はじめに
高血圧緊急症は,血圧の異常高値のみならず, 標的臓器障害が急速進行し,直ちに降圧治療を 開始しなければ致命的になり得る病態である. 主な緊急症の病態を表1に示す1~3).また,今回 改 訂 さ れ た「 高 血 圧 治 療 ガ イ ド ラ イ ン 2014 (JSH2014)」の高血圧緊急症に関する主な変更 点は,1)高血圧緊急症の定義に高度の高血圧 を伴う妊婦を追記,2)高血圧緊急症および切 迫症診断時の専門医への紹介または相談の推 奨,3)高血圧性左心不全や体液貯留のある症 例へのカルペリチド,フロセミドの推奨であ る.また,脳血管障害の超急性期・急性期の血 圧管理については,新たなエビデンスを取り入 れて大幅な改訂が行われている.本稿では, JSH2014を踏まえた高血圧緊急症の診断と治療 のポイントについて概説する.1.高血圧緊急症および切迫症の診断と治療
の原則
高血圧緊急症は,直ちに降圧治療を開始する 必要がある.血圧値は目安であり,必須項目で はない.血圧が異常高値であっても急性あるい は進行性の臓器障害がなければ緊急降圧の必要 はなく,子癇や急性糸球体腎炎による高血圧性 脳症や大動脈解離などでは,血圧が異常高値で なくとも緊急降圧が必要となる.急速な臓器障 害の進行がない場合は高血圧切迫症として扱 う.高血圧緊急症の病態は表 1に示す通りであ るが,JHS2014 では妊婦に関連した項目で,従高血圧緊急症の診断と治療の
ポイント
要 旨 崎間 敦1) 大屋 祐輔2) 高血圧緊急症とは,単に血圧の異常高値だけでなく,直ちに降圧治療を開 始しなければ標的臓器障害が急速に進展し,致命的になり得る病態であ る.緊急症が疑われる症例には,迅速な診察と検査によって病態の把握を 行う.ICU,またはそれに準ずる施設へ入院とし,直ちに経静脈的に降圧 治 療 を 開 始 す る. 今 回 改 訂 さ れ た「 高 血 圧 治 療 ガ イ ド ラ イ ン 2014 (JSH2014)」では,緊急症に対する初期対応から疾患ごとの標準的治療 および切迫症の取り扱いについて解説している. 〔日内会誌 104:268~274,2015〕 Keywords 高血圧緊急症,高血圧切迫症,ガイドライン,薬物治療,静注薬 1)琉球大学保健管理センター,2)琉球大学大学院医学研究科循環器・腎臓・神経内科学講座Hypertension : The Points of Management of Hypertension for All Physicians―Based on the JSH 2014 Hypertension Guidelines―. Topics: IX. Evaluation and management of hypertensive emergencies.
