン で体現することで情報を感じ取ることができることを期待する. そこで,本研究では概念的情報を体現する新たな振動フィードバックの確立および 実証を行った.特に,表現性の乏しい既存の振動フィードバックの問題点として単調 な振動パターンしか存在しないことが考えられたため,体現に多様な振動パターンを 用いることで,過去の研究とのさらなる差別化を図った.本研究では携帯端末での使 用を想定し,例として以下の 4 つの概念的情報の体現を行った. 最初に「印象」の体現を行った.マーケティングにおいて,ロゴや製品パッケージの 色にユーザの抱く印象を利用した例が多く見られる.そこで,将来の応用を考え振動 パターンの種類においても印象に着目した.まず,既存の振動フィードバックは単調 なパターンしか用いられていない問題を解決するために,印象語を用いてユーザ自身 に振動パターンを生成させることで多様なパターンを収集した.次に,収集した振動 パターンがユーザの印象に与える影響を調べるために,印象評価実験を実施した.そ して,実験結果から,振動フィードバックで印象を体現するうえでの以下の 3 つの設 計ガイドラインを提言した.(1) 振動パターンの印象は主に 4 つの因子(評価性因子, 重量性因子,規則性因子,平滑性因子)によって表現される.(2) 振動の強度がユーザ の印象に影響を与える.(3) 振動強度の変化がユーザの印象に影響を与える. 2 番目の例として「感情」の体現を行った.感情においてはアイコン,熱,モノの形

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状や動きなど様々なフィードバックの観点から体現が行われている.一方で,携帯端 末という使用環境を考慮すると遠距離コミュニケーションが想定使用状況として考え られる.そこで,振動フィードバックがどのような感情を表しているようにユーザは 感じるかを調査した.多様な振動パターンにおける「不快–快(Valence)」,「沈静–覚 醒(Arousal)」の 2 対の評価語対を用いて感情評価実験を行った.そして,実験結果 をより得られた知見もとに,振動フィードバックで感情を体現するうえでの以下の 5 つの設計ガイドラインを提示した.(1) 振動パターンで感情を表現する場合,Valence と Arousal の間に相関関係が存在する.(2) 振動パターンの強度が Valence と Arousal に影響を与える.(3) 振動しない区間が Valence に影響を与える.(4) 喜と哀の感情は 振動パターンでの表現が容易であり,楽の感情は振動パターンでは表現することが困 難である.(5) 怒りの感情をできるだけ強く表現したい場合は,全体的に振動強度を中 程度に設定するよりも,強度が非常に高い振動区間を多く設ける方が効果的である. 3 番目の例として「切迫感· 不快感」の体現を行った.同時に,多様な振動パターン がユーザの行動,特にタッチスクリーン上のドラッグ操作に与える影響の調査も行っ た.タッチスクリーン上の操作においては,操作対象の大きさや位置,距離,ユーザ の指の大きさなどの様々な要因が影響を与える.そこで,振動パターンの種類に関し てもユーザの操作に影響を与えうると考えた.そこで,タッチスクリーン上のドラッ グ操作において 14 種の振動パターンを付加することで,ユーザの切迫感および不快 感が変化するかどうか,およびユーザの操作に影響を与えるかどうかの分析を行った. そして,これらの調査から以下の 4 つの設計ガイドラインを提言した.(1) 振動しない 間隔がユーザの切迫感に影響を与える.(2) 振動の強度がユーザの不快感に影響を与え る.(3) 簡単すぎるタスクにおいては,振動フィードバックがユーザの操作に影響を与 えることはない.(4) 振動パターンによりユーザの作業負荷に影響を与える. 最後に「量· 重要度」の体現を行った.上述した印象,感情,切迫感 · 不快感以外の 概念的情報の体現例として,スマートウォッチなどの携帯端末における画面を注視で きない状況での情報伝達の必要性を考慮し,量と重要度に着目した.そこで,振動パ ターンが量と重要度の表現に与える影響の調査を行った.実験協力者は量と重要度に 関するシナリオを把握したのち,それらに対する質問項目に「少ない–多い」,「重要 度が低い–重要度が高い」について評価を行った.評価の結果から得られた知見をもと に,以下の 3 つの設計ガイドラインを提言した.(1)量と重要度は振動の強度に大きく 影響を受ける.(2)振動強度の変化がユーザが感じる量に影響を与える.(3)振動の停 止する区間が重要度に影響を与える. また,上記の 4 つの体現を例として行った新たな振動フィードバックの設計に向け て,ユーザや端末の状況に応じた振動フィードバックとしてのふさわしさについても 調査を行った.フィードバックを設計する際にユーザや端末の状況を考慮することが 重要であることが先行研究から明らかになっているためである.そこで,スマートフォ ンとスマートウォッチというマルチデバイス環境を想定し,3 つの振動パターンを用い て「身体活動」と「端末位置」を組み合わせた 9 つの状況に応じて通知のふさわしさが 異なるかを調査を行った.その結果を以下の状況に応じた振動フィードバックの 3 つ

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の設計ガイドラインとしてまとめた.(1) 状況に応じて振動するデバイスや振動パター ンを変えることでフィードバックの妥当性に影響を与える.(2) 振動するデバイスを制 御することで,ユーザが通知を確認する動作を制御することができる.(3) 振動のパ ターンを変えることで,ユーザの気づきやすさや重量感に対する印象に影響を与える. さらに,新たな振動フィードバック設計に向けた,設計支援システムの実現を想定 した,推定モデルの構築を行った.近年では,概念的情報における心理的影響が製品 の設計過程に応用されている.その設計過程において,設計支援システムを用いるこ との有効性が先行研究から示されている.そこで本研究では,上述の概念的情報の中 から印象を例として推定モデルの構築をニューラルネットワークを用いて行った.振 動パターンを入力とすることで,印象の推定値を出力する.そして,構築した 8 つのモ デルに対して交差検証によるパフォーマンステストを行った.テストの結果,印象評 価実験におけるユーザの主観評価値の平均とモデルによる推定値の平均誤差はすべて のモデルにおいて 7%以内となり,構築したモデルの性能は十分であることを示した. 本研究では,例として「印象」,「感情」,「切迫感· 不快感」,「量· 重要度」の体現の 可能性を示すことで新たな振動フィードバックの確立を図った.そして,それぞれの 概念的情報における応用アプリケーションの提示,実用化に向けた妥当性の調査,設 計に必要となる評価モデルの作成を通して新たな振動フィードバックとしての有用性 を実証した.これらを通して,振動フィードバックを用いて概念的情報の体現を行う うえで,「振動の強度」,「振動の停止」,「振動強度の変化」が振動パターンの特に重要 な要素であることを明らかにした.

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Abstract

With the popularization of touchscreen on the mobile devices such as smartphone, user interfaces that relies on visual feedback is widely used. The importance of hap-tic feedback, especially vibration feedback, is discussed in the community of human-computer interaction (HCI) as feedback in situations in which users can not gaze at the screen of the device, such as during meeting or exercise. Most vibration feedback studies only discussed recognition of vibration presented by the devices but did not consider the meaning and expression of the feedback. Thus, current vibration feed-back was mainly used for the purpose of notifications. On the other hand, vibrotactile approach that expresses of the information of the haptic sensation presented by ob-jects attracts attention. The approach adds the information of haptic sensation and gives a new expression to the vibration feedback, and expand the feedback which has been used for the notifications. However, conceptual information which can not be expressed by the vibrotactile also exists. In previous studies, various conceptual in-formation was discussed such as impressions, empathy and numeral. Giving physical object to these conceptual information, i.e. embodying the information in vibration feedback will enable users to feel the information.

