• 検索結果がありません。

公共事業批判について

ドキュメント内 Microsoft Word - ②62号はじめに.docx (ページ 60-70)

1.3 建設投資の経済効果

1.3.1 公共事業批判について

( 1 ) 財政再建の観点

公共事業批判の根拠としてまず挙げられるのは、財政赤字が一段と拡大し、財政健全化 に悪影響が及ぶという批判である。図表1-3-1はマスコミでも頻繁に引用される政府債務残 高(対GDP比)の国際比較である。日本は2006年、2007年を除き、ほぼ一貫して比率の 増加が続いており、2012年には219%に達している。アメリカ106%、イタリア140%、ギ

リシャ166%という中で、GDP比で2倍を超えているのは先進国では日本だけである。

図表1-3-1 政府債務残高の推移(対GDP比)

153 158 166 170 167 162 171

189 193

211 219

0 50 100 150 200 250

02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

フランス ドイツ ギリシャ イタリア 日本 韓国 スウェーデン イギリス アメリカ (%)

(暦年)

(出典)OECD Economic Outlook 201311

また、図表1-3-2は政府債務残高(対GDP比)の長期推移であるが、2010年度の水準は 太平洋戦争末期と同水準であり、歴史的に見ても高水準にあると言える。

図表1-3-2 政府債務残高の名目GDPに対する推移

(出典)財務省「社会保障・税一体改革について」

ただし、我が国政府は多額の金融資産(国民の保険料からなる年金積立金等)も保有し ており、先ほどのグロスの債務残高から政府保有金融資産を差し引いたネットの純負債の 対GDP比で国際比較したのが図表1-3-3である。ネットの純負債の対GDP比で比べると

日本は136%とイタリア、ギリシャと同レベルまでに低下している。過大な印象を与えるグ

ロス表示よりは少なくなるとはいえ、財政状況が厳しいことには変わりはない。

図表1-3-3 政府債務残高(純負債)の推移(対GDP比)

74 78 82 82 81 80 95 106 113

127 136

‐50 0 50 100 150 200

02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

フランス ドイツ ギリシャ イタリア 日本 韓国 スウェーデン イギリス アメリカ (%)

(暦年)

(出典)OECD Economic Outlook 201311

ただし、財政状況からの公共事業批判については、負債の性格を考える必要がある。

まず、図表1-3-4は国の貸借対照表(2009年度末)であるが、日本政府は184.5兆円の 有形固定資産(道路、堤防、空港等)を保有している。これらの資産は公共事業の結果と して保有しているわけであり、使用価値が長期間にわたって発現されるからこそ建設国債 の発行が認められている。資産の裏付けのある建設国債と赤字国債とは性格が全く異なる のである。

公共用財産については、有価証券等と異なり収益を生まないため買い手がおらず、売却 の対象とはならないのでネットの債務残高を算出する際に考慮しないとする考え方もある が、実際に売買の実績がないため評価が難しいだけであって、経済活動や人々の生活を支 えるインフラに価値があることは間違いない。

図表1-3-4 国の貸借対照表(2009年度末)

(出典)財務省ウェブサイト

また、財政赤字の拡大の原因を公共事業とする見方もあるが、図表1-3-5に見られるとお り、公債残高の過半は特例公債(赤字国債)であり、過去15年間の残高急増の原因は赤字 国債によることは明らかである。

図表1-3-5 公債残高の推移(その1)

(出典)財務省資料

さらに、図表1-3-5を見て気づくのは、赤字国債が急増しているのは明らかであるが、4 条公債(建設国債)はどうだったのかよく分からない点である。そこで両者の上下を逆転 させたのが図表1-3-6であるが、これを見ると、建設国債残高は最近10年でほぼ横ばいで あることがわかる。つまり、建設国債は既にコントロール下にあり、我が国財政の真の問 題は、拡大する一方の赤字国債、つまり医療・年金・福祉関係予算にあることが推察され るのである。

図表1-3-6 公債残高の推移(その2)

0 100 200 300 400 500 600 700 800

昭5 昭5 昭5 昭5 昭5 昭5 昭5 昭5 昭5 昭5 昭6 昭6 昭6 昭6 平元 平2 平3 平4 平5 平6 平7 平8 平9 平1 平1 平1 平1 平1 平1 平1 平1 平1 平1 平2 平2 平2 平2 平2 平2

建設国債 赤字国債 復興国債

建設国債 赤字国債

(兆円)

復興国債

(出典)財務省資料より建設経済研究所で作成

以上見てきたように、グロスで見てもネットで見ても日本の財政は厳しい状況にあり、

今後、年金、医療関係費が膨張することから、あらゆる支出について厳しい視線が向けら れるのはやむをえないとしても、公共事業悪玉論は誤った議論なのである。

( 2 ) 地方に対するバラマキ批判

次の批判は、景気対策の位置付けで行われる公共事業は、投資額を重視するため、早期 に事業を実施しやすい地方圏に対するばらまきとなりがちであるといった意見である。

図表1-3-7は公的固定資本形成の都市圏、地方圏割合の長期推移である。図表に示される ように1955年にはほぼ4:6であった公共投資の大都市圏と地方圏の比率は、1960 年に「国 民所得倍増計画」が策定され、高度成長を実現するために大都市圏の産業基盤の社会資本 に優先的に投資することが明示された結果、1966年にはほぼ5:5にまで縮小している。