Atsushi Sakima1) and Yusuke Ohya2):1)Health Administration Center University of the Ryukyus, Japan and 2)Department of Cardiovascular
来の子癇に加え,収縮期血圧≧180 mmHgある いは拡張期血圧≧120 mmHgの妊婦4)が記載さ れた. 高血圧緊急症を疑ったときに行うべき診察と 検査を表 2に示す.ここで挙げられたチェック 項目は標的臓器障害の程度や原因疾患と病態把 握のために必要なものである.迅速に高血圧緊 急症か切迫症であるかを判断し,どのような薬 物を用いるか,その投与法,降圧目標レベル, それに到達までの時間などを決定する.ただ し,検査に時間をかけすぎ,治療が遅れないよ うに注意する.高血圧緊急症では入院治療を原 則とし,ICUかそれに準ずる施設で降圧療法を 行う.血圧モニタリングは観血的に行うことが 望ましい.非観血法での長時間のモニターは高 度のカフ圧により苦痛を伴う.降圧薬の選択に ついては,必要以上の急速で過剰な降圧は,臓 器灌流圧の低下により虚血性障害を引き起こす 可能性が高いので,降圧の程度や速度が予測で き,かつ即時に調整が可能な注射薬を用いる. 降圧目標は,初めの 1 時間以内では平均血圧で 前値の 25%以上は降圧させず,次の 2~6 時間 では 160/100~110 mmHgを目標とする.しか し,急性大動脈解離,急性冠症候群,以前には 血圧が高くなかった例での高血圧性脳症(急性 糸球体腎炎や子癇など)などでは,治療開始の 表1 高血圧緊急症 乳頭浮腫を伴う加速型―悪性高血圧 高血圧性脳症 急性の臓器障害を伴う重症高血圧* アテローム血栓性脳梗塞 脳出血 くも膜下出血 頭部外傷 急性大動脈解離 急性左心不全 急性心筋梗塞および急性冠症候群 急性または進行性の腎不全 脳梗塞血栓溶解療法後の重症高血圧* カテコールアミンの過剰 褐色細胞腫のクリーゼ モノアミン酸化酵素阻害薬と食品・薬物との相互作用 交感神経作動薬の使用 降圧薬中断による反跳性高血圧 脊髄損傷後の自動性反射亢進 収縮期血圧≧180 mmHgあるいは拡張期血圧≧120 mmHgの妊婦 子癇 手術に関連したもの 緊急手術が必要な患者の重症高血圧* 術後の高血圧 血管縫合部からの出血 冠動脈バイパス術後高血圧 重症火傷 重症鼻出血 加速型―悪性高血圧,周術期高血圧,反跳性高血圧,火傷,鼻出血など は,重症でなければ切迫症の範疇に入りうる. *ここでの「重症高血圧」はJSH2014の血圧レベル分類に一致したもの ではない.各病態に応じて緊急降圧が必要な血圧レベルが考慮される. (日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会,2014より引用)
血圧レベルおよび降圧目標値も低くなる.初期 降圧目標に達したら内服薬を開始し,注射薬は 用量を漸減しながら中止する.表 3に本邦で使 用可能な注射薬とその用法・用量,効果発現・ 作用持続時間,副作用・注意点および主な適応 を示す.ニトロプルシドは瞬時に作用が発現 し,持続も短いため,降圧の速度,レベルを調 節しやすい.2 μg/kg/分までであれば,シアン 中毒は生じにくい.ニトログリセリンは特に急 性冠症候群や心不全を合併する症例に有効であ るが,耐性および頭痛の副作用が出やすい.ま た,症例によっては降圧が小さい場合がある. ニカルジピン注射薬は高血圧緊急症における降 圧に有用であり,海外では脳出血急性期の降圧 薬の主な推奨薬となっている.脳血管障害急性 期で頭蓋内圧亢進の患者や頭蓋内出血で止血が 完成していないと推定される患者に対するニカ ルジピンの使用は,我が国のDI(drug informa-tion)では禁忌とされてきたが,我が国でも脳出 血急性期の降圧薬としてニカルジピン注射薬が 選択されている現状があった.2011年にニカル ジピンの添付文書が改訂され,これらの記載は 警告と慎重投与となった.JSH 2014では,脳血 管障害の超急性期・急性期の降圧薬の選択の中 にニカルジピン注射薬が含まれている.ジルチ アゼムとβ遮断薬を併用する際には,徐脈に注 意する必要がある.