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北東航路

ドキュメント内 日本北極海会議 報告書 (ページ 96-101)

4. 北極航路

4.3.2 北東航路

(1) 北東航路のルートと特徴

欧州とアジア間を結ぶ北東航路は、既存のスエズ運河ルートに比較して、距離が約 40%短縮、輸送日数も大きく短縮され、燃費削減、温室効果ガス排出量削減が期待され る(表4.3)。

表4.3 ロッテルダム港からの航路距離の比較(海里)

北東航路 スエズ運河ルート

ムルマンスク 1,630

カラゲイト海峡 2,153

ベーリング海峡 4,704

苫小牧 7,034 11,609

横浜 7,397 11,279

釜山 7,697 10,949

上海 8,257 10,568

北極海の最も大きな特徴は海氷の存在である。北東航路が総て海氷に覆われるのは 11月から4月までの約6カ月間である。沿岸では、1年氷に多年氷が混入しながら定着 氷を形成し、その外縁沖には流氷域が展開する。通常、夏期の6月~9月には海氷が融 解し、沿岸域には開水面が拡がる。ただし夏期においても海氷は存在し、特にラプテフ 海および東シベリア海で海氷勢力が強い。中でも、カラ海とラプテフ海の間のビルキツ キー海峡および、東シベリア海とチュクチ海の間のロング海峡付近は、夏期でも密接度 の高い海氷域が存在することが多い。また夏期には、北極海中央部からの多年氷や氷の 積み重なった氷丘を含む沿岸定着氷の残骸が大規模に集まって形成されるアイスマッ シフにも注意が必要である。アイスマッシフは毎年ほぼ同じ海域に形成されるため、航 路はこれを避けるように設定されている。

しかし2005年9月には航路全域にわたって月平均海氷密接度が0になるなど、近年 は夏期の海氷勢力減退傾向が顕著になっている。このほか、夏期の航海にあっては、波 浪は全般的静穏であるが、海霧の発生頻度は高い。

北東航路のもう一つの特徴は地形である。北東航路のルートは全般に大陸棚の浅海部 で、水深 20m を切る海域が多い。点在する沿岸港の多くは大河の河口域にあって、水 深は浅い。しかし現在整備されている海図は、制度・経済の混乱期にあった1990年代 に発行されたもので、その後は詳細な調査は行われていないため、情報の精度には注意 が必要である。また、大陸沿岸沖に存在する島嶼との間の海峡によって海域が区分され ている。これらの海峡は全般に狭隘で水深も浅いため、航路上の難所となっている。

図4.10 北東航路上の海峡16

(2) ロシアの氷海運航規則

氷海域である北極海を貨物船が運航するためには、氷海航行の安全および事故等によ る海洋汚染防止を目的に、各国の船級協会が定めている氷海船舶に関する船舶の構造や 設備に関する規則を満たさなくてはならない。この氷海船舶の船級(アイスクラス)は、

従来は個々の船級協会が別個に定めていたが、北極海における商業活動が活発化する様 相にあることを背景に、これをIMOの活動のもとに統一する作業が進められ、2002年 にガイドライン”Guidelines for Ships Operating in Arctic Ice-covered Waters(MSC/Circ. 1056-MEPC/Circ.399)”として策定された。このガイドラインと同時に国際船級協会で は、IMO と連携し、船体構造および機関等の建造規則に関する統一規則(Unified

Requirements)を作成した。その後、このガイドラインは南極海域を航行する船舶にま

で適用範 囲を 拡張し 、2010 年 、”Guidelines for Ships Operating in Polar Waters”

(A26/Res.1024)として策定された。この改訂作業においては、これをガイドラインでは

なく規則(Code)として策定することが議論されていたが、合意には至らなかった。しか

し2009年4月に開催された北極評議会において、規則化するべきとの勧告が採択され たことを受け”Code for Ships Operating in Polar Waters”策定を目指して、引き続きIMO においてCode化の作業が進められている。

今日における現実的な北極海ルートである北東航路はロシア EEZ 水域を通過してお り、これを通航する船舶に対してロシアは、国連海洋法条約234条を根拠に、北東航路 通航船の事前申請手続き、通航船の構造的要求、船員の氷海航行経験、航路管制、砕氷 船によるエスコート義務、刑罰などを規定した"Regulation for Navigation on the Seaway of

16 出典:北極海航路 -東アジアとヨーロッパを結ぶ最短の海の道-、シップ・アンド・オーシャン財団、

pp.67、2000.3

the Northern Sea Route"を制定した(1990年)。ロシアが定める北極海航路17を通航する 船舶は、この規定に従うことがロシア政府によって実質的に求められている。さらに 1996年には、”Guide to Navigating through the Northern Sea Route”を発行し、航路情報を 提供している。

