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哺乳類マクロオートファジーの基礎と病態 - J-Stage

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セミナー室

広がるオートファジーの世界-2

哺乳類マクロオートファジーの基礎と病態

上野 隆

順天堂大学大学院医学研究科

はじめに

リソソームを発見したde Duveが,細胞外の異物や ホルモンなどのリガンドをエンドサイトーシス経路で取 り込んでリソソームで分解する機構をヘテロファジー

(heterophagy),自己の細胞質成分をオートファゴソー ムに取り込んで分解する機構をオートファジー(auto- phagy)と呼んでからちょうど50年を経た.その後 オートファジーには,マクロオートファジー,ミクロ オートファジー,シャペロン経由オートファジーの3つ が知られるようになったが,ここでは哺乳類のマクロ オートファジー(以下オートファジー)を取り上げる.

識別しやすい外来基質の分解を扱うヘテロファジーに比 べ,オートファジーは分解する側もされる側も同じ細胞 質に由来することで解析が難しく,ラットの肝臓やイヌ の膵臓を使った地道な解析によって, 栄養飢餓で亢進 する非選択的大規模自己分解系 という特性が徐々に明 らかにされてきた.しかし,50年の歴史の中で本格的 な研究が行われるようになったのはここ10年間ほどで ある.トランスジェニックマウスやノックアウトマウス を使った研究に負うところが大きい.ここでは,この 10年間の膨大な成果を見据えながら,まずオートファ ゴソーム形成の機構について整理して述べ,次にノック アウトマウスから得られた哺乳動物組織オートファジー の新しい役割を解説し,最後にオートファジーと疾患に

ついて論じたい.なお,ヘテロファジーで取り込まれた 細 菌 が オ ー ト フ ァ ジ ー で 分 解 さ れ る ゼ ノ フ ァ ジ ー

(xenophagy)という機構が知られている.このトピッ クについてはこのシリーズ本稿の後に詳述される.

オートファゴソームの誕生から分解まで

絶食や栄養飢餓がオートファジーを誘導することはよ く知られている.ただし,栄養が十分供給されていると きでも弱いながらオートファジーは働いており,これを 恒常的あるいは基底レベルのオートファジー(constitu- tiveあるいはbasal autophagy)と呼び,栄養飢餓で活 性化されるオートファジーを誘導レベルのオートファ ジー(induced autophagy)と言う.タンパク質分解速 度に換算すると誘導レベルは基底レベルの2, 3倍程度で ある.富栄養条件下では,インスリンなどの同化ホルモ ンやアミノ酸のシグナルによってオートファジーは抑制 されるが,その中枢で働くのはmTor (mammalian tar- get of rapamycin)キナーゼを中心とするTORC1複合 体である.インスリンやアミノ酸存在下に活性化された TORC1は下流のS6-Kinaseや4EBP1を活性化してタン パク質合成や細胞増殖を正に調節する一方,オートファ ジーを起動するULK1複合体をリン酸化して不活化す る(1).絶食によるインスリン低下やアミノ酸欠乏,ある いはrapamycinなどの特異的阻害剤の作用によって

(2)

TORC1が不活化されると,ULK1複合体はTORC1から 離れ,オートファゴソーム形成の中間体である隔離膜形 成を開始する(1)(図1.TORC1の不活化から隔離膜形 成に至る過程には,酵母で発見された 遺伝子産物 のホモログからなる複合体の働きが不可欠である.

ULK1複合体に主導される形で,さらにAtg14 L/ホス ファチジルイノシトール3-リン酸キナーゼ(PI3K)複 合体とAtg12-Atg5/Atg16 L複合体が加わる(2)(図1).

電子線トモグラフィー解析で隔離膜形成部位は小胞体

(ER)であることがわかっている(3).さらに最近ではミ トコンドリアに接するER上で起こると報告されてい る(4).ER膜から派生はするが,隔離膜はER膜そのも のではない.ER上に局在するAtg14 L/PI3K複合体を 標的に,ULK1複合体が作用すると,ギリシャ文字のオ メガ(Ω)の形状に似た膜の膨らみ(オメガソーム)が 生じる(5).オメガソーム形成には,PI3Kの生成物であ るホスファチジルイノシトール3-リン酸(PI3P)が必要 で,これを標的にしてDFCP1,WIPI(Atg18),さらに Atg9が加わる(2).次にオメガソームに向けてAtg12- Atg5/Atg16 L複合体が局在し,LC3-IIと脂質に富んだ

