第 4 章 在宅ホスピスボランティア活動の現状と課題
5.2 在宅訪問活動の内容の実際
14事例における在宅訪問活動の主な内容は、(1)見守り、(2)談話・交流、(3)個別ニ ーズへの対応、(4)家族に対する支援にまとめられる。以下、調査協力者の語りを引用す る場合には[ ]の中にゴシック体で表記する。
5.2.1
見守り
病状が重い患者や1日のうちほとんどの時間を眠って過ごす終末期にある人に対しては、
主に家族の外出時に見守りをしていた。
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「手と手」では終末期患者に見守りのみ行う際にも、できるかぎり2人のボランティア が一緒に活動するようにしている。それは、終末期患者の病状の急変もしくは何らかが発 生した場合、家族や医療機関への連絡・相談をする役と患者本人を見守る役が必要となる ためである。また、死を間近にしている人や苦痛を訴える人に関わる際には、ボランティ アは対処の限界や無力感を感じることがあり、ボランティアは互いに励まし支えあいなが ら、また患者の家族や医療専門職と話し合いながら、患者への寄り添い方を模索していた。
以下のBさんの語りから見守りの実際を確認する。
Bさん:[(活動対象者の)家に入った時点で、すぐ緊急連絡先を私の携帯に入れておい て、ワンプッシュでかけられるようにしておいてはあるんですけど。それでもやっぱり 在宅はその方の声だとか、顔色だとか、呼吸音だとか、雑音が聞こえるのではと、もの すごく神経を使って、横にいますね。家族じゃないので、普通じゃないのを察知するの が、たぶん他人にはハードルが上がるので、(中略)最善の注意でやってます。テレビつ けていいですよと家族の方はいいますけど、私はほとんどテレビつけませんね。患者さ んの呼吸音とか心臓の動きとかをみたいので、だから雑音ができるだけしないほうがい い、本とか読んでも耳はずっと向けて、やっぱり2時間位入ってもクタクタになります ね。ずっと集中してるから。]
このように、傍で患者を見守るだけの活動であっても、病床が重い患者や終末期にある 人々との関わりは、ボランティアにとって緊張感や心身の負担感が生じやすいことが推察 された。
5.2.2
談話・交流
神経難病の患者・家族や要介護高齢者・家族に対しては、談話・交流をしていた。例え ば、【事例④】のエさんは神経難病を患っており、食事づくりや掃除等をヘルパーにやって もらっていた。そして、身体的機能の低下による外出への不便さを感じているとともに、
近所の人達に自分の病気を知られたくない思いから、人との付き合いが少なくなってきて いた。このようなエさんの状況について、MSW は、エさんには生きがいを感じる活動や人 とのふれ合いが必要ではないかと考え、エさんが得意とする編み物をボランティアと一緒 に行うことを提案した。
Dさん:[編み物ね、編み物の得意な人がいるから、習いたい人ーっていうからハーイっ て手を挙げてね。(中略)自分の着るセーターだとかね、孫のポンチョとかね、なんとか かんとかとかね。一生懸命作って、(中略)2時間になろうが3時間になっても話が続 く。うふふ(中略)エさんが、ヘルパーさんとかね、こっちの先生(医者)にね、もう 私生きがいができたーっておっしゃっておるっていうのを聞いてですね、あ、そっか、
自分が教えるっていうのがとても素敵なんだなぁって思ったんですよね。何かする仕事 があるっていうのはいいことなんだろうって思って。]
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エさんは病状が悪化して入退院を繰り返すまで、3 年以上Dさんに編み物を教えた。二 人は編み物だけでなく、料理の話やお花の話で交流が深まった。D さんはエさんに関わる 時にはあえて病気のことは触れずに、エさんを編み物の「先生」と呼び、楽しい話題を用 意して訪問しつづけた。Dさんのエさんに対する活動は、ボランティアと患者が支援する・
支援される関係であることを超え、生活者同士の付き合いになっていたといえよう。
一方、病気の進行により会話すらできなくなり、全介助の状態となった患者に対しては、
談話・交流といっても会話をするとか一緒に何かをすることは想像しにくい。しかしなが ら、以下のGさんの事例(カさん)でも確認できるように、「手と手」は、どんな重い病気 や障害を有していても、誰もが人とのふれあい、人の温もりを必要としているのではない かと考えていて、患者と「一緒にする」ことはできなくても、「一緒に楽しむ」ことを目指 して工夫を重ねていた。
Gさん:[カさんに反応はもらえないですけど、表情をみて、話しかけます。例えば、ボ ランティアが2人か3人で入るんで、カさんが休んでいるのをはさみながら、日常会話 をするんですけど、時々「ね、カさん」と、なるべくカさんに加わっていただくように。
