30
31
縦波では,媒質の密度に変化が生じる。上の規則にしたが って縦波を横波で表すとき,波の変位の傾きが負でその絶対 値が最も大きいところは,媒質の密度は最大になり,逆に,
傾きが正でその絶対値が最も大きなところは,媒質の密度は 最小になる。前者の位置を密(compression)な位置,後者 の位置を疎(rarefaction)な位置という。これら疎密の位置 が波の速度で伝わる縦波は,疎密波(density wave)とも呼 ばれる。
自然界における縦波と横波
自然界に存在する波の中で,弦を伝わる波は横波であるが,物 質中を伝わる波は縦波が多い。
図1.3のように,固体中は縦波と横波の両方が伝わるが,図1.4 のように,気体中および液体中は,縦波だけが伝わる。したがっ て,空気中を伝わる音波は縦波であることがわかる。ただし,真 空中も伝わる光波は横波であることに注意しておこう。
1.3 正弦波
波動の中で,特に媒質が単振動する波を正弦波(sinusoidal wave)という。
例題 1.1 正弦波の式
波動が存在しないとき,原点 O にある媒質は,O を中心に振幅A,周期T で単振動し,
時刻tにおける変位は,
T t A t
y 2
0) sin ,
(
と表される。この振動がx軸正方向に速さvで伝わるとき,波がないとき位置xにある媒 質の時刻t における変位を求めよ。
【解答】
縦波の進行方向:
密 疎 密
y
x
図1.2
縦波の変位
縦波
横波
図1.3
A B
C
縦波
A 横波 B
C
図1.4
32 原点での変位が位置xまで伝わるのにかか る時間はx/vであるから,時刻tにおける位置 xの媒質の変位y(t,x)は,時刻tx/vにおけ る原点の変位に等しい(図 1.5)。したがって
) , (t x
y は,
/ ,0
) ,
(t x yt x v
y
v
t x Asin2T
x TAsin2 t (1.2)
と書ける。ここで,vT
を用いた。 ■波数と位相速度
正弦波の式(1.2)において,正弦関数の角度部分
x T2 t を位相(phase)という。こ こで,(1.2)式をもう少し便利な形に書き直すために,波数(wave number)
2
k (1.3) を導入する。また,波の角振動数(angular frequency)
2
/T を定義し,これらを波 の基本式(1.1)に用いると,vk
(1.4) を得る。こうして正弦波の式(1.2)は,) sin(
) ,
(t x A t kx
y
(1.5) と書き直される。正弦波の式(1.5)は,これからの考察で便利なものとなる。例題 1.2 x方向への進行波と位相速度
原点Oにある媒質の時刻tにおける変位が一定の振幅Aと一定の角振動数
により,t A t
y( ,0) sin
と表されるとする。この振動が,x方向へ波数kで進行する正弦波の式を求めよ。また,
この波の同位相の点が動く速度(これを位相速度(phase velocity)という)vkの表式を求 めよ。
【解答】
位置xでの媒質の変位は,時間x/vだけ後の時刻の原点x 0での変位に等しい。した がって,時刻tにおける位置xの媒質の変位は,波の速さをvとして(1.5)式を用いて,
( / , ) )
,
(t x yt x v 0
y
v t x
Asin
Asin(
tkx) (1.6) v時刻
v
t x の波形
時刻tの波形
x x
y
y O
図1.5
33 を得る。波の式(1.6)において,同位相の点は,
kx
t 一定で与えられるから,この式の両辺を時間tで微分して位相速度
dt vk dx は,
0
dt kdx
∴ dt vk dx
k
v ■弦を伝わる横波の速さ
弦を伝わる横波の速さは,次の例題1.3で示すように,
u S (1.7) で与えられる。
例題 1.3 横波の速さ
張力Sで張られた線密度
の弦を水平右向きに伝わる横波を考える。横波とともに速さ uで動く観測者が見ると,波形は静止し,弦は波形に沿って左向きに速さuで動いている。図1.6のように,波形の頂点で重なる半径rの円(これを波形の頂点での曲率円(osculating