隔離膜が伸展し始め,周りの細胞質を取り囲みながら二 重膜のオートファゴソームが作られる.Atg12-Atg5や LC3-IIは,Atg7 (E1),Atg3 (E2),Atg10 (E2) に よ る2つのユビキチン様修飾酵素反応で形成され,LC3-II は可溶性のLC3-Iがホスファチジルエタノールアミンと 共有結合しリン脂質化されたもので,内在性膜タンパク 質として振る舞う.隔離膜が伸展する段階では3つの複 合体は役目を終え離れていく.

オートファジーが完結するためには,オートファゴ ソームがリソソームと融合して取り込んだ細胞質成分を リソソームの加水分解酵素で分解する必要がある.融合 の分子機構は最近解明され,オートファゴソームが完成 した後,オートファゴソーム膜上にsyntaxin17がリク ルートされ,リソソーム膜のSNAREであるvamp8を 介して融合し,オートリソソームとなる(6).このとき オートファゴソームの内側の膜は分解され一重膜とな る.オートファゴソームに取り込まれる細胞質は,可溶 性サイトゾル酵素はもとより,ミトコンドリアや,隔離 膜形成の起点となるERまでさまざまであり,オート ファジーは基本的に非選択的分解系である.

オートファジーの新知見:遺伝子改変マウス研究か らわかったこと

哺乳類オートファジー研究は,GFP-LC3トランス ジェニックマウスを用いた オートファゴソームの可視 化(7)と全身でオートファジーを起こせないノックアウ トマウス(8)の2つの研究が原動力となって飛躍的発展を 遂げた.

GFP-LC3トランスジェニックマウスは,光顕レベル でオートファゴソームを 光る点(ドット) として観 察でき,マウス組織で今まさにオートファジーが起きて いるかを知る手掛かりを与えてくれる(7).さらに,この マウスはGFP-LC3の発現量が多く,その振る舞いが内 在性LC3のものと一致することで有用性が極めて高い.

このマウスについて調べた結果,組織のオートファジー に3つのパターンが存在することがわかった(7)

①肝臓,骨格筋,心筋,腎糸球体では,マウスを絶食 させるとドットが増え,オートファジーが栄養飢餓に応 答して誘導されるこれまでの知見が裏づけられた.②脳 は絶食させても全くドットが増えず,恒常的オートファ ジーのみが機能していると考えられた.絶食下でも,組 織として栄養飢餓に陥らないように保護されているため と考えられる.③胸腺や水晶体などでは絶食させなくて もドットの数が多く,オートファジー活性がもともと高 いことが示唆された.

ER ULK1複合体、PI3K複合体 Atg9, WIPI

DFCP1

Atg12-Atg5/Atg16L複合体 LC3-II

Syntaxin17

Vamp8

図1隔離膜形成からオートフォゴソーム,オートリソソーム への推移

ER ULK1複合体、PI3K複合体 Atg9, WIPI

DFCP1

Atg12-Atg5/Atg16L複合体 LC3-II

Syntaxin17

Vamp8

(3)

組織によるこのような違いは,個々の組織固有の機能 とかかわるオートファジーの制御や役割があることを示 唆する.一方,全身でオートファジーを起こせない Atg5ノックアウトマウスは,正常に生まれるものの,

母乳から栄養を供給されなければオートファジーでアミ ノ酸を作り出すことができず,24時間以内に死んでし まう.そこで,臓器特異的なオートファジー不能マウス を作製してこれを研究することが盛んに行われ,従来の 通念を書きかえるような新しい発見が次々ともたらされ た.その総覧的な理解には最近の詳しい総説をぜひ参照 されたい(9).オートファジーの主要な役割として,細胞 質浄化を通じたホメオスタシスの維持と代謝的貢献の2 つが挙げられる.次にこの2つを中心に述べる.

