チャレンジ・ガイド II
熱・波動・光学・現代物理入門
特定非営利活動法人 物理オリンピック日本委員会
目 次
熱
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 第1章 熱と温度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21.1 温度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 1.2 熱容量と比熱・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 1.3 融解と蒸発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 1.4 熱移動のメカニズム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 第2章 気体分子運動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
2.1 平均運動エネルギー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
2.2 内部エネルギー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10 2.3 比熱・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 第3章 熱力学第1法則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14 3.1 熱力学第1法則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14
3.2 定積変化と定圧変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15
3.3 熱機関の効率・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17
3.4 断熱変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19
3.5 カルノー・サイクル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22
第4章 熱力学第2法則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26
4.1 可逆変化と不可逆変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26
4.2 熱力学第2法則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26
波動・光学
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29 第1章 波動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 301.1 波・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30 1.2 横波と縦波・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30 1.3 正弦波・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31 1.4 波の反射と透過・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34 1.5 弦の共振・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36 1.6 ホイヘンスの原理と波の回折・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37 1.7 波の反射と屈折・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39 1.8 3次元的平面波の表現・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40 1.9 疎密波としての音波・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42
1.10 水面波・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43
1.11 音波の定在波と固有振動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45
1.12 ドップラー効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47
1.13 うなりと分散,群速度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49
1.14 衝撃波・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 53
第2章 光学・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56 2.1 光・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 56 2.2 光の反射と屈折・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56 2.3 光の分散・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59 2.4 偏光・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 61 2.5 球面鏡・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 62 2.6 レンズの公式・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65 2.7 可干渉性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68 2.8 薄膜による干渉・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 70 2.9 マイケルソン干渉計・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73
