• 検索結果がありません。

中国における独立取締役の先行研究 中国における独立取締役の理論的背景

中国における独立取締役の理論的背景

アメリカの経済学者Berle と Means[4][5]は,委託代理理論を提案し,委託代理理論が独立取締役制度の前 提であることを提案した(図 3-2).同理論によれば,生産の拡大と現代企業の発展に伴い,会社の所有権 と管理権の分離により,会社の所有者は会社の具体的な経営管理を職業マネージャに委ね,残余請求権を自 分が保持することで,会社の株主と職業マネージャ間の委託代理関係が形成される.Berle と Meansは,近代

年 部門 規定の名前 内容

1997 年末 中国証券監督管理委員 会

「上場企業のガイ ドライン」

独立取締役を設置す ることを認めた

1999 年

国家経済貿易委員会と 中国証券監督管理委員 会

「標準化された事 業のさらなる推進 と海外上場企業の 改革の深化に関す る意見」

独立取締役制度の枠 組みに確立された

2001 年 中国証券監督管理委員

会 「指導意見」

独立取締役制度は正 式に中国で確立され た

2006 年 全国人民会議の常任委

員会 「会社法」 法的に独立取締役制

度が確立された

2007 年 中国証券監督管理委員 会

「上場企業におけ る独立取締役制度 の確立に関する基 本的な意見」

独立取締役の概念を 定義した

63

的な会社の発展に伴い,会社の所有権と管理権が徐々に分離され,株主と職業マネージャ間の経済的対立の 問題が現れると考える.中国の上場企業における少数の大株主による決定を回避するために,独立取締役制 度が確立されている.中小株主を保護するためものである.

図 3-2 独立取締役,株主,職業マネージャの関係 出所:筆者作成

Freeman[5]は委託代理理論,権利移転理論と利害関係者理論が独立取締役制度の出現と発展のために理論 的基礎を築いた.提唱した利害関係者の理論は,会社の残余請求権が株主に帰属すると主張する委託代理理 論とは異なる.すなわち,会社は完全に株主全体に帰属するものではなく,すべての利害関係者のものであ り,会社の追求は単に株主側の利益だけでなく,各利害関係者の全体利益であり,会社の残余請求権は株主 が独占するのではなく,各利害関係者が共有すべきものである.

利害関係者は会社の生産発展において自分の資源を投入したり,会社のリスクを負担したり,または企業 に対する管理監督をしたりしているので,彼らも会社の管理権を取得し利益を得るべきだと主張している.

利害関係者には,会社の日常的な経営と連携するベンダー,消費者,会社の株主と債権者も含まれ,同時に 会社の従業員も利害関係者の範疇に入る.

中国における独立取締役の監督機能

劉[6]によると,一般的な中国企業の管理は,主に同社の株主総会,取締役会および経営陣の三者である.

取締役会が中心にあり,株主総会の代理人と経営陣の依頼人として,取締役会の管理運営は会社の利益と株 主の利益に直結する最高の統制システムであり,監督機関でもある.取締役会の大株主は,投資,成長,負 債比率,報酬などの会社の重要決定に影響を与える.これらの影響は主に取締役人選の決定,会社の政策変 化の票決などを通じて示される.

中国の上場企業の取締役会は先進国の経験に基づいており,本質的には独立取締役と内部取締役に分ける ことができる.2003年以降,上場企業には少なくとも3分の1の独立取締役を置くよう求めている.しか し,中国の上場企業の取締役会は先進国の取締役会とはかなり異なっており,特に多くの国有持株会社で

64

は,取締役の選任も政治的な選任であり,取締役会の運営方法を知らないこともあり,取締役会のインセン ティブと監督役割は明らかではない.

中国では,独立取締役の指名権は基本的に株主の支配下にあり,現代企業理論と財産権理論によれば,財 産権の性質がコーポレート・ガバナンス構造の有効性を決定するという.したがって,財産権の性質の違い は,独立取締役の選任の違いにもつながり,それがまた異なる規制効果につながる.

評判仮説(独立取締役が監督上の任務を果たすことに失敗した場合,その評判は損なわれ,将来の他社へ の独立取締役の転職に影響を及ぼすこと.独立取締役の職務を遂行するための重要な理論的基礎である)

は,独立取締役が金融詐欺訴訟に関与していることを発見された場合,他社と比較した場合に独立取締役の 地位が大幅に低下することになる.中国制度の背景では,独立取締役は法的リスクまたは評判リスクを回避 する理論によって監督する.しかし,独立取締役が規制上の役割を果たす能力についても疑問視されてい る.これは,主に独立取締役が経営陣によって採用されているためである.

中国における独立取締役の現状

日本の研究者江川[7] によると,アメリカではエンロン事件[注2] のように企業から便宜を受けて独立性を 失ってしまうという問題が表面化した.そのため,社外取締役よりも独立性が高く,企業監査に長けた者を 独立取締役として取締役会に迎え入れる動きが近年,生じてきている.アメリカでは企業の監査委員会は全 て独立取締役でなければならないという厳しい規定がある.対して,中国では独立取締役の導入は遅れてお り,社外取締役が主流である.取締役会については,海外(特に米国)企業を対象とした豊富な研究の蓄積 があり,社外取締役の機能には主に「監督(モニタリング)」と「助言(アドバイス)」があるとされてい る.監督機能の理論的根拠であるエージェンシー理論によれば,取締役会の役割は,経営陣による私的便益 の追求やモラルハザードを防ぎ,株主の利益を保護することである.監督機能に関わる実証研究は,社外取 締役の導入により企業価値,業績,経営者交代が増えるなど,社外取締役の有用性を示すものが多い.日本 企業に関する研究でも,社外取締役は企業価値を高めると報告されている.