1.  ホメオスタシス維持と選択的オートファジー 臓器特異的オートファジー不能マウスとして,まず肝 臓特異的それに続いて脳特異的オートファジー不能マウ スがそれぞれ作製された(10〜12).肝特異的不能マウスで は,肝肥大に加えて肝機能診断酵素の顕著な上昇を伴 い,肝炎を起こしていることが認められた(10).脳特異 的不能マウスは神経変性疾患に見られる特有の運動失調 や四肢の攣縮を起こし,大脳や小脳皮質の欠落が認めら

れた(11, 12).超微形態観察により,両者ともユビキチン

陽性の凝集体や封入体の細胞内蓄積をきたし,また,健 常な組織細胞では見られない変形したミトコンドリアや 多層の不定型な膜断片が細胞質に散在していた.オート ファジーが細胞内浄化に働き,正常な細胞質保全に不可 欠であることを明瞭に示している.

なぜポリユビキチン陽性凝集体が蓄積するのか? そ の理由を解明する過程で,p62というタンパク質の働き がクローズアップされた(図2.p62は,C末端側にユ ビキチンと結合するドメインとN末端側に自身が重合 してオリゴマーを形成するドメインをもつことに加え,

LC3と結合するLIR(LC3-interacting region)モチーフ をもつ(13, 14).つまり,p62はLIRを介してLC3と選択的 に結合して,オートファゴソーム内腔に取り込まれ分解 される基質なのである(13, 14).このことは,本来ユビキ チンプロテアソームで選択的に分解されると考えられて きたポリユビキチン化タンパク質のかなりが,p62と結 合してオートファゴソームに運ばれ選択的に分解される 可能性を示す.p62の関与は,これまで専ら非選択的な 分解と理解されてきたオートファジーが選択的分解にも 携わることが示されたという意味で画期的な意義をも つ.このことが契機となって選択的なオートファジーが 多くの注目を集めるようになった.次にペキソファジー

とマイトファジーの2つについて紹介しよう.

ペルオキシソームは過酸化物の分解と脂肪酸代謝に特 化したオルガネラである.動物に高脂肪食を与えると,

肝臓にたくさんのペルオキシソームが形成され,

β

酸化 で脂肪酸を盛んに分解するが,普通の餌に戻すとペルオ キシソームは速やかに分解され元のレベルに戻る.オー トファジーはこのペルオキシソーム分解の主要機構であ り,これをペキソファジーと称す.これまでも超微形態 解析や生化学的研究から,オートファゴソームに効率良 くペルオキシソームが取り込まれ選択性が高いと言われ てきた(15).ペルオキシソームがユビキチン化され,こ れがp62を介してオートファゴソームに運ばれる機構が 提唱されている(16)

ミトコンドリアはペルオキシソームと同様オートファ ジーで好んで分解されるオルガネラであるが,ミトコン ドリア電子伝達系のプロトン駆動力をCCCPなどのアン カプラーで消失させると不活性なミトコンドリアは選択 的にオートファジーで分解されることが明らかにされ た(17).これをマイトファジー(mitophagy)と呼ぶ.

マイトファジーでは,家族性パーキンソン病の病原遺伝 子産物の一つでユビキチンリガーゼ(E3)でもある parkinがミトコンドリアに移行し,複数の外膜タンパ ク質のポリユビキチン化を起こす.parkinのミトコン ドリアへの移行にはpink1というタンパク質キナーゼが 不可欠である.健康なミトコンドリアでは,pink1はプ

p62

p62 p62

P- p62 Keap1

Nrf2

Keap1

P- p62 Nrf2

a.

b.

p62

図2オートファジー欠損とp62

a.  ポリユビキチン化タンパク質と特異的に結合したp62オリゴ マーは,野生型マウスではオートファゴソーム膜のLC3-IIにより 認識されオートファゴソームに取り込まれて分解されるが,ノッ クアウトマウスでは細胞質に凝集体としてとどまる.b. 正常な野 生型の肝臓では,過剰な転写活性化を起こさせないために,転写 因子であるNrf2はユビキチンリガーゼCullin3のアダプタータン パク質Keap1に結合しユビキチン化されプロテアソームで恒常的 に分解される.ノックアウトではオートファジーで分解されなく なったp62が増え,mTorキナーゼにリン酸化されると競合的に Keap1に結合してNrf2を追い出し,Nrf2は核へ移行して転写を活 性化する.

p62

p62 p62

P- p62 Keap1

Nrf2

Keap1

P- p62 Nrf2

a.

b.

p62

(4)

ロトン駆動力に依存してミトコンドリアに取り込まれ分 解されるが,アンカプラーでミトコンドリアが不活化す ると分解されず外膜にとどまる(18).このpink1を標的 にparkinがミトコンドリア外膜に移送し,外膜のポリ ユビキチン化を介してミトコンドリアがオートファジー で分解されると考えられる.ペキソファジーは不要に なったペルオキシソームを,マイトファジーは傷害を受 けた不活性なミトコンドリアを,それぞれ除去するとい うことで,いずれも細胞の浄化・健康維持にその意義が ある.