2.10 光の回折・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 76
2.11 単スリットと回折格子・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 81
2.12 分解能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・85
現代物理入門
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 88 第1章 量子論の誕生・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 891.1 プランクの量子仮説・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 89 1.2 アインシュタインの光量子論・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 89 1.3 光電効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 90 1.4 コンプトン効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 93 第2章 前期量子論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・99 2.1 原子構造・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 99 2.2 ボーアの水素原子模型・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 99 2.3 X線回折・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・103 2.4 ド・ブロイ波・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 105 2.5 不確定性原理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 109 第3章 いろいろな物質・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 111 3.1 パウリの排他律とスピン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 111
3.2 金属・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 112
3.3 絶縁体と半導体・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 113
第4章 原子核と放射線・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 115
4.1 原子核・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 115
4.2 放射線・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 116
4.3 半減期・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 119
4.4 原子核反応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 120
付録:特殊相対論の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 124
A.1 相対論前夜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 124
A.2 ローレンツ収縮・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 124
A.3 特殊相対論の仮定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 125
A.4 時間の遅れと長さの短縮・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 125
A.5 光のドップラー効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 127
A.6 ローレンツ変換・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 129
A.7 速度・加速度の変換則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 129
A.8 相対論的力学・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 131
執筆担当:杉山忠男
1
熱
2
第1章 熱と温度
まず,暑さ寒さの指標を与える温度について考えよう。
1.1 温度
(1) 熱平衡と熱力学第 0 法則
2種類の物体を接触させて十分に時間がたつと,それ以上変化しない状態になる。この 状態は熱的につり合った状態であり,熱平衡状態(thermal equilibrium state)とよばれ る。このとき,「2つの物体の温度(temperature)は等しい」という。熱平衡状態で決 まった値をもつ物理量を状態量(quantity of state)という。温度は状態量であり,後に 出てくる圧力や体積も状態量である。
一般に次のことが成り立つ。
「物体Aと物体Bが熱平衡にあり,物体Bと物体Cが熱平衡にあるとき,
物体Cと物体Aは熱平衡にある。」
これを熱力学第 0 法則(zeroth law of thermodynamics)という。
(2) 経験的温度と理想気体 セルシウス温度
