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第 1 節 天然ゴムの生産地域

ゴム樹は赤道を中心とした南・北 15 度圏内の一年中高温多湿で強風の吹かない東南アジア、中部アフリカ、

中南米などの熱帯地方で栽培されてきたが、近年では品種改良により北緯 18 度以北に位置する中国の海南 島(北緯 18-20 度)や雲南省(同 22 度以北)、あるいはブラジルのサンパウロ(南緯 25 度)でも栽培 されるようになってきた。

ゴム農園の栽培面積は世界全体で約 1,352.9 万 ha である。このうちインドネシアが 363.9 万 ha と世界 最大で、第 2 位はタイの 311.7 万 ha、第 3 位は中国の 115.9 万 ha、第 4 位はマレーシアの 107.2ha で、

上位 4 カ国で全世界の約 60%を占めている。エステートと呼ばれる 100 エーカー(約 4,047 ㎡)を超えるゴム 農園よりもスモールホールディングと呼ばれる 100 エーカー未満の小規模ゴム園のほうが栽培面積の大部分を占 めている。

生産品種はその国の生産構造によって異なる。マレーシアではラテックスと TSR が多く、インドネシアでは TSR が大半を占め、いずれも RSS の割合は低いと推測されている。RSS の生産比率が高いのはインドとスリランカで ある。タイでは伝統的に、スモールホールディングの大半がアンスモークトシート(USS)を生産しているという事 情があり、長年シートゴムを好んで使用してきた日本ではタイからの RSS の輸入が多くなっている。しかし、タイで も近年は需要構造の変化に対応して、2016 年は生産量の 40%近くを TSR が占め、RSS は 20%程度とな っている。

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第 2 節 天然ゴム産地の物流経路

ここでは、非常に物流経路が複雑なタイを例にとって産地での物流の状況を紹介する。一般にエステートでは タッピングから加工処理まで、時には輸出までを一貫して行うが、スモールホールディングではタッピングから USS の 成型まで、あるいはカップ・ランプの生産までを行っている。

これらの原料ゴムは、店舗を持たないコレクターが毎日自転車やバイクで村落を回って買い集め、ディーラー

(店舗や倉庫を持つ)へ売り渡している。もちろん生産者からディーラーに直接売り渡すケースもある。USS は 多くの場合、このようにディーラーを経てシッパー(輸出業者)へ渡り、その処理施設(スモークハウス)で燻煙 され、RSS として選別・格付け、パッキングされたのち輸出される。このようにシッパーがプロセッサー(燻煙・パッキ ング業)を兼ねるのが一般的だが、独立したプロセッサー(パッカーともいう)で燻煙、パッキングされたゴムがシッ パーの手を経て輸出されることも少なくない。

TSR については、ほとんどの TSR 工場がシッパーの所有である。TSR の原料となるカップ・ランプやラテックスの 原料のゴム液についても、スモールホルダー(零細農家)の場合はディーラーに売り渡し、その後 TSR 工場やラ テックス工場へ渡るというのが一般的である。

このディーラーは、産地での物流で農民とプロセッサーを結ぶ重要な役割を果たしている。ディーラーは、プロセッ サーとの間で相対取引を行っている他、「CENTRAL MARKET」と呼ばれる公設市場でも取引を行っており、こ れらが USS 市場を構成している。USS 相場が下落すれば生産者の収入は途端に減少し、困窮してしまうとい う構図にある。有力ディーラーやプロセッサーの中には国内取引だけでなく国際取引を行うケースもある。

輸出取引は数カ月先船積み条件の契約が一般的である。タイから輸出される際の船積み港はバンコク港、レ ムチャバン港と南部国境地帯のパダンブサール駅(マレーシア・ペナン港で積み替え)がほとんどで、半島東海 岸のソンクラ港、半島西海岸のカンタン港とプーケット港なども利用される。このうち日本向け貨物は主としてバン コク港、レムチャバン港とパダンブサール駅経由ペナン港から積み出されている。

タイに限ったことではないが、ここ数年、最終消費者であるタイヤメーカーが産地で工場運営を行ったり、工場を リースしたり、あるいは農園経営に参画するという動きが進んでいる。大手タイヤメーカーにとっての課題である原 料供給の安定化に加え、自社スペックに合わせた原料調達をすることがその狙いと考えられる。

