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第 3 章 本論文の理論的枠組み

3.4 プロトタイプ

認 知 言語 学 的 研 究 の 特 徴 と して 、 そ れ が 適 用 す る カテ ゴ リ ー 論 を 挙 げ な くて は な ら な い。「 カ テ ゴ リー が 素 性 の 集 合か ら 規 定 さ れ 、 属 す る成 員 は す べ て そ の 素 性を 所 有 す る 」 と 見 なす 古 典 的 カ テ ゴ リ ー 観を 否 定 し 、 そ の 代 わ りに プ ロ ト タ イ プ カ テ ゴリ ー の 理 論 を適 用 す る。 カ テ ゴ リ ー と は 、 その カ テ ゴ リ ー に と っ て中 心 的 で 典 型 的 な 事 例で あ る プ ロ トタ イ プ と、 プ ロ ト タ イ プ か ら 何ら か の 側 面 に お い て 逸脱 す る 周 辺 的 事 例 か ら構 成 さ れ て いる と 見 なさ れ る 。 例 え ば、「 鳥 」の カ テ ゴ リ ー で は ス ズメ 、 カ ラ ス な ど が 典 型的 と み な さ れ る プ ロト タ イ プ で あ る の に 対し 、 ペ ン ギ ン 、 ダ チ ョウ な ど は 周 辺 的 で あ る。 簡 単 に 言 え ば 、 プロ ト タ イ プ と は カ テ ゴリ ー に お け る 代 表 例 のこ と を い う 。 心 理 的 な処 理 過 程 に おい て 、 プロ ト タ イ プ は 次 の よ うな 特 徴 を 持 つ(吉 村 2002b:224)。1)瞬 時 に 思 い出 す こ と が で き る 、2)長 期に か つ 安 定 的 に記 憶 さ れ て い る 、3)多 く の 人が 画 一 的 に 認 定で き る 、4)幼 少 時 か ら身 近 に 親 し ん で い る 。

意 味 的カ テ ゴ リ ー が 中 心 的 事例 か ら 拡 張 す る 場 合 、メ タ フ ァ ー と メ ト ニ ミー と い う 二つ の 意 味的 要 因 が 主 要 な 役 割 を担 っ て い る 。 谷 口(2005:18)に よ ると 、 実 際 に意 味 拡 張 の す べ て は 何ら か の 点 で こ の い ず れか に 還 元 さ れ る と い って も 過 言 で は な い と いう 。 伝 統 的 定義 に よ れば 、 メ タ フ ァ ー は 「 類似 性 に 基 づ く 比 喩」、 メ ト ニ ミー は 「 近 接 性 に基 づ く 比 喩 」 で あ るが(谷 口 2003:2-3)、 認知 言 語 学 で の メタ フ ァ ー及 び メ ト ニ ミ ー は レ トリ ッ ク と し て の 比 喩で は な く 、 よ り 根 源 的に 、 人 間 の 思 考 や 概 念の 体 系 を 形 成 す る 基 盤と し て 機 能 して い る とみ な さ れ る 。 こ れ が 「概 念 メ タ フ ァ ー 」 の 見方 で あ る 。 例 え ば 、LOVE IS

JOURNEYは概 念 メ タ フ ァ ーの 一 つ の 具 体 例 で あ る。Lakoff and Johnson(1980)は 、 私 た ち

が 恋 愛を 旅 と し て 概 念 化 し てお り 、 そ の 反 映 と し て①の よ う な 一 連 の 言 語表 現 が 生 じ てい る と 述べ て い る 。

① LOVE IS JOURNEY (恋 愛 は 旅で あ る)

a. Look how far we’ve come. (ご らん ぼ く ら の 愛 が 乗 り 越え て き た 幾 山 河 を) b. We’re at a crossroads. (二 人 は岐 路 に 立 っ て い る)

c. We’re stuck. (ぼ く ら は 行 き 詰ま っ て し ま っ た) d. It’s been a long, bumpy road. (長 い で こぼ こ 道 だ っ た)

e. Our marriage is on the rock. (ぼ く らの 結 婚 は 暗 礁 に 乗り あ げ て い る)

f. We’ve gotten off the track. (ぼ く ら は 脱 線し て し ま っ た)

Lakoff and Johnson(1980)[渡 部 他(訳)1986:68]

図 3-4 に 示す よ う に 、「旅」と 「 恋 愛 」と い う 異 な る 概念 が 対 応 づ け ら れ る のは 、 メ タ フ ァ ー の見 方 に 基 づ く と 、 起 点領 域 に あ る「旅 」と い う空 間 的 移 動 と 、 目 標 領域 に あ る「恋 愛」

と い う 抽 象 的 経 験 と が 、 と も に 「 出 発 点(恋 愛 関 係 の 始 ま り)」、「 終 点(恋 愛 関 係 の 終 わ り)」

と い う類 似 し て い る 構 造 を 持っ て い る た め で あ る 。す な わ ち 、 起 点 領 域 の「 経 路 」 の イメ ー ジ スキ ー マ が 目 標 領 域 に 対応 づ け ら れ て い る の であ る 。 こ の と き 、 旅 人は 恋 人 に 、 旅に 用 い られ る 乗 り 物 は 恋 愛 関 係に 、 旅 の 終 点 は 恋 愛 の目 的 に 対 応 付 づ ら れ る。

