第 4 章 在宅ホスピスボランティア活動の現状と課題
5.4 在宅訪問活動におけるボランティアと患者・家族間の関係の変化
前節の在宅訪問活動の内容の調整は、ボランティアと患者・家族間の関係の変化と関係 しながら行われることが確認された。
【事例⑥】では、ボランティアの受け入れの経験がなかった患者(オさん)・家族(オさ んの妻)は、ボランティアが具体的に何をどのようにするか認知していなかった。F さん による在宅訪問活動が行われていく中で、オさんの妻はボランティアについて少しずつ理 解を深め、オさんの妻はFさんを安心して見守りや留守番を頼める信頼できる存在として 受け入れるようになった。Fさんは当時の状況を以下のように語っていた。
Fさん:[とりあえず買い物に行く時間がないというんで。本当にその時に退院してこら れたばっかりだって、買い物もいろいろしないといけないと。じゃあ私が留守番します ので、お買い物に行かれた。でもやっぱりね、心配ですぐ帰ってこられた。慣れないっ ていうのもあるみたいだし。で、2回目は行ったら、あ、いてくれるんだって思われた みたいで。ちょっとゆっくりして、いろんなもの買ってこられた。3回目ぐらいの時だ ったかな…自分も病院に行きたいって言われて。じゃあ大丈夫ですよ、何時までって一 時間二時間ってとってないから、済ませてから帰ってきてくださいって言ったら、安心 して出て行った。
そしたら、だんだん慣れたみたいで。だけど、ボランティアっていうのがなんなのか
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わかってあったかどうかはわからない。奥さんは、私を病院から派遣してくれた人と思 っとったみたい。で、月末になったときに、私に請求書を出してくださいねって言われ たから。ああ、それはないんですよっていう話をして、えーっておっしゃってたけど。
それから、私2か月くらいそこに入ったのかな。ある時、じゃあ、今日パーマかけた いのって、(ボランティアが来る前に)先に行くから、玄関は鍵がかかってるけど、縁側 は開けてるからって。それでちょっと、ちょっとは分かってくださったんかなって。(中 略)]
同じく、G さんも活動の初期にボランティアの受け入れについて不安や戸惑いがある患 者・家族のこと(【事例⑧】)を語ってくれた。【事例⑧】のキさんの妹に対して、[活動の 初期には人をよせつけないような方だった]、[気難しいところもあって、最初のころは行 くたびにドキドキしながらね、気遣いをしながら正直話してました]と話していた。キさ んの妹は[いろんなボランティアを受け入れるのは無理。慣れた方が良い]と発言したこ とがあり、「手と手」では、新しいボランティアがキさんに対して活動することを控えてい た。しかし、Gさんはキさんや妹の変化について以下のように語っている。
Gさん:[家族さんも違ってきているし、本人さんも今とても表情が良いんですね。キさ んは、ご自分のことは自覚はしっかりされているんです。言葉にだしたりする表現はで きないんですけど、表情で読み取るしかないんですけど、以前は「こんにちは」言って もあまり反応がなかったんですが、今は、目を合わせて挨拶してくれるし、言葉という か、おーおーという声を出して、はっきり意味は聞き取れないんですけど、(中略)なん かを言おうしてることはわかります。この間、私が関わった時もそのようなことが何回 もあってですね。とても嬉しかったんですね。それとね。今日は寒かったのよ。という と、「うん」という表情を見せてくれている。このようなことを他のボランティアも味わ ってみてほしいな。]
以上の【事例⑥】と【事例⑧】では、患者・家族とボランティアの双方が活動の初期に 感じていた不慣れや緊張感が活動を重ねるなかで和らぎ、安心できる仲になってきたと考 えられる。
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考察
6.1
「同じ生活者としてふれ合い支える存在」としての在宅ホスピスボランティア
「手と手」の活動内容や在宅訪問活動の事例から、終末期にある人やその家族に、見守 りや傾聴などの切実なニーズがあることが確認された。また、終末期にある人に病気を患 っていても、障害を有していても、患者ではない生活者として楽しみたい、交わりたい、
何かに取りかかりたいという願いがあることが分かった。これらの生活支援ニーズや情緒 的ニーズなどは、公的支援・市場サービスでは対応できないことが多い。介護保険制度の もとで派遣されるヘルパーの活動は、サービス内容が標準化されており、さまざまな規制 下におかれている。医師や看護師も、限られた時間の中で、決められた業務に追われてい るというのが現実である。家族であっても、介護を優先して、細かい願いに対応しきれな