circle)といい,rを曲率半径(radius of curvature)という)を考えると,頂点部分の弦
は,速さuで半径r の円運動をしている。このことを用いて,弦を伝わる横波の速さ(1.7) 式を導け。
【解答】
図1.7に示されている弦の頂点部分(半径rの 扇形の微小な弧の部分)ABに,円運動の方程 式を適用する。扇形の微小な中心角を2
(1) とすると,AB部分の質量は
r2
2
r
,円 の中心方向(鉛直下方)の加速度はu2/r,両 側からAB 部分に作用する張力の鉛直下方成分 の和は2Ssin
2S
となるから,円運動の方 程式より,r u
図1.6
r
S S
A B
u
O
図1.7
34
Sr r u 2 2
2 ∴
u S ■
1.4 波の反射と透過
波が異なる媒質の境界面に垂直に入射する場合,一部はそのまま透過するが,一部は反 射する。波が反射するとき,反射端に,どのような力が作用するかで,反射波の位相がず れる場合とずれない場合がある。反射端で,力が全く作用しない反射を自由端反射
(reflection of a free end),強い力が作用して反射端の媒質が全く動くことのできない反射 を固定端反射(reflection of a fixed end)という。
入射波が境界面に入射し,透過波が存在する場合,一般に,境界面の透過側の方が振動 しやすい場合は自由端反射になり,逆に振動しにくい場合は固定端反射になる。その中間 的な反射は起こらない。
自由端での反射では,反射波の変位は入射波の変位に等しく,固定端では,反射波の変 位は入射波の変位の逆符号となる。変位が等しいとき,「位相のずれは 0」であり,変位が 逆符号になるとき,「位相は
ずれる」。一方,透過波の位相はずれない。すべての波が端点ですべて反射する全反射(total reflection)では,0と
の中間の位相 変化が起こり得る。波の重ね合わせ
2 つ の 波 が 重 な る と き , 媒 質 の 変 位 に 関 し て重 ね 合 わ せ の 原 理(principle of superposition)が成り立つ。
正弦波の干渉と定在波
2つの波が重ね合わさり,強め合ったり弱め合ったりする現象を波の干渉(interference)
という。2つの波が同位相で重なると強め合い,逆位相で重なると弱め合う。また,媒質 の振動の振幅が位置x で決まり,各点の媒質がすべて同位相で振動する波を定在波
(standing wave)という。定在波において,振幅が最大となる位置を腹(loop or antinode), 振幅が最小となる位置を節(node)という。
例題 1.4 正弦波による定在波の形成 図 1.8 のように,振幅A,角 振動数
,波数kの進行波) sin(
) ,
(t x A t kx
y1
がx軸正方向に向かって進み,
0
x にある壁で反射するとき,
領域x≦0に定在波が生じる。
壁での反射が自由端反射である 場合と固定端反射である場合の
y
0 x
0 t
図1.8
A
A
35
それぞれについて,領域x≦0での定在波の式を求め,波長
を用いて腹の位置と節の位置 の座標を定めよ。また,自由端反射と固定端反射のそれぞれの場合について,T 2
/
を 周期として,時刻t 0,T/4,T/2における定在波の波形を作図により描け。ただし,反射 による振幅の減衰はないものとする。【解答】
自由端反射と固定端反射の場合,反射波の式は,
) sin(
) ,
(t x A t kx
y2
(+符号は自由端反射,符号は固定端反射)(1.8) と書けるから,三角関数の和積公式2
2
2
sin sin cos sin
(1.9)
を用いて,入射波と反射波の合成波は,
(, ) ( , ) )
,
(t x y t x y t x
y 1 2
:固定端反射
:自由端反射 t
kx A
t kx
A
cos sinsin cos
2