In this dissertation, the author established and demonstrated the new vibration feedback that embodied conceptual information. The current use of vibration feedback is limited to basic patterns. Therefore, this study is differentiated from previous studies by using various vibration patterns for the embodiment. Toward establishing the new feedback, the author presented the following four examples of the embodiment of conceptual information.

First, the information of impression was embodied. In the area of marketing, there are many cases in which colors of logos and products’ packages utilize the effects of user impression. This study also focused on the impression of vibration patterns considering future applications. In order to address the issue of that current vibration feedback only uses basic pattern, the author collected various types of user-defined patterns by the experiment in which the participants generated vibration patterns based on impression words. Then, the impressions of the collected patterns were quantified by subjective evaluations. Based on the results, the author presented the following three guidelines for embodying the impression in vibration feedback. (1) Most vibration pattern characteristics were expressed by four factors: cheerfulness,

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potency, ordinariness and smoothness. (2) Vibration intensity is directly related to user impression. (3) The degree of variation is also a key element of user impression.

Second, the author embodied the information of emotion. Emotion has been em-bodied from various feedback channels such as icons, heating, and shape and motion of objects. The long-distance communication can also be considered as a usage situation of mobile device. Thus, this study investigated what kind of emotion the vibration patterns represent. The participants evaluated various vibration patterns using the terms of unpleasant–pleasant (valence) and deactivated–activated (arousal). The re-sults of the evaluation implied the following five guidelines for embodying the emotion in vibration feedback were presented. (1) In the embodiment of emotion, valence and arousal are strongly correlated. (2) Vibration intensity affects valence and arousal. (3) Suspension interval is related to the valence emotion. (4) The emotions of joy and sad-ness are easy to express in vibration patterns meanwhile the emotion of relaxation is difficult. (5) When expressing the strong anger emotion, it is more effective to provide intervals with very high vibration intensity than to increase the number of intervals with moderate intensity.

Third, the information of urgency and frustration were embodied. In addition to the embodiment, the influences of various vibration patterns on users’ behavior, especially dragging operation were investigated. On the touchscreen, various factors (e.g., the size of, position of and distance to the operation target and the thickness of users’ finger) affect users’ operation. The type of vibration patterns is also one of the factors that affect the operation. The author analyzed whether users’ urgency and frustration change and whether users’ operation is affected by various vibration patterns used in the task of dragging a target around a circle on a smartphone. Based on the findings determined by the analysis, the author presented the following four design guidelines. (1) Suspension interval affects urgency. (2) Vibration intensity is related to users’ frustration. (3) On the very easy task, vibration feedback does not influence users’ operation. (4) The type of vibration patterns affects users’ workload.

Finally, the author embodied the information of amount and importance. In addi-tion to the aforemenaddi-tioned informaaddi-tion, impression, emoaddi-tion, urgency and frustraaddi-tion, some conceptual information have been addressed by previous studies. This study focused on the information of amount and importance considering the necessity of information transmission in the situation where users could not gaze at the screen on the mobile devices such as smartwatch. Therefore, we investigated the influences of vibration patterns on the expression of amount and importance. After the partici-pants recognized the scenario using the information of amount and importance, they evaluated a variety of vibration patterns using questionnaire with the terms of small–

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feedback. (1) Vibration intensity is directly related to amount and importance per-ceived by users. (2) Changing in intensity is a key element to express the information of amount. (3) Suspension interval affects the information of importance.

Additionally, the suitability of the vibration feedbacks depending on the contexts was investigated toward the design of the new feedback embodying above four types of con-ceptual information. This is because previous studies have indicated the importance of considering the contexts when designing feedback. Thus, assuming multi-device envi-ronments (i.e., smartphone and smartwatch), the suitability of notification depending on the nine contexts (i.e., the combination of three physical activities and three de-vice positions) were investigated using three vibration patterns. Based on the findings derived from the investigation, the author presented the following design guidelines for vibration feedback in multi-device environments. (1) Changing the vibrating de-vices/patterns depending on the context can increase the suitability of the vibration notification. (2) Controlling which device should vibrate influences the users’ behavior of checking the notifications. (3) Changing the pattern of vibration influenced the ease

of notice and the impression of potency.

Moreover, the estimation models assuming the design support system toward the design of the new feedback, was constructed. The psychological effects for the concep-tual information are recognized as more invaluable factors in product development. In the design process, the effectiveness of using a design support system has been shown in previous studied. This study constructed the eight estimation models for impression as an example for the aforementioned conceptual information, using neural networks. Based on input vibration patterns, the models output the estimated impression scores. After constructing the models, performance tests were conducted employing cross val-idation. The tests showed that the all average errors were within 7%. The results indicated that all eight constructed models achieved sufficient accuracy.

This study established a set of new vibration feedback by indicating the possibility of embodying conceptual information including impression, emotion, urgency, frus-tration, amount and importance. Furthermore, we demonstrated the utility as the new feedback through presentation of application examples, investigation of suitabil-ity toward designing the feedback and construction of impression estimation models required for the design. Through this dissertation, the author clarified that vibration

intensity, vibration suspension and changing in intensity are especially important

fea-tures of vibration patterns for the embodiment of conceptual information in vibration feedback.

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目 次

概 要 i Abstract iv 第 1 章 序 論 1 1.1 研究背景および目的 . . . . 1 1.2 本研究の位置付け . . . . 2 1.2.1 触覚と視覚の比較 . . . . 2 1.2.2 触覚フィードバック . . . . 4 1.2.3 振動パターンによる表現 . . . . 7 1.3 本論文の構成 . . . . 7 第 2 章 概念的情報 9 2.1 はじめに . . . . 9 2.2 色での概念的情報例 . . . . 9 2.3 振動での体現 . . . . 10 2.4 おわりに . . . . 11 第 3 章 「印象」の体現 12 3.1 はじめに . . . . 12 3.2 実験 1: 振動パターン収集実験 . . . . 12 3.2.1 実験概要 . . . . 12 3.2.2 振動パターン生成システム . . . . 13 3.2.3 印象語 . . . . 17 3.2.4 実験方法 . . . . 18 3.3 収集結果と考察 . . . . 18 3.3.1 収集した振動パターンの多様性 . . . . 18 3.3.2 振動パターンを生成しやすい印象語 . . . . 20 3.3.3 ユーザにより表現の異なる振動パターン . . . . 20 3.3.4 不快な振動パターン . . . . 21 3.3.5 パターンによるリズムの表現 . . . . 22 3.3.6 振動しないパターン . . . . 22

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3.4.1 振動パターンの集約 . . . . 23 3.4.2 実験方法 . . . . 23 3.5 実験結果と考察 . . . . 25 3.5.1 実験 1 との関係 . . . . 25 3.5.2 評価結果 . . . . 27 3.5.3 因子による振動パターンの印象の表現 . . . . 28 3.5.4 収集した振動パターンの多様性の検証 . . . . 28 3.6 因子と振動パターンの特徴との関係 . . . . 30 3.6.1 振動パターンの特徴量の選出 . . . . 30 3.6.2 各因子と振動パターンの特徴量との相関 . . . . 35 3.7 階層クラスタ分析を用いた各因子と振動パターンの特徴との詳細な関係 36 3.7.1 分析目的 . . . . 36 3.7.2 分析結果 . . . . 36 3.7.3 クラスタごとの各因子と振動パターンの特徴との関係 . . . . 38 3.8 設計ガイドライン . . . . 40 3.9 アプリケーション例 . . . . 40 3.10 おわりに . . . . 41 第 4 章 「感情」の体現 42 4.1 はじめに . . . . 42 4.2 感情評価実験 . . . . 43 4.2.1 実験概要 . . . . 43 4.2.2 実験方法 . . . . 43 4.3 実験結果 . . . . 45 4.3.1 評価結果 . . . . 45 4.3.2 振動パターン特徴量と感情の関係 . . . . 46 4.3.3 振動パターンと基本情動 . . . . 47 4.4 設計ガイドライン . . . . 48 4.5 アプリケーション例 . . . . 48 4.6 おわりに . . . . 49 第 5 章 「切迫感· 不快感」の体現 50 5.1 はじめに . . . . 50 5.2 円形経路のドラッグタスクに関する予備実験 . . . . 51 5.2.1 予備実験概要 . . . . 51 5.2.2 予備実験方法 . . . . 51 5.3 予備実験結果 . . . . 52 5.4 振動フィードバックによる操作への影響調査 . . . . 53 5.4.1 実験概要 . . . . 53

