はじめに:フロリゲン受容体の発見
フロリゲンは花芽形成を強力に誘導する発生制御因子 であるが,その機能の仕方にはとても興味深い側面があ る.フロリゲンは1936年に,葉で合成されて茎頂まで 輸送されて花芽形成を開始させる植物ホルモンとしてそ の存在が提唱された(1).長い間その正体は謎に包まれて
いたが,今日では ( )と
呼ばれる遺伝子にコードされたタンパク質がフロリゲン の分子実体であることが明らかにされている(2, 3).ホス ファチジルエタノールアミン結合タンパク質ファミリー に属する,しかし生化学的な機能ははっきりわからない 球状のタンパク質が正体であった.この,タンパク質が 丸ごと植物ホルモンとして振舞う点が,ほかの植物ホル モンとフロリゲンを比較した場合の際立った特徴であ る.多くの植物ホルモンは低分子化合物,もしくはペプ チドなどであり,これら小分子を輸送するシステムや,
受容体に認識された後の情報伝達が詳しく調べられてい
る(4, 5).一方でフロリゲンはタンパク質であるため,そ
の輸送と分布,受容と情報伝達の仕組みには,低分子の ホルモンとは異なるメカニズムの存在が想定される.ま た最近は花芽形成を超えた驚くべき多機能性を発揮する こともわかってきた(2, 6).さらにフロリゲンには,構造 がそっくりだが一部が異なるために真逆の活性を示すタ ンパク質も存在している(7〜10).フロリゲンは,その実
体がタンパク質であり,なおかつ長距離輸送されて機能 するという特徴のために,興味深い発生制御の仕組みを 提示してくれる分子である.
フロリゲン・FTタンパク質の受容体としては,どの ような分子が想定できるであろうか.ジベレリン,オー キシン,アブシジン酸などは細胞内に可溶性の受容体が 存在している(11〜15).一方でサイトカイニンやブラシノ ステロイドのように,細胞膜上のレセプターキナーゼが 受容する場合もある(16〜18).フロリゲンの場合は,これ と相互作用するタンパク質の詳細な機能解析,特に生細 胞を用いたイメージング解析から,普段細胞質に局在し ている「14-3-3」と名づけられたタンパク質が受容体と して機能することが提案されている(19).この奇妙な名 前はかつて14-3-3タンパク質が精製されたときの試料番 号から名づけられており,機能を示すものではない.イ ネのFTホモログHeading date 3a(Hd3a)の解析によ ると,Hd3aははじめに細胞質で14-3-3と直接相互作用 し,次いでHd3a-14-3-3サブコンプレックスが核移行し てbZIP型転写因子FDと相互作用する(19).こうして DNA上にHd3a-14-3-3-FDから構成される「フロリゲン 活性化複合体」が構築され,下流遺伝子の転写を活性化 することが強く示唆されている.FDはFTが正常に機 能するために必須の遺伝子として同定された転写因子で
あり(20, 21),詳細は本シリーズの川本らを参照されたい.
「タンパク質ホルモン」の受容体というとなかなか想像
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セミナー室
フロリゲンと光周性花成-2フロリゲン受容体の発見とその後
辻 寛之,田岡健一郎
木原生物学研究所
しづらい点もあるが,受容体はリガンドと直接的に相互 作用する分子であり,両者が相互作用したときに初めて 細胞内で特定の生理作用を発揮させることができる分子 と言える.この観点に照らし合わせると,14-3-3タンパ ク質がフロリゲンの受容体であることが理解しやすくな るであろう.すなわち14-3-3タンパク質はHd3aと直接 相互作用することがかなりはっきりと示されており,結 晶構造解析の結果やこれに基づく変異解析の結果も両者 の直接的な相互作用を支持している(19).またHd3aと 14-3-3は両者が相互作用したときに初めてFDを介した 花芽形成遺伝子の転写活性化を引き起こす(19).イメー ジングで明らかになった細胞質から核へのダイナミック な細胞内局在の変化を考え合わせると,14-3-3タンパク 質がフロリゲンの細胞内受容体として機能していること が理解しやすくなるであろう.