β遮断薬の単独投与は,褐色 細胞腫クリーゼを誘発する危険性があるので 行ってはならない.カプトプリルは作用発現が 速く,持続も短いので投与量を調整しやすい が,高血圧緊急症や切迫症でレニン・アンジオ テンシン(renin-angiotensin:RA)系が亢進し ている脱水状態では過度の降圧を来たす可能性 があるため,少量(6.25~12.5 mg)から投与を 始める.腎機能障害例では,RA系抑制薬投与 1 ~2 日後より高カリウム血症を来たしやすい. 両側性や単腎性の腎血管性高血圧では,RA系抑 制薬投与により過度の降圧および腎不全が生じ るので,投与した場合には血清クレアチニン値 や血清カリウム値の監視が必要である.なお, 心不全,腎不全の合併や体液貯留があり,降圧 が不十分な場合は,フロセミドやカルペリチド を併用する. 切迫症では診断後の数時間以内に降圧治療 を 開 始 す る が, 臓 器 血 流 の 自 動 調 節 能 障 害 の 可 能 性 が あ る の で,24~48 時 間 か け て 表2 高血圧緊急症を疑った場合の病態把握のために必要なチェック項目 病歴,症状 高血圧の診断・治療歴,交感神経作動薬ほかの服薬,頭痛,視力障害,神経系症状,悪心・嘔吐,胸・背部痛,心・ 呼吸器症状,乏尿,体重の変化など 身体所見 血圧:測定を繰り返す(拡張期血圧は120 mmHg以上のことが多い),左右差,脈拍,呼吸,体温 体液量の評価:頻脈,脱水,浮腫,立位血圧測定など 中枢神経系:意識障害,けいれん,片麻痺など 頸部:頸静脈怒張,血管雑音など 眼底:線状―火炎状出血,軟性白斑,網膜浮腫,乳頭浮腫など 胸部:心拡大,心雑音,Ⅲ音,Ⅳ音,湿性ラ音など 腹部:肝腫大,血管雑音,(拍動性)腫瘤など 四肢:浮腫,動脈拍動など 緊急検査 尿,末梢血(スメアを含む) 血液生化学(尿素窒素,クレアチニン,電解質,糖,LDH,CPKなど) 心電図,胸部X線(2方向),必要に応じ動脈血ガス分析 必要に応じ,心・腹部エコー図,頭部CTスキャンまたはMRI,胸部・腹部CTスキャン 必要に応じ,血漿レニン活性,アルドステロン,カテコールアミン,BNP濃度測定のための採血 (日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会,2014より引用)
160/100 mmHg程度まで緩徐に降圧する.Ca拮 抗薬,アンジオテンシン変換酵素(angiotensin converting enzyme:ACE)阻害薬,αβ遮断薬, β遮断薬等の内服薬を用いる.今回の改訂でア ンジオテンシンII受容体遮断薬(angiotensin II receptor blocker:ARB)も使用可能と追記され た. 高血圧緊急症では,高血圧専門医への紹介や 相談が望ましいとして推奨されている.また, その原疾患により他科との連携・コンサルテー ションが必要な場合がある.
2.主な高血圧緊急症および切迫症
1)高血圧性脳症 高血圧性脳症では,急激または著しい血圧上 昇により脳血流の自動調節能が破綻し,血管性 浮腫が起こり,頭蓋内圧が亢進する.さらに, 進行すると脳虚血による細胞障害性浮腫を引き 起こす.高血圧性脳症を疑ったときには,血圧 モニタリング,意識状態,バイタルサイン,神 経巣症状の有無および高血圧性臓器障害の程度 を評価する.脳血管障害急性期の降圧治療は原 則禁忌なので,その除外は重要である.頭部MRI は高血圧性脳症および脳血管障害の診断に有用 である.長期高血圧患者が高血圧性脳症を発症 した場合は,220/110 mmHg以上で発症するこ 表3 高血圧緊急症に用いられる注射薬 薬剤 用法・用量 効果発現 作用持続 副作用・注意点 主な適応 血管拡張薬 ニカルジピン 持続静注0.5-6 mg/kg/分 5-10分 60分 頻脈,頭痛,顔面紅潮,局所の静脈炎など ほとんどの緊急症.頭蓋内圧亢進や急性冠症候 群では要注意 ジルチアゼム 持続注入5-15 mg/kg/分 5分以内 30分 徐脈,房室ブロック,洞停止など.不安定狭心症 では低用量 急性心不全を除くほと んどの緊急症 ニトログリセリン 持続静注5-100 mg/分 2-5分 5-10分 頭痛,嘔吐,頻脈,メト ヘモグロビン血症,耐性 が生じやすいなど.