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第 3 章 ゴムの商品知識

第 3 節 合成ゴムの種類と製造工程

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例えばタイヤ 1 本でも部材によって使われるゴムが異なる。代表的な種類はスチレンブタジエンゴム(SBR)、ポ リブタジエンゴム(BR)、ポリイソプレン・ゴム(IR)、アクリロニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、

エチレンプロピレンゴム(EPDM、EPT ともいう)、ブチルゴム(IIR)などがあげられる。

機能別に分類すると「汎用ゴム」と「特殊ゴム」に大別できる。汎用ゴムは比較的安価で幅広い用途に使用さ れるゴムの総称であり、タイヤ、履物、防振ゴムなど耐油性や高度な耐老化性などの性能を必要としない用途に 使用される。SBR、IR、BR がこの分類に属し、また天然ゴムもこの汎用ゴムに分類される。

特殊ゴムは、耐油性・耐熱性・耐候性など天然ゴムにない特性をもち、主に工業用品に用いられる IIR、

EPDM、CR、NBR に加え、卓越した耐油性や耐熱性をもち比較的価格の高いシリコーンゴムやフッ素ゴム、ア クリルゴムなどがある。

(3)汎用ゴム

最大の汎用ゴムといえば天然ゴムだが、合成ゴムでは SBR が該当し、自動車タイヤの主原材料として天然ゴ ムとともに必要不可欠な存在である。SBR には重合法(製造方法)によって乳化重合 SBR(E-SBR)と 溶液重合 SBR(S-SBR)があるが、一般に SBR といった場合は E-SBR を指す。

その特性は天然ゴムに最も近く、耐熱性・耐摩耗性にも優れ、また加工性が良く天然ゴムや他の合成ゴムと のブレンドも容易というバランスのとれたゴムで、汎用合成ゴムの王様といえる。

しかし 20 年程前から天然ゴムの使用比率の高いラジアル・タイヤが台頭し、またタイヤ自体の差別化が進む につれ標準化されたグレードは減少し、むしろ味付け(分子構造の設計)が自在な S-SBR を始めとしたスペ シャリティ製品のウエートが高まってきている。

BR はゴム弾性が最も高く、また耐摩耗性・耐屈曲性に優れるためゴルフボールのコア材料としても使用されて いる。タイヤでは摩耗性の要求されるトレッドやカーカスに多く使用される。

IR は「合成天然ゴム」と称されるだけあり、天然ゴムによく似た、最もゴムらしいゴムと言われ、あらゆる用途で 天然ゴムの代替に使用されてきた。しかし天然ゴムとの価格競争が厳しく、なかなか需要は伸びてこなかった。

(4)特殊ゴム

IIR は空気を通しにくい性質(気体不透過性)から、かつてはタイヤのチューブ材料として使用されたが、チュ ーブレスタイヤが一般的となった今日では、改良品種(塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム)が SBR や天然 ゴムとブレンドしてインナーライナーやサイドウォール用に使用されている。また、耐候性・電気絶縁性に優れること から電線・電纜に、また振動減衰性を生かし防振・防音材などにも使用されている。

EPDM は唯一、耐油性でない特殊ゴムである。その特性は、耐オゾン性・耐候性・耐熱性・耐薬品性・低温 特性が優れており、自動車部品用途に需要を伸ばしてきた。

CR は耐熱・耐候・耐オゾン・耐油・耐疲労・耐焔性など全般にわたりある程度の特性をもつ、“丸みのあるゴ ム”として工業用品を始め広い分野で使われている。また輸出も多く国内生産の半分以上を占めている。

NBR は耐油性特殊ゴムの代表である。耐油性のほか耐熱性、耐ガス透過性、電気特性、機械的強度に 優れることから、オイルシール、ホース、ダイヤフラム、ロールなど自動車部品や工業用品に広く用いられている。

シリコーンゴムは耐熱 200℃以上、耐寒マイナス 70℃以上と温度に極めて強いゴムである。また電気絶縁 性・難燃性・無毒性なども備えることから自動車部品、電子・電気機器部品、医療関係など幅広く使用されて いる。

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アクリルゴムは自動車と自動車部品の進歩に伴い開発されたゴムである。耐熱性・耐潤滑油性・耐オゾン性 に優れた性質をもつ。

フッ素ゴムは 250℃以上の連続使用にも耐える、最も耐熱性に優れたゴムである。耐熱性以外にも耐油・耐 薬品・耐溶剤・耐焔・耐候・耐オゾンなどあらゆる性能で他のゴムを寄せ付けない高度な性質をもち、他のゴム では耐えられないような過酷な環境で用いられる特殊ゴムである。