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5.4.2 実験装置 . . . . 53 5.4.3 振動パターンの選出 . . . . 55 5.4.4 実験方法 . . . . 55 5.4.5 NASA-TLX を用いた評価方法 . . . . 56 5.5 切迫感· 不快感の体現結果 . . . 58 5.6 操作への影響 . . . . 60 5.6.1 実験タスクの操作性 . . . . 60 5.6.2 ドラッグの軌跡 . . . . 62 5.6.3 実験タスクの作業負荷 . . . . 62 5.7 設計ガイドライン . . . . 63 5.8 アプリケーション例 . . . . 63 5.9 おわりに . . . . 64 第 6 章 「量· 重要度」の体現 65 6.1 はじめに . . . . 65 6.2 表現評価実験 . . . . 65 6.2.1 実験概要 . . . . 65 6.2.2 実験方法 . . . . 66 6.3 実験結果 . . . . 67 6.3.1 量と振動パターンの特徴量の関係 . . . . 67 6.3.2 重要度と振動パターンの特徴量の関係 . . . . 68 6.3.3 印象と量· 重要度の関係 . . . 69 6.4 設計ガイドライン . . . . 69 6.5 アプリケーション例 . . . . 70 6.6 おわりに . . . . 70 第 7 章 状況に応じた振動フィードバックの妥当性 71 7.1 はじめに . . . . 71 7.2 関連研究 . . . . 72 7.2.1 携帯端末における妥当性 . . . . 72 7.2.2 携帯端末における通知 . . . . 73 7.2.3 状況を考慮した設計 . . . . 73 7.3 実験 1: 振動する端末による影響 . . . . 74 7.3.1 実験概要 . . . . 74 7.3.2 実験環境 . . . . 74 7.3.3 振動通知タスク . . . . 75 7.4 実験 1 の結果 . . . . 75 7.4.1 looking . . . . 75 7.4.2 no looking . . . . 76

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7.4.3 pocket . . . . 77 7.5 実験 2: 印象にもとづく振動パターンの影響 . . . . 77 7.5.1 実験概要 . . . . 77 7.5.2 実験方法 . . . . 78 7.5.3 振動パターンの選出 . . . . 78 7.6 実験 2 の結果 . . . . 79 7.7 設計ガイドライン . . . . 81 7.8 おわりに . . . . 81 第 8 章 フィードバック設計の支援に向けた推定モデルの構築 82 8.1 はじめに . . . . 82 8.2 印象推定モデルの構築 . . . . 83 8.2.1 印象語対の選出 . . . . 83 8.2.2 構築手法 . . . . 83 8.3 パフォーマンステスト . . . . 84 8.4 おわりに . . . . 88 第 9 章 結 論 89 9.1 まとめ . . . . 89 9.2 将来の発展 . . . . 90 謝 辞 91 参考文献 92 付 録 A  振動パターン収集実験で用いた資料と実験データ 107 付 録 B  印象評価実験で用いた資料と実験データ 149 付 録 C  感情評価実験に用いた資料 161 付 録 D   5 章で用いた資料 165 付 録 E  表現評価実験に用いた資料 172 付 録 F  妥当性調査実験に用いた資料 175

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章 序 論

1.1

研究背景および目的

近年のスマートフォンをはじめとする端末のタッチスクリーン化により,視覚への フィードバックに頼ったユーザインタフェースが広く使用されている.これと同時に, 会議中や運動中といったデバイスの画面を注視できない,視覚を利用できない状況での フィードバックとして触覚,特に振動によるフィードバックの重要性が HCI(Human-Computer Interaction)分野において議論されている.振動フィードバックに関する研 究の多くは,伝達された振動に対する知覚やその効率に焦点を置いており,振動自体 の意味や表現は考慮されていない [1–7].そのため,既存の振動フィードバックはユー ザに対する通知としての役割しか果たしていないのが現状である. 一方で,上述した意味や表現を考慮した,触覚へのフィードバックの研究として Tacton に関する研究が行われている [8, 9].Tacton とは Tactile icon を省略したもの で,非視覚的にメッセージを伝達するために使用できる,構造化された抽象的な触覚 へのフィードバックのことである.Shneiderman [10] が「Icon は概念を表すイメージ, 画像,またはシンボルである」と定義したことに対して,Brewster ら [8] は,「Tacton は複雑なインタフェースの概念,オブジェクト,またはアクションを正確に表すこと ができる」とし,この Tacton によりある情報を触覚へフィードバックすることで,よ り豊かなインタラクションをユーザは体験できると述べている.Brewster ら [8] の論 文内では,Tacton の考えに当てはまる研究例として,Oakley ら [11] のディスプレイ に表示されているボタンに触れている感覚をフィードバックすることで生じる,ター ゲッティングにおけるユーザビリティの影響を調査した研究が挙げられている.この 研究は,ボタンに触れた感覚という情報をメッセージとして触覚に伝達することでイ ンタラクションの向上を図っている. 上述した触れた感覚という情報を体現する方法として,振動を用いた,振動触覚 (vibrotactile)に関する研究が多数存在する [12–14].Ando ら [12] は,爪に振動子を装 着し,なぞり動作時の凸凹感の再現を図った.Fukumoto ら [13] は,アクチュエータに 短いパルス信号を送り,振動させることでタッチスクリーンにクリック感を付与した. また,Kim ら [14] は,物理的なキーボードのキーを押下した時の力の変位曲線から, タッチデバイス上に仮想的なキーを再現した.さらに,この振動触覚の技術は近年普及 が進んでおり,既に多くの商品に応用されている.例えば,iPhone 7/7 Plus1 ではホー

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ムボタンは物理的なものではなく感圧式のセンサーになっており,ボタンを押したよう な感覚を振動でフィードバックしている.また,2017 年に発売された Nintendo Switch2 というゲームコンソールにおいては,リニア振動モーターを用いて微妙な振動の違い を細かく表現することで,ボールが転がる触感や,ガラスの中で氷がぶつかるような 触感をつくりだすことができる [15].一方で,振動触覚では体現しきれない,触れる ことのできない概念的な情報も存在する.図 1.1 に示すように,振動触覚においては 触感のもととなる物理的なオブジェクトが存在し,それに触れた感覚をフィードバッ クしている.しかし,概念的情報はもととなる物理的なオブジェクトが存在しないた め触感も生じず,振動触覚の技術では体現することはできない.概念的情報を扱った 研究例として,Kinoshita ら [16] は街並みの「印象」を可視化することで街歩きを促 進するシステムを提案した.Boy ら [17] は人権に関するデータの可視化において人型 の表示方法を用いることで,ユーザの「共感度」に与える影響を明らかにした.これ らのように人の感性に係る感性情報は概念的情報において多く研究されている.また, Caucherd ら [1] は 1 から 10 の「数字」を振動の回数に置き換え,カウントできる振動 パターンを提示した.この数の情報も概念的情報の一部であるといえる.このように 様々な概念的情報が存在する.