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産地の輸出業者(シッパー)

国内ユーザーの現地工場 国内商社の現地工場

海上輸送

 通関(コンテナヤード)

商社・現物商・問屋

東京商品取引所ゴム市場

国内の生産メーカー (ゴム製品の製造工場)

天然ゴムの生産地から日本国内への取引ルート

出所 : 東京商品取引所

第 3 節 天然ゴムの国内流通

シッパーから国内需要家までの流通ルートを以下に示す。

まず、FOB 条件で船積みされたコンテナが日本の港に海上輸送され、例えば関東地区であれば横浜港などに 到着する。コンテナは陸揚げされ、一旦、港湾のコンテナヤードに積み上げられるが、通関を経て、日本国内に 入着する。

荷物の多くは、タイヤメーカーなどの需要家によって直接、コンテナなどで自社の倉庫(タイヤ工場など)へ陸 送される。また一部は、倉庫会社の倉庫に搬入される。これがいわゆる港湾倉庫在庫であり、営業倉庫在庫と なる。

近年、需要者側のスピードと確実性に対する要望から、貨物輸送全般にわたって物流体制が見直され、輸 送効率と貨物の保全状況が飛躍的に向上してきた。天然ゴムの輸入陸揚げにおいても、かつてのバラ積みから コンテナ輸送に切り替ったため、取扱作業時間が大幅に短縮され、輸送過程におけるゴムの荷姿・品質の損傷 は減少している。日本の大手タイヤメーカーでも、商社を通じての輸入から直輸入に切り替えているところが多く なってきた。商社は産地から直接購入していない国内のユーザーに対して輸入販売を行っており、東京商品取 引所ゴム市場等の価格を参考に円建てで国内での販売価格を設定している。商社はこうした取引の中で東京 商品取引所市場を利用したヘッジや海外市場との裁定取引を行っている。

また、コンテナ輸送のため、天然ゴムの国内在庫もコンテナヤード在庫、営業倉庫在庫(港湾在庫)、タイヤ メーカーによる内陸倉庫在庫 3 つの形態に分かれる。このため、現在ではゴムの在庫は営業倉庫在庫だけでは ないことに注意する必要がある。

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第 4 節 天然ゴムの商流

TSR と RSS で商流に関して大差はない。以下では天然ゴム消費者の代表として、最終ユーザーのうち最 も消費量の多いタイヤメーカーの買付けについて解説する。

物流がコンテナ化される以前は商社経由の輸入が主流であった日本のタイヤメーカー各社は、品質管理という 観点から、産地からの直買いを増やしてきた。現在では調達の大部分の割合を産地積出港 FOB 条件での買 い付けで賄っている。大手タイヤメーカーは現物取引の活発なシンガポールに購買拠点を構え、タイ、インドネシ ア、マレーシアのシッパー、在シンガポールのディーラー、日本を含む海外ディーラーから日々買付けを行っている。

契約の形態としては、日々の相場で随時個別の契約を行うスポット契約、契約数量を予め決めておき先物 市場連動フォーミュラで価格を確定していく長期契約、あるいは先物市場での売り買いを利用した EFP 取引等 がある。それぞれのタイヤメーカーにより契約形態のニーズは異なるが、昨今では安定供給確保を目的とし、長 期契約での買い付け分が増加する傾向にある。

タイヤメーカーのポジションはナチュラル・ショート(*)であり、潜在的な買いヘッジニーズがある。このうち一部 分をディーラーやシッパーとの先渡契約でヘッジしている。一方、先渡契約の売り手であるディーラーやシッパーは タイヤメーカーに対する売契約のヘッジ買いを行う必要があり、東京、シンガポールの先物市場が利用される。逆 にディーラーがユーザーへの販売に先行して、先渡契約で現物の買い付けを行うケースや、シッパーが先渡契約 の数量を上回る原料を持つ場合には先物市場は売りヘッジ先として利用される。昨今は情報化が進み、産地 シッパー他海外ディーラーが日本国内の先物市場を積極的に利用するようになってきている。

(*)現物取引のポジションについて、その現物価格が下落すると利益が発生する状況をナチュラル・ショート、

反対に現物価格が上昇すると利益が発生する状況をナチュラル・ロングという場合がある。

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