北極海に接続するベーリング海および北大西洋北部海域では、高い基礎生産量に支え られて豊富な水産資源が分布し、これを利用する商業漁業が活発に展開されている。以 下にその概要を記す。
(1) ノルウェー(ノルウェー海、バレンツ海)34
ノルウェーおよびロシアのバレンツ海沿岸のタラ及びニシン漁は、20 世紀に入って 漁獲技術の進歩と水産物需要の増大を背景に、漁獲量は大幅に増大、1970 年代には年 間300万トンに達した。しかし1970年代にはニシン資源が枯渇する。この漁獲減少は1960
33 The UNEP Large Marine Ecosystems Report, A perspective on changing condition in LMEs of the world’s Regional seas., UNEP Regional Seas Report and Studies No.182., 2008.
34 Arctic Council and the International Arctic Science Committee (IASC), Arctic Climate Impact Assessment ACIA Scientific Report, Chapter 13 Fisheries and Aquaculture, 2004.
年代から始まったカペリン漁の増大によって置き換えられた。1970 年代に入り、ノル ウェーはカペリン漁に資源管理を導入、その後ロシアもこれに同意し、TAC 制度が導 入された。カペリンに関しては、ニシンの幼魚とともにタラや海生哺乳類の重要な餌と なっていることにも注意が払われるようになった。
ノルウェーのニシン漁は1966年をピークに、乱獲のため資源は急速に崩壊・枯渇し た。その後TACの導入や数年間の禁漁措置が徹底され、90年代に入って資源は回復し、
2002年の漁獲は83万トンにまで回復した。
Polar cod(Boreogadus saida)はロシアとノルウェーによりトロール漁が行われ、1971年 には約35万トンが水揚げされたが、その後漁獲は減少し、ノルウェー漁船は撤退した。
タラ(Atlantic cod: Gadus morhua)のうち、北大西洋北部海域に分布するNortheast Arctic codは世界でも有数のタラ資源量を擁し、資源状態も良好と言われる。このタラ漁(北 緯62度以北のバレンツ海)はノルウェーとロシア両国によって資源管理されており、
国際海洋探査委員会(ICES)35の勧告に基づき、予防的アプローチのもと、ノルウェー・
ロシア漁業委員会によって年間漁獲許容量(TAC)が定められている。
グリーンランドハリバット漁は、1970年代初め、北緯72度~79度海域漁場の国際ト ロール漁によって漁獲が急増したものの、すぐに資源が激減した。1992 年以降は、船 長 28m 以下の漁船によるはえ縄漁および刺し網漁のみが許可されており、これ以外は 混獲規則が適用されている36。
バレンツ海とスバルバード海域のNorthern Prawn漁は1970年代に始まり、1974年に はロシアも参入した。漁獲は継続して増加し、1984年に12.8万トンに達した。資源量は、
タラによる捕食や漁獲圧によって変動している。操業の管理は、ロシア漁船とノルウェ ー漁船にはライセンス制度が適用され、スバルバード海域で操業する第3国漁船に対し ては、操業日数と漁船数が決められている。
(2) ロシア
ロシアは世界第8位の漁獲量(2008年、340万トン)を揚げており、2006年(330万ト ン)統計では、漁獲量の多い順にスケトウダラ(Alaska pollock、1,021千トン)、Blue whiting
(329千トン)、サケ(297千トン)、タイヘイヨウニシン(222千トン)、タイセイヨウダラ(208 千トン)などが主要魚種となっている。ロシアは、世界で最も多くタイヘイヨウニシンを 漁獲してきた。1999年の世界全体の漁獲量471,860トン中359,194トンをロシアが占めた(2 位はカナダで29,400トン)。しかし近年の過剰漁獲により、資源量は減少している。また ロシアは、1999年以降カペリンの漁獲を急速に増やし、2002年には251千トンを揚げた
35 ICES(国際海洋探査委員会)、北大西洋の海洋や生物の研究を推進する国際機関として1902 年設立。
36 The Norwegian Ministry of Fisheries and Coastal Affairs, Facts about stocks and species, Greenland Halibut, http://www.fisheries.no/ecosystems-and-stocks/marine_stocks/fish_stocks/greenland_halibut/, viewed on Nov.
2011.
が、その後2006年には2,200トンまで急速に減少した。
Polar cod(Boreogadus saida)については(1)において記述したとおりであるが、ロシアは 現在も漁を継続しており4万トン程度(2001年)が漁獲されている。
(3) グリーンランド
漁業・水産業はグリーンランドにおいて最も重要な産業であり、漁業・水産品が輸出 額のほとんど(95%)を占めるようになっている。これまでのところ、資源量に対して漁 獲圧力が余り高くないこと、および水産業の規模が大きくなかったことから、資源の変 動があっても、グリーンランドの水産業の緩やかな発展を阻害することはなかったと推 測されている37。グリーンランドの漁業は、地元の沿岸町村に住む漁業者が小型~中型 の漁船を用いて行っている沿岸漁業と、トロール船による沖合漁業により構成される。
トロール船による沖合漁業では、漁獲の25%以上をグリーンランドに水揚げしなければ ならない規則になっている。
2001 年時点で、グリーンランドの主要魚種は Northern Prawn38で全漁獲量の 50%強
(85,000トン程度)を占めた。このほか、グリーンランド・ハリバット 21,000 トン(1999
の40,000から減少)、カペリン18,600トンが主要魚種で、この3種で漁獲全体の75%を占 めている。
(4) アイスランド
アイスランド周辺には暖かい北大西洋海流が北上し、グリーンランド海域に比べて生 物種に富み、約25種が水産利用されている。多くの水産生物種はアイスランドの南お よび南西部沿岸で産卵する。なかでもカペリン資源が最も豊かで、カペリン漁はアイス ランドが200海里宣言した1977年を境に急増し、現在では最も多く漁獲されている魚 種となっている(1999年:世界全体904,840トン中の703,694トンを占めた。第2位はノル ウェーの92,567トン39)。
アイスランド近海のタラ漁は、1933年に52万トンのピークを迎えた後、世界大戦など にあって減少するが、1954年には再び55万トンのピークを迎えた。その後は、他の魚種 の漁獲が増大する中、漸減しながら現在に至っている。
グリーンランド・ハリバット漁は1960年代に始まり、当時ははえ縄漁、70年代以降 はオッタートロールで漁獲されている。Blue whiting(プタスダラ、ポタソウ)は1990 年代半ばに入って注目されるようになり、1984年に104トンであった漁獲は、1997年に
37 Arctic Council and the International Arctic Science Committee (IASC), Arctic Climate Impact Assessment (ACIA), Fisheries and Aquaculture, 13.3 Central North Atlantic – Iceland and Greenland, 2010.
38 日本では甘エビとしてグリーンランド、カナダ、アイスランド、ノルウェーなどから輸入している。
39 FAO Fisheries and Aquaculture Department, FAO Fish Finder, “Mallotus villosus”, viewed on Nov. 2011.
は10,000トン、2002 年には285,000 トンとなった。フィッシュミール原料のほか、フィレ として日本にも輸出されている。