る。この問題点については、第三章で詳しく触れてみたいと思うが、筆 者が創造性育成における「技術の習得」をどのように捉えるか。それは、
歌唱技術、演奏技術、作曲技術等を反復訓練して、正確に身に付けさせ ることだけではない。無論これらを軽視するわけでもないが、これまで 筆者が「技術の習得」と言ってきたものには、その前提に音楽による楽 しい「経験」がある。ファンジェのいう、 「創造することは、既存の要 素を新しく組み合わせることにすぎない」の、既存の要素とは「経験」
と捉える。つまり、まずいろんな音・音楽に触れさせることである。そ れによって、 「歌いたい、弾きたい、聴きたい、やってみたい」など、
子どもの内発的な感情意欲を引き出すのである。そしてその経験に基づ いて、子ども自らが表現の創意工夫をすることが音楽的創造活動の第一 歩と考えるのである。美しい、素晴らしい音楽を聴いたり、演奏を見た りして感動する、初めはその模倣から入っていっても良いと思う。模倣 は創造の前提である。そして、その模倣から次第に独自の表現へと誘導 させていくのである。そこで、教師はその子どものアイディアやイメー ジを大切にしながら、それが一番効果を発揮できるような助言を与えた り、またその子どもの能力や個性にあった指導・援助を行なう。創造的 活動の前提に基礎的技術の習得を位置付けるのではなく、創造的活動の 過程のなかに基礎的技術の習得を位置付けるのである・
以上、音楽教育における創造性について述べてきたが、筆者が考える ところは、音楽教育において音楽能力と創造性は共同して働くものであ り、また主体的に音楽と関わった時に、創造性が生まれてくるというこ とである。そのためには、一人ひとりの子どもたちが、個々の能力に応 じた創造的活動ができる教材や場の設定が考えられなければならない。
そして、その中で子どもは主体的により美しい音楽体験を求め、さらに 高い表現や鑑賞を工夫することにより、音楽を愛好する心情を生み出し 育てていくものと考える。
《第1章への注》
(D 日本創造学会 「創造の理論と:方法 創造性研究1」 共立出版
1986 PP.241〜251を参照
(2) 恩田旧著 「創造性の研究」 1971 恒星社厚生閣 P.1
(3) S・アリエティ著 加藤正明、清水博之訳 「創造カー原初から
の統合」 計画社 1980 P.65
(4) 穐山貞登 「創造の心理」 誠信書房 1962 P.157
(5) 上田吉一 「マスロー心理学における創造性の概念について」
兵庫教育大学研究紀要 1980 P.2
(6) 前掲書(2)P.16より引用
(7) 心理学辞典 誠信書房1981
(8) 前掲書(2)P.18より引用
(9) 同上書P.18より引用
(10》E.K.ファンジェ著 加藤八千代・岡村和子訳 「創造性の開発」
岩波書店 1981 P.14
(11)黒田正典著 「創造心理学」朝倉書店1971 PP.22〜23
(12)佐伯正一著 「創造的学習の理論」 明治図書1972P.52
(13)同上書
(14)恩田露盤 灘・創離の教育第2巻「創造性の開発と評価」 明治図書1971
P.215、表1「創造性関係因子一覧表」 より一部修正して引
用・作成(15)黒田正典編 「創造性の心理学」 朝倉書店 1971 P.33
(16)時実利彦 「人間であること」 岩波書店1970 P.46
(17)時実利彦 「情操・意志・創造性の教育」 第一法規出版社
1969 P.13 (傍点筆者)
(18)前掲書(4)P.255
(19)同上書 P.256
(20)同上書 P.8
(21)同上書 P.9
(22)前掲書(12)P.61
(23)同上書 PP.62〜63
(24)同上書 PP.63〜64
(25)前掲書(2)P.178
(26)恩田彰 「創造性の心理学」 恒星社厚生閣 1974 P.77
(27)E.P.トーランス著 佐藤三郎訳
「創造性の教育」 誠心書房 1966 P.124
(28)前掲書(25) P.171
(29)前掲書(4》PP.239〜244
(30)川喜田二郎 「発想法」 中央公論社 1984 −51一
(31)W.J. J.ゴードン著 大鹿・金野共訳
「シネクティスー創造への道一」 ラティス 1968
(32) 「創造性と表現技能」佐野靖季刊音楽教育研究 50 1987 音楽之友社
(33)前掲書(2> PP.195〜196
(34)前掲書(12)PP.144〜146
(35)同上書 PP.146〜148
(36)J.A.S:mith著 恩田彰訳 「創造的授業の条件設定」
黎明書房1973 PP.173〜201
(37)笹野恵理子 「r創造性の育成を目指す音楽教育』論の課題構造
と分析視点」 武蔵野音楽大学研究紀要 第21号 1989
PP.43 v45
(38)益永哲郎 「小学校音楽教育における創造性の研究」
兵庫教育大学修士論文 1991 P.38
(39) 「小学校音楽指導資料 指導計画の作成と指導計画」 文部省
教育芸術社 1991 P.3
(40)同上書 P.3
(41)ルソー著 今野一雄訳 「エミール」 岩波書店 1962 P. 254
(42)河口道朗 「子ども音楽教育論における創造性の思想」
季刊音楽教育研究72 1992 P.2
(43)大賀一夫著 「主体性の心理と教育」 明治図書1968
P.22
(44)坂元彦太郎 「創造性を育てるための条件」
季刊音楽教育研究13 音楽之友社 1964 P.64
(45)J.L.マーセル, M.グレーン著 供田武嘉津訳
「音楽教育心理学」 1975 音楽勢揃社 P.198
(46)「音楽科・表現の指導」
福岡教育大学編 1982 音楽之総社 P.17
第2章 「創造性」の視点から見た日本の音楽科教育の理念の変遷
本章では、わが国の学校教育、及び音楽科教育の歴史において、 「創 造性」の概念の捉え方が、どのように変遷していったかを調べ、現代の 音楽科教育における創造性育成の捉え方と比較しながら考察していく。
第1節 明治期
わが国の学校教育制度は、明治5年(1872)の学制の発布によっ
て始まった。ここでの音楽科教育は、下等小学校(4年)の教科として「唱歌」、下等中学校(3年目の教科として「奏楽」としてあげられて いる。しかし、いずれも「当分之ヲ欠ク」と付記されている。このこと は、西洋化を目指す明治政府が、欧米先進諸国、ことにオランダ(「和 蘭学制」による)で実施されていた音楽教育を模倣しようとしたものの、
実践に際しては教員や楽器が皆無という状況に加え、教材選択基準の設 定上の困惑、さらには社会一般の理解不足などによって、実施が困難で あったことを物語っている。
しかしその後井沢修二などの努力により、明治12年に文部省に 音 楽取調掛 が設置されて、音楽教員養成が正式にスタートした。また明 治13年にはアメリカからメーソン(Mason, L W.1828−1896)が招かれ、
その協力のもとに、まず東京師範学校と東京女子師範学校の付属小学校、
ならびに付属幼稚園で唱歌授業の実験が行なわれた。14年11月には、
わが国最初の音楽教科書「小学唱歌集初編」が文部省から刊行され、か くて我が国において音楽教育を実施する上での基礎が確立された。しか し、ここには唱歌教育実施上の具体的な内容は示されていない。その緒 言には、 「凡ソ教育ノ要ハ徳育知育体育ノ三者二丁リ而シテ小学二子リ