その後1972年に「日本列島改造論」が発表され、地方圏への公共投資の配分割合が増加 し、地方圏にもある程度の産業、生活基盤が整備されたことで 1978 年には 4:6 と 1955 年当時の比率にまで戻っている。それ以降の大都市圏と地方圏の比率は、ブレはあるもの の概ね 4:6 で推移しており、地域間の配分比率はあまり変化がない事が分かる。1990 年 代に焦点を当てると1990年には4.3:5.7であった大都市圏と地方圏の比率は1999年には

3.7:6.3 と地方圏の比率は確かに上昇しているが、かつて程の上昇幅はみられず、ここか

らは地方圏に対してバラマキ的な投資を行った様子は見られない。

図表1-3-7 公的固定資本形成の都市圏、地方圏割合の長期推移

1955 37%

1966 50%

1978年 40%

1955年 63%

1966年 50%

1978年 60%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

1955 1956 1957 1958 1959 1960 1961 1962 1963 1964 1965 1966 1967 1968 1969 1970 1971 1972 1973 1974 1975 1976 1977 1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010

3大都市圏 東京圏 名古屋圏 関西圏 地方圏

(%)

(年度) 1990年代

地方圏

3大都市圏

東京圏

関西圏

名古屋圏

(出典)内閣府「県民経済計算」

では、90 年代に進められた公共事業はどのような経済効果をもたらしたのであろうか。

図表1-3-8は1992、1995、1998、2001年度の4ヵ年度について実質県内総支出の前年度

比伸び率への公的総固定資本形成の寄与度を地域ブロック別に表したものである。これに よると、北海道、東北、四国、九州といった地方圏では公的総固定資本形成の寄与度が大 きいことが分かり、公共事業は縮小する需要を補い、短期的に地方経済を下支えしたと言 える。一方、関東、中部、近畿のような大都市圏についても公的総固定資本形成はプラス サイドに寄与した年もあり、地方圏だけでなく大都市圏も公共事業による恩恵を受けてい る。

図表1-3-8 実質県内総支出前年比伸び率への寄与度

‐5.0%

‐4.0%

‐3.0%

‐2.0%

‐1.0%

0.0%

1.0%

2.0%

3.0%

4.0%

5.0%

6.0%

北海 東北 関東 中部 近畿 中国 四国 九州 北海 東北 関東 中部 近畿 中国 四国 九州 北海 東北 関東 中部 近畿 中国 四国 九州 北海 東北 関東 中部 近畿 中国 四国 九州

1992年度 1995年度 1998年度 2001年度

民間最終消費支出 政府最終消費支出 民間総固定資本形成 公的総固定資本形成 在庫品増加

(%)

(出典)内閣府「県民経済計算」

このように、公共事業は地方圏に対するバラマキであったとは必ずしも言えず、短期的 には地方圏だけではなく、大都市圏も含めた日本全体の経済活性化に寄与してきたことが 分かる。しかしながら、公共事業は長期的な視点で見ると必ずしも地方圏の成長に繋がっ ていないとの指摘もある。特に、1990年代以降、景気対策の位置付けで実施された公共事 業は、効果がすぐに発現する事業が優先され、長期的な視点で見た際に真に価値のあるイ ンフラを整備できたのかどうかは検証すべき余地がある。

図表1-3-9は縦軸に10年間(2001年度~2011年度)の「都道府県平均名目成長率」、横 軸に「一人当たり生産基盤社会資本投資額(道路含む)」1を取った相関図であるが、グラフ は右肩下がりとなっている。つまり、実際には人口一人当たりの生産基盤投資額の多い都 道府県ほど、2001年以降の成長率が低い傾向にあり、一人当たりの生産基盤投資額が多い 地方圏の県は総じて過去10年間の成長率が低いことがわかる。都市の集積メリットという 観点から、これは当然の結果であるとも言える。

図表1-3-9 一人当たり生産基盤社会資本投資額と都道府県成長率

(出典)日本総研『インフラ投資の質的転換:ばらまきから「成長の核」へ』

以上のように、90 年代にとられた公共投資拡大政策には特に地方圏への配分比率を高め た様子は見られず、短期的には地方圏だけでなく、日本全体の経済成長に寄与していたと 言える。地方圏に対する公共投資は大都市圏のそれに比べると生産性の向上や経済の活性 化という面では効果が小さくなるのは致し方ないが、公共投資の効果は生産性の向上とい った尺度で測るだけでは不十分であり、例えば東日本大震災において三陸貫通自動車道が 命の道として、住民避難や復旧のための緊急輸送路として機能したように、防災性の向上 といった効果があることも考慮しなければならない。

1 公共投資は、国民の生活環境を改善するものと、企業などの生産性を高めるためのものがある。上下 水道や公園などは前者であり、生活基盤社会資本と呼ぶ。空港や港湾、農地の基盤整備などは後者に あたり、生産基盤社会資本と呼ぶことにする。新設投資額の約 3 割を占める道路整備については、そ の中間的色彩が強い。

ドキュメント内 Microsoft Word - ②62号はじめに.docx (ページ 60-70)