軟骨形成機構の解析 : IGF-1 / インスリンとそれ
らの受容体シグナルとの関係
著者
尾嶋 満里子
2013 年 修士論文要旨
軟骨形成機構の解析
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IGF-1 / インスリンとそれらの受容体シグナルとの関係‐
関西学院大学大学院 理工学研究科 生命科学専攻 平井研究室 尾嶋満里子 【研究目的】軟骨形成において、未分化な軟骨細胞は、細胞凝集を含むいくつかの段階を経て細胞分化 を行いながら軟骨特有の組織構造を形成する。軟骨前駆細胞のモデル細胞であるATDC5 細胞は、イン スリンやIGF-1 を添加することによって細胞の凝集を経た分化が誘導されることが知られているが、そ の詳しいメカニズムにはまだ不明の点が残されている。IGF-1 はインスリンと構造的・機能的に類似し ており共通の下流を持つだけでなく、互いの受容体へも結合し活性化できることが知られている。本研 究では、軟骨前駆細胞の分化ならびに形態形成におけるインスリンシグナル並びにIGF-1 シグナルの役 割やその相互関係を解析する。 【実験方法】まず、軟骨前駆モデル細胞ATDC5 細胞と 3 次元軟骨形成が培養系で再現できるマウス胎 児尾芽において、IGF-1 受容体 (IGF-1R) ならびにインスリン受容体 (IR) の発現をそれぞれ RT-PCR で確認した。次に、IGF-1 とインスリンシグナルを詳細に解析するため、受容体阻害による検討を試み た。IGF-1R と IR は構造的に非常に類似しているものの IGF-1R のみを識別して阻害できる阻害剤 picropodophyllin (PPP) が存在するため、これを用いて、2 つの受容体の下流である Akt と ERK の活 性化状態を追跡した。一方、IR に対する特異的な阻害剤は存在しないため、IR のノックダウンの系を 用いた。一方、尾芽ではPPP により軟骨形態に明確な変化が現れたものの、組織が 3 次元のため ERK やAkt のリン酸化状態を正確に追跡することが困難であった。そこで、尾芽をトリプシンで処理して 2 次元に展開し、遺伝子操作と下流分子の正確な解析が同時に可能である実験系の構築を試みた。その系 での細胞のIR や IGF-1R、及び分化マーカーであるⅡ型コラーゲンの発現パターンから軟骨細胞の挙動 を追跡できると判断し、下流分子の活性化状態の解析を行った。【実験結果と考察】卒業研究より、細胞凝集が軟骨分化の十分条件である一方で、形態形成にはインス リンなど他の因子を必要とすることが示唆されていた。そこで因子の役割を明確化するため、インスリ ンやIGF-1 の受容体を阻害する系を用いて解析を行った。尾芽の培養において血清存在下では正常の軟 骨形態が構築されるものの、PPP により IGF-1 受容体を阻害した場合は血清存在下であっても形態形 成に異常が見られた。一方で、インスリンやIGF-1 は IGF-1R 阻害による尾芽の形態異常を回復させ、 ATDC5 細胞の細胞遊走や増殖も促進させることが判明した。これらの結果は阻害された IGF-1R を、 IR を介したシグナルによりレスキューできる可能性を示唆している。実際、2 次元に展開した尾芽にお いて、通常は IGF-1 による下流因子の活性化がインスリンのそれよりも顕著であるのに対し、IGF-1R の活性化阻害時は下流因子の活性化が抑制されなかった。この時、IR の活性化は促進されていることが わかった。一方で、IR をノックダウンした ATDC5 細胞においては、活性化状態の IR が減少すると共 に IGF-1R の発現上昇が見られ、相和としての下流の活性化は抑制されないことも判明した。さらに、 IR の発現量はインスリンによって減少するものの IGF-1 によって上昇傾向が見られた。これらの結果 から、軟骨形態形成においてインスリンシグナルとIGF-1 シグナルはそれぞれの受容体の活性化状態や 発現量を互いに調節し合う相補的な関係にあることが示された。