オートファジーの選択的基質p62にはさらに重要な働 きがある.p62はmTorキナーゼでリン酸化され,リン 酸化されることによってKeap1というCullin型ユビキチ ンリガーゼのアダプターに高い親和性で結合することが

わかった(19, 20).Keap1が本来生理的に結合するパート

ナーはNrf2と呼ばれる転写因子である.Nrf2は核へ移 行してDNAと結合し,グルタチオン -トランスフェ ラーゼなどの解毒酵素をはじめ非常にたくさんのタンパ ク質発現を転写レベルで制御している.したがって,

Nrf2による過剰な転写活性化を防ぐために,正常な細 胞ではNrf2は恒常的にKeap1と結合してCullin3によっ てユビキチン化され,プロテアソームで分解されてい る.ところがオートファジーが起こせなくなってp62が 増えると,リン酸化されたp62が競合的にKeap1と結合 し,Keap1から離脱したNrf2は核へ並行して転写を活 性化し,結果として異常なタンパク質発現パターンを現 出させるのである(図2b).オートファジー不全が転写 制御に影響を及ぼすというのはこれまで予想もされてい なかったことであった.また,p62にはTRAF6との結 合を介してNF- B経路を活性化,炎症応答を亢進させ る働きがある(21).実際,炎症を伴う肥大という肝特異 的オートファジー不全の症状は,Atg7とp62の二重 ノックアウトマウスでは緩和され,野生型に近い状態に 戻る(13).また,Nrf2による転写活性化は肝細胞のよう な分裂増殖能をもつ細胞では機能するが,神経細胞のよ うに分裂することのない細胞では起こらないので,脳特 異的オートファジー不能マウスの表現型はNrf2に影響 されていない(13).さらに,脳は誘導レベルのオート ファジーを起こさない(7)ので,恒常的オートファジーが 正常に働けば細胞質が浄化され品質管理が保たれること を示している.

脳と同じように品質管理的なオートファジーの役割が 重要な意義をもつ組織としてほかに骨格筋が挙げられ る.骨格筋特異的なオートファジー不能マウスでは筋肉 が萎縮し,筋力低下を起こす(22).機能低下を起こした

ミトコンドリアが除去されずにとどまることなどの影響 を反映していると推測される.骨格筋はプロテアソーム 系がタンパク質ターンオーバーの主要機構として働く組 織として知られてきた.坐骨神経切除で起こる筋萎縮 は,いわゆる廃用性筋萎縮モデルとして知られるが,プ ロテアソームが活性化されることが萎縮を起こし,その 結果生成したアミノ酸でオートファジーは抑制され る(23).骨格筋はタイプIとIIa, IIbに分かれており,そ れぞれ収縮特性やエネルギー代謝が異なる.タイプごと のオートファジーをよりよく理解するためにはプロテア ソームとの関係を考慮すべきである. 

2.  オートファジーの代謝的貢献

細胞質浄化と並んで,オートファジーの重要な役割 は,分解物であるアミノ酸をはじめ,糖や脂肪酸,コレ ステロールなどを代謝に再利用することである.特にア ミノ酸は同化と異化両方向の代謝に供されるので重要で ある.身体を構成しているタンパク質は,成人で1日あ たり150グラム程度が分解されアミノ酸となるが,この うち80%程度が新規のタンパク質合成に再利用される ことがわかっている.つまり,オートファジーで生成す るアミノ酸の最も主要な用途の一つは絶食時のタンパク 質合成維持にある.ところで,どうして80%なのか? 

という疑問が残る.細胞内に遊離したアミノ酸の再利用 であれば,状況によってタンパク質合成に使われる割合 が変化するほうが当然だと思える.教科書には,細胞は 遊離アミノ酸の大きなプールをもてずタンパク質合成に 使われないなら分解するしかない,という説明がされて いることが多い.オートファジーによるタンパク質分解 と再利用のためのタンパク質合成の間に未知の何らかの 連携があってもよさそうだ.