(5)合成ゴムの生産量

世界の合成ゴム生産量は 1,482 万トン(IRSG 統計、2016 年実績)で、21 世紀に入り増加傾向にある。

このうち日本は 156.6 万トンで世界の 10.6%を占めており、ここ数年は生産量に大きな変動が見られない。

近年、大幅に生産を伸ばしているのは中国とロシアである。中国は 2001 年に 105.2 万トンだったが、2016 年は 298.2 万トンまで大きく増加し 2008 年以降トップの座を維持し、ロシアも 91.9 万トンから 151.7 万ト ンと増加を示している。

わが国では、合成ゴム総出荷量 141 万トン(日本ゴム工業会、2016 年)のうち SBR が約 66.2 万トン で全体の 47%を占め、さらにそのうち 51.1 万トンが SBR ソリッド(固形ゴム)である。BR は 35.2 万トンで、

次いで EPDM が約 17.9 万トンとなっている。

2.合成ゴムの製造工程

合成ゴムの大半は石油化学工業で生産されるゴムである。原油を川上とすれば合成ゴムは最も川下に位置 する。原料からの流れをたどると、まず原油は石油精製会社で精製され、ナフサ、灯油、軽油、重油、液化石油 ガスなどの石油製品になる。このうちのナフサが石油化学工業の元原料になり、このナフサを 700~800°C の高 温で熱分解するとエチレン、プロピレン、C4 留分、C5 留分、分解油等に分離する。これらは“石油化学工業の 基礎製品”と呼ばれ、これらを原料として多くの誘導品が生産される。汎用ゴムの SBR と BR、耐油性特殊ゴム の NBR は C4 留分から抽出されるブタジエンを主原料としている。

SBR では E-SBR、S-SBR ともにブタジエンとスチレンを原料とする。石鹸水の中で重合させて作る(乳 化重合法)のが E-SBR で、溶剤の中で重合させて作る(溶液重合法)のが S-SBR である。もう少し詳し くみると、E-SBR はブタジエンとスチレンに水と乳化剤、開始剤などの薬液を加え、一定の反応率まで重合させ る。そこから未反応なブタジエンとスチレンを回収してできたのがラテックスである。天然のラテックスはゴム樹によって 自然生成されるが、合成ゴムラテックスはこのように化学的に作り出される。

そのラテックスを濃縮すれば乳化状の SBR ラテックスとして出荷されるが、濃縮せずに劣化防止剤や伸展油を 加えて凝固させ、細かい固まりにしたのち、脱水→乾燥→計量・成型→包装の手順を経れば、固形の SBR と して出荷されることになる。E-SBR の場合、通常の結合スチレン含有量は 23.5%であるが、スチレン含有量 が 50~60%と高い SBR をとくにハイスチレンゴム(HSR)と呼び、主にレーシングタイヤのトレッドコンパウンドと して使用される。

BR も同様にブタジエンが原料である。これに溶剤、触媒を反応器に入れ連続的に重合する。得られた重合 物から未反応ブタジエンおよび溶剤を除去し、乾燥→成型工程を経て包装される。NBR はブタジエンと繊維原 料でもあるアクリロニトリルを原料とする。

IR は C5 留分から抽出されるイソプレンを原料とする。溶剤に原料モノマー(イソプレンモノマー)を加え有機 金属化合物を触媒として溶液重合法により重合する。このポリマー溶液から未反応イソプレンと溶剤を回収し、

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得られたゴムを脱水→乾燥→計量・成型→包装して製品となる。EPDM はエチレンとプロピレンの共重合体に 第 3 成分を少量加え溶液重合法によって作り出される。

52 3.合成ゴムと天然ゴムとの代替性

タイヤの品質面で天然ゴムが合成ゴムと比べ①接着性に優れている、②内部発熱の度合いが低い、③破 壊強度が優れている、などの特徴があり日本ではタイヤ製造において、天然ゴムの比率が若干高くなっている。ま た、一般的に、比較的小径な乗用車用タイヤでは合成ゴムの比率が高く、トラック・バス用の大径のタイヤでは、

天然ゴムの比率が高いといわれている。

各ユーザーにより、天然ゴムと合成ゴムの代替性は異なるが、一般的には天然ゴムはその特性上、合成ゴム のスチレンブタジエンゴム(SBR)との代替性が高いといわれている。タイヤ用途では、全体のゴム使用量の数パ ーセント程度は天然ゴムと合成ゴムの代替ができると言われており、メーカーは価格差に応じて使い分けをしてい る。一般的にはバイアス(クロスプライ)タイヤのほうがラジアル・タイヤに比べ柔軟に代替できるが、ラジアル・タイ ヤの場合には代替できる部分がより狭くなる。

合成ゴムはナフサあるいはポリマー市場の価格がベースとなること、ユーザーの代替基準(価格差)もまちまち であることから天然ゴムとの理論的な価格差を具体的に導き出すことは難しい。