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Zorn の補題

ドキュメント内 PDF 幾何学序論講義ノート (ページ 97-100)

1.9 選択公理

1.9.1 Zorn の補題

定義 1.9.5. X を順序集合とする.

1. Aが(X の) 

 (chain)である

defAXの全順序部分集合である.Xの部分集合であり, 全順序部分集合になっ ている.)

2. Xの任意の鎖が上に有界であるとき,Xを帰納的順序集合(inductively ordered set) という

1.9.6. 1. Qに数の大小関係で順序をいれる. 明らかにQは帰納的順序集合では

ない.

Q0 ={r Q r 0}とおくと, 明らかにQ0 は帰納的順序集合である. 2. P(X)は帰納的順序集合である.

62. 上の例の主張を確かめよ.

選択公理を仮定すると(ZFのもと)次が成り立つことが知られている. この講義では 証明は省略する.

定理 1.9.7 (Zornの補題, Zorn’s lemma). 帰納的順序集合は少なくとも一つの極大元を 持つ.

Zornの補題を使う際, 次のことに注意しておくとよい.

補題 1.9.8. X を空でない順序集合とする. このとき次は同値である. 1. X は帰納的順序集合である.

2. X の任意の空でない全順序部分集合は上界を持つ.

証明. 12は明らか. 逆を示すには∅ ⊂X が上に有界であることを示せばよい(は全順 序部分集合である.)が例1.7.19で見たように,X 6=であれば∅ ⊂Xは有界である.

逆にZornの補題を仮定すると, 選択公理を示すことができる. Zornの補題の使い方の よい例であるので証明してみよう.

定理 1.9.9. Zornの補題を仮定する. このとき, 任意の全射f: X →Y は切断を持つ. 証明. f: X →Y を写像とする.

S ={(B, g) B⊂Y, g: B→X, f ◦g=iB}

とおく. ただしiB: B→Y は包含写像.

X

f

B

g >>



iB

//Y

1. (B, g),(B0, g0)∈ S に対して

(B, g)(B0, g0)

defB⊂B0 かつ g0|B =g と定めると, 明らかにS に順序を定める.

2. この順序に関してS は帰納的順序集合である. 実際, T ⊂ S を全順序部分集合と する.

T = [

(B,g)∈T

B ⊂Y とおく.

写像 t: T X を以下のように定める. y T とすると, ある(B, g) ∈ T が存 在し, y B である. このとき, t(y) = g(y) と定める. tはwell-defined である. 実際, 別の(B0, g0) ∈ T に対し y B0 であるとすると, T は全順序集合なので (B, g)(B0, g0)または(B0, g0)(B, g)のいずれかが成り立つ. (B, g)(B0, g0) としてよい. このときy∈B ⊂B0 であり, g0|B=gなのでg0(y) =g(y).

作り方から任意のy ∈T に対しf◦t(y) = yなのでf ◦t =iT. よって(T, t)∈ S である. (T =の場合を別に議論する必要は論理的には無いが気になる人のため に注意しておくと, T =の場合, T =, t: ∅ → X は一意に存在する写像となり (T, t)∈ S である.)

また任意の(B, g)∈ T に対しB T かつt|B =gであるから(T, t)はT の上界 である. T の上限であることもすぐ分かる.

3. Zornの補題より, S には極大元が存在する. (Y0, s) ∈ S を極大元とする. f が全

射であればY0 = Y である. 実際, Y0 6= Y であるとすると, Y \Y0 6= である. y0 Y \Y0 を一つとるとf が全射なのでf(x) = y0 となるx X が存在する.

˜

s:Y0∪ {y0} →X

˜ s(y) =

(

s(y), y∈Y0 x, y=y0

とおけば(Y0, s)<(Y0∪ {y0},˜s)∈ S となり極大性に反する.

注意 . 帰納的順序集合を「任意の全順序部分集合が上限を持つ順序集合」と定義する流 儀もある. 区別するため, この定義をみたすものを「きのうてき順序集合」と書くことに する.

明らかに「きのうてき順序集合」は帰納的順序集合であるが, 逆は成り立たない. 例え

ば例 1.9.6のQ0 は「きのうてき」ではない. しかし, Zornの補題はどちらの定義を用

いても成り立ち, 以下は同値である.

1. 選択公理.

2. 帰納的順序集合は少なくとも一つの極大元を持つ.

3.「きのうてき順序集合」は少なくとも一つの極大元を持つ.

実際, 23は「きのうてき」ならば帰納的であることから明らかであり, 定理 1.9.9の証 明は, Sが途中注意したことから「きのうてき順序集合」となっているので, 31 の証明 になっている.

Zornの補題の典型的使用例. 定理 1.9.10. 選択公理を仮定する.

Rを(乗法に関する単位元を持つ)可換環とする. 任意のイデアルIRに対し, I を 含む極大イデアルが存在する.

とくにR6={0}の場合, Rには極大イデアルが存在する.

注意 . 代数で学んだと思うが, Rの部分集合I がイデアルであるとはI RR部分加 群であるということ, つまり

1. x, y ∈I ⇒x+y∈I 2. a∈R, x∈I ⇒ax∈I

をみたすということ. またmが極大イデアルであるとは, 包含関係に関して極大であるよ うな真部分イデアルであるということ, つまり

1. m⊊R

2. m⊊IRとなるようなイデアルI は存在しない ということ.

証明. IRをイデアルとする. I を含む真部分イデアル全体 S =

J I ⊂JR, J はイデアル

に包含関係で順序をいれる. S が帰納的順序集合であることを示そう.

明らかにI ∈ S だからS 6=である. よって, ∅ 6=T ⊂ S を全順序部分集合とすると きT が上界を持つことを示せばよい.

K = [

J∈T

J とおく. K ∈ Sを示す.

T 6=だからI ⊂K である.

x, y K とする. ある J, J0 ∈ T が存在し, x J, y J0 である. T は全順序集 合なのでJ J0J0 ⊂J のいずれかが成り立つ. J0 J としてよい. このとき x, y ∈J であり, J はイデアルなのでx+y∈J ⊂K. a∈R, x∈K とする. ある J ∈ T が存在しx J である. J はイデアルであるからax∈ J K. よってK はイデアルである.

• 任意の J ∈ T に対し, JRであるから 1 6∈ J である. よって1 6∈ K となり KR.

以上からK ∈ Sであり, 明らかにKT の上界, ゆえS は帰納的順序集合である. Zornの補題よりSには極大元mが存在するが, これが求めるものである.

証明はしないが, 同様な議論で次が示せる. 定理 1.9.11. 選択公理を仮定する.

kを体とする. k 上のベクトル空間は基底を持つ. 問題集 . 66

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