飢餓応答ではないが,受精卵の初期発生で起こるオー トファジーが,アミノ酸を胚のリモデリングのためのタ ンパク質合成に供給することが知られている(24).受精 直後のタンパク質発現は母性由来,すなわち卵細胞質由 来の合成系で維持される.この卵子由来から胚由来にタ ンパク質発現パターンが切り替わる時期があり,これに 伴い盛んにタンパク質合成を行う.受精後間もない受精 卵で一過的に誘導されるオートファジーが,このタンパ ク質合成に必要なアミノ酸を供給すると考えられる.全 身でオートファジーを起こせないAtg5ノックアウトマ ウスは正常に生まれるので,この卵発生に伴うオート ファジーは正常に起きていることになり一見矛盾して見 える.これは,ノックアウトマウスがヘテロマウスの交 配で生まれるため,受精卵の遺伝子がAtg5を欠損して

(5)

いても,細胞質にはヘテロ卵細胞質から持ち込まれた Atg5タンパク質が存在し,オートファジーは正常に維 持されるからである.卵細胞特異的にAtg5を完全欠失 させたマウスでは,胚発生は停止してしまう(24)

異化代謝へのリサイクルでは,アミノ酸を脱アミノし て

α

-ケト酸に変換後,クエン酸サイクルで完全分解し,

酸化的リン酸化でATPを産生することも重要な代謝的 貢献である.オートファジー阻害剤で処理した細胞や ノックアウトマウスの細胞を飢餓条件に置くとATPレ ベルが低下し,その代わりに増えたAMPで活性化され るAMPキナーゼのリン酸化が認められている(8).ま た,糖新生系が機能する肝臓では,オートファジーで生 成する糖原性アミノ酸をグルコースに変換することで飢 餓条件下でも血糖値が維持されるが,オートファジー不 能肝では維持しにくくなることが報告されている(25)

ここ数年オートファジーとよく似たシステムで脂肪滴

(lipid droplet ; LD)にLC3-IIがリクルートされ,LDご とリソソームで分解する現象に注目が集まり,リポファ ジー(lipophagy)と呼ばれている.LDは脂肪組織以外 の一般の細胞でも脂肪酸を材料に作られる.LDは,こ れまでペリリピンを含むPATと総称される一群の分解 酵素がその表面に局在し,サイトゾルで分解されると考 えられてきた.しかし,内在性膜タンパク質として LC3-IIはLDに親和性をもち,LDにリクルートされた LC3-IIによってリソソームにLDが運ばれて分解される という.肝特異的オートファジー不能マウスでLD貯留 による脂肪酸やトリアシルグリセロールレベルの上昇が 報告されている(26).一方,LC3-IIがLDに親和性をもつ なら,LC3-IIがLD形成そのものに積極的にかかわると 主張する報告もある(27).LC3-IIはオートファゴソーム

形成に伴って増えるがオートファゴソームからオートリ ソソームに変化すると分解されて減るという関係に似て いる.

オートファジーと病気:神経変性疾患とがん 主要臓器である脳,肝臓,腎臓,膵臓,心臓,骨格筋 のオートファジー不能と表現型を表1にまとめた.オー トファジーが機能しないことでさまざまな病理症状を呈 し,それらは疾患とのつながりを連想させるものが多 い.このことから,多くの疾患で背景にオートファジー の低下が深くかかわっているという可能性が考えられ る.オートファジー抑制が病気と深くかかわるという最 初の洞察は脳特異的オートファジー不能マウスが典型的 神経変性疾患様症状を表したことから得られた.ノック アウトマウスの脳に認められるユビキチン陽性封入体 は,ハンチントン病の病原性ポリグルタミンやパーキン ソ ン 病 の 変 異

α

-シ ヌ ク レ イ ン を コ ア と す る レ ビ ー

(Lewy)小体など,神経変性疾患特有のタンパク質凝集 体や封入体とよく似ている.これらの疾患では,特定の タンパク質の構造が変化して毒性をもつオリゴマーが形 成され,オートファジーによる浄化作用をかいくぐって さらに大きな凝集体を形成するプロセスが発症と深くか かわっている.そもそも恒常的オートファジーのみが機 能し,その活性自体加齢によって減退すれば,細胞質の 品質管理を保つことは難しくなる.オートファジー不能 の影響が神経細胞で大きいもう一つの理由は,細胞が分 裂能を失っていて,死んでしまえば代替がきかないこと にある.神経細胞と同様に,膵

