第 9 章 日本企業の技術的優位性及びプロジェクト資金の調達
9.2 プロジェクト資金の調達
9.2.1 他国における送電線セクターへの資金調達の状況
イギリスやアメリカ、オーストラリアといった、制度の整った電力市場のある多くの先進国では、
送電線の所有と運営は、発電と売電からは切り離されている35。新たな送電事業への投資インセンテ ィブと適切な託送料の価格付けとのバランスを取る効果的な規制によって、送電事業が財務的に持続 的なものとして成立している。例えば、イギリスではガス電力市場規制庁(Office of gas and electricity
markets, Ofgem)が規制をし、オーストラリアではthe Australian Energy Regulator (AER)が、運営や送電線
網に対する投資の費用回収方法を決定している36。
収益の確実性によって、民間セクターはより積極的に投資をすることができるようになる。これら 先進国の送電市場では、送電事業の運営者が商業的な観点から資金を調達することや民間投資が参加 することは、一般的になっている。例えば、イギリスでは、National Grid社が送電プロジェクト向け に社債の発行と銀行借り入れを行っている。2016 年1 月には、カリフォルニア独立系統運営機関
(California Independent System Operator, CAISO)が送電プロジェクトに入札を実施し、LS Power社が
落札している。また、LS Power社は、ネバダ州において500kVの送電線(97㎞)を建設、所有及び 運営することになっており、LS Power社は133百万ドル分のプロジェクトに対して、借入と資本を半々 で資金調達を行う予定である。
然しながら、東南アジアを含む多くの発展途上国では送電事業を国営電力会社が所有しており、そ のため送電事業を政府予算や開発援助に頼らざるを得ない。2014 年、タイ国営電力会社(Electricity
Generating Authority of Thailand, EGAT)は515百万ドルを政府から調達し、新しい発電所と送電線を建
設した。2013年には、ベトナム電力公社(EVN :Électricité du Vietnam)傘下のNational Power Transmission
Corporationが、フランス開発庁(Agence Francaise Developpement, AFD)から譲許的融資により、送電
セクターのために75百万ユーロを資金調達した。
民間会社の参画が可能といっても、完成までの時間軸が非常に長くなる可能性がある。例えば、カ ンボジア・タイ間の送電線では、プロジェクトは官民連携(PPP)により実施されていた。しかし、電力
購入契約(PPA) は2002年に署名されたにもかかわらず、コンセッションの合意は2005年に、また送
電線のための融資の合意に至っては2008年に署名が行われた。現在のところ、このケースが、この地 域における送電線プロジェクト向けPPPの唯一の事例である。
9.2.2 インドネシアの電力セクターにおける資金調達の状況
インドネシアの送電セクターにおいては、PLNが政府ローン、国内シンジケートローン、債券発行等、
様々な手段を通じて送電線のための資金調達を実施している。2010年のFTP1 (Crash program 1) にお
35 たとえば、イギリスでは、National Grid社が送電線網を所有・運営するが、発電と売電は行わない。
36 AER Final Decision on Trans Grid transmission determination for the 2015-2018 period 参照
9-3
いて、10,000MW の発電所と関連する送電線の建設を計画しており、PLNは85%を完全政府保証付き
の銀行借り入れで賄い、15%を自己資金により資金調達を行った。2010年に PLNは送電網のために、
116百万ドルを外貨建てで、4.8百万ドルをインドネシアルピー建てで銀行借入により資金調達した。
外国通貨建ての借入は、国内の商業銀行のコンソーシアムより、政府保証付きで借入を実施した。コ ンソーシアム参加銀行は、Bank MandiriやBank Rakyat Indonesia、Bank Negara Indonesia、private lender
Bank Centra Asia等である。銀行借入のほかにも、PLNは送電線プロジェクトに関して、政府予算、自
己資金、外国からのツー・ステップローン、銀行借り入れ、社債発行により資金調達を実施している。
国際開発金融機関も、送電セクターに深く関与している。というのも、送電線が元来、安定した電力供 給を確固たるものにする公共財としての性格を有するため、またインドネシアの電力需要の増加を支え る重要な社会基盤と考えられているためである。世界銀行やアジア開発銀行といった国際開発金融機関 は、過去数年間積極的に送電セクターに投資しており、それは、技術協力面と資金面の両方を含むもの である。
より直近の例では、ドイツの開発銀行であるKreditanstalt für Wiederaufbau (KfW )が、インドネシア における再生可能エネルギーと送電プロジェクトを開発するために、25億ドルに及ぶ資金援助を行うこ とを約束していた37。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に対して672.1百万ドルを拠出する8番 目に大きな出資者として、インドネシアはAIIB に発電所や送電インフラ双方の電力セクターでより大 きな役割を果たすことを期待しているといわれている。しかし、実際のAIIB の運営にはモニタリング が必要である38。表 9-2に、各国の開発銀行により資金調達が行われた直近の送電線事業の表を示す。
2014年の年次報告書には、長期借入金や社債の金額のうち、28%がツー・ステップローンによるもので あると記載されている。
37 調査団は、ジャカルタのKfW代表に2015年11月19日にインタビューを実施した。また、ジャカルタのADB代表に も2015年11月12日にインタビューを実施した。
38 財務大臣のBambang Brodjonegoro は、ADBの半年や世界銀行の1年と同程度まで、AIIBの意思決定プロセスを短 縮する必要があると言及した。South China Morning Post誌、2015年6月30日、「Indonesia to push for AIIB to finance power projects」の記事による。
9-4
表 9-2:各国の開発銀行により資金調達が行われた送電線事業
年度 事業名 機関名 摘要 貸付額
(百万ドル)
利息 返済期間 (年)
猶予期 間 (年) 2015 Electricity Grid
Strengthening Sumatra Program
