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北極海航路の展望

ドキュメント内 日本北極海会議 報告書 (ページ 103-109)

4. 北極航路

4.4.3 北極海航路の展望

(1) 近年の北極海航路貨物輸送

2009 年からかなり本格的な商業利用の動きを見せ始めた北極海航路による欧州・ア ジア間輸送は、ノルウェー・ロシア国境付近で産出される鉄鉱石と、ノバテク社によっ てヤマル半島で産出され、鉄道でビチムに運ばれたガスコンデンセートが主体となって いる。

従来、ロシア北極海での天然資源開発は進んでおらず、これら資源が北極海航路西側 からアジアに運ばれる貨物として話題になることはなかった。また、ロシア政府の従来 の政策では、ティマンペチョラ地域や西シベリア地域で産出された油ガスの輸送は、国 有企業が事業を行うパイプラインと鉄道が主体であった。加えて、民間資本の開発活動 には制限があった。

しかし近年、ロシア政府の政策支援を受けて、ノバテク社がパイプラインによる輸送 ではなく海上による輸送を想定したヤマル半島の天然ガス開発を進めている。同時に同

社は、海外市場に向けて積極的な事業展開をはかり、ビチムにコンデンセート積み出し 基地を建設し海上からの積み出し体制を整えた。また、ティマンペチョラでも、海外資 本を導入した油田開発により、沖合原油積み出し基地が完成、稼働に至っている。こう して、ロシア北極海の西側において、エネルギー資源の海上積み出し体制が整ったこと が、北極海航路による東西輸送が本格化する様相を呈している背景のひとつとなってい ると考えられる。

またノルウェーのキルケネスでは、Tschudi Shipping社が鉄鉱石の休鉱山を買い取り、

生産を開始した。その背景には、北極海に夏期海氷勢力が減退して航行条件が良化して いること、およびアジア向けの輸出ビジネスの可能性を認めたことが背景にあると推察 される。

生産するものがあり、かつ、中国を筆頭に東アジア諸国の資源・エネルギー需要は強 く、またその価格も高騰しているという、市場における背景がある。船社においては、

近年の燃料費高騰により、既存航路の運航コスト上昇が大きな問題となっている。さら には、既存のスエズ運河ルートの海賊問題や政情不安から、資源・エネルギー調達およ び輸送ルートの多様化も、非資源国や需要国の大きな関心事である。すなわち、アジア の需要増大とエネルギー・資源価格の高騰、ロシア北極海西側でのエネルギー資源生 産・海上輸出体制の整備、北極海の海氷勢力減退による航行条件の向上というプラスの 条件が時期を合わせたことから、経済性が高まり、バレンツ海・カラ海から東アジアへ 向かう北極海航路を利用した天然資源の海上輸送の実現につながったものと考えられ る。

図4. 16 北極海航路と貨物 LNG LNG

コンテナ 石油

コンデンセート

コンデンセート コンテナ

鉄鉱石 鉄鉱石

コンテナ

(2) 北極海航路のポテンシャル

2011年は既述したように34航海、82万トンの貨物が輸送され、うち68.2万トンはガスコ ンデンセートであった。2012 年は、砕氷船支援の予約がさらに増大している模様で、

その主たる貨物は同じくガスコンデンセートであると予想される21

ロシア北極海における資源開発の中で、最も近い将来に生産が始まる可能性の高いプ ロジェクトとして、ヤマル半島のLNG開発が注目されている。当該プロジェクトでは、

ロシアではサハリン2に次ぐLNG開発となり、ターゲットとする市場は海外である。

この中には、北極海航路を通じて東アジア市場への輸出も想定されている。すでに氷海 LNGタンカーの概念設計が行われ、2012年には入札を計画していると報じられている。

シェールガスの生産が活発化している中で、ヤマル半島LNGが、既存のLNG市場の中 でどのような評価を受け、需要を獲得するか不透明ではあるが、開発側の見通しはポジ ティブである。

2011年の北極海航路輸送で新たに始まったこととして、西向き貨物も輸送されたこと がある。内容は、カムチャツカ発ムルマンスク向けの冷凍サケおよび、韓国発フランス 向けのジェット燃料であった。2010 年までは東向きバルク貨物のみで、傭船され貨物 船はそのまま太平洋海域で次の輸送に配船されていたが、上記のジェット燃料輸送は、