朱[3] によれば,近年,中国においても西側諸国においても取締役会が弱体化している.理由として,取締 役会の構成員の大多数が直接会社経営を担当していないことが挙げられる.そのために独立取締役を導入す ることは,中国においても監督機能の強化として期待される.

現行法では監査役会も,社外監査制度を利用した監督機能の強化といったアプローチがあるため,企業内 部権限に対する牽制効果があり,独立取締役の不要論も存在するものの,それでも独立取締役導入の効果が 期待されている.以下に独立取締役と監査役(社外監査役),の違いについて触れながら期待される役割を 詳説する.

第一に,独立取締役は,事前または即時の監督を行う一方,監査役は事後の監督を行うため,期待される 役割が異なる.独立取締役は取締役会に参加し,取締役会の決議を監督することができる.問題があった際 にはすぐに権限を行使することができる.

第二に,独立取締役は多くの場合,一定の専門知識を有していることから,専門知識を活かした監査がで きる.会社の意思決定に関わる議決権や意見の陳述権を用いて有効に監督ができること,独立取締役は適法 性監査と妥当性監査を行うにあたり,独立取締役個人の専門性を活かした経営の意思決定参加ができ,意思 決定の合理性や透明性の向上に寄与できることが挙げられる.

第三に,独立取締役は経営者の任免に直接的な影響力を持つため,経営者に対する監督が可能である.

以上から,独立取締役制度を導入することは,中国におけるコーポレート・ガバナンスでも有効であると いえる.しかし,朱[3] はその制度が十分に機能するかは,制度的な基礎的条件が整っているかにかかってい

65

るという.制度的な基礎的条件とは「1:取締役の責任規定をできる限り細分化する必要がある.2:違法行 為に対しては必ず責任を追及し,法律の執行を厳しくしなければならない.3:取締役の責任保険制度を導 入するべきである.」独立取締役を含めた取締役が権限を濫用し,会社に重大な損害をもたらすならば,会 社および利害関係のある者に対して損害賠償をなすべきである.

監督機能が低下し得る状況

非国営企業では,役員会の監督メカニズムが優れた役割を果たしている.また,異なるタイプの株主が主 導する会社で,独立取締役の選任に違いがあり,家族がコントロールする企業の独立取締役選任の主な目的 は,専門的な戦略的発展提案の獲得であり,管理監督者の役割を重視しないため,結果として監督役割の弱 体化を引き起こす可能性がある.さらに,家族企業では,家族構成員は独立取締役を選任および解任する権 限を持っているため,独立取締役は,取締役会の支配権を持っている家族構成員の意見に反対しない可能性 がある[6].

監督機能と報酬の関係性

中国における独立取締役の企業調査では次のような仮定がある[8].①独立取締役が家庭上場企業の家族役 員に対する給与レベルの役割が国有上場企業の役員給与レベルより低いと仮定する;②独立取締役は,家庭 上場企業の家族役員の報酬業績に対する感度が,国有上場企業の役員報酬業績の感度より低い.選択された データは主に2009年から2010年にかけて492の家庭上場企業と521の国営上場企業から得られたものであ り,仮定1から出されたデータは,役員報酬(lnpay)と独立取締役の独立性(outdirector)との関係であり,関係が 顕著であり,独立取締役の独立性が高いほど役員報酬が高いことを示している.しかし,共通項である

family・outdirectorと役員報酬との関係は依然として正の相関であり,国有企業に比べて,家族企業の独立取

締役は,役員(家族役員)の給与レベルに対する監督の役割を果たしにくいことを示している.仮定2から出 されたデータは,交差項に対してoutdirector・roaと役員賃金(lnpay) と正の相関があり,独立理事役員が役員 報酬の業績敏感性を高めることができると示唆しているが,交差項family・outdirector roaと役員賃金(lnpay) と 負の相関があり,国有企業と比べると,家族企業の独立取締役員が役員報酬の支配役割が弱いことを示唆し ている.すなわち,独立取締役は,外部の中小株主の利益を保護する監督メカニズムとして,国有企業に比 べて,家族企業の独立取締役は,役員(家族役員)に対する報酬管理の役割がより制限されている.この結論 は,独立取締役監督の役割には,適切な環境が必要であることを示している.

独立取締役の経歴と企業価値の関係性

コーポレート・ガバナンスの有効性を評価する上で,学歴やビジネス経験など,中国の上場企業の独立取 締役の個人的な特徴が米国の企業よりも重要な役割を果たすと考えている[5].王兵の調査[9]結果によると,

上場会社に財務的背景を持つ独立取締役がいる場合,同社の収益の質を向上させるのに役立つが,独立取締 役の監督上の役割は限られている.独立取締役の引当金およびパートタイムは会社の収益の質と正の相関が あり,独立役員の引当金が高い場合,またはパートタイムの仕事の数が多い場合,収益の質は悪くなる.

趙昌文ら[10] は,A株市場の家族上場企業のデータを用いて,独立取締役の企業価値への影響を調査した 結果,専門的経歴,政府経歴,管理経験を持つ独立取締役は企業価値の向上に資することがわかった.ま た,独立取締役の性別,年齢,教育および職歴は,企業価値に大きな影響を与えないこともわかった.彼ら はまた,独立取締役の割合が会社の価値に正の関係にあり,上場企業の取締役会の少なくとも3分の1が独