フロリゲン受容体のサブコンプレックスは細胞質で形 成された後,どのように核内へ輸送されるのであろう か.一つのメカニズムとして,転写因子FDには核移行 シグナルが存在するため,細胞質でFT-14-3-3とFDが 相互作用した後にその核移行シグナルの活性で核移行す る可能性が考えられている(22).実際に14-3-3に変異を導 入してFDとの相互作用を弱めると,Hd3a-14-3-3の核移 行の程度も弱まるため,FDは複合体を核内に形成する ために必須の因子である(19).しかし最新の報告では,
FDが14-3-3と相互作用するためにはC末端のリン酸化 が必須であり,このリン酸化を担うキナーゼである CDPKとして同定されたCPK33およびCPK6は主に核 内に蓄積していることが明らかとなった(23).つまりFD のリン酸化は核内で生じる可能性が考えられる.いった ん核内でリン酸化されたFDがFT-14-3-3を核に輸送す るため細胞質へ戻るのか,ほかのメカニズムが存在する のか興味深い問題である.筆者らによるイネFDホモロ グの一つOsFD2の解析によると,前者の可能性もあり うるようである(22).OsFD2はFDの一つとしてHd3a, 14-3-3とともにフロリゲン活性化複合体を構成可能な転 写因子であり,複合体形成に依存して葉の発生を制御す る機能をもつ.後述するフロリゲンの多機能性にも重要 な示唆を与える分子であるが,その複合体形成過程のイ メージング実験からは以下のようなプロセスが提案され ている.OsFD2と14-3-3タンパク質の相互作用を細胞 内でイメージングすると,このサブコンプレックスは核 だけでなく細胞質からもよく検出される.この理由は,
14-3-3タンパク質の有する核外輸送シグナルによるもの であろう.興味深いことに,複合体の構造解析によると Hd3aは14-3-3の核外輸送シグナルをカバーするように
相互作用する.したがってOsFD2を含む複合体の場合 は,フロリゲンの結合による核外輸送シグナルの阻害が トリガーとなって複合体全体の核移行が開始されるメカ ニズムが示唆されている(22).一方で花芽形成を促進す るOsFD1はこれと異なり常に強く核に局在することか ら,フロリゲン活性化複合体はFDごとに異なるメカニ ズムで核移行する可能性も考えられる(2).
イメージングで明らかになったフロリゲンのはたら き
フロリゲンが茎頂メリステムで花芽分化を誘導するプ ロセスも詳細に明らかになってきた.これには茎頂メリ ステムにおけるフロリゲンの分布をGFPによってかな り直接的に観察する方法(24)の発展や,ジーンターゲ ティングなどのこれまで植物科学ではあまり取り入れら れなかった方法の導入も貢献している(25).茎頂メリス テムにおけるフロリゲンのはたらきを考えるうえで重要 な質問の一つは,各要素の分布の時間的・空間的な関係 である.上述したフロリゲン活性化複合体のモデルによ れば,フロリゲン,受容体,転写因子FD,下流の遺伝 子発現は,メリステムにおいて時空間的にオーバーラッ プして発現していることが期待される.しかしシロイヌ ナズナにおけるフロリゲンFTの分布を可視化した例を 見ると,現在までの例では多くの場合,茎頂メリステム の下部に観察されている(26〜28).一方でFDはかなり はっきりと茎頂メリステムで発現が観察される(20, 21). そして興味深いことに,FTとFDを含むフロリゲン活 性化複合体の標的とされる遺伝子 は,茎頂メリス テムの脇に生じた花メリステムで最もよく発現してい る(29).つまり3者の間には,遺伝学的・分子生物学的に かなり明瞭な制御があるにもかかわらず,その空間的制 御には未知のメカニズムが介在する可能性が考えられ る.筆者らは,イネで茎頂メリステムを直接イメージン グする実験によって,フロリゲン活性化複合体と下流遺 伝子の発現の時空間的な分布を明らかにすることを試み た(30).その結果,イネの茎頂メリステムではフロリゲ ンHd3aの到達と同時に生殖成長期が開始しており,そ の後の花序形成過程を通じてHd3aはメリステムに供給 され続けることがわかった(図1).ではフロリゲンと 複合体を形成する14-3-3とOsFD1はどこに分布するの であろうか. hybridizationによって両者の発現 領域を観察すると,いずれもHd3aの到達前からメリス テムで発現しており,Hd3aの到達後も3者がメリステ ム内に同時に分布することがわかった.さらに,フロリ ゲン活性化複合体の標的遺伝子の一つである ホモ