日常生活で用いられている℃目盛は,1気圧のもとで氷と水が共存する温度を0℃,水 と水蒸気が共存する温度を100℃とし,その間を100等分して1℃の温度差を定義する。
こうして決められた温度をセルシウス温度(Celsius temperature)という。ただし,100 等分するといっても,物質により熱膨張の仕方が異なるため,標準とする物質を決めな ければ温度を決めることはできない。
理想気体
実験によれば,希薄な一定量の気体では,温度が一定のとき,その圧力(pressure)(気 体が単位体積あたり押す力)pと体積V の積は気体の種類によらず一定値になることが 知られている。これをボイルの法則(Boyle’s law)という。
質量数 12 の炭素同位体12C12g に含まれる原子数(これをアヴォガドロ定数
(Avogadro’s constant)という)と同数の同種の粒子(原子,分子,電子など)を含む 物質量を1モル(one mole)という。アヴォガドロ定数NAは,
23 A
6.02
10N 〔1/mol〕
である。
1モルの気体の圧力pと体積V の積を,
RT
pV (1.1) とおくことにより,絶対温度(absolute temperature)(単位はKで表される)Tを定義 する。ここで,定数Rは気体定数(gas constant)とよばれ,実験により次のように定め ることができる。
気体が0℃と100℃のときのpVの値をそれぞれ(pV)0,(pV)100と書き,0℃と100℃
3
の絶対温度をそれぞれT0,T100T0100とおくと,
0
0 RT
pV)
( ,(pV)100RT100 となるから,
100
0
100 ( )
)
(pV pV
R
と書くことができ,それぞれの温度でのpV の測定結果を用いて,
8. 31
R
Jmol-1K-1 を得る。さらに,(pV)0 RT0より,K
0
273 Tと定まる。ここで,温度差1℃を絶対温度の差1Kに等しくとる。そうすると,12℃は絶 対温度
T
12 273 12 285 K
などとなる。pVの値は,気体のモル数nに比例する。そうすると,一般に,気体の圧力p,体積V , 絶対温度Tとnの間に,
nRT
pV (1.2) の関係が成り立つ。(1.2)式を理想気体の状態方程式(equation of state of ideal gas)と いい,この状態方程式を厳密に満たす気体を理想気体(ideal gas)という。以後,特に 断らない限り,温度は絶対温度を指すものとする。
1.2 熱容量と比熱
静止している物体でも,物体を構成している原子や分子は不規則な運動をしている。こ の運動を熱運動(thermal motion)という。この熱運動のエネルギーが移動すると,物体 の温度が変化する。この移動するエネルギーを熱量(heat quantity)という。したがって,
熱量はエネルギーと同じ単位〔J〕で測られる。1calは,1気圧の下で,水1gを1K上昇さ せる熱量であり,1cal≒4.19Jである。
物体の温度を1K上昇させる熱量を熱容量(heat capacity)といい,物体1kgを1K上 昇させる熱量を,その物体の比熱(specific heat)という。したがって,質量m,比熱cの 物体の温度を
T 上昇させる熱量Qは,T mc
Q
(1.3) と表される。1.3 融解と蒸発
1気圧の下で,氷(固体)は0℃で水(液体)になり,100℃で水蒸気(気体)になる。
一般に,固体が解けて液体になる現象を融解(fusion),逆に,液体が固体になる現象を凝 固(solidification)という。また,液体が気体になる現象を蒸発(evaporation),気体が液 体になる現象を凝結(condensation)という。一定圧力の下で,固体と液体が共存する温 度を融点(melting point),液体と気体が共存する温度を沸点(boiling point)という。
4
物質が固体,液体,気体の間で変化するときに出入りする熱を潜熱(latent heat)とい い,単位質量の固体が液化するときの潜熱を融解熱(heat of fusion),単位質量の液体が気 化するときの潜熱を蒸発熱(heat of vaporization)という。
いくつかの物質における融点,融解熱,および,沸点と蒸発熱を表1に示す。
表1.1:いろいろな物質の融点,融解熱,沸点,蒸発熱
物質 融点
(℃)
融解熱
(kJ/kg)
沸点
(℃)
蒸発熱
(kJ/kg)
水(氷) 0 334 100 2256 窒素 210 51 196 199 酸素 218 28 183 213 一酸化炭素 205 30 191 216 エチルアルコール 114 107 79 838
例題 1.1 熱量の保存
図1.1のように,氷と水の混じった100gの氷水が,100Wの 電熱器のついた断熱性の容器に入れられている。そこに,80℃に 熱せられた質量150gの銅球をすばやく入れて電熱器に3分間電 流を流したところ,氷はすべて解けて,水温は 25℃に上昇して 一定になった。次に,電熱器に電流を2分30秒間流したところ,
水温は 55℃になって一定になった。容器から外部への熱の流失
および外部から容器への熱の流入は無視できるとして,はじめに 入れられていた氷水の中の氷の質量と容器の熱容量を求めよ。氷 の融解熱を334 J/g,水の比熱を4.2 J/g,銅の比熱を0.38 J/gと する。
【解答】
電熱器に電流を2分30秒間流したら,100gの水と容器が25℃から55℃に上昇したので あるから,容器の熱容量を
C
とすると,) (
) . (
)
( 2 60 30 100 4 2 55 25
100 C
∴
C
80 J/K次に,はじめの氷の質量を
m
とする。質量150 gの銅球の温度が80℃から25℃まで低 下する間に放出する熱量と,電熱器から3分間に発生する熱量が,質量m
の氷を解かし,さらに,100 gの水と容器の温度を0℃から25℃まで上昇させたのであるから,
) (
) . (
) (
. 38 80 25 100 60 3 334 100 4 2 25 0
0
150 m C
m
≒26g ■C 銅球 80
g 150
電熱器 氷 水
図1.1
g 100
5 1.4 熱移動のメカニズム
