国際的視野における中国大学本科教育評価モデルの改革
張 暁鵬 (Zhang Xiaopeng) 復旦大学企業教育研究センター主任
1961年5月生まれ。1990年から中国比較教育学会理事。1996年から復旦大学日本研究センター研究員を兼務。
2002 ~ 2003年、東洋大学の交換研究員。2007年、九三学社上海市委員会委員兼文教委員会副主任、上海市教育評 価協会大学委員会秘書長に選任。2008年、教育部大学本科教育評価専門家として招聘。編著及び訳書は「教育と社 会の発展」、「中米日3国の高等教育比較研究」、「研究型大学の課程改革と教育革新」、「高等教育の経済分析と政策」
等多数。国内外の定期刊行物に中国語、英語、日本語で教育、経済等の分野に関する論文及び訳文200編余りを発表。
1997年以降、国家哲学社会科学・教育科学計画の重点課題「総合国力と教育の発展との関係についての研究」の責任者。
また、中国の「大学本科の教育の質と教育改革プログラム」における「大学本科教育活動分類評価案プロジェクト」
等多くの省庁・市レベルの課題研究に主要メンバーとして参加。当面の主な研究方向は高等教育評価、大学の課程と 教育、比較高等教育、教育政策・法規。
張 暁鵬
要旨:
本論文は、中国の大学本科教育評価改革の歴史、
現状及び問題点から説き起こし、現在世界で最も 影響力のある幾つかの高等教育評価モデルについ て比較分析を進め、最後に、個別事例を用い中国 の大学本科教育評価モデルの改革に対する自らの 見解を示すものである。
過去数年において、大学本科の教育評価は中国 の高等教育の発展に最も大きな影響を与えた出来 事であり、また、中国の高等教育界内外で最も論 争のあった出来事だと思われる。第1次の全国大 学本科教育評価作業が昨年9月に終了した。そし て第2次の評価作業が間もなく始まる。私は幸い にも中国の第2次大学本科教育評価プランの策定 に参加することができた。本論文では、中国の大 学本科教育評価改革の歴史、現状及び問題点から 説き起こし、その後、現在世界で最も影響力のあ る幾つかの高等教育評価モデルについて比較分析 を進め、最後に、個別事例を用い、中国の大学本 科教育評価モデルの改革に対する自らの見解を示 す。
一、中国の大学本科教育評価の歴史、現状及び問 題点
大学の教育活動全体に対する国家レベルでの評 価は、中国では1980年代に始まった。1985年の「教 育体制改革に関する党中央の決定」は、大学の運 営自主権拡大を強調すると同時に、「大学の学校 運営水準について定期的な評価を行う」よう求め た。同年、教育部は数校の工科系大学で評価の実 験作業を行った。
1990年、国家教育委員会は「普通大学教育評価 暫定規定」を公布し、高等教育評価の目的、意 義、原則及び評価手順・方法等についてかなり系 統的な規定を設けた。1994年、国家教育委員会は
1976年以降に新設された本科大学の教育活動に対 し、専門家による合格評価を実施することを決定 した。1995年公布の「中華人民共和国教育法」は 第24条で、「国は教育監督指導制度と学校及びそ の他教育機関に対する評価制度を実行する」と規 定している。1996年、国家教育委員会は国家重点 建設大学の教育活動に対する優秀評価作業に着手 した。1998年公布の「中華人民共和国高等教育法」
は第44条で、「大学の学校運営水準と教育の質は、
教育行政部門の監督とその組織による評価を受け 入れる」と規定している。1999年、教育部は新設 大学と国家重点建設大学の間にある大学の教育活 動に対し、無作為抽出評価を実施した。2002年、
教育部は合格評価、優秀評価、無作為抽出評価と いう3種類の評価方式を「教育活動水準評価」に 統一した。2003年末までに、全国の大学計296校 に対する教育活動評価が行われ、そのうち合格評 価は192校、優秀評価は16校、無作為抽出評価は 26校、水準評価62校であった。
2004年2月、中国教育部は「2003 〜 2007年教育 振興行動計画」を発表し、「大学教育の質保証シ ステムを整備し、その質に関する評価・コンサル ティング機関を確立し、5年を周期とする全国大 学教育質評価制度を実行する」との方針を打ち出 した。2004年8月、「教育部高等教育教学評価セン ター」が正式に発足した。これは中国の大学教育 評価作業が制度化、正規化、恒常化の軌道に乗っ たことを示している。中国は2008年9月に第1次の 大学本科教育評価作業を終え、589校の本科大学 が評価を受け入れ、1千人近くの教職員・学生が
「評価で建設を促す」活動に参加し、中国科学院 と中国工程院のアカデミー会員、有名大学の指導 者、国内外の著名学者を含む延べ6,000人の評価専 門家が学内を視察した。専門家は大学の教育基本 施設を系統的に視察し、10万点余りの学生の答案 用紙と卒業論文(デザイン)を審査・閲読し、3