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ログ の発現の観察を試みた.イネはルーチ ンなジーンターゲティング系が活用できる数少ない植物
である(31, 32).その専門家である名城大学の寺田理枝教
授・島谷善平博士との共同研究によって,イネゲノム中 の内在 遺伝子座に蛍光タンパク質mOrange をノックインしたOsMADS15-mOrangeレポーター植 物を作製した(30).ノックインによるレポーターは,内 在遺伝子と同一の発現パターンを正確に反映することが 強く期待される.これを用いて,茎頂メリステムにおけ るOsMADS15-mOrangeの発現を花成の全過程を通し て観察したところ, の発現はHd3aの分布と おおむねオーバーラップしていることが明らかとなった
(図1).これらの結果は,少なくともイネのメリステム においてはフロリゲン,受容体,転写因子FD,下流遺 伝子の活性化の4つが時空間的にオーバーラップしてい ることを示しており,フロリゲン活性化複合体による下 流遺伝子の制御が実際の茎頂メリステムにおいても成立 することが強く示唆されたと言える(30).
遺伝子発現の大規模解析から明らかになったフロリ ゲンの機能
フロリゲン活性化複合体はメリステムにおいてどのよ うな遺伝子を標的にしているのであろうか.これまでメ リステムのトランスクリプトーム解析がさまざまな植物 種で実施されており,その結果を総合するとキーになる 転写因子の発現誘導によって多段階の遺伝子発現ネット ワークが起動されると考えられている(33〜35).フロリゲ ン活性化複合体の直接の標的遺伝子,もしくはかなり初 期に発現誘導されると考えられる遺伝子として,シロイ ヌナズナではMADS-box転写因子の / や ファミリーの転写因子をコードする遺伝子が(21, 33),イ ネでは / クレードの転写因子 ,
や ファミリーの転写因子 が同定さ れている(34).これらの転写因子遺伝子は単独もしくは 組み合わせた変異によって花芽分化が抑制されるため,
フロリゲン活性化複合体の標的として花成を正常に誘導 する機能を有すると考えられる(33, 34).
茎頂メリステムのトランスクリプトーム解析からは,
フロリゲンが花成の際にトランスポゾンのサイレンシン グを誘導することも明らかとなった(30).フロリゲン遺 伝子 とそのパラログ の二重RNAiイネは花 成が誘導されなくなるため,そのメリステムは完全に栄 養成長期で停滞している(36).このメリステムと,野生 型で花成が始まったばかりのメリステムを材料にRNA- seqで遺伝子発現を比較すれば,フロリゲンが制御する 遺伝子を精度よく網羅的に同定できる.実験の結果,フ ロリゲンが発現誘導する遺伝子の中には前述のとおり重 要な転写因子が複数含まれていた.興味深いのは発現が 抑制される遺伝子の解析で,実に60%近くをトランス ポゾンが占めていることが明らかとなった(30).ではト ランスポゾンの発現抑制はどのように生じているのであ ろうか.たとえばゲノムの特定の領域に集積しているの か.解析の結果,発現抑制されたトランスポゾンの分布 は全トランスポゾンのゲノム全体における分布と同様で あり,したがって位置特異的な制御はないと考えられ る(30).すなわちトランスポゾン全体を偏りなくサイレ ンシングするような一般的な仕組みによるものであろ う.フロリゲンが花成に際してトランスポゾンをサイレ ンシングする意義は不明であるが,大きく2つの可能性 が考えられる.一つは,生殖の開始に際してゲノムを不 安定化しうるトランスポゾンの活性をできる限り抑えよ うというものである.もう一つは,トランスポゾンから 生じたsmall RNAを介するものである.トランスポゾ ンのサイレンシングを通してsmall RNAの蓄積量を減 らし,結果small RNAによって発現抑制されていた遺 伝子を活性化する可能性を提案している.後者の考えは フロリゲンがトランスポゾンによる積極的な発生制御を 起動する可能性を提示するもので,今後興味深い研究対 象となるであろう.