熱の移動の仕方には,熱伝導(conduction of heat),対流(convection),熱放射(thermal radiation)の3つがある。熱伝導とは,物体の内部での分子の熱運動が順次伝わる現象で あり,温度の高い方から低い方に熱が伝わる。対流は,気体あるいは液体において生ずる 現象であり,温度の高い部分は膨張して密度が小さくなって上昇し,温度の低い部分は密 度が高くなって下降して熱が移動する現象である。また,熱放射は,熱が電磁波として移 動する現象であり,物体は熱を電磁波として放射すると温度は低下し,逆に,電磁波を吸 収すると温度は上昇する。
熱伝導
図1.2のように,温度THの十分に大きな高温物体と温度 TLの十分に大きな低温物体が断面積S,長さLの物体 C でつながれているとき,実験によれば,高温物体から低温 物体に単位時間あたりに流れる熱量H は,両物体間の温度 差THTLと断面積S に比例し,長さLに反比例すること が知られている。そこで,比例係数をkとすると,
L T kST
H H L (1.4) と表される。このとき,kは物質によって異なる定数で,熱伝導率(thermal conductivity)
とよばれる。いろいろな物質の0℃における熱伝導率を表1.2に示す。
表1.2:いろいろな物質の熱伝導率
物質 k〔W/(m・K)〕
アルミニウム 236 銅 403 氷 2.2
水 0.561
空気 2.41102
【発展】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
一般に,高温物体と低温物体をつないでいる物体C の温度勾配が場所によって異なり,
その値が位置xに依って定まるとき,単位時間あたりx軸の正の向きに移動する熱量Hは,
dx kSdT
H (1.5) と表される。
TH S TL
L
図1.2
C
6
例題 1.2 2 種類の物質で繋がれた物体を伝わる熱量 図1.3のように,断面がともに一辺10cmの正方形 で,長さがそれぞれ10cm,20cm のアルミニウムと 銅の棒を接続し,80℃と0℃の物体間を繋いだ。2本 の棒の接続点の温度と棒を伝わって単位時間あたり に移動する熱量Hを求めよ。ただし,アルミニウム と銅の熱伝導率は,それらの温度によらず0℃の値に
等しいとし,2つの物体とアルミニウムと銅の棒は真空中に置かれ,それらと真空の間の 熱の移動は無視する。
【解答】
アルミニウムと銅の棒の接続点の温度をT〔℃〕とし,単位時間あたりにアルミニウム の棒を伝わる熱量と銅の棒を伝わる熱量を等しいとおく。S (0.10)2 m2,L1 0.10m,
m 20
2 0.
L ,TH 80℃,TL 0℃とおき,アルミニウムと棒のそれぞれの熱伝導率を K)
W/(m
1236 ・
k ,k2 403W/(m・K)として,
2 L 2
1 H
1 L
T ST L k
T ST k
H
これより,
1 2 2 1
L 1 2 H 2 1
L k L k
T L k T L
T k 43.2℃, H 8.7102 W ■
熱放射
太陽などの恒星は電磁波の放射により,周囲に熱を放射し,放射された電磁波を地球な どの惑星が吸収し,惑星は温暖な気候を保っている。一般に,どんな物体も電磁波を放射 している。常温の物体は,可視光より波長の短い赤外線を多く放射するが,表面温度が3,000 K程度の物体は,可視光を多く放射するようになり,白熱する。
温度
T
の黒体(black body)(すべての振動数の電磁波を放射・吸収する物体)が,表面 の単位面積,単位時間当たり放射する熱量H
は,T
4H
(1.6) と表される。ここで,
はシュテファン-ボルツマン定数(Stefan-Boltzmann coefficient)とよばれ,
) .67 108 W/(m2 K4
5 ・
で与えられる。例題 1.3 地球への照射エネルギー
太陽光に垂直な地球表面で,1m2あたり1 s秒間に照射される太陽光のエネルギーを求め よ。ただし,地球と太陽は黒体とし,太陽は完全な球形で地球は太陽のまわりを完全な円
図1.3
アルミ ニウム 銅
80C 0C
cm
10 20cm
7
を 描 い て 運 動 し て い る と す る 。 太 陽 の 表 面 温 度 をTS 5770K , 太 陽 半 径 を
km 10 96
6
5S
.
R
,太陽と地球の距離をa
1.50
108 kmとする。【解答】
地球表面の単位面積あたり,単位時間に吸収する熱量
H
Aは,
1
4 4
2 2 4 S
S
A a
T R
H
1.35103 J ■☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【発展終】
8
第2章 気体分子運動
2.1 平均運動エネルギー
一辺の長さLの立方体容器に質量m の一種類の気体分子N個が入っている。気体は理 想気体であり,気体の温度をTとする。分子は容器の壁と完全弾性衝突をし,分子と壁の 間に摩擦ははたらかず,分子の大きさは無視する。また,はじめ,気体分子同士の衝突を 無視する。
図2.1のように,x軸に垂直なx Lの位置にある正方 形の面Sに気体分子が衝突することによるSが受ける圧力 を考えよう。ある瞬間のある分子の速度をv (vx,vy,vz) とする。この分子がSに弾性衝突すると,摩擦がないので
z y v
v , は変化しないが,x方向の速度はvx vx となる から,この衝突で面Sがx軸正方向に受ける力積は,
mvx mvx
2mvx ( )
となる。
気体分子の速度のx成分の大きさは壁に衝突しても変わらず,容器の面x Lから面
0
x まで1往復するごとに,面Sに1回衝突をする。したがって,単位時間あたりの衝 突回数は L
vx
2 となり,単位時間にこの分子が面Sに与える力積は,
L mv L v v
m x x x2
2 2
となる。いま,気体分子ごとの速度のx成分は異なるので,全分子が単位時間あたり面 S に与える力積すなわち平均の力F は,
F L
v Nm L
Nmvx2 x2
と書ける。ここで,vx2は,vx2の全分子に関する平均値を表す。
気体分子の速さvの2乗の平均値v2 は,速度成分の2乗の平均値を用いて,
2 2 2 2
z y
x v v
v
v
となり,また,分子はx,y,z方向のどの方向にも同じように運動していると考えられるか ら,
2 2 2 2
3 1v v v
vx y z (2.1)
L L
L x
y z
S vx
図2.1
v
9
となる。さらに,面Sに及ぼす圧力pは,単位面積あたりの平均の力であるから,気体の 体積(容器の体積)V L3より,
V v Nm L
v p Nm
3 3
2 3
2
∴ 2
3 1Nmv
pV (2.2) を得る。
この結果を,理想気体の状態方程式(1.2)と比較する。アヴォガドロ定数
N
Aを用いて,ボルツマン定数
k R / N
Aを定義し,容器内の粒子数がN nN