また,情報の体現を扱った研究として,Ishii ら [18] は Tangible Bits という枠組みを 提案した.デジタル情報に物理的実体を付与することで,デジタル情報を人が直接操 作し,情報を変えることで,物理的実体も変化する.この中には概念的な情報も扱わ れている.このように,上述した概念的な情報であっても物理的実体を付与する,す なわち本研究では振動パターンで体現することで情報を感じ取ることができることを 期待する. そこで,この概念的情報の振動での体現を本研究の目的とする.本研究においては, その中でも「印象」,「感情」,「切迫感· 不快感」,「量· 重要度」を例として取り上げ, 体現を行う.概念的情報の体現の可能性を示すことで新たな振動フィードバックの確 立を目指す.そして,それぞれの概念的情報におけるアプリケーション例の提示,実 用化に向けた妥当性の調査,設計に必要となる評価モデルの作成を通して新たな振動 フィードバックとしての有用性を実証する.

1.2

本研究の位置付け

1.2.1

触覚と視覚の比較

HCI 分野において,フィードバックの対象として視覚や聴覚といった五感が用いら れている.五感の中でも視覚に対するフィードバックに関する研究は特に幅広く行わ 2https://www.nintendo.co.jp/hardware/switch/

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リンゴに触れた感覚 オブジェクト 触感 振動での体現 振動触覚 本研究の目指す 新たな振動フィードバック 概念的情報 図 1.1: 振動触覚と概念的情報の関係 れている.そこで,視覚フィードバックを例に挙げ,本研究で扱う触覚フィードバッ クと比較することで本研究の位置付けを明確にする. 視覚フィードバックは画像やテキスト,GUI として表現され,広い意味ではモノの見 た目に関しても視覚フィードバックの 1 つといえる.その視覚フィードバックにおいて最 も議論されているのは,目で見たときの見やすさやレイアウトの美しさである [19–24]. そして,これらはユーザビリティに影響を与えることも明らかになっている [25–28]. 例として,Gutwin ら [19] はディスプレイ上のポップアウト効果において対象の色や 形,大きさ等の変化が及ぼす影響とその効果を調査した.Srrano ら [23, 24] は非四角 形のディスプレイにおける画像やテキストの表示方法に関するガイドラインを提案し た.これらの視覚に関する研究のアプローチは,触覚における振動等の刺激に対する 知覚とその効率に関する研究のアプローチと近いものがあり,触覚においては多くの 研究がここで留まっている. 1.1 節で述べた振動触覚をはじめとする,触れた感覚という情報を体現する方法は, 視覚フィードバックにおいて画像や映像,近年では VR(Virtual Reality)という形で 体現されている.画像や映像は非常に一般的な視覚へのフィードバック方法であると いえるが,それだけでは体現しきれない状況も存在する.まず,「別感覚での表現」が 挙げられる.視覚において例示すると,VR は視覚情報はほぼ完璧に体現することが可 能だが,その情報に触れることはできないため,触覚を補うような研究が複数行われ ている [29–33].これは,聴覚や嗅覚においても同様であり,1 つの感覚において優れ た体現方法が存在するからといって他の感覚が疎かになっていいわけではない.各感 覚で体現方法について深く議論することで,別の感覚と合わせた際の相乗効果を生み 出したり,別の感覚を用いることができない状況での体現として補完することが可能 になる.次に,「情報が過剰な場合」が挙げられる.図 1.2 のようにアイコンという形で スピーカなどが表現されている.スピーカという情報を体現するだけならば,スピー カの画像を表示した方がスピーカであるということは理解しやすい.しかし,ユーザ

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図 1.2: PC 上のアイコン 側の識別の容易さ,コンピュータ側の処理的な問題,全体のレイアウトのバランスか ら,このような状況においては画像だと情報が過剰になるため,図のアイコンように 簡素に体現する方が相応しいことが推測される.そして最後は,「概念的情報」が挙げ られる.例えば,図 1.2 の三角のアイコンもその 1 つであるといえる.このアイコンを クリックすると図 1.3(a) のようにポップアップで隠れていた複数のアイコンが表示さ れる.この「複数のアイコンが隠れている」という情報は,もととなる物理的なオブ ジェクトが存在しないため何かの画像などでは表すことは難しい.実際,このアイコ ンの上にマウスカーソルを重ねると図 1.3(b) のように「隠れているインジケーターを 表示します」という直接的な表現でテキストとして体現される.しかし,このテキス トでの体現は上述した「情報が過剰な場合」に当てはまり,体現方法として相応しく ない.つまり,「複数のアイコンが隠れている」または「クリックすると何か出てくる」 という概念的情報をユーザに伝えるうえでは,体現する方法として画像などではなく, この見た目は単なる三角の図形が適している状況もあるということがいえる.これは, 触覚においても同様であり,本研究では振動触覚等の触れた感覚という情報の体現で は表すことのできない情報の体現化を目指す. また,視覚フィードバックにおいては概念的情報を体現した研究も行われている.例 えば,Boy ら [17] は人権に関するデータの可視化(Visualization)において人型の表示 方法を用いることで,ユーザの「共感度」に与える影響について調査した.Daspupta ら [34] は気候データの表示に,慣れ親しんだ提示方法と見慣れない提示方法を用いて 気候科学者の表示に対する快適さや信頼度に与える影響を比較することで,「親しみや すさ」という観点からのアプローチを図った.また,Greis ら [35] は天気予報の可視化 を行い,ユーザに提示する際の GUI を複数比較し,ユーザの「信頼感」が高くなる提 示方法を調査した.これらの研究から,単に見やすさやレイアウトの美しさだけでな く「親しみやすさ」や「信頼感」等の概念的情報を視覚フィードバックに反映し,意 味を持たせることで新たな価値が見いだせることがわかる.そこで,本研究でもこれ らのような概念的情報の触覚での体現を図る.

1.2.2

触覚フィードバック

近年では,様々な触覚フィードバック方法ついて研究が行われている.そこで,触 覚フィードバックを「皮膚感覚へのフィードバック」と定義し,1.1 節で述べた「振動」

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(a) クリックした時 (b) マウスオーバーした時 図 1.3: PC 上の三角形アイコンの挙動 以外の HCI 分野における触覚フィードバックに関する研究例を列挙する. 熱(Thermal) Wilson ら [36] は熱を用いたフィードバックは,状況に応じて知覚 が異なることによる解釈の相違を問題点として挙げ [37],実生活での複数のシナリオ における熱フィードバックの解釈について調査を行った.そして,最終的に提示した 設計指針の 1 つとして,熱でのフィードバックはユーザ間では概ね共通の解釈を持つ ことを言及している.その他にも,Tewell ら [38] はテキストメッセージと同時にユー ザに熱でフィードバックを送ることで,そのメッセージがユーザに与える印象にも影 響を与えることを明らかにした.また,熱を用いてナビゲーションを行う研究も行わ れている [39].このように,熱はフィードバックとして多くの可能性が示唆されてい る.一方で,熱は温度の変化に時間がかかるためユーザの知覚するまでにも時間がか かるという問題がある [5]. 突っつき(Poke) 突っつきによるフィードバックは,ピン型アクチュエータで実現 されることが多く,ユーザが知覚するまでの時間はかからない.一方で,あまり高い 知覚率を示さないことがわかっている [5].一方で,突っつくという動作が一般的に人 が他者の注意を引くときに使われる動きであることから,コミュニケーションの促進 等の違った観点で利用されることもある [40].また,受動的な突っつきとは少し異な るが,能動的にピンのような出っ張りに触れることでその触感を感じるという研究も 存在する [41].