フロリゲンの多機能性-機能分化したFTホモログ フロリゲンは,花芽分化を誘導する植物ホルモンとし て提唱されたが,近年の研究から,フロリゲンFTタン パク質は花成以外のさまざまな発生段階(トマトの成長 制御(37),ジャガイモの塊茎形成(38),ポプラの成長促 進(39),気孔の開閉制御(40),タマネギの鱗茎形成(41),シ 図1■フロリゲンと下流遺伝子のイメージング
フロリゲンHd3aとGFPの融合タンパク質をHd3aプロモーターの 制御下で発現するイネ(左),およびOsMADS15遺伝子座に蛍光 タンパク質mOrangeを挿入したジーンターゲティングイネ(右)
の茎頂メリステム.Hd3a-GFPとOsMADS15-mOrangeが茎頂メ リステム内で共局在することがわかる.
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ロイヌナズナの花序の構造(42),イネ分げつの成長促 進(43),など)で働く多機能ホルモンであることが明ら かになってきている.これらの例のうち,気孔の開閉制 御,シロイヌナズナの花序構造,イネの分げつ数の制御 やトマトの成長制御には,花成促進に主要に働くフロリ ゲン(シロイヌナズナFT/TSF,イネHd3a,トマト SFT)が働いていると考えられているが,それら以外で は,花成促進に働くフロリゲンとは発現パターンやタン パク質機能が異なるFTホモログ(広い意味で捉えたフ ロリゲン)が重要な役割を果たしている.たとえば,
ジャガイモの2つのFTホモログ遺伝子( ,
)のうち, は花成促進に, は塊茎 形成促進に働いている(38)(図2A).ジャガイモの花成は 日長変化によらない中日性であり, の発現も日 長変化に応答しない. のノックダウンは花成に のみ影響し, の発現や塊茎形成には影響しな い.それに対して は,塊茎形成を誘導する短日 条件下の葉で発現誘導される.そして,葉で合成された StSP6Aタンパク質が地下茎(ストロン)の先端まで輸 送されて,そこで 自身の発現を促進させるとと もに,塊茎形成プログラムを開始させる.両FTホモロ グのアミノ酸配列を比較すると,StSP3Dは典型的な FTコンセンサス配列に高度に類似しているのに対し て,StSP6Aでは,フロリゲンによる花成促進機能に必 須であり高度に保存されているセグメントBループ領域 にアミノ酸残基の置換が見られる.しかし, 過 剰発現はシロイヌナズナ 変異体の遅咲き表現型を相補
できることや,イネ の過剰発現は ノック ダウンによる塊茎形成抑制を相補できることから,花成 促進する典型的なフロリゲンとStSP6Aの間にタンパク 質機能の大きな違いはないと考えられている.
一方で,タマネギの鱗茎形成過程は,発現パターンと タンパク質機能の異なる機能分化した ホモログに よって制御されている(41)(図2A).タマネギは,最初 の1年はまず栄養成長を続け,長日条件になると鱗茎を 形成するが,冬を越しvernalizationされると花を形成 す る.こ の 過 程 は 少 な く と も3つ の ホ モ ロ グ
( , , )によって制御されているこ とが明らかにされている. は花成時期に強く発 現し,その過剰発現はシロイヌナズナ 変異体を早咲き にできる. は長日条件で発現が上昇するが,
は逆に発現が減少する. の過剰発現はタ マネギに鱗茎様の構造を形成させ 変異体を早咲きにで きるのに対して, の過剰発現はタマネギにその ような構造形成を引き起こさず, 変異体をさらに遅咲 きにする.これら3つのFTホモログのアミノ酸配列を イネHd3aのそれと比較すると,AcFT2では前述のセグ メントBループ領域に5アミノ酸残基の,AcFT1では1 アミノ酸残基の,AcFT4では8アミノ酸残基もの置換 が見られる. 過剰発現がシロイヌナズナの花成 を 強 く 抑 制 す る こ と か ら,AcFT4は 花 成 抑 制 因 子 TFL1型に機能転換したものと考えられよう.