Aと表されることから,気 体分子1個の平均運動エネルギーkT v
m 2
3 2
1
2
(2.3) を得る。ここで,J/K 10 38 1
23
. k である。例題 2.1 気体分子の速さ
絶対温度 300K の空気の分子の速さ v2 を,空気の平均分子量を 29,気体定数を
8. 31
R
Jmol-1K-1として求めよ。【解答】
(2.3)式より,空気1molの平均質量M 29103 kgを用いて,
M
RT m
N RT m
v 3kT 3 3
A
2 5.1102 m/s ■
平均運動エネルギーの均一化
温度の異なる2種類の気体を混ぜたとき,十分時間がたてば2種類の気体の温度は等し くなり,各気体分子のもつ平均運動エネルギーも等しくなる。これは,分子間の衝突によ って運動エネルギーが伝達されるからである。
例題 2.2 衝突による運動エネルギーの伝達
温度の異なる粒子1からなる気体と,粒子2からなる気体を混合したときの粒子1と2 の衝突を考える。衝突前の粒子1の平均運動エネルギーが粒子2の平均運動エネルギーよ り大きければ,衝突後,粒子2の運動エネルギーは平均として増加し,逆の場合は平均と して減少することを,衝突が1次元弾性衝突である場合について示せ。
【解答】
速度V で運動する質量M の粒子1と速度vで運動する質量mの粒子2が弾性衝突し,そ れぞれの速度がU,uになる。2粒子が1次元的弾性衝突をするとき,はね返り係数は1で
10
あるから,2粒子の衝突における運動量保存則とはね返り係数の式は,それぞれ,
mu MU mv
MV
v V
u U
1
これらより,粒子2の運動エネルギーの変化は,
2
2
2 1 2
1mu mv
MV mv M mVv
m M
Mm ( )
)
( 2
1 2
1 2
1
4 2 2
2
となる。ここで,衝突前の粒子1と2の速度について平均をとる。粒子1と2速度は,互 いに独立であり正負ランダムな値をもつから,Vv V v 0となる。したがって,衝突前,
粒子1の平均運動エネルギー 2 2
1MV が粒子2の平均運動エネルギー 2 2
1mv より大きけれ ば,衝突後の粒子2の運動エネルギーは平均として増加し,逆の場合は平均として減少す ることがわかる。こうして,温度の異なる2種類の気体を混合して十分に時間がたてば,
2種類の気体の平均運動エネルギーは等しくなり同じ温度になる。 ■
2.2 内部エネルギー
物体が全体としてもつ運動エネルギーや位置エネルギーを除いて,物体内部の分子の運 動や変位によってもつエネルギーを,その物体の内部エネルギー(internal energy)とい う。理想気体では,分子の大きさと分子間にはたらく力は無視される。したがって,理想 気 体の 内部 エネル ギー は,分 子の もつ並 進運 動(translational motion),回 転運 動
(rotational motion)および振動(oscillation)のエネルギーの総和に等しい。
He, Ne, Arなどの気体は,原子1個からなる単原子分子の気体である。これらの気体で
は,分子の回転運動や振動運動を考える必要はない。なぜなら,原子の中心にある原子核 のまわりの電子が回転したり振動したりすると,そのエネルギー状態が変化する。しかし,
ここで考える室温程度の気体分子運動では,原子内部のエネルギーは変化しないからであ る。非常に高温になれば,原子内部のエネルギー状態の変化が起こり得る。
単原子分子理想気体の内部エネルギー
上で述べたことから,絶対温度Tの単原子分子理想気体nモルの内部エネルギーU は,
全分子の並進運動エネルギーの和となり,分子1個の平均運動エネルギー T N v R m
A 2
2 3 2
1 ,
分子数N nNA(NA:アボガドロ数)を用いて,
nRT v
m N
U 2
3 2
1 2
(2.4) となる。
後に述べるように,一般に理想気体の内部エネルギーU は,定積モル比熱CVを用いて,
T nC U V
11
と表されるから,単原子分子理想気体の定積モル比熱CVは,
R
C 2
3
V (2.5) で表されることがわかる。
例題 2.3 球形容器中の気体分子
体積V の球形容器に単原子分子からなる1種類の理想気体が入れられている。気体分子 が容器の壁に衝突することによって壁に及ぼす圧力pを計算し,気体の内部エネルギーU をpとV で表せ。ただし,気体分子は壁に弾性衝突するものとする。
【解答】
球形容器の半径をrとし,図 2.2のように,質量mのi番目 の分子が速さviで容器の壁面に,その法線と角
i(この角を入 射角(angle of incidence)とよぶ)をなして衝突する場合を考 える。気体分子と壁との間に摩擦なしに弾性衝突すると,衝突 直後,この分子の速度は壁の法線と角
i (この角を反射角(angle of refraction)とよぶ)をなす。そうすると,その後 分子はつねに壁と同じ入射角
iで衝突し,反射角も
iのままで ある。1回の衝突で気体分子が壁面に与える力積は,
i i i
i i
i mv mv
mv cos
( cos
)2 cos
で あり, 分子が 一度壁に 衝突し てから次 に壁に 衝突す るまでに かかる 時 間
tiは,i
i v i
t r
2 co s となる。したがって,この分子が単位時間あたり壁に与える力積の大きさ(平 均の力の大きさ)の和fi は,r mv t
f mv i
i i i i
cos 2
2
となり,fiは入射角
iによらない。単原子分子理想気体では,気体の内部エネルギーU は,全分子の並進運動エネルギーで あるから,全分子が壁に及ぼす単位時間当たりに与える力積の大きさの和,すなわち,平 均の力の大きさF は,
r U r
f mv F
i i i
i
2 2
となる。容器内面の面積は4
r2であり,容器の体積は 3 3 4 r V
であるから,気体が容器内 壁に及ぼす圧力pは,
r r
i
i
vi
m V
図2.2
12 V U r
p F
3 2 4 2
∴ U 2pV3 ■
弾性衝突と断熱条件
これまで,気体分子は壁と弾性衝突をすると仮定してきたが,これは,どのようなこと を意味するのであろうか。
気体分子が単原子分子であれば,気体分子は回転や振動を起こさない。また,分子と壁 の間に摩擦力もはたらかないとすれば,気体分子の速さは衝突で変化せず,その運動エネ ルギーも変化しない。つまり壁と分子の間でやり取りするエネルギーはゼロである。これ は,気体に壁を通した熱の出入りがないことを意味し,断熱的(adiabatic)であることを 表している。気体分子がた原子分子であっても,分子内の原子は瞬間的に壁と弾性衝突す るかぎり,壁からのエネルギーの出入りはなく,気体分子のもつ全エネルギーも変化しな い。すなわち,断熱であることに変わりはない。