β

細胞や糸球体足細胞な ども再生できない終末分化細胞であるため,オートファ

表1臓器特異的オートファジー不能マウスの表現型と病態

細胞 標的遺伝子 表現型 オートファジー低下が疑われる疾患

神経細胞 Atg5, Atg7 運動失調,攣縮,ポリユビキチン陽性

凝集体・封入体蓄積 神経変性疾患(パーキンソン病,ハン チントン病)

肝実質細胞 Atg7 肥大,炎症応答,不定形多重膜構造の

蓄積,ポリユビキチン陽性凝集体蓄積 肝炎,腫瘍

腎尿細管 Atg5 加齢や虚血に対して機能不全 腎臓病

糸球体足細胞 Atg5 糸球体硬化,加齢による,あるいは,

薬剤に対する高感受性 薬剤性腎症

筋細胞 Atg7 筋萎縮,筋力低下 ミオパチー

心筋細胞 Atg5 ストレス下の収縮低下 心肥大

β細胞 Atg7 インスリン分泌低下,高血糖 糖尿病

房細胞 Atg5 トリプシノーゲン活性化不全

腸管上皮Paneth細胞 Atg5, Atg16 L Paneth細胞の脆弱化,顆粒分泌低下 クローン病,炎症性腸疾患

オートファジー関連遺伝子(標的遺伝子)の臓器特異的なノックアウトマウスで見られる病理的症状とオートファジー低下が関連すると類 推される疾患を示す.この中で,膵臓の房細胞のノックアウトマウスはトリプシノーゲンの活性化が低下することで膵炎の症状が緩和され る例外的な所見を表す.

(6)

ジー低下により,大きな影響を被る.

神経変性疾患と並んでオートファジー不全と深くかか わることで非常に注目を集めているのが腫瘍である(28). オートファジー不能ががんを引き起こすと報告された最 初の例はbeclin-1 (Atg6)のヘテロノックアウトマウス であるが,beclin-1はオートファジー以外の膜輸送にも かかわるので,純粋にオートファジーのみに働くAtg5 やAtg7を臓器特異的に欠失させるとがんを発症するか どうかが問題であった.肝臓特異的なAtg5モザイク欠 損マウスやAtg7欠損マウスでは,加齢によって腫瘍を 作ることがわかった(29, 30).興味深いことにAtg7とp62 の二重欠損マウスでは,腫瘍形成は起こるが腫瘍の大き さは小さくなる(30).一方,いったん確立されたがん細 胞では,血管からの栄養のみでは速い増殖を維持でき ず,オートファジーを積極的に利用しているという(28). がん化の後,がんの進行につれてオートファジーが抑制 から亢進へ変転する機構がさらに明らかにされなければ ならない.

おわりに

本稿では身体のごく一部の主要臓器に限って,オート ファジー不能マウスから得られた研究成果を解説した.

組織や血球の分化とオートファジー,抗原提示との関係 など,オートファジーの多様な役割は数え上げればきり がない(9).ここに紹介した数例でも,オートファジーは 組織や臓器の働きを正常に保つためにたいへん重要な役 割を担っていることが実感されるだろう.この実感の根 底には恒常的オートファジーでホメオスタシスを維持す ることのインパクトが強いかもしれない.しかし,進化 の歴史においては,ヒトを含めた地球上の多くの生物が 長い飢餓にさらされながら生き延びて継代してきたこと は間違いなく,栄養飢餓条件下でのオートファジーによ る代謝維持の重要性が改めて認識されることも確かであ る.

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プロフィル

上 野  隆(Takashi UENO)    

<略歴>1972年埼玉大学理工学部生化学 科卒業/東京大学大学院理学研究科修士課 程を経て順天堂大学医学部に赴任,現在に 至る<研究テーマと抱負>オートファジー を活性化することでボケやメタボを予防で きないか真剣に考え悩んでいる<趣味>ク ラシック音楽鑑賞(ベートーベン,ブラー ムス,ブルックナーなど)

参照

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