は, と同じくPEBPファミリーに属するタンパク質 をコードする遺伝子であるが, とは逆に花成に抑制 図2■フロリゲンの多機能性とFACモデル
(A)機能分化した ホモログによる制御.塊茎形成,鱗茎形成,栄養成長制御における機能分化FTホモログの役割を図示した.ポプラ では,FDホモログFDL1はフロリゲン非依存的に低温適応にも機能する.このようなFDホモログは,ポプラ以外ではまだ同定されてい ない.(B)FAC(フロリゲン活性化複合体)とその構成要素入れ替えによる活性制御.転写因子FD(青棒)は などの花芽分裂組織 決定遺伝子(ピンク)の標的遺伝子プロモーター領域に結合する.FDのC末端領域のリン酸化SAPモチーフ(六角形P)にフロリゲン FTの受容体14-3-3(緑の弧)が結合し,その14-3-3のC末端領域にフロリゲン(赤丸)が結合することで,それら3者からなるFACが形 成され,花成誘起される.FACは,転写コファクターのリクルートあるいはほかの転写因子との相互作用によって標的遺伝子の発現を制 御していると予想される.(1)FAC中のFTが,機能分化したFTホモログや花成抑制因子TFL1と入れ替わることで,標的遺伝子に対す るFACの転写活性化能が質的あるいは量的に変化する.(2)FD以外の転写因子の上でFACが形成されることで,花成とは異なる過程に かかわる標的遺伝子の発現が制御される.(3)FT/TFL1に対する結合能が異なる14-3-3によってFAC形成効率が調節されているかもしれ ない.(4)転写因子のSAPモチーフのリン酸化の制御によってFAC形成効率が制御される.
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的にはたらく因子として同定された(44).そして,FTと の構造比較やドメイン交換解析などから,前述のセグメ ントBループ領域の違いが両者の機能差異の主要な原因 の一つであることが明らかにされている(45).系統樹上 で サブファミリーに分類される遺伝子でありながら 花成抑制型として機能する例としてテンサイのBvFT1 が知られている(46).テンサイは2年生植物で,最初の1 年目は花を作らない.テンサイの2つのFTホモログの うち,BvFT2が春化後に発現して花成誘導するのに対 して,BvFT1は栄養成長期に発現し花成抑制能をもつ
(図2A).BvFT1ではセグメントBループ領域に3アミ ノ酸の置換があり,この置換が花成促進型から抑制型へ のタンパク機能転換に十分であることが明らかにされて いる.同様のFT機能転換による成長制御の例が多年生 の樹木であるポプラでも報告されている(47).なお,
AcFT4は,そのアミノ酸配列から,14-3-3とは結合しな いドミナントネガティブとして機能している可能性が推 測されているが(41),Hd3aにおいて14-3-3との結合に重 要な4つのアミノ酸残基(R64, P96, F103, R132)のうち R132に相当する残基以外は保存されている.また,14- 3-3と相互作用しない変異Hd3aを過剰発現してもイネの 花成には影響しない(19).AcFT4がどのような分子機構 で鱗茎抑制にはたらいているのか,今後の進展が待たれ る.