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引っ張り(Skin drag / Scratch) 引っ張りでのフィードバックは回転やある方向 に移動するアクチュエータなどを使い,肌を引っ張ることで行う [42].引っ張りは任 意の方向を表すことに適しているという利点があり,Je ら [43] は指と垂直方向に引っ 張り感覚を与える指輪型のデバイスにおける想定アプリケーションとして運転時のナ ビゲーションなどを挙げている.また,肌の引っ張りの延長として肌の擦りを利用し たフィードバックも存在する [44, 45]. 圧力(Pressure) 圧力によるフィードバックの多くは,腕や脚の周囲を取り巻くよ うなインタフェースで実現される.実現方法として,腕等に巻いたバンドを巻取り,そ れによって生じる締め付けを用いたり [46, 47],風船型のバンドを腕等に巻き,空気を 注入することでバンドが膨らみ,それによって生じる締め付けを用いたりする [48,49]. 腕や脚への圧力フィードバックは単なる締め付けだけでなく,人から握られる感覚を 想起する [50] ため,楽しいユーザ体験を与えることがわかっている [51]. 空気圧(Air pressure) 空気圧でのフィードバックは,文字通り空気を用いて行わ れ,それによって生じる圧力をフィードバックとして知覚する.最大の利点は,ユーザ はこのフィードバックを空中でも知覚することができ,自分の身体および手を自由に 動かすことが可能になることである [52].さらに,煙等で空気の輪(Air vortex ring) を視覚化させることでの,より多彩なインタラクションが期待されている [53–55].ま た,多くの空気圧フィードバックは空気をアクチュエータが排出することで行われて いるが,逆に空気を吸引することでフィードバックを与える研究も存在する [56]. 超音波(Ultrasonic / Ultrasound) 超音波によるフィードバックは,音響放射圧 の原理にもとづいており,多数の超音波振動子を格子状に並べた超音波振動子アレー によって,空中の任意の位置に超音波の焦点を作り出すことで,触覚を表現すること ができる [57–59].その利点の 1 つは,空気圧と同様に空中で知覚できる点であるが, より細かな表現も可能である.その表現性の高さを活かして,Makino ら [60] は,視 覚と組み合わせて 3 次元的なモノのクローンを作成するテレプレゼンスシステムを提 案している.

電気刺激(Electrical stimulation) HCI 分野において電気刺激フィードバックは, 振動触覚と同様に触感を体現する電気触覚(Electrotactile)に用いられることが多い [61, 62].例えば,Bau ら [63] は指先とタッチスクリーンとの間に電位差を設けること で擬似的な触覚を作りだし,仮想的に手で触れたときの感触をタッチスクリーン上に 再現した.同著者は,AR(Augmented Reality)環境の触覚の向上のために,弱い電 気刺激を体の一部に与え,ユーザの指の周りに振動電場を作り出し触感を体現する試 みも行っている [64].Wang ら [65] は電気的な振動と既存の振動を組み合わせてペン 型の筆感を再現するインタフェースを提案した.また電気触覚以外の試みとして,電 気アークで指先を刺激して,ユーザに空中でフィードバックを与えるような研究も行

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われている [66]. 上述したように各フィードバックにおいて,長所や短所があり優劣は論じられない. ただし,振動は他のフィードバック(光,音,突っつきなど)に比べ,着座中や歩行中 といった様々な身体的環境に適応できることがわかっている [5].また,振動はスマー トフォンやスマートウォッチ等の多くの既存の携帯端末に一般的に搭載されており,実 用化を想定することが容易である.以上の 2 点から,本研究では振動のみに焦点を当 てて議論を行う.振動をケーススタディとすることで他の触覚フィードバックでの応 用の可能性も示すことができると考える.

1.2.3

振動パターンによる表現

一般的に,振動フィードバックは電話着信時やゲーム時などの状況において用いら れる.また,スマートフォンをはじめとするタッチスクリーンデバイスにおいてはタッ プなどのジェスチャを用いた入力にも振動フィードバックが設けられている.ただし, 既存のデバイスで用いられている振動フィードバックは単調なパターンでしかないた め,表現の幅が限られている.この単調なパターンしか存在しないことが既存の振動 フィードバックが意味を持たないフィードバックである原因の 1 つであると考えてい る.本研究における「振動のパターン」とは振動モータに加える電圧の強弱による時 系列の振動である.また,過去の振動フィードバックに関する研究では振動の振幅や 周波数,長さなどに焦点を当て,効果的な振動フィードバックを調査している.Ryu ら [6] は 5 つの周波数と 6 つの振幅を用い,振動の大きさに対する知覚について調査 した.Hwang ら [2] は異なる振幅における振動知覚について調査し,振動に対する感 情の変化についても言及している.Saket ら [7] は 4 つの基本的な振動から 10 の振動 パターンを作成し,緊急時に効果的な振動パターンを調査した.しかし,これらの研 究には実験者があらかじめ設定した振動パターンが用いられている.そのため,調査 対象となる母集団が似通った振動パターンで構成され,調査の範囲が限定されている. そこで,本研究では単調ではなく,多様な振動パターンを用いることで,概念的情報 の体現を行う.そして,振動フィードバックに意味を持たせることで,より豊かなイ ンタラクションの可能性を示す.

1.3

本論文の構成

本章では,序論として研究の背景および目的について述べ,既存の研究と本研究の 位置付けを明確にした. 本章に続き,第 2 章では,本研究で体現を行う概念的情報について詳しく説明する. まず,すでに概念的情報の体現が行われている視覚でのフィードバックを例に挙げる

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ことで,触覚において目指す目標を明確にする.そして,その触覚で体現するまでの 方針をまとめて示す. 第 3 章では,「印象」の体現を行う.まず,振動による概念的情報の体現を行った振 動の研究を例に挙げ,その研究との差分を述べる.次に,既存の振動フィードバック は単調なパターンしか用いられていないことに対し,印象語を用いてユーザ定義の振 動パターンを収集する.これにより多様な振動パターンの収集を行う.次に,振動パ ターンがユーザの印象に与える影響を調査する.そして,振動パターンの特徴量と印 象との関係を明らかにする. 第 4 章では,「感情」の体現を行う.まず,感情の体現を行った様々なフィードバッ クの研究を例として挙げる.また,フィードバックによる遠距離コミュニケーション に関する先行研究について述べ,振動フィードバックがどのような感情を表している ように感じるかを明らかにすることの重要性を示す.次に,「不快–快」,「沈静–覚醒」 の 2 対の評価対について主観評価実験を行う.そして,振動パターンの特徴量を変え ることで,ユーザが感じる振動フィードバックが表している感情が異なることを示す. 第 5 章では,「切迫感· 不快感」の体現および,それらがユーザの行動に与える影響 の調査を行う.まず,様々な要因がユーザの操作に影響を与えるということを過去の 研究から例示する.そして,タッチスクリーン上における操作において多様な振動パ ターンを付加することで,ユーザの切迫感および不快感が変化するかどうかを調査す る.同時に,それらがユーザの行動,ここではユーザの操作に影響を与えるかどうか についても分析を行う. 第 6 章では,「量· 重要度」の体現を行う.スマートウォッチなどの携帯端末における 画面を注視できない状況での情報伝達の必要性を考慮し,量と重要度に着目する.振 動パターンが,量が「少ない–多い」と重要度が「低い–高い」の表現に与える影響の 調査を行う. 第 7 章では,これまでの章で体現をおこなった新たな振動フィードバックの設計に向 けて,状況に応じた振動フィードバックの妥当性について調査する.先行研究を例に 挙げ,フィードバックを設計する際に状況を考慮しなければならないことを示す.そ して,「身体活動」と「端末位置」を例として取り上げ,状況によって既存の単調な振動 フィードバックのふさわしさが異なるかを明らかにする.さらに,既存の振動パター ンを概念的情報を体現した振動パターンに変えることでユーザが感じるふさわしさに 及ぼす影響の調査を行う. 第 8 章では,新たな振動フィードバック設計に向けた,設計支援システムの作成を目 指す.第一段階として,推定モデルの構築を図ることでその可能性を示す.まず,概念 的情報における心理的影響が製品の設計過程に普及している背景を述べる.また,設 計支援システムを作成することの利点を明確にする.次に,例として印象推定モデル の構築をニューラルネットワークを用いて行う.そして,構築したモデルに対してパ フォーマンステストを行い,その性能を示す. 第 9 章では,本研究の結論を述べるとともに,今後の発展性について示す.