2.3 比熱
(1) エネルギー等分配則
絶対温度Tで,1 分子の質量がmの同種の気体の分子運動を考える。分子はどの方向 にも同じように運動しているから,分子の速度をv (vx,vy,vz)とすると,kをボルツ マン定数として(2.1)式と(2.3)式より,
kT v
m v
m v
m x y z
2 1 2
1 2
1 2
1 2 2 2 (2.6) となる。すなわち,1つの自由度(degree of freedom)(独立に変化できる座標の数)あ たり kT
2
1 のエネルギーが割り当てられることがわかる。
これは当然のことのように見えるが,以下で述べるように,回転や振動などの運動を 考えても1つの自由度あたり kT
2
1 のエネルギーが割り当てられることがわかり,このこ とは,エネルギー等分配則(equipartition law of energy)とよばれている。
(2) エネルギー等分配則と比熱 2原子分子理想気体
絶対温度T において,2原子分子理想気体のもつエネルギーを考える。
2原子分子の重心が空間の中を飛び回る並進運動の自由度は3であり,その並進運動 エネルギーは kT
2
3 であるが,さらに回転運動や振動運動の自由度があるため,そのエネ ルギーが加わる。2原子分子の回転の自由度は,図2.3のように2であり,エネルギー等
13 分配則によりそのエネルギーは, kT2kT
2
1 である。
常温では,振動運動は量子論的効果により凍結されて現 れない。こうして,2原子分子理想気体のエネルギーは,
kT kT
kT
E 2
5 2
3
(2.7)
となる。これより,絶対温度Tのとき,nモルの2原子 分子理想気体の内部エネルギーU と定積モル比熱CV はそれぞれ,
nRT U 2
5 , C R
2 5
V (2.8) となる。
x
y z
図2.3
14
第3章 熱力学第1法則
準静的過程
系 が 熱 平 衡 を 保 ち な が ら 十 分 ゆ っ く り と 変 化 す る と き , こ の 変 化 を準 静 的 変 化
(quasi-static change)という。これは変化を無限にゆっくり行うという理想的な変化であ るが,現実的には,系が熱平衡に近づく,よりゆっくりした変化であれば,準静的変化と みなすことができる。準静的変化では,いつでも熱平衡が保たれているので,状態量であ る気体の圧力p,体積V ,温度Tは決まった値をもつ。したがって,準静的変化を,縦軸 にp,横軸にV などをとった状態図(phase diagram)
で表 すことが できる。 例えば,定圧変化(isobaric
change),定積変化(isochoric change),等温 変化
(isothermal change)を組み合わせた1サイクルの変 化は,図 3.1 のようなpV状態図で表される。また,
系が準静的に変化したとき,その系を準静的変化で元に 戻すことができる。このように,逆に元に戻すことので きる変化は可逆変化(reversible change)とよばれる。
本章では,特に断らない限り,変化はすべて準静的変化 とする。
このように,原子,分子などのミクロな運動に着目して考えるのではなく,熱現象を現 象論的に扱う分野を熱力学(thermodynamics)という。熱力学は,基本的に静力学である が,その扱い方はきわめて一般的であり,物理学の各分野はもちろん,化学,生物学,工 学など,広い範囲に応用されている。
熱力学の基本的な法則は,1.1節で述べた第0法則に加えて,第1法則,第2法則,第3 法則まであるが,本章では,第1法則を中心に考える。
3.1 熱力学第1法則 気体の過熱
気体を高温物体と接触させると,気体は過熱される。
これは,高温物体を構成している分子と気体分子の衝 突により,エネルギーが伝達されるためである(図 3.2)。高温物体の分子は激しく振動しており,振動し ている分子と気体分子が衝突するとき,例題2.2の場 合と同様に,運動エネルギーの大きな分子から小さな
気体分子にエネルギーが伝達され,気体の内部エネルギーが増加する。このとき気体に伝 達された熱エネルギーが気体に加えられた熱量である。
定圧変化
定積変化 等温変化
O V
p
図3.1
m M 気体分子
高温物体
図3.2
15 気体のする仕事
図3.3のように,ピストンの付いた断面積S のシリンダー内に 気体が入れられており,その圧力pが一定のままピストンが右向 きに距離
xだけ動かされたとする。このとき,気体がピストン にする仕事
Wは,気体の体積増加を
V S
xとして,V p x pS
W
(3.1)となる。ここで,気体の圧力pが体積とともに変化する過程にお いて,微小な体積変化をdV と書くと,気体の体積がV1からV2ま で変化するとき,気体がする仕事Wは,
2
1
V
V pdV
W (3.2) となり,pV 状態図では,圧力pとV 軸で挟まれた領域の面積 に等しいことが分かる(図3.4)。
エネルギー保存則
気体が他の物体と接触して熱量
Qを吸収したとき,気体の内部エネルギーの増加を
U , 気体が外部にする仕事を
Wとする。このとき,それ以外に失われるエネルギーがなけれ ば,エネルギー保存則W U
Q
(3.3) が成り立つ。この関係を,熱力学第1法則(first law of thermodynamics)という。(3.3) 式は,気体が外部からされる仕事
W
Wを用いて,W Q
U
(3.4) とも表される。内部エネルギーは気体の状態で決まる状態量であるが,気体の吸収する熱量と気体のさ れる仕事は,任意に与えることのできる物理量であり,気体の状態で決まる状態量ではな い。そこで,微小変化の過程を考えるとき,状態量とそれ以外の物理量の微小量を区別し て,微小な内部エネルギー変化をdU ,微小な吸収熱と仕事は,ダッシュを付けてそれぞれ
W d Q
d , と表す。そうすると,微小変化の過程を表す場合,(3.4)式は,
W d Q d
dU (3.5) と表される。
3.2 定積変化と定圧変化 気体の内部エネルギー
2.2節では,気体分子運動の立場から気体の内部エネルギーを考えたが,ここでは,熱力 学的な立場から内部エネルギーを考えてみよう。
気体の状態を決める基本的な変数としては,状態量である圧力p,体積V ,温度T の3 つがあるが,一般的に気体には,これらの量の間に状態方程式が成り立つので,独立変数
p