図3-4 メタファー(谷 口 2005:18より 一 部修 正)

一 方、メ ト ニ ミ ー の 例 と して 、主 に②に 示 す よ うな も の が 挙 げ ら れ る 。例 え ば 、「 電 話を 取 っ た」 と 言 っ た 場 合 、「電 話」と い う 全 体 で 、 そ の部 分 で あ る 「 電 話 器 」を 指 し て い ると 言 え る。

② 全 体-部 分 : 電 話 (>電 話 器) を 取っ た 容 器-中 身 : や か ん (>水) が 沸 騰 する 製 作 者-産 物 : 漱 石 (>作 品) を 読 んだ 原 因-結 果 : 八 時 間寝 た (>眠 っ た)

野 村(2002:35) goal

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起 点 領域(旅:空 間 的 移 動)

対応づけ(写 像) goal

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目 標 領域(恋 愛:抽 象 的 経 験)

す で に明 ら か な よ う に、メ タ ファ ー を 支 え る 類 似 関 係と メ ト ニ ミ ー を 支 え る隣 接 関 係 は、

認 識 基盤 が 異 な る 。 前 者 は 異な る 領 域 の 二 者 の 間 に存 在 す る と み な さ れ る意 味 的 共 通 性を 取 り 出し 、 こ の 共 通 の 意 味 成分 が ス キ ー マ を 形 成 する 。 し か し 、 後 者 は 単一 領 域 内 の 二者 の 間 に存 在 す る と み な さ れ る指 示 的 接 触 に 基 づ く 。メ タ フ ァ ー は 意 味 が 似て い る の に 対し て 、 メト ニ ミ ー は 指 示 対 象 が隣 接 す る 。 ゆ え に 、 前者 は ス キ ー マ を 形 成 する が 、 後 者 はス キ ー マを 形 成 し な い(テ イ ラ ー 他 2008:316)。

プ ロ トタ イ プ 理 論 で は 、 カ テゴ リ ー 成 員 の 間 に 典 型性 に 関 す る 相 違 が あ り、 カ テ ゴ リー の 内 部は 決 し て 均 一 で は な いと 特 徴 づ け ら れ る 。 この よ う に 、 プ ロ ト タ イプ を 中 心 と して 拡 張 する 構 造 を 「 放 射 状 カ テゴ リ ー 」 と 呼 ぶ 。 そ し て Langacker(1993)は 、 カ テ ゴリ ー が

「 プ ロト タ イ プ 」 と そ の 「 拡張 」 に 加 え 、 そ れ ら の共 通 性 を 抽 出 し た 「 スキ ー マ 」 か ら適 正 に 特徴 づ け ら れ て い る 。 三者 の 関 係 を 「 家 具 」 とい う カ テ ゴ リ ー を 挙 げて み る と 、 図 3-5の よう に 示 す こ と が で きる 。

図 3-5 プロトタイプ及び放 射 状カテゴリー

す なわ ち 、「 家 具 」の プ ロ トタ イ プ で あ る「 椅 子 」と その 拡 張「 電 話 」の 共 通性 と し て「 家 に 備 え付 け 、日 常 使用 す る 道具 で あ る 」とい う ス キー マ が 得 ら れ る 。しか し 、家 具 は椅 子 、 電 話 な ど 基 本 レ ベ ル ・カ テ ゴ リ ー に 属 す る 事 例 ば か り で は な い 、 椅 子 の 下 位 レ ベ ル の カ テ ゴ リ ーを な す 事 例 と し て 腕 掛け 椅 子 、アー ム チ ェ ア、ダ イ ニ ン グチ ェ ア な ど いろ い ろ あ る 。 こ の よう に 、 カ テ ゴ リ ー を 構成 す る 事 例 間 に は 、 プロ ト タ イ プ か ら 周 辺 事例 ま で の 拡 張と

上 位 レベ ル

基 本 レベ ル プ ロ トタ イ プ

(prototype)

ス キ ーマ (schema)

抽 象 化 (abstraction)

具 体 化 (elaborate) 家 具

椅 子 電 話

腕掛け椅子 ア ー ムチ ェ ア ダイニングチェア

拡 張 (extension)

下位レベル

い っ たヨ コ 関 係 、 基 本 レ ベ ル・カ テ ゴリ ー と そ の 上 下に 位 置 す る 上 位 レ ベ ル・カ テ ゴリ ー 、 下 位 レベ ル ・カテ ゴ リ ー と い った タ テ 関 係 が 存 在 す る。こ う し た 縦横 の 関 係の よ う に 、プロ ト タ イプ に 関 わ っ て 副 次 的 に生 じ る 効 果 を プ ロ ト タイ プ 効 果 と 呼 ぶ 。

本 論文 で は 、 日 中 語 の 受 動構 文 は 直 接 受 動 構 文 であ れ 、 特 殊 受 動 構 文 であ り 、 い ず れも こ の よう な プ ロ ト タ イ プ 効 果を 持 ち 、 特 殊 受 動 構 文は プ ロ ト タ イ プ で あ る直 接 受 動 構 文か ら メ タフ ァ ー な ど の 意 味 的 要因 に よ っ て 拡 張 す る と考 え る 。