(21)

2

章 概念的情報

2.1

はじめに

概念的情報は,その対象となる範囲が非常に広いため,本研究では例として一部の 概念的情報の体現を行う.まず本章では,視覚における色での概念的情報の例と応用 方法を示すことで,改めて概念的情報の定義を明確化する.そして,色での概念的情 報の体現例を踏まえつつ,振動での体現例の選出を行う.

2.2

色での概念的情報例

色彩心理学の分野においては,色の見やすさや美しさだけでなく,その意味につい てまで議論されている.赤色を例として挙げると,デートという状況において,赤色 は情熱的なまたは魅力のある印象を相手に与えるため,赤い服を着た男性を女性はよ り魅力的に感じることがわかっている [67].また,テストという状況においては,赤 色は失敗という意味を連想させる.これは,学校で採点に赤色のペンが使用されるこ とが原因だと考えられている.そのため,テストに取り組む前に赤色を見た場合とそ うでない場合では,赤色を見た時の方がテストの結果が悪くなるという結果を示して いる [68].その他にも黒色を例とすると,アメリカンフットボールの試合において黒 色のユニフォームを着ているチームは汚い印象を与えるため,より多く反則を取られ ていたということもわかっている [69].これらのように見やすさだけでなく,その色 によって意味があり,「情熱的な」や「汚い」といった印象などの概念的情報を体現す ることで,ユーザにポジティブまたはネガティブな影響を与えることがわかる. 色による概念的情報の体現はマーケティング等に応用されている.Labrecque ら [70] は,企業が用いるロゴの色相や彩度を変えることでそのブランド性に影響を与えるこ とを明らかにしている.その他にも,赤や青といった活性色を使うことでユーザの購 買意欲を促進し,衝動買いを起こさせる可能性があり,逆に緑色のような穏やかな印 象を与える色は使うことを避けた方が良いことも示唆されている [71].また,オーク ションにおいて赤色の背景色を使った場合,青色の背景色を使った時より消費者の購 買意欲が上がったという研究も存在する [72].これらことから,色において色相や彩度 を変えることで,その色が表す印象などの概念的情報が変わることがわかる.そして, それをロゴや Web ページなどの設計に反映することで,ユーザが感じるブランド性や

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動が表す概念的情報が変わることを期待する.さらに,その結果をインタフェース等 の設計に反映することで,ユーザをより意識した設計を行うことができると考える.

2.3

振動での体現

概念的情報の振動フィードバックでの体現に向けて,1 章で述べた背景,色による 体現例,そして携帯端末で用いる状況を考慮したうえで体現例の選出を行った. まず,「印象」と「感情」の体現をそれぞれ行う.印象は 2.2 節で例として述べたよう に,マーケティング等の応用環境が多く,振動がユーザの印象に与える影響を明らか にすることで振動での概念的情報の体現において基礎的な対象になると考える.また, 感情においては,色はユーザの感情に影響を与えることが明らかになっており,感情 と色は密接に繋がっている [73, 74].ただし,振動がユーザの感情に与える影響だと, 印象の場合と応用先が酷似してしまう.そこで,感情においては,振動がユーザの感 情に与える影響ではなく,振動自体がどのような感情を表しているようにユーザが感 じるかに焦点を当てる.これは,例えばスマートフォン等の携帯端末において自分の 感情を遠隔地の相手に伝えたいような状況が想定できるためである. 次に,「切迫感· 不快感」の体現および,これらがユーザに与える影響も調査する. Gorn ら [75] は Web ページの読み込みにおいて,暖色のようにリラックス感を増大さ せるようなものは時間の経過を早く感じさせるが,逆に寒色を用いた場合に比べユー ザは不安や緊張を抱き,読み込みの時間を長く感じることを明らかにした.そこで,振 動においてはユーザの切迫感およびリラックス感とは逆の不快感に与える影響を明ら かにする.そして,それらが与えられた時に,ユーザの行動に影響を及ぼすかどうか を調査する.これにより,実際のインタフェース等の設計に概念的情報を体現した振 動フィードバックを用いた際の応用方法をより明確化できると考える. そして,「量· 重要度」の体現を行う.1.2.1 項では,PC 上の三角形のアイコンにつ いて,複数のインジケーターが三角形のアイコンをクリックすることで表示されると 例示した.このように,何かの量が振動で表現することができれば,メールの未読件 数やフォルダ内のファイル数など様々なことに応用できる.また,この量も上述した 「印象」や「感情」とは応用先が異なるため調査する価値があると考える.重要度に関 しても応用先は同様であり,量と同時に調査を行い,その効果を検証する.

(23)

2.4

おわりに

本章では,色での概念的情報の体現例をもとに振動での体現の明確化を行った.そ して,1 章で述べた背景,色による体現例,携帯端末で用いる状況を考慮したうえで, 「印象」,「感情」,「切迫感· 不安感」,「量· 重要度」を振動での概念的情報の体現例と して選出した.これらの例について,それぞれ調査を行うことで振動で概念的情報を 体現することの可能性を示すことができると考える.

(24)

3

章 「印象」の体現

3.1

はじめに

振動フィードバックを用いた概念的表現に関する研究もいくつか存在する [76–79]. Mathew [76] は「喜び」や「悲しみ」といった感情を表す顔文字と振動パターンの関 係について調査した.一方,本研究では振動によって人が抱く感情ではなく,振動に 対して人が抱く印象を調査する.また,Seifi ら [77] は一般ユーザ向けに振動のデータ ベースを可視化するツール VibViz を作成し,その振動の表現の一部として感情および 印象を単語にして用いている.この研究では,ボイスコイル型振動子を前提として振 動の波形とその印象との関係を網羅的に調査している.しかし,波形にどのような特 徴があればユーザにどのような印象を与えるかは明らかになっていない.一方で,既 存のモバイルデバイスの多くではコストなどの面から未だ振動モータが多く採用され ている.これらを踏まえ本章では,振動の強弱の提示に限定される振動モータという 条件下で,印象と振動パターンの特徴との関係を明らかにする. また,1.2.3 項では既存の端末や研究に用いられている振動パターンが単調なものし か存在せず,表現が限られていることを問題点として挙げた.そこで本章では,多様な 振動フィードバックの収集を図り,それらに対して調査を行う.Wobbrock [80] らは平 面のディスプレイにおいてユーザ自身にジェスチャを導出させることで,多様なユー ザ定義のジェスチャを収集した.本章では Wobbrock らのアプローチを採用すること で様々な種類の振動パターンを収集する. 本章は大きく分けて 2 つの要素で構成されている.まず,印象語を用いてユーザ定義 の振動パターンを収集する.これにより多様な振動パターンの収集を行う.次に,振 動パターンがユーザの印象に与える影響を調査する.そして,振動パターンの物理量 と印象との関係を明らかにする.これらの調査から得られる知見をもとに振動フィー ドバックでの印象の体現を行ううえでの設計ガイドラインおよび応用アプリケーショ ンを提示する.