構成要素の入れ替えによるFACの活性制御 FACの構成要素の入れ替えによるFAC機能変化の可 能性をこれまで提唱してきたが(2, 6),その仮説を支持す る事例が報告され始めている.フロリゲンとTFL1や FTホモログは14-3-3との相互作用を介してFAC上で入 れ替わることでFAC機能変換がなされている可能性
(図2)については,1) FT/TFL1ファミリーにおいて 14-3-3との相互作用に必須と予想されるアミノ酸残基は 基本的に保存されていること(19),2) FTとTFL1はとも にFDと 植 物 細 胞 で 相 互 作 用 で き る こ と(9),3) FT/
TFL1の量的バランスがトマトの形態形成を制御してい ること(37)などから,強く示唆される.しかし,TFL1や 前項で紹介したFTホモログの機能発揮に14-3-3との相 互作用が必要かどうかをきちんと検証した例はまだ報告 されておらず,今後の進展が待たれる.
FD以外の転写因子の上でFACが形成されることで,
花成とは異なる過程にかかわる標的遺伝子の発現が制御 される可能性を示唆する例としては,イネOsFD2が挙 げ ら れ る(22).イ ネOsFD2は,花 成 促 進 に は た ら く
OsFD1とは異なるサブファミリーに属するbZIP型転写 因子であるが,C末端のSAPモチーフと14-3-3との相互 作用を介してHd3aと相互作用できる.そして過剰発現 体の表現型解析から,OsFD2はSAPモチーフの機能依 存的に葉の発生制御にかかわる因子であることが明らか にされている.フロリゲンの多機能性の分子機構の解析 が進むにつれて,このような転写因子の例が増えてくる だろう.また,変則的な例として,ポプラFDL1が挙げ られよう(47).ポプラの花成と栄養成長は,発現時期と タンパク質機能の異なる2つのFTホモログ(冬に発現 するFT1と夏に発現するFT2)によって制御されてい るが(39),FDL1は両者と相互作用し,花成促進と栄養成 長の両方を制御している(図2A).さらに,秋になって FT2の発現が減少すると,FDL1の発現が上昇し,フロ リゲン非依存的に低温適応にかかわる遺伝子群の発現を 活性化する(47).このフロリゲン非依存機能にはABA応 答にかかわるbZIP型転写因子ABI3との相互作用の関 与が示唆されているが,その分子機構は不明である.
FDL1がもつ2つの機能の解析から,FAC構成要素の機 能分化に関する新たな知見が得られるものと期待され る.
14-3-3はリン酸化セリン·スレオニンに結合する,真 核生物に高度に保存されたアダプタータンパク質である が,植物においては,系統樹上で動物の14-3-3に近いイ プシロン型に属する14-3-3と植物において独自に進化し た非イプシロン型に属する14-3-3が存在する.イネにお いては,8つの14-3-3アイソフォームのうち,構成的に 発現している4つの非イプシロン型14-3-3がHd3aと強 い結合を示す(19).このことから,FT/TFL1への結合能 の異なる14-3-3アイソフォームが時空間的に発現変化す ることによってFAC形成効率が制御される可能性が考 えられるが(図2),それを支持する報告例はまだない.
FAC構成要素の入れ替えではないがFAC活性を制御 しうる過程として,FDのSAPモチーフのリン酸化制御 もFAC形成制御に重要である可能性が示唆されてい
る(19, 23)(図2).これについては本誌の川本らの解説を
参照されたい.また,リン脂質の一種フォスファチジル コリン(PC)がFTに特異的に結合し,花成に促進的に 働くことが報告されている(48).PCがどのような分子機 構でフロリゲンの活性制御にかかわっているかについて は,たいへん興味深く今後の進展が待たれる.