遮光 が必要 急性冠症候群 ニトロプルシド・ ナトリウム 持続静注0.25-2 mg/kg/分 瞬時 1-2分 悪心,嘔吐,頻脈,高濃 度・長時間でシアン中 毒など.遮光が必要 ほとんどの緊急症.頭蓋 内圧亢進や腎障害例で は要注意 ヒドララジン 静注10-20 mg 10-20分 3-6時間 頻脈,顔面紅潮,頭痛,狭心症の増悪,持続性の 低血圧など 子癇(第一選択薬ではな い) 交感神経抑制薬 フェントラミン 静注 1-10 mg 初回静注後0.5-2 mg/分 で持続投与してもよい 1-2分 3-10分 頻脈,頭痛など 褐色細胞腫,カテコールアミン過剰 プロプラノロール 静注2-10 mg(1 mg/分 ) → 2-4 mg/4-6時間ごと 徐脈,房室ブロック,心 不全など 他薬による頻脈抑制 肺水腫,心不全や体液の貯留がある場合にはフロセミドやカルペリチドを併用する. (日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会,2014より引用)とが多く,管理不十分,服薬アドヒランス不良 との関連が指摘されている.正常血圧から高血 圧性脳症を発症した場合は,正常域にある脳血 流自動調節能が破綻し,長期高血圧患者よりも 低い血圧値で発症しやすい.降圧速度は重要で あり,治療開始 2~3 時間で 25%程度の降圧を 目標とする.薬剤の選択ではニカルジピンの静 注が脳組織酸素供給を減少させず,神経徴候を 伴う高血圧緊急症の治療に有用5)とのエビデン スが引用された.ヒドララジンは頭蓋内圧を上 昇させるため,用いない. 2)脳血管障害 JSH2014 の「第 6 章 臓器障害を合併する高 血圧」で急性期の降圧目標に大幅な改訂が行わ れた.特に,発症後 4.5 時間以内の超急性期に 再灌流療法(t-PA組織プラスミノーゲン活性化 因子による血栓溶解療法や血管内治療)が予定 されている患者と再灌流療法を行わない患者で 異なる降圧目標が示された.再灌流療法予定者 では,収縮期血圧 185 mmHg以上または拡張期 血圧 110 mmHg以上の場合は静注による降圧治 療が必要とされる.治療中や治療後を含む24時 間 の 厳 格 な 血 圧 管 理 に よ り, 収 縮 期 血 圧 180 mmHg未満かつ拡張期血圧 105 mmHg未満 にコントロールする.再灌流療法を行わない患 者でも,収縮期血圧 220 mmHg以上または拡張 期血圧 120 mmHg以上では高血圧性脳症,心臓 合併症,腎不全を来たす可能性があるため,前 値の85~95%を目安に降圧治療を行う.脳出血 においては,主に米国脳卒中協会(American Stroke Association:ASA)のガイドラインに準 拠して,発症24時間以内の超急性期・急性期で は 収 縮 期 血 圧 180 mmHgま た は 平 均 血 圧 130 mmHgを超える患者を降圧対象とし, 前値の 80%程度を降圧の目安とする.また,収縮期血 圧 150~180 mmHgの 場 合 で は, 収 縮 期 血 圧 140 mmHg前後を目指すことが新たに追記され た.くも膜下出血では再出血の予防が重要であ る.降圧,鎮静,鎮痛を十分に行う.JSH2014 では,収縮期血圧 160 mmHgを超える場合に, 前値の 80%程度を降圧の目安とすることが新 たに追記された.いずれの場合でも,重症で頭 蓋内圧亢進が予想される患者では,血圧低下に 伴い,臓器灌流圧の低下により病状を悪化させ る可能性があることに留意する必要がある.詳 細は本特集「IV.脳血管障害・心疾患を合併し た高血圧治療のポイント」を参照されたい. 3)高血圧性急性左心不全 肺水腫を生じた高血圧性左心不全は直ちに治 療を開始する必要がある.効果発現が早く,後 負荷とともに静脈系も拡張させ,前負荷を軽減 するニトロプルシドが好ましい.ニトログリセ リンは降圧作用がやや弱いが,虚血性心疾患に 伴う場合に有効である.体液貯留が多い患者で は,フロセミドやカルペリチドを併用するこ と6,7)が追記された.カルペリチドはナトリウム 利尿作用,血管拡張作用,RA系の抑制作用など を有する.降圧作用は強力ではないが,心腎保 護作用が期待できることから,他剤との併用療 法により高血圧性急性左心不全に推奨される. 