第 3 章 位相空間 175
3.4 Hausdorff 空間
2.11節で注意したように, 一般の位相空間において点列の極限は必ずしも一意に定まる わけではない. 一意に定まるための一つの条件を与える.
定義 3.4.1. 位相空間X がHausdorff(ハウスドルフ)空間 である⇔
def任意の相異なる 2点x, y ∈Xに対し, xの近傍U とyの近傍V で, U ∩V =∅ となるものが存在する.
問 167. 位相空間X がHausdorff空間である⇔任意の相異なる2点x, y ∈Xに対し,x
を含む開集合Oとyを含む開集合O0 で, O∩O0 =∅ となるものが存在する.
注意 . Hausdorffであるというのは位相的性質である. すなわち
問 168. X, Y を同相な位相空間とする. X がHausdorffであればY もそうである. 例 3.4.2. 距離空間はHausdorff空間である. 実際X を距離空間, x, y ∈X, x 6=yとす ると, ε=d(x, y)/2>0で, Uε(x)∩Uε(y) =∅.
例 3.4.3. 離散空間はHausdorff空間である. 実際X を離散空間, x, y ∈X, x 6=yとす ると, {x},{y}は開集合で, {x} ∩ {y}=∅. (もちろん離散距離空間と思ってもよい.) 例 3.4.4. 元を二つ以上含む密着空間はHausdorffでない.
定理 3.4.5. Hausdorff空間においては, 点列の極限は, 存在すれば, 一意的である. 証明. 証明は定理 2.11.3 のものと同じ. (実際, 証明のポイントは距離空間がHausdorff であることを示すことであった. というより, もちろん, Hausdorff空間というのはこの証 明がうまくいくような空間として考えられたもの.)
定理 3.4.6. Hausdorff空間において, 1点は閉集合である.
証明. X をHausdorff空間, x ∈X とする. 任意のy∈ X\ {x}に対し, x6= yであるか ら, xの近傍U と, yの近傍V でU ∩V =∅となるものがある. とくにx6∈ V であるか らV ⊂X\ {x}となり, yはX \ {x}の内点.
定理 3.4.7. Hausdorff空間の部分空間もHausdorff.
証明. X をHausdorff空間, A⊂X を部分空間とする. a, b∈A, a6=bとすると, a ∈O, b ∈O0, O∩O0 = ∅となるX の開集合O, O0 がある. U =A∩O, V = A∩O0とおく と, U, V はAの開集合で, a∈U, b∈V,U ∩V =∅. よってAは Hausdorff.
定理 3.4.8. X, Y を空でない位相空間とする. このときX×Y がHausdorff ⇔X, Y と もにHausdorff.
証明. ⇒)問159より, X,Y はX×Y の部分空間と同相であるから, 定理3.4.7と問 168 よりどちらもHausdorff.
⇐) (x1, y1)6= (x2, y2)∈ X×Y とする. x1 6=x2 としてよい. X はHausdorffだから xi を含む開集合Oi でO1∩O2 =∅となるものが存在する. Oi×Y は(xi, yi)を含む開 集合で, (O1×Y)∩(O2 ×Y) =∅である.
注意 . 無限個の直積に対しても同様なことが成り立つ. 証明もほぼ同じ.
定理 3.4.9. X を位相空間とする. このとき, X が Hausdorff ⇔ 対角線集合 ∆ = {(x, x) x ∈X}がX×X の閉集合.
証明. x, y ∈ X に対し, x 6= y ⇔ (x, y) 6∈ ∆ ⇔ (x, y) ∈ ∆c である. より一般に, A, B ⊂X に対し, A∩B=∅ ⇔(A×B)∩∆ =∅ ⇔A×B⊂∆c である. よって
X がHausdorff⇔ ∀(x, y)∈∆c,∃U ∈ U(x),∃V ∈ U(y) :U ×V ⊂∆c
⇔ ∀(x, y)∈∆c : (x, y)は∆cの内点
⇔∆cは開集合.
問 169. (この exerceise は位相とは直接は関係ない.)X, Y, Z を集合, f: Z → X,
g: Z →Y を写像とする. 写像(f, g) : Z → X×Y を(f, g)(z) = (f(z), g(z))により定 める. またA ⊂ X, B ⊂ Y を部分集合とする. このとき, (A×B)∩Im(f, g) = ∅ ⇔ f−1(A)∩g−1(B) =∅ であることを示せ.
系 3.4.10. X を位相空間, Y をHausdorff空間, A⊂ X とし, f, g: X →Y を連続写像 とする. このとき次が成り立つ.
1. X の部分集合
C :={x∈X f(x) =g(x)} は閉集合である.
2. f とgが部分集合A上一致すれば, Aa上一致する.
証明. 1. Y が Hausdorff なので対角線集合 ∆Y は Y ×Y の閉集合である.写像
(f, g) : X →Y ×Y は連続だからC = (f, g)−1(∆Y)は閉集合. 2. f とgがA上一致すればA⊂C である. Cは閉集合だからAa ⊂C.
例 3.4.11. Rを1次元ユークリッド空間とする. 連続関数f, g: R→RがQ上一致する ならばf =gである.
系 3.4.12. X を位相空間, Y をHausdorff空間とする. 写像f: X → Y が連続ならばグ ラフ
Γf :={(x, y)∈X×Y y=f(x)} はX ×Y の閉集合. (cf. 問題集91)
証明. f ×1Y : X ×Y → Y ×Y は連続であり (問 160), Y がHausdorff のとき ∆ = {(y, y) y∈Y}はY ×Y の閉集合である. よってΓf = (f ×1Y)−1(∆)は閉集合.
問 170. 系3.4.12はもう少し精密化できる. Xを位相空間, Y をHausdorff空間とする.
写像f: X →Y が点a∈ X で連続ならば, 任意のb∈ Y (b6=f(a))に対し, (a, b)はΓf の外点である.
問 171. Y が密着空間のとき, f: X → Y は連続だがΓf は閉ではない例を挙げよ. (ち なみにこのとき, 任意のf は連続.)Γf が閉集合になることはあるか?
問 172. (X,O)をHausdorff空間とし, O0 をO より強いX の位相とする. このとき,
(X,O0)もHausdorff.
問 173. Rにザリスキ位相をいれるとHausdorffではない.