Asian Development Bank (ADB)
Improve existing transmission and distribution in Sumatra
600 - - -
2013 220km Java-Bali Transmission Line
Asian Development Bank (ADB)
Interconnection between Java and Bali islands
224 LIBOR + 0.60%
20 5
2013 West Kalimantan Power Grid Strengthening Project
ADB Cross border high
voltage transmission line between West Kalimantan and Sarawak
49.5 LIBOR + 0.60%
20 3
Agence Française de Développement (AFD)
49.5 EURIBOR + 0.30%
15 5
2013 Indonesia Second Power Transmission Development Project
World Bank Rehabilitation and upgrade of existing and construction of new substations in Indonesia
325 LIBOR based IBRD Variable Spread Loan
21 7.5
2010 Indonesia Power Transmission Development Project
World Bank Expansion and
upgrade of existing and construction of new substations
225 LIBOR based IBRD Variable Spread Loan
24.5 9
(Source: World Bank, ADB, IJGlobal)
9-5
図 9-1 PLNの長期借入金、社債の内訳
(Source: PLN Annual Report 2014)
インフラ整備の妨げとなる事象を解決する政府の取り組みの一つとして、優先度の高いインフラの 開発を加速化することを目的としてCommittee for the Acceleration of Priority Infrastructure Development (Komite Percepatan Penyediaan Infrastruktur Prioritas / KPPIP)が、2014年7月17日付大統領令75 of 2014に より設立された。KPPIP は経済担当調整大臣が主導し、メンバーは財務大臣、国家開発計画庁長官
(Bappenas)、国家土地庁長官(BPN)である。KPPIPの権限は、PPPスキームの中でプロジェクトを進め
るパイプラインを作ることである。具体的には、プロジェクト準備の品質を高めたり、バンカビリテ ィを高めたり、最適な資金調達方法を考えたり、プロジェクトを進めるインセンティブと義務を定め たりする。Ministry for Economic Affairs Law No. 12/2015によれば、2015年から2019年に優先して取り組 むべきインフラのリストがあり、30ものインフラ建設プロジェクトが記載されており、KPPIPの管轄下 にある。そこには、500kVスマトラ送電グリッドプロジェクトや500kVジャワ島中・西部送電グリッド プロジェクト、HVDCプロジェクトが含まれている。
インドネシア政府は、重要な開発案件は民間セクターの参画を通じて実施しようとしているが、
インドネシアの電力セクターにおけるPPPの進捗は今日において進んでいない。例えば、PPPによる 中央ジャワプロジェクト(2,000MW)は、用地取得の問題に直面し、遅延している。また、PPPを利 用した火力発電所プロジェクトであるSumsel 9プロジェクトとSumsel 10 プロジェクトも、何度も遅 延している。2013年の最初の公表から、RFP期日は何度も延期され、2016年1月13日にも、再度延 長された。
より一般的に言えば、インドネシアにおける発電所建設プロジェクトにおいては、大規模な商業ベ ースのプロジェクトファイナンスが実施されることが一般的であり、ECAによる援助を受けた商業
28.2%
8.2%
63.6%
77.5%
Long-term loans and bonds
Two-step loans Government loans Bank loans Bonds
9-6
ベースの融資は好事例がある。かつて、インドネシア政府は、PLNがPPAを締結できるよう、又は 信用補完を求める貸し手の要求に応えるよう、PLNの義務を補完するため政府保証を提供してきた。
しかし、最近の開発案件では変化している。Bantenの石炭火力発電所(660MW)では政府保証のな い初めての発電所であったが、2013 年にフィナンシャル・クローズを迎えた。これより先、Java-1 発電所ではディベロッパーとサプライヤーを選ぶ入札を実施する予定である。Java-7発電所について は、2015年12月にPLNはShenhuaを優先交渉者として指名した。これら2つのプロジェクトは政府 保証がなしで実施されようとしている。表 9-3において、直近のインドネシアにおける電力セクター に関する動向を示す。
表 9-3 直近の電力発電所入札の動向
Project Sarulla地熱発電所 Banten石炭火力発電所 Sumsel 5 t石炭火力発電所
Capacity 330MW 660MW 600MW
Sponsors Itochu Corp, Medco Energy, Kyushu Electric, Ormat
Technologies
Genting Berhad, Hero Inti Pratama Sinar Mas
Project Cost USD 1,540.5 百万 USD 998 百万 USD 480 百万
D/E ratio 75:25 73:27 66:34
Debt USD 1,170 百万 USD 730 百万 USD 318 百万
Tenor 20 年 12 年 10 年
Lenders ADB, JBIC
ING, BTMU, Mizuho, SMBC, Societe Generale, National Australia
Bank
EXIM Bank of Malaysia Citigroup, Maybank, CIMB, RHB
Bank
China Development Bank
Financial Close 2014年5月 2013年7月 2012年4月
Remarks JBIC political risk guarantee for commercial loan
政府保証なし -
(Source: IJGlobal, PFIe)