この規則(ロシア国内法)では、4か月前に連邦の北極海航路局(ANSR)に北極海航路 通航に関する申請書を提出して航行許可を得なければならず、その前には中央船舶海洋 設計研究所CNIIMFによるIce Certificate等の証書を受けていなければならないなど、

実用的な商業運航には大きな障壁がある。また北極海航路通航のためには砕氷船のエス コートのためなどを理由とする課金が求められ、航行申請の都度 ANSR によって決め られ、費用システムは不透明である。このように、国際的海運市場にそぐわない制度を 改善するため、ロシア連邦運輸省より「北極海航路(NSR)法」および「北極海航路海 域において商業航海を行う国家による相互調整に関する、ロシア連邦の法律の変更に関 する法律」が立案され内容が公開された。しかし法案が成立するかどうか不透明な状態 が長く続いており、法案通過・成立の見通しは立っていない18

(3) 砕氷船エスコート

実際の商船の運航方法においては、氷海商船が単独で航行する場合と、氷況が厳しく 単独航行では遅延または航行不能となる可能性のある場合に、砕氷船のエスコートを受 けて航行する方法がある。砕氷船エスコート方式では、砕氷船が先頭となって水路を切 り開き、そのあとを後続の船舶が航行する。商船は複数が砕氷船とともに船団を組むこ とができるが、氷況が厳しいほど運航可能な商船の数は少なくなる。また複数の砕氷船 がエスコートにあたる場合もある。

図4.11 氷海の航行形態(左:単独、右:砕氷船支援)

氷海中の航行では、船幅も重要な要素となる。現在北極海航路に就航している原子力 砕氷船の船幅は28~29m となっている。したがってパナマックス級(船幅 32.3m)以上の

17 カラゲートからベーリング海峡の区間。カラゲートの西側のバレンツ海は北極海航路とは規定されてい ない。18 平成22年度 日本北極海会議報告書、海洋政策研究財団、2011.3.

出典:北極評議会レポート AMSA2009

貨物船では、エスコート船の船幅を上回っており、本格的な氷海では肩部より後部船体 と海氷との接触が生じ、船体には氷力や抵抗が発生するおそれがあり、実質的にエスコ ートが不可能である。2010 年以降、パナマックス級、スエズマックス級の貨物船が航 行しているのは、夏期海氷勢力が大きく減退していることが背景となっている。

(4) 砕氷船の更新問題

ロシアにおいて、北極海航路を航行する船舶支援のための砕氷船団を管理・運航して いるのは国営企業ROSATOM FLOT社である。これまでに9隻の原子力砕氷船が建造さ れたが、多くは退役し、現時点ではArktica級3隻が活動している。稼働している船は いずれも、ロシア砕氷船の船齢である10万時間を越えているにもかかわらず、更新は 遅れている。このため、船齢を15 万時間まで延長する対策が講じられているところで ある。また河川用の喫水の浅い砕氷船は20 万時間まで延長対策がとられている。延命 策が講じられているにしても、その後の砕氷船更新がどうなるか、懸念されている。

これに対し次世代の原子力砕氷船については、新型原子炉(RITH-200)を搭載し (60MW)、河口域と北極海航路を兼用するため喫水が-8.55mと-10.5mの2通りに変える ことが出来るなど、多目的船として検討が行われている。しかし、依然として建造が計 画通りに進むかどうかは不透明である。

表5. 4 ロシアの原子力砕氷船 船 名 就航 概 要

NS 50 Let Pobedy 1993 Arktika級25、840ton、159.6m×28m、喫水11.08m、船級 LL1、3×17.6MW

Yamal 1992 Arktika級23、455ton、150m×28m、喫水11.08m、55.3MW Taymyr 1989 Taymyr級、河口域用。151.8m×29.2m、喫水8.1m、35MW Vaigach 1990 Taymyr級、河口域用

(5) 北東航路による国際海上貨物輸送の動向

北東航路による貨物量は1960年代以降増大を続け、1987年には660 万トンに達した。

しかしその後は政治体制の混乱や経済危機などのために激減し、1960 年代水準の 200 万トン弱で推移してきた。旧ソ連時代における貨物量の増大は、ノリリスクのニッケル、

銅、希少金属また、西部の油、ガスさらに東部の非鉄金属、材木等が担ってきた。しか しトランジット貨物はわずかで90年代初期に20万トン程度に達したのがピークで、以降 は減少、低迷している。

一方、ノリリスクからの貨物は2000年代に入っても依然として主要な貨物の座を守 り、現在も北東航路を利用する代表的な貨物となっている。エニセイ川下流のドゥディ ンカ港はノリリスクニッケル社の輸送拠点であり、近年はムルマンスクとの間で通年で

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