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第 3 章 ゴムの商品知識

第 2 節 天然ゴムの種類と生産方法

天然ゴムはラテックス(Latex)、視覚格付けゴム(VGR=Visually Graded Rubber)、技術的格付 けゴム(TSR= Technically Specified Rubber)に大別される。また視覚格付けゴムの代表は RSS

(Ribbed Smoked Sheet)であるので、天然ゴムは①ラテックス、②RSS、③TSR の 3 種類に分類される こともある。

1.ゴム樹の切り付け(タッピング)

ゴム樹は植樹してから 6~7 年で採液可能となり 12~14 年で最も多くの樹液を産出する。その後 25~30 年で産出が少なくなり植え替え時期となる。近年のクローン技術の進展により、収量の多い新種のゴム樹も開 発されている。

天然ゴムの生産は、ゴム樹の幹を特殊ナイフで切り付け、流出した樹液(フィールドラテックス= Field Latex)を収集するところから始まる。具体的には、根元から 1 メートルほどの高さのところを特殊ナイフで 2mm ほど削りながら斜めに溝を切り付け、そこから滲出(しんしゅつ)する乳液状のラテックスを容器(カップ)で受け、

収集する。この採液法を「タッピング」と呼ぶ。ラテックスは日に当たると自然凝固してしまうので、タッピングは通常、

早朝に行う。

2.ラテックス(Latex)

タッピングにより収集されたフィールドラテックスには 25~30%のゴム分が含まれている。これに自然凝固を防 止するためアンモニア(安定剤)を加え、遠心分離機にかけ濃度を 60%程度に引き上げる。その濃縮された 液状のゴムをラテックスと呼ぶ。タイヤコードのディッピングをはじめ糸ゴム、ゴム手袋、あるいは接着剤などに使用さ れている。

3.視覚格付けゴム(VGR):RSS

視覚格付けゴムは、品質格付けを「天然ゴム各種等級品の国際品質包装規格(通称グリーンブック)」と、

これに基づき調整された公式国際見本に準拠した視覚検査により行う。フィールドラテックスを凝固させシート状 に成型するので「シートラバー(ゴム)」とも呼ぶ。その中で代表的種類が RSS(燻煙シート)である。

RSS の生産方法は、まずフィールドラテックスに酸(蟻酸、酢酸など)を加えて凝固させたのち、シーティングロ ールにかけ水分を絞り、厚みを調整(3~4mm)したうえ、別の波状成形ロールに通してシート表面に波状

(Rib)を作る。この波状がシートとシートの粘着を防ぐ役割を果たすほか、シートの水分乾燥を容易にする。こ れを USS(Un Smoked Sheet、未燻煙シート)と呼ぶ。色は白色である。

次に、集められた USS を水洗いし付着した異物を取り除いたのち、燻煙室に 1 週間ほど吊るして燻煙・乾燥 する。そこでシートはアメ色または褐色になる。燻煙を終えたシート(Smoked Sheet)は一枚一枚等級ごと に選別・格付けしたのち、計量のうえ成型用ボックスの中に積み重ねてプレス成型し、直方体のベールを作る。

出来上がったベールには、ベールとベールの粘着防止とマーキング下地のために白色のタルカンパウダーを全面に 塗る。このコーティングもグリーン・ブックに基づき行われる。1 ベールの標準的サイズは縦・横約 48cm×高さ約 60cm、重量は 111.11kg である。最後にマークを刷り込み、出荷される。

選別・格付けは、グリーン・ブックに基づき、外観、色、ゴムの中に含まれるゴミなどの不純物の度合いやキズ、

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燻煙の程度により 1X 号、1 号、2 号、3 号、4 号、5 号に等級分けされる。1X 号が最上級品だが数量がほと んどなく、実質 1 号から 5 号までの 5 等級に分類されることになる。このうち最も生産量が多く、国際取引量も 多いのが 3 号である。この RSS3 号は東京商品取引所、また海外ではタイ先物取引所(Thailand Futures Exchange)(2016 年にタイ農業商品先物取引所(AFET)から移管。)とシンガポール取引所