FACが標的遺伝子の転写を活性化する分子機構 FTやTFL1が転写制御複合体の構成要素として機能
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することは,VP16転写活性化ドメインあるいはSRDX 転写抑制ドメインを融合した実験(9)や転写因子FDとの FAC形成(19)などから強く示唆される.しかし,その転 写制御能を担う分子機構は明らかになっていない.FT とTFL1の構造比較やドメイン交換から,FTによる転 写活性化の領域として,アニオン結合ポケット領域やセ グメントBループ領域が同定されていた(8, 45).そして最 近になって,FTの網羅的変異解析により,FTタンパ ク質の表面に位置する特定の酸性アミノ酸残基や芳香族 アミノ酸残基の重要性も明らかにされた(10).それらの 酸性アミノ酸残基を塩基性のものに置換するとFTを強 力な花成抑制因子に転換できることなどから,FT表面 の負に帯電した領域や芳香族アミノ酸残基による
π
‒π
ス タッキングにより転写のコアクティベーターがリクルー ト・ロックされて標的遺伝子の転写が促進されるという モデルが提唱されている(図2).TFL1については,転 写のコリプレッサーをリクルートして積極的に転写抑制 に働いているのか,あるいは単にコアクティベーターを リクルートできないことによる受動的な転写抑制に働い ているのではないかと考えられている.FT相互作用因 子を探索する酵母ツーハイブリッドスクリーニングが複 数の研究グループによって独立になされているが,そこ では多くの転写因子が重複して候補因子として同定され ている(42).そして,その中のTCP型転写因子は14-3-3 非依存的にFTと相互作用できることから,FTはさま ざまな転写因子と直接相互作用して標的遺伝子の転写を 促進している可能性も考えられる(42)(図2).フロリゲ ンがどのような分子と相互作用して標的遺伝子の転写制 御を実行しているのかを明らかにすることは,フロリゲ ンの生化学的機能を知るうえで重要な課題であり,今後 の進展が待たれる.おわりに
茎頂分裂組織は,花成後にメリステムの分化/未分化 状態のバランスをうまく保ちながら花芽と花序形態の形 成を続けていく.茎頂分裂組織に運ばれたフロリゲン が,その後どのように分布して,どのような遺伝子の発 現を制御しているのかが明らかになってきた.そして,
花成以外の重要な機能の一つとして,メリステムでのト ランスポゾン不活性化に働いていることが明らかにされ た.今後,イメージング技術を駆使したフロリゲンの局 在解析やメリステムの経時的なオミックス解析などか ら,フロリゲンがいかに時空間的に分化バランスを制御 しているかが明らかにされていくだろう.発現や機能の
分化したFTホモログが多くの発生過程の制御にかか わっていることがわかってきた.FACモデルを基盤に,
フロリゲンやFAC構成要素の機能分化の分子機構の理 解が進んでいくだろう.フロリゲンの花芽形成遺伝子転 写活性化にかかわる機能領域が明らかになってきた.し かし,その機能発揮を担う相互作用因子は見つかってい ない.フロリゲンの基本性質を理解するうえでの重要な 課題であり,今後の進展が強く望まれる.
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プロフィール
辻 寛 之(Hiroyuki TSUJI)
<略歴>1999年東京大学農学部生産環境 生物学専攻卒業/2001年同大学大学院農 学生命科学研究科修士課程修了/2004年 同大学大学院農学生命科学研究科博士課程 修了,博士(農学)/同年名古屋大学生物機 能開発利用研究センター博士研究員/2006 年奈良先端科学技術大学院大学バイオサイ エンス研究科助教/2015年木原生物学研 究所講師/2016年同研究所准教授<研究 テーマと抱負>フロリゲンをキーワードに 新しい研究領域を開拓したい.ともにチャ レンジする大学院生を募集しています<趣 味>散 歩<所 属 研 究 室 ホ ー ム ペ ー ジ>
http://hiroyukitsuji.tumblr.com 田岡 健一郎(Ken-ichiro TAOKA)
<略歴>1991年京都大学農学部農林生物 学科卒業/1998年同大学大学院理学研究 科博士課程修了(理学博士)/1999年奈良 先端科学技術大学院大学バイオサイエンス 研究科博士研究員/2002年カリフォルニ ア大学デービス校博士研究員/2007年奈 良先端科学技術大学院大学バイオサイエン ス研究科博士研究員/2010年同大学院大 学バイオサイエンス研究科助教/2015年 木原生物学研究所特任助教<研究テーマと 抱負>フロリゲン作用とその多様性の分子 機構を明らかにするとともに,育種や開花 調節剤の開発にも貢献していきたい<趣 味>音楽鑑賞,スイーツ巡り<所属研究室 ホ ー ム ペ ー ジ>http://pgsource.sci.yoko hama-cu.ac.jp/index.html
Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.358
日本農芸化学会