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第 6 章 取引戦略

第 4 節 ロール・オーバー(ローリング・ヘッジ/スイッチ取引)

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70 第 3 項 ベーシス・リスク(Basis risk)

これまでの例においては、現物価格と先物価格が全く同じ動きをするなど、ヘッジ取引がうまく機能した場合を 想定したが、実際は以下のような理由により、意図したヘッジ取引が行えないことがある。

・ ヘッジ対象資産の現物価格と、先物価格が正確に一致しない可能性がある ・ 商品をいつ購入もしくは売却するか、およその期日しかわからない

・ 納会日以前にヘッジ取引を決済しなければならないときもある

ここで、問題となるのがベーシス・リスクである。ヘッジ取引においてのベーシスは一般的に以下のように定義さ れる。

ヘッジ対象資産と先物市場の原資産が全く同じ場合は、現物価格と先物市場の受渡値段は一致し、ベー シスはゼロになるはずであるが、納会日以前には需給バランスや保有便益(コンビニエンス・イールド)の変動な どにより、ベーシスはプラスにもマイナスにもなりえる。また、現物と先物の原資産が違う場合は、ベーシス・リスクは 通常大きくなる。

つまり、ベーシス・リスクとは現物取引での損失(利益)と先物取引での利益(損失)が相殺されないリス クである。

ベーシスが生じる要因としては、主に以下のものが挙げられる。

・ カレンダーベーシス:ヘッジ対象玉とヘッジの価格決定の時間の差に伴う価格差 ・ 地理的ベーシス:現物取引と先物取引の受渡場所の違いから生じる価格差

・ 品質ベーシス:ヘッジ対象資産と先物市場の原資産との品質や等級の相違から生じる価格差

このようなベーシスが変化することにより、ヘッジ取引の損益も変化することになる。

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< ベーシスのリスク例>

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ゴム製品の製造会社である C 社が、3 ヶ月か 4 ヶ月後にゴム 100t の購入を予定している。そこで、ヘッジのた めにゴム先物市場の 5 ヶ月後の限月を 20 枚(1 枚あたり 5t×20 枚=100t)、250.0 円/kg で買い建て た。

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その後、C 社は 3 ヶ月後にゴムを購入したので、先物取引を決済することにした。このとき、現物価格は 270.0 円/kg、先物価格は 265.0 円/kg であった。

この時ベーシスは、「現物価格- 先物価格」なので

ベーシス=270.0 円-265.0 円=5.0 円

先物取引による利益は、「決済価格- 建玉時の価格」なので

先物取引による利益=265.0 円-250.0 円=15.0 円

よって、C 社にとっての実質的なゴム購入価格は、1kg あたり、

ゴム購入価格=270.0 円-15.0 円=255.0 円

これは、先物市場での買いポジションを建てたときの「先物価格+ベーシス」であるといえる。

先物価格+ベーシス=250.0 円+5.0 円=255.0 円

このようにベーシスの存在によって、意図したヘッジ取引と誤差が生じる可能性があるが、適切な市場設計がなさ れた流動性の高い先物市場であれば、その価格は現物価格と完全に一致しないまでも、ほぼ連動した動きとな る。したがって、現物価格と先物価格が大きく変動することはあっても、ベーシスは大きく変動する可能性は低い といえる。ヘッジ取引とは、価格変動の高いリスクを、ベーシス・リスクという低いリスクに変換する行為とも考えられ るので、ヘッジ取引を行う際はベーシスを理解することが重要となる。

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