降圧の目安は,症状の改善を評価しながら収縮 期血圧の 10~15%以下を目指す.その後は, RA系抑制薬を中心とした内服薬へ移行する.本 特集「IV.脳血管障害・心疾患を合併した高血 圧治療のポイント」も参照されたい. 4)急性冠症候群 高血圧を合併した急性冠症候群では,降圧に よる左心室の仕事量や心筋の酸素需要の減少, 冠血流量の増加を目的に,ニトログリセリンの 持続静注を行う.著明な徐脈などの禁忌がなけ ればβ遮断薬を併用する.β遮断薬が使用できな い場合や降圧が不十分な場合はジルチアゼムを 用いる.なお,心筋梗塞急性期からのβ遮断薬や 早期からのACE阻害薬の投与が予後改善に有用 とされている.急性冠症候群のガイドラインに
準 拠 し て 急 性 期 の 降 圧 目 標 が 収 縮 期 血 圧 140 mmHg未満7)と追記された.本特集「IV.脳 血管障害・心疾患を合併した高血圧治療のポイ ント」も参照されたい. 5)大動脈解離 絶対安静,迅速な降圧および鎮痛を必要とす る.さらに,心拍数コントロールが追記された. 急性大動脈解離では高血圧の頻度が高いが,解 離のタイプによりその頻度が異なる.上行大動 脈の解離で心タンポナーデを合併すると低血圧 やショックとなる.また,弓部大動脈の解離が その分枝動脈の閉塞や狭窄を生じると,上肢血 圧の左右差が起こってくる.初回血圧測定は両 上肢で行うことは必須である.また,Stanford 分類に基づく外科的治療と保存的治療の選択に ついて8)新たに追記された.上行大動脈に解離 が及ぶStanford A型急性大動脈解離は緊急外科 手術の適応である.さらに,合併症のある上行 大動脈に解離がないStanford B型では外科手術 を検討する必要がある.一方,合併症のない場 合は内科療法を選択する.降圧目標値につい て,Ca拮抗薬,ニトロプルシド,ニトログリセ リンとβ遮断薬を組み合わせて持続静注し,収 縮期血圧を 100~120 mmHgに維持する.疼痛 は血圧管理を困難にする要因でもあるので,持 続する疼痛に対しては鎮痛・鎮静を怠ってはな らない. 6)褐色細胞腫クリーゼ 降圧の初期目標は,発作性血圧上昇をコント ロールすることである. フェントラミン 2~ 5 mgを 1 mg/分のスピードで血圧が落ち着くま で 5 分ごとに静注する.初回静注後は持続性静 注療法を選択してもよい.同時に選択的α1遮断 薬であるドキサゾシンなどの内服薬も開始す る.その他,Ca拮抗薬の持続性静注療法の併用 も有効である.頻脈に対してはβ遮断薬が有効 であるが,十分量のα遮断薬を投与した後に用 いる.β遮断薬の単独投与はα受容体を介した血 管収縮により,かえって血圧上昇を引き起こす ため9),行わない.手術中の血圧コントロール については,フェントラミンの持続静注の他 に,より副作用の少なく用量調節が容易である ニカルジピンやニトログリセリンの持続静注が 選択可能である. 7)加速型―悪性高血圧 拡張期血圧が 120~130 mmHg以上であり, 腎機能障害が急進行し,放置すると心不全,高 血圧性脳症,脳出血などが発症する予後不良の 病態である.従来は,乳頭浮腫(Keith-Wagener 分類IV度)を伴う悪性高血圧と,出血や浸出性 病変のみ(Keith-Wagener分類III度)を伴う加速 型高血圧に区分していたが,臓器障害の進行や 生命予後に差はなく,最近は両者をまとめて加 速型高血圧―悪性高血圧と呼ぶ.高血圧発症時か ら血圧が高いこと,降圧治療の中断,長期にわ たる精神的・身体的ストレスが悪性高血圧の発 症に関与する.近年,降圧薬治療の普及,社会・ 生活環境の改善などにより発症頻度は減少して いる.我が国の同一施設の検討で,1971~1983 年の症例に比べ,1984~1999 年の症例では臓 器障害の程度がより軽症となっていることに加 え,海外の検討において 1977 年以前に比べ, 1997~2006 年 ま で の 症 例 で は 5 年 生 存 率 が 32.0%から 91.0%まで著しく改善しているこ と10)が追記された. 加速型―悪性高血圧は切迫症に分類されるが, 細動脈病変が進行する病態であり,治療は緊急 症に準じる.急速に正常域にまで降圧する必要 はなく,むしろ急速な降圧は重要臓器の虚血を 来たす危険性を伴うので避ける.多くは経口薬 で目標血圧の達成が可能である.最初の24時間 の降圧は拡張期血圧 100~110 mmHgまでにと どめる.Ca拮抗薬が頻用されるが,ニフェジピ ンカプセルの舌下投与は過度の降圧や反射性頻 脈を起こすことがあり,原則として用いてはな