3.2

実験

1:

振動パターン収集実験

3.2.1

実験概要

幅広い表現が可能な振動フィードバックを設計するにあたり,多様な振動パターン の印象を調査する必要がある.そこで,多様な振動パターンの収集を目的に実験を行っ

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た.実験協力者は振動パターン生成システムを用いて,提示された印象語のイメージ にふさわしい振動パターンを生成した.

3.2.2

振動パターン生成システム

ユーザに振動パターンを生成してもらううえで初心者でも簡単に操作できる必要が ある.TactiPEd [81] や Macaron [82] は,振幅や周波数をソフトウェア上で調整するこ とで振動パターンを生成している.さらに,TactiPEd は複数のアクチュエータを搭載 したデバイスで振動を提示している.本実験で用いる振動パターン生成システムは将 来的にモバイルデバイス等で再現することを想定し,単一のアクチュエータのみで振 動を提示する.また,振幅や周波数ではなく,よりシンプルに継続時間とその組み合 わせによって振動パターンを生成する. 本実験に使用する振動パターン生成システムを図 3.1 に示す.このシステムは振動デ バイス(図 3.2)と,PC 上のパラメータ調整ソフトウェア(図 3.3)から構成される.ソ フトウェア上でパラメータを調整することで振動パターンを生成する.実験協力者はパ ラメータ調整ソフトウェアの画面中央下部の黄色いボタンを押すことで適宜振動デバイ スを介して,自身が生成した振動を確認することができる.パラメータ調整はマウスを 用いて行う.生成した振動の情報はマイコンボード(Arduino Uno)を経由して,振動 デバイス内の振動モータ(Silicon Touch Technology Inc.,LBV10B-009)に送信され る.振動デバイスはスマートフォン(LG,Nexus 5)を想定した 66× 138 × 8 mm に設 計し,3 枚のアクリル板を重ねることで実現した(上から厚さ 2 mm,4 mm,2 mm). 中央の厚さ 4 mm のアクリル板のみ振動モータの形を切り抜き,そこに振動モータを 埋め込んだ.振動モータはデバイスの下方 1/3 に振動モータの中心がくるように,デ バイス下端から 46 mm の位置に配置した. 図 3.1: 振動パターン生成システムを用いた実験風景

(26)

図 3.3 にパラメータ調整画面の詳細を示す.横軸が経過時間を表しており,50 ms の 区間 int が 20 区間並ぶ(int ={0, 1, 2, . . . , 19})計 1000 ms である.縦軸は振動の強

度 Iint(Iint = 0, 1, 2, . . . , 7)を表している.今回使用する振動モータの最低駆動電圧

は 1.8 V であるため,Iint = 1–7 の時,1.8–4.5 V の電圧を 0.45 V 刻みで振動モータに 供給する.その際の振動加速度は約 7.2–19.5 [m/s2] となる.また,I int = 0 の時電圧 は振動モータに供給されない. 振動モータ プラスチック板 図 3.2: 振動デバイス 図 3.3: パラメータ調整ソフトウェアの画面

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また,図 3.4(a) に示す圧電型加速度トランスデューサー(Teac,701)を用いて振動デ バイスから手に伝えられる物理的な振動加速度を測定した.トランスデューサーはデバ イス長辺側面の振動モータから最短になる位置(振動モータの中心からの距離: 33 mm) に図 3.4(b) のように設置した.トランスデューサーで取得したデータは図 3.5(a) に示 す圧電型トランスデューサー用アンプ(Teac,SA-610)を介し,図 3.5(b) に示す音響 インテンシティアナライザ(RION,SA-74)で測定される.ここで,図 3.6(a)–(d) に 測定した振動加速度の一例を示す.それぞれ縦軸が振動加速度,横軸が時間を表して いる.Iint = 7,Iint = 1 の強度の振動を 1000 ms 間流した際の手に伝えられる振動加

速度はそれぞれ図 3.6(a), (b) のように表される.そして,図 3.7(a) に示す振動が途切 れないパターンと図 3.7(b) に示す振動が途切れるパターンの振動加速度はそれぞれ図 3.6(c), (d) のようになる. 圧電型加速度トランスデューサー (a) 圧電型加速度トランスデューサー (b) 設置位置 図 3.4: 振動加速度測定に用いた圧電型トランスデューサー (a) トランスデューサー用アンプ (b) 音響インテンシティアナライザ 図 3.5: 振動加速度測定に用いた設備

(28)

[m/s2] -15 -10 -5 0 5 10 15 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 ᣺ືຍ㏿ᗘ ⤒㐣᫬㛫 [s] (a) Iint = 7 の振動パターン [m/s2] -15 -10 -5 0 5 10 15 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 ᣺ືຍ㏿ᗘ ⤒㐣᫬㛫 [s] (b) Iint = 1 の振動パターン [m/s2] -15 -10 -5 0 5 10 15 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 ᣺ືຍ㏿ᗘ ⤒㐣᫬㛫 [s] (c) 途切れない振動パターン [m/s2] -15 -10 -5 0 5 10 15 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 ᣺ືຍ㏿ᗘ ⤒㐣᫬㛫 [s] (d) 途切れる振動パターン 図 3.6: 振動パターンの振動加速度 (a) 途切れない振動パターン (b) 途切れる振動パターン 図 3.7: 振動パターン例

(29)

3.2.3

印象語

Wobbrock ら [80] はジェスチャを導出するにあたり,アプリケーションの機能(コマ ンド)を実験協力者に提示し,そのコマンドにふさわしいジェスチャの導出を促して いる.本章では,実験協力者は提示された印象語に対してふさわしいと感じる振動パ ターンを生成した.ここで,本実験で使用した印象語の選定方法を以下に記す.まず, 過去の触覚における印象に関する論文 [2, 7] や形容詞用法辞典 [83] から 67 語の形容詞 を選出した.その後,選出した 67 語の形容詞を書いたカードを用意し,協力者 7 名で その中から振動の印象を表現するのに不適切な形容詞を 16 語取り除いた.次に,意味 の類似している形容詞同士を選出し,それをもとにグループ化を行った.そして,各 グループ内で代表となる形容詞 1 語を選出した.ただし,グループ内に存在しない形 容詞で,よりふさわしい形容詞を協力者が思いついた場合はその形容詞を新たに加え た.最後に,意味同士が対義語の関係になっているものを対にした.対にならなかっ た形容詞は協力者間の話し合いにて新たに形容詞を加え,対を作成した.これらの手 順により,表 3.1 に示す 15 組の印象語対を選定した. 表 3.1: 振動パターンの印象を表現する印象語対 No. 印象語対 1 ぼんやりとした – はっきりとした 2 不規則な – 規則的な 3 陰気な – 陽気な 4 不快な – 心地よい 5 なめらかな – ざらざらとした 6 かっこ悪い – かっこ良い 7 穏やかな – 活発な 8 ありふれた – 斬新な 9 つまらない – 楽しい 10 地味な – 派手な 11 つめたい – あたたかい 12 暗い – 明るい 13 軽い – 重たい 14 弱々しい – 力強い 15 細かい – 粗い

(30)