万余コマの授業を参観した。また、大学の教育担 当部門と管理運営部門を1万回余り訪問し、各種 の座談会とセミナーを1万回近く開き、学生の基 本技能について6千回余りの試験を行った。こう した系統的な視察・評価活動を通じ、わが国の大 学運営の基本的状況、教育管理、教育レベルの内 情を総合的に分析・把握し、大学が教育活動の経 験を総括するのを手助けするとともに、教育活動 上の問題点を指摘し、教育活動を改善し、教育の 質を高めるための的確な意見・提案を述べた。
第1次の大学教育評価を通じ、全国の大学は教 育の質に対する意識を一様に高め、政府が主導し、
学校が自己評価し、専門家と教師・学生が共同参 画する評価制度が一応確立された。こうして高等 教育の質が基本的に確保され、中国の特色を持つ 高等教育質保証システムを構築するための強固な 基礎が築かれた。我々が2008年初めに華東、華中、
東北3地区の各種大学指導者、教務課又は評価事 務室の責任者、学部・学科の責任者、評価専門家、
著名学者等を対象として実施したアンケート調査
(計333件のアンケート用紙を配布し、263件の有 効アンケートを回収し、有効アンケートの回収率 は78.98%となる)によれば、第1次の大学本科教 育評価は、大学の適切な教育管理を促し(アンケー ト記入者の90.87%がこの質問項目にイエスと回 答。以下のカッコ内の数字はいずれもその割合を 示す)、大学の運営条件を改善し(66.15%)、大学 における本科教育の地位を高め(58.93%)、大学 運営の特色を打ち出し(57.79%)、大学運営の経 験を総括し(51.71%)、また、大学間の交流を促 進し、教育改革を深化させ、教職員の結束力を強 め、大学の文書管理を強化する等の面でかなり大 きな役割を果たした。
第1次教育評価で浮かび上がった問題点につい ても、重視しなければならない。例えば:
●同一の尺度で全ての大学を判断するのは、余り 公平でなく、大学の個性化、多様化にとっても 不利である(74.14%)
●評価結果の優秀率が高… 過ぎ、社会の一般的な 印象と開きがある(55.51%)
●評価は行政的色彩が濃く、大学は受け身の立場 で対処しており、学校運営の自主性にある程度 影響した(49.43%)
●評価のコストが高過ぎる(48.67%)
●「学生を中心とする」理念が体現されず、そ の学習の質に対する考察は深いものでない
(38.78%)
●社会各界の参画が少なく、「教育関係者だけ
で教育を評価する」現象がある程度見られる
(37.26%)
●評価内容が複雑過ぎる(34.60%)
●評価の指標は中立性に欠けるものが少なくない
(33.46%)
●評価の周期が杓子定規だ(全ての大学に対して 5年に1回実施)(29.66%)
●評価の「等級区分」は地方政府と一部の大学に 過大なプレッシャーをかけるものだ(20.15%)
全般的に見て、比較して言うなら、第1次の本 科教育活動水準評価はやはり肯定的な見方が主流 を占める(無論、我々は調査サンプルの限界を知 る必要がある。学生と社会各界については調査し ておらず、調査サンプルも第一線で働く教師の割 合が少ない)。一方、批判的な意見は「同一の尺 度で全ての大学を判断するのは、余り公平でなく、
大学の個性化、多様化にとっても不利である」、
「評価結果の優秀率が高過ぎ、社会の一般的な印 象と開きがある」の2点に主に集中している。存 在する問題点については、その表象と本質を区分 することに注意を払い、問題が生じた原因を真剣 に分析しなければならない。例えば、優秀率が高 過ぎる問題だが、これは制度設計面、即ち専門家 委員会の構成や審議手順・規則等の面に原因があ るだけでなく、技術設計面、即ち基準や評価方法 等にも原因がある。しかし、いずれにせよ、単一 の評価モデルと統一的な基準では大衆化された大 学の多様性に応えることができない。中国の大学 本科教育評価モデルを改革することは差し迫った ものとなっている。
中国は大学本科教育評価モデル改革の過程にお いて、無駄な回り道を避けるため、世界に目を向 け、国際的な経験を参考にし、多くの評価モデル の中から自国に適したモデルを選び、且つ国情と 結び付けて新たな特色を打ち出す必要がある。
二、世界の高等教育評価モデルの変遷及び3種類 のモデルの比較
大学がエリートだった時代、教育の質の評価は 主に学内の問題であり、大学が自ら責任を負って いた。しかし、大衆化の時代に入ると、大学は社 会の隅から社会の中心に出るようになり、教育の 質の問題はますます社会から注目され、学外から の評価が次第に浸透し、かつてない影響を及ぼす ようになった。1980年代以降、世界の高等教育は
「評価の時代」に入り、各国政府はいずれも高等 教育の評価を非常に重視しており、それを高等教 育管理を改善し、高等教育の質を確保するための