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化学と生物 Vol. 53, No. 10, 2015
接触性皮膚炎における Fc 受容体 γ 鎖の役割
IV 型過敏反応における液性免疫
接触性皮膚炎は,T細胞を主体とした細胞性免疫反応 によって発現してくる過敏反応として認識されてきた IV型(遅発型)過敏反応の典型的な疾患として広く認 知されている炎症性免疫疾患の一つである.たとえば皮 膚が特定の植物,ウルシに触れると,ウルシ成分中のウ ルシオールによって皮膚内の炎症細胞が感作され,免疫 記憶が成立する.ウルシが再度皮膚と接触することによ り免疫応答が活性化され,数時間から数十時間後に皮膚 腫脹,紅班,接触部位の周囲組織の損傷が生じる.この ようなウルシに対する応答は,過敏反応の誘発に皮膚と ウルシとの直接的な接触が必須であることから,接触性 皮膚炎の典型例であることがわかる.接触性皮膚炎を誘 発する物質は,ウルシ科の植物以外にも,ゴム製品,香 料,防腐剤,ニッケルやコバルトなどの金属類などは多 岐にわたることが知られている(1).接触性皮膚炎発症の メカニズムは,ハプテンと呼ばれる化学物質をマウスや
ラットなどの実験動物の皮膚に塗布する実験系により明 らかにされてきた.ハプテンは,それ自身では分子とし ては小さく抗原性をもたないが,表皮を通過して正常の 生体タンパク質と強固に共有結合することで抗原性をも つようになる.たとえば,ジニトロクロロベンゼンを皮 膚に塗布した場合,表皮細胞表面のタンパク質のリジン のNH2基に結合する(1).オキサゾロンと呼ばれるハプテ ンを用いた研究から接触性皮膚炎の発症にはT細胞に よる細胞性免疫反応だけではなく,抗体による液性免疫 反応も重要な役割を担っている可能性が示唆されてい る(2).たとえば,免疫記憶の成立における抗原提示細胞
(皮膚樹状細胞)の所属リンパ節への遊走とオキサゾロ ン特異的T細胞の産生には,IgE(オキサゾロンに対し て特異的でなくても構わない)と皮膚の真皮層に局在す るマスト細胞の働きが重要な鍵を握っているとするモデ ルである(図1).
図1■ハプテンなどの接触アレルゲンによ る経皮感作における液性免疫
従来はハプテンとハプテン非特異的IgEが FcεRI‒Fc受容体γ鎖を介してマスト細胞の 活性化と免疫記憶の成立が促進されるとされ ていたが,IgE‒FcεRI‒Fc受容体γ鎖の経路 は必ずしも免疫記憶の成立に必要ではなく,
接触アレルゲンによるマスト細胞の直接的な 活性化が重要である可能性が考えられる.
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筆者らは,IgEとマスト細胞を結びつける受容体が高 親和性IgE受容体(FcεRI)であると考え,FcεRIの細 胞膜表面への発現とFcεRIを介したシグナル伝達に必須 の分子であるFc受容体γ鎖欠損マウスを用いてオキサ ゾロンによって誘発される接触性皮膚炎について解析を 行った.Fc受容体γ鎖欠損マウスではオキサゾロンに よる接触性皮膚炎の症状は著しく減弱するにもかかわら ず,筆者らの予想に反して皮膚樹状細胞の遊走能および オキサゾロン特異的T細胞の産生能は野生型マウスと 変わらない表現型を示した(3).この結果は,FcεRIがオ キサゾロンに対する免疫記憶の成立において必須のもの ではないことを意味し,また可溶化型組換えFcεRIタン パク質の投与によって生体内でのIgEの生理的作用を競 合的に中和させたマウスにおいてもオキサゾロンに対す る免疫記憶の成立には,ほとんど影響を及ぼさなかった 点からIgEの役割についても否定する結果となった(3)
(図1).興味深いことに,オキサゾロンに対する感作の 成立後に可溶化型組換えFcεRIタンパク質を投与したマ ウスでは対照群と比較して接触性皮膚炎が有意に減弱し ており,IgE‒FcεRI‒Fc受容体γ鎖を介した液性免疫応 答は,免疫記憶成立以降の接触性皮膚炎の発症プロセス において重要な役割を担っていることが明らかとなっ た.
感作のプロセスにおいて,マスト細胞の活性化が重要 であることはさまざまな系統のマスト細胞欠損マウスを 用いて複数の研究グループから報告されており,異論の 余地はないが,ハプテンがどのようにしてマスト細胞を 活性化させているのかは現在のところ不明である.近
年,Yasukawaら(4)はハプテン塗布によって,DAP12‒
Syk‒CARD9経路と呼ばれるFc受容体γ鎖を介さないシ グナル伝達機構の活性化が皮膚樹状細胞において誘導さ れることを明らかにした.DAP12‒Syk‒CARD9経路は マスト細胞においても存在しているため,マスト細胞に おいてもハプテンによるDAP12‒Syk‒CARD9経路の活 性化が同様に機能しているのか確認する必要がある.今 後の研究により,その実体を明らかにしていきたい.
1) 布村 聡,羅 智靖: 免疫の事典 ,朝倉書店,2011, p.
272.
2) 布村 聡,小林麻衣子,照井 正,羅 智靖:臨床免疫・
アレルギー科,52, 538 (2009).
3) S. Nunomura, M. Ohtsubo-Yoshioka, Y. Okayama, T. Te- rui & C. Ra: , 24, 204 (2015).
4) S. Yasukawa, Y. Miyazaki, C. Yoshii, M. Nakaya, N. Oza- ki, S. Toda, K. Ishibashi, T. Yasuda, Y. Natsuaki, F. Michi
: , 5, 3755 (2014).
(布村 聡,日本大学医学部医学科,日本大学医学部総 合医学研究所)
プロフィル
布 村 聡(Satoshi NUNOMURA)
<略歴>東海大学大学院医学研究科にて免 疫学を専攻後,2001年より日本大学医学 部分子細胞免疫・アレルギー学分野研究 員・助教を経た後,2014年より日本大学 医学部医学科皮膚科学助教<研究テーマと 抱負>マスト細胞における免疫受容体を介 したシグナル伝達制御機構の解明<趣味>
ウォーキング
Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.53.657