3.2.4

実験方法

実験協力者は 20 代前半の大学生および大学院生計 10 名であり,全員右利きであっ た.実験協力者には,実験開始前に振動パターン生成システムの説明を行い,その後, システムに慣れる時間を最大 3 分間設けた.実験協力者は表 3.1 より提示された印象語 対左側の印象語から連想する振動パターンを生成した.振動デバイスは利き手とは逆 の手(本実験では,全員左手)で握り,振動パターンを確認しながら納得がいくまで作 成し直すよう教示した.また,振動の長さは 1000 ms 全体を使う必要はなく,適宜変 更可能であることを伝えた.振動パターンを生成した後,実験協力者には提示された 印象語を用いずに,生成した振動がどのような振動であるかを口頭で説明するよう求 めた.その際,自信度として「自分が生成した振動パターンは提示された印象語にふ さわしいパターンである」という問に対して 1–7 の 7 段階のリッカート尺度 [84] で回 答を得た.その後,印象語対右側の印象語に対しても同様にパターンを生成するよう 指示した.ここまでの作業を全 15 の印象語対について同様に行った.ただし,印象語 対は順序効果を考慮し,実験協力者ごとに無作為な順序で提示した.また,印象語対 の左右の印象語に関しても,実験協力者を 5 名ずつに分け,それぞれ左右の順序を入 れ替えることで実験条件の統制を行った.実験中はイヤーマフ(3M,H540A-411-SV) を装着することとし,振動音による影響を排除した.そして,振動デバイスにはシー トを貼り,デバイス内の振動モータが見えないように注意を払った.

3.3

収集結果と考察

3.3.1

収集した振動パターンの多様性

実験協力者 10 名が 15 の印象語対に対して振動パターンを生成したため,本実験で は計 300 パターンを収集した.収集した全パターンは印象語ごとに付録 A に示す.収 集した 300 パターンの中には,まったく同じ波形の振動パターンが複数回生成されて いた.これらの重複を排除すると,本実験で収集できた振動パターンの総数は 245 で あった. ここで,図 3.8 に生成回数の多かった上位 5 パターンを示す.まず,図 3.8(a),図 3.8(b) の振動パターンはそれぞれ,17 回,9 回生成された.この 2 パターンは主に「つ まらない」,「暗い」,「陰気な」といった印象語に対して生成された.次に,図 3.8(c), 図 3.8(d) の振動パターンはそれぞれ 7 回,6 回の生成が確認された.これらは主に「あ りふれた」,「はっきりとした」などの印象語に対して生成された.最後に,図 3.8(e) の振動パターンは計 6 回生成され,主に「力強い」,「不快な」といった印象語に対す るものであった.また,10 名中 8 名の実験協力者が「ありふれた」の印象語に対して, 図 3.9 のような単調な振動パターンを生成した.この 8 名のうち 5 名は生成したパター ンに対して「普段利用するような…」や「スマートフォンの通知とかに使われるよう

(31)

な…」などとコメントした.このように,収集したパターンには,1.2.3 節で挙げた関 連研究で用いられていた振動パターンと同様の単調なパターンも多く含まれていた.

(a)

(b)

(e)

(c)

(d)

図 3.8: 生成回数の多かった上位 5 パターン

(a)

(b)

図 3.9: 「ありふれた」で生成された単調なパターンの一例

(32)

ここで,収集した振動パターンの多様性についての検証を行う.本論文では,振動 の強度 Iintが int = 0, 1, 2, . . . , 19 の全区間について振動の強度が一定のパターン,振 動の強度が一定かつ振動しない区間が等間隔で設定されているパターンを既存の振動 パターンと定義した.このような既存の振動パターンは計 51 パターン生成されており, 残りの 194 パターンは,既存の振動パターンにはない特有の特徴を持つパターンであ ることが確認された.そのため,本実験の目的でもある多様な振動パターンの収集は 十分に達成されたといえる.

3.3.2

振動パターンを生成しやすい印象語

本調査では,振動パターンの生成しやすさを,生成した振動パターンが印象語にふ さわしいかどうかを表す値である「自信度」と「生成までの経過時間」より推測する. 自信度が高く,経過時間が短い印象語は振動パターンを生成しやすいと捉えることが できる. 振動パターンを生成するまでの経過時間の平均値および標準偏差と印象語ごとの自 信度の平均値を図 3.10 に示す.なお,図 3.10 は経過時間を左から昇順並べ替えた際の グラフである.自信度の平均値と振動パターンを生成するまでの経過時間の平均値と のピアソンの積率相関係数は r = −0.56(p < 0.01)であり,負の相関が確認された. これは,高い自信度で生成した振動パターンは生成するまでに経過した時間が短く,低 い自信度で生成した振動パターンは生成するまでに長い時間を要していることを表し ている.このことから,印象語によって振動パターンの生成しやすさに違いがあるこ とがわかった. 一方で,自信度の平均 5.3,自信度の標準偏差の平均 64.8,経過時間の平均 109.6 s に対し,「かっこ良い」の印象語においては自信度 4.8,自信度の標準偏差 49.5,経過時 間 89.8 s を示した.これは,多くの実験協力者が比較的低い自信度で生成したにも関 わらず,その経過時間は短かったことを表している.つまり,生成時の自信度と生成 時間には一定の関係があるものの例外となる印象語も存在することがいえる.

3.3.3

ユーザにより表現の異なる振動パターン

ユーザ定義のアプローチを採用し,実験者ではなくユーザが生成したことにより見 られた多様な振動パターンを以下に記す.図 3.11(a) に示すような時間が経つにつれ振 動が強くなる,振動の強度が上昇するパターンが「力強い」の印象語に対して生成さ れた.さらに,同じ上昇するパターンでも直線的な上昇ではなく,図 3.11(b) に示すよ うな非線形に上昇するパターンが「軽い」や「かっこ良い」の印象語において確認で きた.この結果から,言葉に表すと同じ表現となる振動パターンでも,ユーザによっ て波形の表現が違うことがわかった.複数のユーザが様々な表現の振動パターンを生

図 1.2: PC 上のアイコン 側の識別の容易さ,コンピュータ側の処理的な問題,全体のレイアウトのバランスか ら,このような状況においては画像だと情報が過剰になるため,図のアイコンように 簡素に体現する方が相応しいことが推測される.そして最後は, 「概念的情報」が挙げ られる.例えば,図 1.2 の三角のアイコンもその 1 つであるといえる.このアイコンを クリックすると図 1.3(a) のようにポップアップで隠れていた複数のアイコンが表示さ れる.この「複数のアイコンが隠れている」という情報は,もととな
図 3.3 にパラメータ調整画面の詳細を示す.横軸が経過時間を表しており, 50 ms の 区間 int が 20 区間並ぶ( int = { 0, 1, 2, . .
図 3.14: 「斬新な」と「なめらかな」で生成されたパターン 3.4 実験 2: 印象評価実験 3.4.1 振動パターンの集約 実験 1 で収集した振動パターンがユーザに与える印象を調査する目的で実験を行っ た.実験協力者は提示された振動パターンに対して抱く印象を評価した.そして,評 価結果をもとにユーザの抱く印象と振動パターンの特徴との関係を明らかにした. 実験を行うにあたり,事前に類似した振動パターンの集約を行った.まず, 245 の振 動パターンにおいて相互相関関数(最大 2 位相ずれ,± 1 また
図 3.15: 印象評価実験風景 3.5 実験結果と考察 3.5.1 実験 1 との関係 実験 1 と 2 の両方に参加した実験協力者と実験 2 のみ参加した実験協力者の間で評 価結果に差がないかを検証した. 85 の振動パターンに対して 15 の印象語を用いて行っ た合計 1275 の評価について t 検定を行った結果,有意水準 5% で有意差が見られたの は, 39 の評価についてのみであった.これは全体の 3.1% にしかのぼらず,実験 1 と 2 の両方に参加した実験協力者と実験 2 のみ参加した実
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参照

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