5.1 緒言
これまでの実験結果および組織観察結果より,高周波誘導加熱と超音波振動を組み合わ せた,ハイブリッド固相接合法の接合メカニズムについて考察する.
加圧力,振動力,熱エネルギーが,大気中でのアルミニウムの固相接合に及ぼす役割を 考え,それらから,本固相接合における接合メカニズムを提言する.
5.2 加圧力
高周波誘導加熱と超音波振動を用いたハイブリッド固相接合において,加圧力は重要な 役割を有している.その役割について金属表面の構造から考えてみる.金属表面はFig.5-1 に示すように内部構造とは異なる色々な物質の膜で覆われている.母材の上には,切削加 工や塑性加工により金属の結晶が塑性変形を受け,内部金属より硬くなっている加工変質 層がある.その上に大気中の酸素と結合した酸化皮膜層が存在する.その上に,分子吸着 層や油や埃などの汚れ膜が存在する1).
実際に二つの金属を接触させた場合,汚れ膜同士のファンデルワールス力(分子間引力)
のみが接着力として作用する.その接着力は非常に小さなものである.しかし,金属と金 属を向かい合わせて加圧すると,どんなに精密に平面加工しても金属表面には凹凸が存在 するので,両方の金属表面の凸部で最初の接触が生じる.接触した凸部の面積は小さいの で,そこにかかる面圧は高く,容易に塑性変形が生じる.塑性変形が生じると汚れ膜や酸 化皮膜が部分的に破断し,破断した部分では清浄な金属面(清浄面)が現れる.清浄面は,
その表面エネルギーが非常に大きいので,瞬間的に金属結合を生じる.この様子を模型的 に示したのがFig.5-2である.
すなわち,加圧は接合面の酸化皮膜を破壊させ,接合面同士を密着させることで原子拡 散を促し,金属内部の結合と同じ程度の金属結合を促す役割を有している.
Fig.5-1 Schematic view of the metal surface
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Fig.5-2 Enlarged view of contact surface
5.3 振動力
高周波誘導加熱と超音波振動を用いたハイブリッド固相接合において,振動力がどのよ うな役割を有しているか考える.現在,超音波振動を積極的に利用した塑性加工法は,超 音波接合をはじめ,線や管の引抜加工,板を切断するせん断加工,板材に凹凸形状をつけ る絞り加工,板材やパイプに曲線をつける曲げ加工などがみられる.引抜加工はダイとよ ぶ所定の穴径を開けた治具に,穴径より太い線材や管材を通して無理やり引抜き,穴径と 同じ外形の製品を作る加工法である.そのダイに超音波振動を印加すると,どの金属にお いても,ダイの振動速度を増加させるほど,引抜きに必要な力が低下する実験結果が得ら れている.同様にせん断加工や曲げ加工においても,超音波振動を応用することにより,
加工荷重が減少し,その結果,加工精度が向上する効果が得られている.
超音波振動の各種塑性加工への応用は,Blaha効果2) や界面の断続的な接触による摩擦 力の低減,繰返し衝撃力を与えることによるハンマリング効果3) を利用したものである.
Blaha効果とは,F.BlahaとB.Langeneckerが1955年に発見した効果で,超音波共振設 計された亜鉛単結晶の引張試験片に超音波を印加しながら引張試験をおこなったところ,
変形抵抗が大きく減少する現象である.この主因についてB.Langeneckerは,超音波振動 応力が金属結晶内での転位の動きを活性するためだとしている.また,K.H.Westmacott らは4) ,超音波振動印加後の材料結晶組織内に多くの転位ループがみられ,超音波振動の 印加が転位の移動に大きな影響を与えていることを確認している.
これらのことから,超音波振動は材料結晶内の転位を活発にさせる働きがあり,すなわ ち,接合界面での塑性流動を促す役割を有している5) 6).
5.4 熱エネルギー
高周波誘導加熱と超音波振動を用いたハイブリッド固相接合における,熱エネルギーの 役割についていて考える.アルミニウムなどの金属結晶粒は,加工などで塑性ひずみを受 け,それらの塑性ひずみが内部エネルギーとして材料内に蓄積される.塑性ひずみを受け た結晶粒が加熱されると,原子の拡散が起こり,転位などの格子欠陥による塑性ひずみを 減少させようとする.さらに高温で保持すると,著しく低い転位密度をもつ新しい結晶粒 が生成・成長する.この現象が再結晶(recrystallization)である.この再結晶を起こす温
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度を再結晶温度といい,再結晶後の材料は,等軸な結晶粒組織となり,機械的性質も塑性 加工前の状態にもどる.Fig.5-3にA1100-H18アルミニウムの高温引張試験データを示す.
400K~500Kの間で引張強度が低下し伸びが上昇しているのがわかる.この間で再結晶し
たことがわかる7).
本接合法における高周波誘導加熱は,材料を再結晶温度以上に加熱することで,蓄積さ れた内部エネルギー(内部応力)を緩和し,より小さな外力でも塑性変形を受けやすい状 態にすること.そして,原子エネルギーを増加させることで原子拡散を促す役割を有して いる.
Fig.5-3 High-temperature tensile test data (A1100-H18) 7)
5.5 接合メカニズム
高周波誘導加熱と超音波振動を用いたハイブリッド固相接合における,加圧力,振動力,
熱エネルギーの効果及びこれまでの実験結果から,接合メカニズムは,Fig.5-4のようにな ると考える.
まず,①接合面を密着させ,熱と圧力および超音波振動を接合面に印加することで,接 合面に塑性変形が生じる.その際,酸化皮膜には亀裂が発生し,酸化皮膜を分断する.次 に,②材料は熱エネルギーによって軟化し,超音波振動のエネルギーにて塑性流動を起こ す.接合界面にある酸化皮膜は塑性流動により破壊が進みアルミニウム組織内部へ移動し ていく.そして,③酸化皮膜が消失した接合界面では,新生面の面積が拡大していき,強 固な金属結合となって接合が完了する.
Fig.3-10 に示したように,熱エネルギーのみでも接合出来ず,また,超音波エネルギー
のみでも接合できない.ハイブリッド固相接合装置にて,加圧力と振動力,熱エネルギー をバランスよく組み合わせることにより,アルミニウム丸棒を大気中にて固相接合させる ことを可能とした.
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Fig.5-4 Schematic diagram of an aluminum state bonding mechanism at high temperature
- 79 - 参考文献
1) 川並高雄,斉藤正美,片岡征二,筒井佳子,広井徹麿,小林政教,大賀喬一,関口秀夫,
仲町英治:基礎塑性加工学,森北出版社(1995),pp.99-101
2) F.Blaha and B.Langenecker:Dehunug von Zink-Kristallen unter Ultrashalleinwirkung, Z.Naturwiss Vol.20(1955),p556.
3) 越水重臣,鈴木秀幸:超音波ねじり振動を利用した単結晶シリコンの延性モード切削,
砥粒加工学会誌 第44巻 第9号(2000),pp.414-419
4) K.H.Westmacott and B.Langenecker:Dislocations structure in ultrasonically irradiated aluminum,Physical review letters Vol.14 No.7(1965),pp.221-223
5) 遠藤孝雄,茨木義浩,田崎雅春:超音波重畳によるアルミニウムの静的変形応力低下,
軽金属 第30巻 第12号(1980),pp.707-712
6) 角野浩二:結晶の塑性流動と転位過程,鉱物学雑誌 第19巻 第3号(1989),pp.141-148
7) 軽金属学会:アルミニウムの組織と性質(1991),pp.416-418
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