ガスコンデンセートを輸送した帰りの復路として北極海航路を航行した。このように、

多様な傭船、輸送にも利用できる可能性が示された。

今日、ドライバルク貨物の1/4、価格ベースでは 7割をコンテナが占めている。バル ク輸送の商業運航が実現した次には、北極海航路を利用したコンテナ輸送が大きな関心 事になると考えられる。定時性が求められるコンテナ輸送では、定期航路を運航し、北 極海航路を通じた東西両端(すなわち欧州および東アジア)のハブ港で、仕向け地・貨 物発地へのフィーダー輸送網が運航されることが必須である。欧州では北部に集まって いる先進国が物流においても中心となっており、ロッテルダムやハンブルグ等のメガハ ブ港、あるいは、より北に位置するノルウェーの港湾などが、北極海航路の欧州側のハ ブとして候補になるであろう。一方アジアにおいては、ベーリング海峡から距離がある ため、少しでも高緯度にあって、かつフィーダー機能を有する港湾にハブを設けること で、氷海船舶の航行距離を短縮し、年間の運航スケジュールを効率化することが合理的 である。津軽海峡を通行するパターンでは苫小牧港や釜山港、太平洋を通航するパター ンでは我が国の太平洋岸のコンテナ港が候補になるであろう22

なお、運航速度が海氷のために低下し、不確定要因の大きな冬期運航は、当面は現実 的ではない。また、基幹航路に就航している5000TEUを越えるような大型船を想定す るのではなく、貨物量にあった適切な規模かつ経済合理性のあるコンテナ船による運航

21 このほか、2012年夏に、スノービット産LNGを北極海航路を通じて日本へ輸送する計画が報道されて いる。http://www.skipsrevyen.no/nyheter/136248.html、2012.2 閲覧。

22 東アジアからNSR入口のベーリング海峡に向かう航路はいずれも日本近海を通航する。特に香港・上 海・シンセン・釜山港からの船は津軽海峡を通ることが多い。

が現実的であると考えられる。この点で、北極海航路によるコンテナ輸送が実現したと しても、即座に基幹航路を脅かすようになる可能性は低く、輸送日数短縮が必要な貨物、

または絶対に海賊被害等を受けてはならない貨物の輸送や高緯度地域への輸送など、北 極海航路の優位点を重視した貨物を中心とした輸送から始まるのが現実的と考えられ る。

こうした貨物需要の視点のほか、チョークポイント問題が本当に深刻化した場合など に備えて、基幹航路に問題が発生した場合の代替航路として何時でも対応できるように、

平時からある程度の貨物輸送を実施しておくとの観点からも動機となる可能性がある。

(3) 課題

① 北極海航路の経済合理性

北極海航路の商業運航が本格化するプロセスは、ノルウェーからの鉄鉱石やロシアか らのガスコンデンセートやLNG等のアジアへの資源輸送の拡大に始まって、実績の積 み重ねを通じて経済性、輸送品質、安全性等の課題の解決をはかりながら進展するもの と予想される。その進展をみながら、コンテナ輸送が次の関心事になるであろう。

この北極海航路が商業航路として成立するためには、国際物流ネットワークの中で経 済合理性を持つか、あるいは優位性を市場が認めることが必要である。バルク、コンテ ナ貨物ともに、世界的な物流ネットワークのなかで、既存の基幹ルートと競合するので はなく、北極海航路の優位点を活用して特色有る輸送ルートを提供することで、我が国 だけでなく東アジア等の関連する地域の振興や、物流の安定・安全保障を指向すること も必要であろう。

また、ロシアが施行する北極海航路法により、通航船はIce Certificateを取得する必 要があり、4か月前まで運航申請行う必要がある。加えて通航料の算定基準が不透明で あることなど、国際的な商業航路として運航するために障害となっている部分がある。

通航料を課料する正当性にも、国際法上の疑問が指摘されている。

さらに、北極海の海氷勢力が経済合理性を左右する大きな要因である。今後の北極海 の海氷勢力の動向がより確実に把握されるようになれば、経済性評価・予測の現実性を 高めることが可能となる。

② 北極海航路のインフラ

カラゲイトからベーリング海峡の間2,550NMの間に散在する既存の港湾は、いずれ も水深が浅く、施設は老朽化しており、今後の本格的な商業運航が始まった場合には、

救難、修理、避難を受け入れるには十分とは言えない状態にある。

また、航路に複数存在する海峡では、安全な水深を有する航路を表示する航路標の老朽 化や機能逸失も指摘されている。加えて、現在使われている海図は 1990 年代に発行され たものであり、ロシアの関係者からは、その正確性に問題があることが指摘されている。

ドキュメント内 日本北極海会議 報告書 (ページ 103-109)