S
x
V
図3.3
p
0 V1 V2 V
図3.4
W
16
は2つになる。そこで,圧力pは体積V と温度T で決まると考えて,気体の状態を決める 独立な状態変数としてpとV をとることにしよう。そうすると,気体の内部エネルギーU は,pとV の関数となる。ここで,U も状態量である。
「理想気体の内部エネルギーU は,気体の温度T だけで決まる」 (3.6) このことは,気体を真空中に噴出させる実験1を改良することによって,理想気体につい て確かめられた。これはジュールの法則(Joule’s law)とよばれる。
理想気体に対する結果(3.6)は,2.2節で考えた理想気体に対する分子運動論からも予想さ れる結果である。
定積変化
物質の体積を一定に保って1モルの物質の温度を1 K増加させる熱量CVを,定積モル比 熱(molar specific heat at constant volume)という。体積V を一定に保ってnモルの理想 気体の温度を
T だけ増加させる熱量
QVは,T nC
Q
V Vとなる。このとき,気体の体積は一定であるから,気体は仕事をしない(
W0)。よっ て,熱力学第1法則より,内部エネルギーの変化
U
QVは,T nC
U
V (3.7) と表される。これは,定積変化をさせたときの内部エネルギー変化を与える式であるが,上に述べたジュールの法則より,内部エネルギーは温度のみで決まるから,任意の変化(定 圧変化,断熱変化など)で温度を
T だけ変化させたときの内部エネルギーの変化は,(3.7) 式で与えられることがわかる。定圧変化
物質の圧力を一定に保って,1モルの物質の温度を1 K増加させる熱量CPを定圧モル比 熱(molar specific heat at constant pressure)という。圧力pを一定に保ってn モルの理 想気体の温度を
Tだけ増加させる熱量
QPは,T nC
Q
P P (3.8) となる。このとき,内部エネルギーの増加
U は(3.7)式で与えられる。また,体積増加を
V とすると,気体のする仕事は
W p
Vと書けるが,理想気体の状態方程式から,T nR V
p
が成り立つから,熱力学第1法則より吸収熱
QPは,P
Q
U
Wn(CVR)
T (3.9) となる。(3.9)式を(3.8)式と比較して,定積モル比熱CVと定圧モル比熱CPの関係式R C
CP V (3.10) を得る。(3.10)式はマイヤーの関係(Mayer’ relation)とよばれる。
He, Ar, Xeなどの単原子分子理想気体の定積モル比熱CVは,2.2節で求めたように,
1 後に述べる断熱自由膨張。
17 R
C 2
3
V (2.5) で与えられるから,(3.10)式より,定圧モル比熱CPは,
R
C 2
5
P (3.11) となる。また,2原子分子理想気体の定積モル比熱CVと定圧モル比熱CPはそれぞれ,(2.8) 式より,
R
C 2
5
V ,C R
2 7
P (3.12) となる。空気は主に窒素と酸素からなり,それらは気体では2原子分子であるから,空気 の比熱は,ほぼ(3.12)式で与えられる。
3.3 熱機関の効率
図3.5のように,外部から熱量Qを吸収し,外部に仕事Wをし,
熱量Qを放出する熱機関(熱サイクル)Cを考える。このとき,吸 収する熱量Qの中で外部にする仕事Wの割合を熱機関Cの熱効率
(thermal efficiency)という。エネルギー保存則より,WQQ であるから,熱効率eは,
Q Q Q
e W
1 (3.13) と表される。
例題 3.1 気体の状態変化
図3.6のように,ピストンの付いた円筒形シリンダーの内部に単原 子分子理想気体が入れられ,鉛直に立てられている。ピストンの上に は,おもりが載せられ,おもりには軽い糸が付けられている。円筒の 底には熱を出し入れできる温度調節器が付いている。はじめ,ピスト ンは円筒の底からh1の高さにあった。この状態から気体を次のように,
準静的に変化させて元の状態に戻した。ピストンはなめらかに動くこ とができ,シリンダーとピストンはすべて断熱的であり温度調節器の 熱容量は無視できる。
過程1:温度調節器を作動させて,気体に熱を加えたらピストンは円筒の底からh2(h1) の高さまで上昇した。
過程2:過程1に続いて,温度調節器を作動させて気体から熱を奪うと同時に,おもりに 付いている糸を少しずつ上方へ引いていったところ,ピストンの高さは変化せず,おも りはピストンから離れた。
Q Q
W
図3.5
C
単原子分子 理想気体 h1
図3.6
温度調節器
18
過程3:過程2に続いて,おもりをピストンの上面に軽く接触させて温度調節器を作動さ せて気体から熱を奪うと同時に,糸を少しずつ緩めて言ったら,気体はその温度を一定 に保ちながらピストンは徐々に下降し,ピストンの高さh1のはじめの状態に戻った。
以上の1サイクルのpV 状態図を描き,この熱機関の熱効率eを求めよ。また,
1 2
2 h
h / のとき,eの値を有効数字2桁で求めよ。ただし,積分公式 C
x x
dx
log (Cは積分定数,logx はx の自然対数)を用いてよい。
【解答】
シリンダーの断面積をS とすると,過程1は,大気圧 およびピストンとおもりにはたらく重力を支える圧力 p1を一定に保ちながら,体積をV1 Sh1からV2 Sh2 まで増加させる定圧変化である。過程2は,気体の体積 をV2に保ちながら圧力を,p1からおもりを取り去った ときの圧力p2( p1)まで減少させる定積変化である。
過程3は,気体の温度を一定に保つ等温変化である。こ れより,図3.7のpV 状態図を得る。
気体のモル数をn,気体定数をRとし,はじめの状態
の気体の温度をT1,過程1の終わりの状態の気体の温度をT2とする。過程1の前後での理 想気体の状態方程式
1 1
1V nRT
p , p1V2 nRT2 および,単原子分子理想気体の定圧モル比熱 R
2
5 を用いると,過程1で気体が吸収した熱 量Q1は,
) (
) (
)
( 2 1 1 2 1 1 2 1
1 2
5 2
5 2
5nRT T p V V pSh h
Q
過程2は定積変化であるから気体は仕事をしない。また,過程2の後,過程3の等温変 化を経てはじめの状態に戻るのであるから,過程2の終わりの状態の気体の温度はT1であ る。単原子分子理想気体の定積モル比熱 R
2
3 と状態方程式を用いると,過程2で気体が放 出した熱量Q2は,
) (
)
( 2 1 1 2 1
2 2
3 2
3nRT T pSh h
Q