らない.これは他の高血圧緊急症でも同様であ る.多くは圧利尿によって体液の減少状態にあ ることや,本態性高血圧に起因する例や強皮症 の腎クリーゼではRA系の亢進が病態形成に深 く関与しているので,RA系抑制薬の効果が期待 される.しかし,これらの薬物により過度の降 圧が生じる可能性もあるため,少量から開始す る.体液の減少状態が明らかな場合には,生理 食塩水の補液が必要になる場合がある一方,体 液貯留を伴う場合にはフロセミドを併用する.
おわりに
JSH2014 を踏まえて,高血圧緊急症の診断お よび治療のポイントについて概説した.新しい ガイドラインが多くの医師により親しまれ,実 践されることを期待している. 著者のCOI(conflicts of interest)開示:大屋祐輔;講演 料(MSD,大塚製薬,武田薬品工業,田辺三菱製薬,日 本ベーリンガーインゲルハイム,ノバルティスファー マ,バイエル,ファイザー),寄付金(MSD,大塚製薬, 第一三共,武田薬品工業,持田製薬) 文 献 1) 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編:高血圧治療ガイドライン 2014.東京,2014.2) Kaplan NM : Hypertensive crises. In Clinical Hypertension(9th ed),Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore, 2006, 311―324.
3) Rosei EA, et al : European Society of Hypertension Scientific Newsletter : treatment of hypertensive urgencies and emergencies. J Hypertens 24 : 2482―2485, 2006.
4) 日本産科婦人科学会編:産婦人科診療ガイドライン産科編 2014. 2014.
5) Narotam PK, et al : Management of hypertensive emergencies in acute brain disease : evaluation of the treatment effects of intravenous nicardipine on cerebral oxygenation. J Neurosurg 109 : 1065―1074, 2008.
6) 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010年度合同研究班報告):急性心不全治療ガイドライン(2011年 改訂版).2011. 7) 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006 年度合同研究班報告):急性冠症候群の診療に関するガイドラ イン(2007 年改訂版).2007. 8) 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010 年度合同研究班報告):大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライ ン(2011 年改訂版).2011.
9) Prejbisz A, et al : Cardiovascular manifestations of phaeochromocytoma. J Hypertens 29 : 2049―2060, 2011. 10) Lane DA, et al : Improving survival of malignant hypertension patients over 40 years. Am J Hypertens 22 : 1199―