(SGX)(2011 年 5 月にシンガポール商品取引所(SICOM)からゴム市場を移管)、および上海期貨 交易所(SHFE)に上場されている。

4.技術的格付けゴム:TSR(Technically Specified Rubber)

TSR は、技術的規格に基づき格付けされたもので、その形状から「ブロックラバー(ゴム)」と呼ばれている。マ レーシアで開発され 1965 年から生産が開始された。マレーシアではこれを標準マレーシア・ゴム(SMR=

Standard Malaysian Rubber)と呼ぶ。SMR のほかタイ(STR=Standard Thai Rubber)、インドネ シ ア ( SIR = Standard Indonesian Rubber ) 、 シ ン ガ ポ ー ル ( SSR = Standard Singapore Rubber)、中国(SCR=Standard China Rubber)、ベトナム(SVR=Standard Vietnamese Rubber)などの国別標準規格がある。

TSR は、等級により使用する原料構成が異なるのが特徴である。上級品ではフィールドラテックス 100%

(凝固させてから使用)や、純度の高い原料(凝固ゴム)を使用する。TSR20 など中級グレードでは、カッ プ・ランプ(ゴム液が収集カップの中で自然凝固したもの)か USS、あるいはそれらをブレンドしたものを原料に使 用する。

TSR の製造方法は、これら原料を機械で粉砕、細粒化し、水洗いしたのち、熱風により短時間で乾燥させ、

プレス成型してポリエチレンシートで包装する。成型後、ベールごとにサンプルを抜き出し分析試験を行い、その測 定結果から技術的規格に基づき格付けする。試験項目はゴミ・灰分・窒素含有量・揮発性物質・ウォーレス可 塑度・可塑度残留率で、これらすべてに合格したものに検査証明書が添付される。標準的なベールの大きさは 約 70×40×15cm くらいで、合成ゴムのベールとほぼ同じである。重さは 1 ベール 35kg あるいは 33.33kg が 主流である。

5.RSS と TSR の代替性

用途によっては TSR グレードと RSS グレードの物性に差が出る場合があり、各ユーザーのニーズにより使い分 けがされているのが現状である。日本国内ではタイヤやその他の自動車部品においては RSS の強度等の特性が 必要とされる用途があり、TSR に完全にリプレースすることが難しいケースもある。しかし海外ユーザーには同じ用 途であっても RSS を使用しないというケースもあり、ここはユーザーのニーズと言えなくもない。国内のタイヤ以外の ユーザーの場合は歴史的に RSS を好んで使用してきた経緯もあり、どちらかといえば RSS の物性を好むケースが 多い。用途によっては物性的に RSS と TSR は同一ではないと認識しているユーザーも多くいるものの、ユーザー の技術力等個別の理由による場合が多く、一概には説明できないのが現状である。

ただし、最近は RSS と TSR の価格差が一時的に大きく拡がり、TSR が大幅に割安となることが多いため、

タイヤメーカー等の大口ユーザーは、従来 RSS を使用していた用途を TSR でも代替できるよう技術的な改良を 進めている。

46 一口メモ

ここでゴムラテックスについて補足する。ゴムラテックスは水中にゴムが分散した懸乳濁液をいい、タイヤやゴムベ ルトのコード用のほか塗工紙用、繊維処理用、プラスチック用、建築資材用、接着剤など需要分野は多岐にわ たる。天然ゴムラテックスが世界で約 100 万トン、合成ゴムラテックスが約 200 万トン生産・消費されていると推 測されている。「ラテックス」という言葉はもともと“液体”を意味する中世ラテン語で、19 世紀の初めに植物学者 が樹木から出る乳状の液体に対して名付けた言葉である。19 世紀の後半からゴム工業でも用いられるようにな った。

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