過程3は等温変化であるから,気体の内部エネルギーは変化しない。よって,この過程 で気体が放出する熱量Q3は,気体が外部からされる仕事W3に等しい。過程3の途中の任
0 V
p
図3.7
1
2 3
p1
p2
V1 V2
T1 T2
T1
19
意の状態での気体の圧力と体積をそれぞれp,Vとすると,pV p1V1 p2V2より,
3 Q
1 2 1 1 2 1 1 1 1
1 3
1 2 1
2 h
Sh h V p
V V V p
V dV p pdV
W V
V V
V log log
これより,熱機関の熱効率eは,
1 3
1 2
Q Q e Q
) (
log )
(
1 2
1 2 1 1 2
2 5 2 3 1
h h
h h h h h
2 / 1
2 h
h を代入して,
e≒0.12 ■
3.4 断熱変化 準静的断熱変化
理想気体を準静的に断熱変化(adiabatic change)させる過程を考える。
nモルの理想気体を,準静的に圧力p,体積V ,温度T の状態から圧力p
p,体積 VV
,温度T
Tの状態に,断熱的に微小変化させる。変化前後の気体の状態方程式 は,気体定数をRとして,nRT
pV , (p
p)(V
V)nR(T
T) となる。微小量の積
p
Vを落とし,これらより,T nR p V V
p
(3.14) を得る。一方,微小な断熱変化に対して熱力学第1法則を適用する。定積モル比熱をCVとすると,
内部エネルギーの増加はnCV
T ,気体が外部にする仕事はp
V と書けるから,熱力学第 1法則は,V p T nC
V
0 (3.15) となる。ここで,CP CV Rを用いて比熱比(ratio of specific heat)
CP/CVを導入 する。理想気体では,通常
は温度によらない一定値となるので,以降,理想気体を扱うと き,
を一定値とする。(3.14)式と(3.15)式からn
T を消去して積分する。0
V
V
p p V
V C
R
C
⇒
dVV
dpp 0 これより,C p V log
log (C:積分定数)となり,ポアソンの関係(Poisson’s relation)
pV 一定 (3.16) を得る。ポアソンの関係は,理想気体の状態方程式を用いると,
1
TV 一定 (3.17)
20 と表すこともできる。
例題 3.2 圧力pと温度T の関係
理想気体の準静的断熱変化で成り立つ圧力pと温度Tの関係を,比熱比
を用いて求め よ。【解答】
(3.14)式と(3.15)式から
V を消去し,CP CV Rと状態方程式を用いると,RT T p T C
V R C
p n
V P ( )
ここで,CP CV RとCP
CVより,C RP 1
となるから,T T p
p
1
⇒
dpp
1
dTTこれより,
CT
p 1 (Cは定数) (3.18) を得る。
(3.18)式は,(3.16), (3.17)式からV を消去しても得られる。 ■
断熱自由膨張
断熱変化であっても,準静的ではなく,ポアソンの式が成り立たない典型的な例に,断 熱自由膨張(adiabatic free expansion)とよばれる現象がある。
図3.8のように,断熱壁で囲まれたA室とB室の間にコッ クCが付けられ,A室に温度Tの理想気体が入れられおり,
B室が真空であるとする。コックCが開けられると,A室の 気体はB室に噴き出し,十分に時間がたつと,A室とB室の 気体の圧力と温度は等しくなる。このとき,気体と外部との 間に熱の出入りはなく,気体は外部に仕事をしないから,気 体の内部エネルギーは変化せず,温度は変化しない。もし,
この変化を準静的変化と見なし,ポアソンの関係を適用すると,気体の体積V は増加する から,
1に注意すると,(3.17)式より温度Tは低下することがわかる。したがって,こ の場合,ポアソンの関係は成り立たない。なぜ,ポアソンの関係は成り立たないのであろうか。
それには,この関係の導出方法に着目してみればよい。ポアソンの関係は,断熱変化の 途中でわずかに異なる2つの熱平衡の状態(圧力,温度,体積などの状態量が定まる状態)
を考えて,それら2つの状態間を断熱的に変化する条件から微小量の間の関係式を導き,
A 理想気体
B 真空 C
図3.8
21
それを次々につないでいく(積分する)ことにより導出された。ところが,自由膨張で A 室の気体の一部がB室に流れ込んでいるとき,B室の気体の圧力はA室より低い(A室内,
B室内の気体の圧力も,それぞれ一様ではない)はずであり,気体全体の圧力を決めること ができず,気体は,明らかに熱平衡状態にはない。したがって,断熱自由膨張は,準静的 変化とは見なすことができず,ポアソンの関係は成り立たない。
例題 3.3 気体の混合と断熱変化
図3.9のように,断熱壁で囲まれた部屋がコックCと支 え棒の付いた断熱性の仕切り板でA室とB室に分けられ,
それぞれに,同種の単原子分子理想気体が1モルずつ入れ られている。はじめ,仕切り板は固定され,A室の気体の 圧力は2p0,温度は2T0,B室の気体の圧力はp0,温度は T0であり,体積はともにV0であった。答は有効数字2桁 で求めよ。
(a) コックCを開いて十分に時間がたつと,A室とB室の気体は混じり合い,同じ温度T1
になった。T1はT0の何倍か。
(b) A室とB室の気体をはじめの状態に戻し,コックCは閉じたまま仕切り板の固定を解 いて,板を棒で支えながら少しずつ動かして,つり合いの位置で棒に加える力をとり除 いた。そのとき,A室の気体の体積をV2,温度をT2,B室の気体の温度をT3とする。V2 はV0の何倍か。また,T2とT3は,それぞれT0の何倍か。
(c) 前問(b)の操作で,気体がピストンに,すなわち,棒に加えた仕事W は,p0V0の何倍
か。
【解答】
(a) コックCを開いただけなので,A, B両室の気体に外から熱の出入りはなく,仕事もさ
れない。したがって,両室の内部エネルギーの和は一定に保たれる。よって,
1 0
0 2
3 2
2 3 2
3R T RT RT ∴
0 1
T
T 3.0(倍)
(b) A 室と B室の気体は,それぞれ準静的断熱変化をする。棒に加える力を除いた後,A 室とB室の気体の圧力は等しくなる。その圧力をpとすると,それぞれの室の気体に対 するポアソンの関係式(3.16)は,
A:2p0 V0 pV2, B:p0V0 p(2V0 V2) これらに,単原子分子理想気体の比熱比の値
3 5 2 3
2 5
V
P
R
R C
C
) / (
) /
( を代入して,A B
C
図3.9
1モル
0 0 2
2p , T p0,T0
1モル
仕切り板
22
/ / 1 1 1
0 2
2 1
2
V<