2 (1.10)
と書ける。
(1.10)式の最右辺において,sin
t(cos
t )は振動を表す項であり,2Acoskx(2Asinkx)は,位置xにおける振幅を表している。したがって,n 0,1,2,として,
(i) 自由端反射の場合
腹の位置:kxn
⇒ x 2 n
, 節の位置:
2
n 1
kx ⇒ x
2 2 1
n
(ii) 固定端反射の場合
腹の位置:
2
n 1
kx ⇒ x
2 2 1
n , 節の位置:kxn
⇒ x 2 n
となる。
上の結果より,反射端x0が腹になるか節になるかを見ると,次のことがわかる。自由 端反射と固定端反射では,腹の位置と節の位置が逆転し,自由端反射では,反射壁の位置 が腹に,固定端反射では,反射壁の位置が節になる。また,隣り合う腹どうし,隣り合う 節どうしの間隔はともに
/2であり,隣り合う腹と節の間隔は
/4である。自由端反射では,壁での位相変化がないので,反射波は,入射波を領域x 0まで延長し,
延長した波をそのままy軸に関して折り返せばよい。固定端反射では,壁で変位の符号が 反転するので,反射波は,入射波を領域x 0まで延長し,延長した波をx軸に関して反転 し,その上でy軸に関して折り返せばよい。こうして,定在波の波形を図1.9のように得る。
ここで,入射波は細い実線で,反射波は点線で,合成波である定在波は太い実線で描かれ ている。
36
■ 1.5 弦の共振
両端を固定した弦を弾くと,両端を節とした定常波が生じ,共振した状態になって音を 発する。これがバイオリンなどの弦楽器である。こ
の場合,弦に入射した振動は,固定された一端 P で反射して,入射波と反射波が重なり端Pを節とす る定常波を生じる。一方,他端 Q に向かった反射 波は,端 Q でも固定端反射するため,そこでも Q を節とする定常波となる。したがって,両端 P, Q がともに節となる定常波のみが残る。
図1.10 のように,強く張られた弦の両側の固定 端間に,腹が1つの定在波が出来ているとき,その 振 動 を 基 本 振 動 ( fundamental harmonic oscillation),腹が2個のとき,2倍振動(second
harmonic oscillation),・・・,腹がn個のとき,n
入射波
反射波
入射波
合成波 反射波
合成波 y
x
y
x
x
y y
x
x
y y
x
0 0
0 0
0 0
0
t t0
/4 T
t tT/4
/2 T
t tT/2
自由端反射 固定端反射
図1.9
腹 節 腹 節 節 腹 節 腹
1/2
2/2
3/2
L
基本振動
2倍振動
3倍振動
図1.10
37
倍振動(n-th harmonic oscillation)といい,これらの振動を固有振動(proper oscillation)
という。
例題 1.5 弦の固有振動
張力Sで張られた線密度
の弦の長さをLとするとき,この弦にn 倍振動ができている とする。そのときの振動数fnを求めよ。【解答】
波長
nは,隣り合う節間の距離が
n/2であるから,2 n n
L
より,n L
n
2
となる。いま弦を伝わる横波の速さがv S/
と書けるから,n倍振動の振動数は,
n n
f v
S L n
2 ■
1.6 ホイヘンスの原理と波の回折
ある時刻において,位相の等しい点をつないでできる面を波面(wave front),波面に垂 直な線を射線(ray)といい,波は射線に沿って伝播する。波面が平面の波を平面波(plane wave),波面が球面になる波を球面波(spherical wave)という。
ホイヘンスの原理
図 1.11 のように,ある瞬間の波面上の各点から,これらの点を波源とする素元波
(elementary wave)が無数に生じ,これらの波に共通する面(包絡面)が次の波面となる。
このようにして波が伝播するという考え方をホイヘンスの原理(principle of Huygens)と いう。
射線 波面
波源 素元波の波源
図1.11
波面
図1.12