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い場合がある。一方、家族や友人は患者の疾病や治療に関心を寄せてしまい、少しでも病 気や苦痛とは無関係な関わりをもちたいと思う患者の願いとは裏腹に、患者と心配や気遣 いの関係になりがちである。
これに比べて、ボランティアは、患者や家族のニーズに合わせて、患者や家族の個々の 事情や物語を尊重しながら、細かなところまで何が必要であるか察し、対応することがで きる。それは、「手と手」のボランティア達の多くが身内の介護・看取り・死別の経験を有 しているため、患者・家族の心身の負担に関してより共感でき、さまざまな活動に積極的 に取り組んでいる可能性が高い。さらに、法律や制度に縛られていない任意活動であるた め、活動の時間や内容を柔軟に変更できる。また、素人であるがゆえに、患者や家族の生 活者としての楽しみや息抜きにつながる支援により重点をおくことができる。「手と手」は デイホスピスや在宅訪問活動を中心に活動しているが、デイホスピスの参加者が入院した りする時には、ボランティア達はお見舞いに行くこともあった。終末期にある人が亡くな ってからも、その家族に遺族会を紹介したり、養成講座に誘ったりして関係が継続するこ ともあった。
以上から、在宅ホスピスボランティアは、ボランティアならではの、素人・非専門職だ からこそできる「生活者同士として患者・家族とふれ合う存在」であると言えよう。加え て、在宅ホスピスボランティアが個別ニーズに対応し、同じ生活者としてかかわる中で得 られた心身の不調に関する情報、心境の変化、治療に関する本音などを、医療福祉専門職 と共有し、ホスピスケアの質の向上に一助していると考えられる。
6.2
「生と死を分かち合う仲間づくり」としての在宅ホスピスボランティア活動
「手と手」は、多様な活動を行っているが、一方では、自発性を尊重する任意活動であ るため、ボランティアの意思や力量によっては対応できない場合があった。具体的には、
ボランティアが活動を拒否した場合、活動を強いることはできなく、依頼があっても活動 を希望するボランティアがいない場合は対応に困る。実際にその場合にはリーダー達が引 き受け、過重な負担がかかることがあった。さらに、活動しているボランティアの大半は 60代以上であり、身体的負担も考慮せざるをえないため、現在夜間時や遠方からの依頼に 対しては対応していない。また、ボランティアには、終末期にある人や家族にかかわるこ と、特に在宅訪問活動に関しては、急変するリスクがあることを含めて、ハードルが高い 活動という認識があった。
以上の非専門職による任意活動としての限界や課題に対して、「手と手」のリーダーやコ ーディネーターのTワーカーは活動の任意性やボランティアの意思を尊重し、活動を強い ることを一切していなかった。むしろ、「手と手」では、患者や家族のためにだけ存在する 組織ととらえず、ボランティア達の居場所の提供、仲間づくりを「手と手」の重要な活動 として考えていた。それは、ボランティアの中に死別や介護の経験がある人が少なくない ため、ボランティア自らのグリーフワーク(悲嘆作業)として、「手と手」が発足されたこ とが背景にある。
さらに、「手と手」の活動は、患者や家族の癒しの時間になるだけでなく、ボランティア 同士の情報交換の場となったり、交流の場ともなったりしていた。例えば、デイホスピス は、経験が浅いボランティア達はデイホスピスで先輩のボランティアの言葉遣いやかかわ
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りの姿を見ながら、患者や家族にどのように接すれば良いかを学んだりする。そして、デ イホスピスでは、ボランティア達の分まで軽食が用意され、歌や楽器演奏もボランティア 達のみで準備するのではなく、医療福祉専門職、患者や家族が混じることもある。月例会 では、ボランティア達は活動を振り帰りながら活動時の戸惑いや疑問を打ち明け、互いの 考え方や対応策について意見を出し合ったり、今後の活動について話し合ったりするが、
月例会の前後にボランティア同士で、料理、健康、趣味などプライベートな話が絶えない。
以上から、「手と手」の活動は、生活支援サービスを提供しながら、「関係づくり」を追求 していることがわかる。すなわち、「手と手」は、組織運営や活動展開における限界や課題 を容認し、活動を特別な取り組みとして無理に広めようとせず、ささやかな営みとして日 常の一部とすることで、活動を続けてきたと考えられる。以上から現時点では在宅ホスピ スボランティアに、終末期にある人や家族に対する生活支援の担い手として大きな期待を 寄せることには限界があると考えられる。むしろ、ボランティア自身のグリーフワーク、
社会参加としての意味合いがあることを了解し、「生と死を分かち合う仲間づくり」として 位置づける方が適当ではないかと考える。