好きな季節の話をしたり、オカリナを持っていって吹いたり。季節によっては、ハンド ベルとか持っていて、時々ご主人に加わっていただくこともしたことあります。(中略)
正直に今日何しようとなることもあるんですけど、苦痛になることはなくて、何も準備 ができていない時には、写真をとってタブレットを用意してみていただいたり、花の本 を用意して、一緒に眺めたりするとか、]
神経難病のため、まったく意思表示ができない状態であるカさんに対して、複数のボラ ンティアが交替しながら訪問し、日常会話や楽器の演奏以外にも朗読や合奏、紙芝居等を 行っている。それらの活動に対するカさん本人の感想や評価を確認することはできないが、
ボランティアはカさんの生活史や好みについて家族から情報を得て、カさんの趣向を盛り 込んだ活動になるよう努めていた。
5.2.3
個別ニーズへの対応
患者・家族の中には、病状が悪化・死亡する前に、やり残したことがしたいとボランテ ィアを受け入れることもあった。【事例⑪】では、Jさんは、80代の神経難病の末期患者で あるケさんの要請によって33通の手紙を代筆した。
Jさん:[ケさんは、神経難病で、もう状態はとっても悪くてね、食事もあんまり入らな
いような人だった。で、訪問看護事業所から話があったっていって、(中略)自分が喋れ るうちに喋ったものを手紙にしてもらって、今まで自分とお付き合いがあった人にみん なにお礼が言いたいって言われて、お手紙の代筆をしたんです。まず息子、兄弟、認知 症になったお母さん、八十いくつかもね。そして、親戚の人、友達、33通書きました。
お手紙を聞いたのをメモして、書いて、そして次の日仕上げてきて次の時に仕上げて、
持って行ってこれでいいですか、ここがちょっと違うとかこの人はこういう人ですとか
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聞いて、また書いて、字が下手なのに一生懸命書いて。やっと(書き終え)手が震える んだけど一緒に切手を貼ったりとかして、じゃあ私が今日投函しますからねって言って。
うん、そしたら、なんだか交流がなかった人が訪ねてきてくれたりしてうれしかったっ て、何十年ぶりかに会ったみたいな話をして、ああよかったって思ってたら入院してし まった。]
最初ケさんは手紙の代筆は同居している息子に頼もうとしていたが、手紙を出したい人 の人数が数十人となり、仕事で夜に帰ってくる息子より、短い期間で昼間に集中して代筆 をお願いできるのはボランティアではないかと考え、ボランティアにやってもらうことに なった。J さんは手紙の代筆活動にあたり、ケさんが満足のいくまで何度も本人に手紙の 内容について確認をとりながら丁寧に行っていた。
5.2.4
家族に対する支援
患者の介護・看病をしている家族は、孤独を感じるとともに社会から孤立しがちになる こともあり、「手と手」は患者のみならず家族も活動の対象者としている。「手と手」の家 族に対する支援とは、家族の代わりに患者を見守ることや患者に何かをする間接的なかか わりが多いが、家族と談話・交流するなどの家族への直接的な関わりも含まれている。【事 例⑩】においてJさんは、神経難病で全介助が必要であるクさんに、本の朗読、紙芝居等 をしているが、訪問の際はクさんの夫とも交流している。クさんの夫は、クさんの見守り や介護のため外出もままならない生活を送っていた。介護・看病している家族の状況の一 端を、以下のJさんの語りから垣間見ることができる。
Jさん:[クさんのご主人が1人で見てるの、娘さんは遠方にいて、年に1、2回しか帰 ってこない。で、胃ろうしているので、その胃ろうの付け替えっていうのかな、そのた めに年に2回、10日間ぐらい入院する、その間だけがご主人の休息のとき。それ以外ず ーっとご主人はベッドの横のこんなソファで寝てて、一時期具合が悪くなって、床に今 寝てるのね、夜になると。奥さんのすぐ横で。(中略)クさんへの活動をして、そのあと 半分ぐらいはご主人がいつも座ってるところで、座ってコーヒーをごちそうになりなが ら、ご主人は政治の話とか、時計の修理が好きなのね。奥さんが寝たきりになってから はここから動けないから、動けなくてもできることっていったら、(中略)もう置時計、
掛け時計、腕時計、いっぱい。庭に出てても(人工呼吸器の警報音のピーピーという音 が)なるんだって。人工呼吸器の調子が悪いっていうか、たんが詰まったり、私たちが 行ってる時も時々なるんですよね。だから、庭に出ても土いじりはできない、なんでか って言ったら汚れた手で、扱うことができないから、]
上記の【事例⑩】のクさんは在宅医療・訪問看護・訪問介護・訪問入浴など、複数の医 療・介護(福祉)サービスを取り入れている。とはいえ、公的・私的資源を活用していて も、クさんの主介護者である夫の心身の負担が大きいことが確認された。