雑誌名 生薬学雑誌 = The Japanese journal of pharmacognosy

中国四川省民間薬の生薬学的研究(第1報): Oxalis 属植物由来の薬物について

著者 難波 恒雄, 葉 加南, 小松 かつ子, 蔡 小青, 御影

雅幸

雑誌名 生薬学雑誌 = The Japanese journal of pharmacognosy

巻 44

号 3

ページ 151‑161

発行年 1990‑09‑20

URL http://hdl.handle.net/2297/36612

生　薬　学　雑　誌 Shoyakugaku　Zasshi

44（3），　151・一161　（1990）

中国四川省民間薬の生薬学的研究（第1報）1）

　　Oxαlis属植物由来の薬物について

難波恒雄＊）a，葉　加南a，小松かつ子a，薬　少青a，御影雅幸b 　　　　a富山医科薬科大学和漢薬研究所，b金沢大学薬学部

Pharmacognostical　Studies　on　the　Folk　Medicine　in　Sichuan　Prov．　of　Chi　na　（1）i）

　　　　　　　　　On　the　Drugs　Derived　from　Oxalis　spp．

TsuNEo　NAMBA，＊，a　JIA－NAN　YE，a　KATsuKo　KoMATsu，a 　　　SHAo－QING　CAI”　and　MAsAyuKI　MIKAGEb

aResearch　lnstitute　for　PVakan一　Yaku，　Toyama　Medical　and　Pharmaceutical　University，

　　　　　　　2630　Sugitani，　Toyama　930－Ol，　Japan

　　　　　　bFaculty　of　Pharmaceutical　Sciences，　Kanazawa　University，

　　　　　　13－1　Takara－machi，　Kanazawa　920，　Japan

（Received　July　20，　1989）

　More　than　800　kinds　of　folk　medicines　are　g．　aid　to　be　used　in　Sichuan　Province　of　China．　Of them，　three　kinds　of　crude　drugs，　derived　from　the　whole　plants　of　Oxalis　species　（Oxal　idaceae）

and　now　on　the　market，　were　studied　pharrnacognostically　and　the　i　nternal　structures　of　the leaves　and　petioles　were　compared　with　those　of　nine　Oxalis　species　growing　in　China　and　Japan．

As　the　result，　the　botanical　origins　of‘‘Suan－jiang・cao”（酸漿草），‘‘San－kuai－wa”（三巴瓦）and

‘‘song・chui－cao”（銅錘草）were　proved　to　be　O．　eornieulata，0．　gri177thii　and　O．　cory〃ibosa，

respectively．

　Keywords－Suan－j　iang－cao；　San－kuai－vva；　Tong－chui－cao；　Oxaiis　corniculata；　Oxalis　grif－

fithii；　Oxatis　corptmbosa；　Oxalidaceae；　pharmacognostical　study；　Sichuan　Province；　Chinese　folk medicine

　中国では漢方の流布とは別に，古くから各地域でそれぞれ固有の生薬を開発し利用してきた．なかでも現在の四川 省は面積が約57万km2，人口約1億の多民族が居住する地域で，薬物資源も豊富で，中草薬として3，㎜種類以上が あるとされ2），そのなかで800種以上は民間薬として現在でも実際に用いられている3）．また，四川省で採集された 民間薬は省内の市場だけではなく，回外の広い区域にも出廻り利用されている．しかし，これらの正品に関する研究 はもとより，現市場品の基源に関する研究もほとんどなされておらず，市場には「同物異名品」や「異物同名品」が 数多くみられる．そこで今回，新資源開発ならびに中国における漢方薬と民間薬の関連性を明らかにすることを踏ま えて，四川省産民間薬の調査を行い，比較的流通量の多い薬物の基源を順次解明する目的で本研究に着手した．本報 ではカタバミ科のOxalis属植物に由来する薬物について述べる．

　r四川中薬誌』など2－4）によると，四川省にはOxalis属植物に由来する民間薬として，「酸漿草」，「三塊瓦」およ び「銅錘草」が知られ，それぞれの基源にOxalis　corniculataカタバミ，0．　griiPtthiiミヤマカタバミ，および0．

corγmbosaムラサキカタバミの全草があてられているが3・4），いまだ生薬学的な確証はない．

　カタバミを原植物とする薬物は「酢漿草」としてr新修本草』5）に初収載され，「酢漿草味酸寒無毒主悪瘡痴痩撰傅 之殺諸小虫」と記され，唐本注には「葉如細網叢生開頭有三葉」とあり，『一等本草』5b）の付図や記文からも明らか にカタバミであると判断される，また名称については「酸漿草」と俗称されていたことがr図経本草』に記されてい るが，古来の「酸漿」はナス科のホウズキであったと思われ6），カタバミは「三葉酸漿草」として区別されていたこ とが『千金方』などの記載から窺われる5b）．なお「三塊瓦」および「銅錘草」は古典には記載がない．

TABLE　1． Collection　Data　of　Suan－j　iang－cao（酸漿草），

To㎎一chui－cao（銅国産）from　Sichuan　P「ov・

San・kuai－wa（三塊瓦）and

Name　of　Crude　Drug Market Date No．＊

Suan－j　iang－cao 　（酸漿草）

Chengdushi　Qingshuiqiao　h　erb　store 　（成都市青石二丁薬店）

Chongqingshi　Haiyou　herb　store 　（重慶市海友草薬店）

Emeixian　Chinese　drug　Co．

　（峨眉県薬材公司）

Guanxian　Sanqiao　herb　store 　（灌県三橋草薬店）

Jiangjinxian　Chinese　drug　Co．

　（江津県中薬材公司）

Jintangxian　Chinese　drug　Co．

　（金堂県薬材公司）

Nanchongshi　Chinese　drug　Co．

　（南充市心材公司）

Nanchuanxian　Chinese　drug　Co．

　（南川県薬材公司）

Neijiangshi　Jiangpu　herb　store 　（内江三江浦中草薬店）

Shuangliuxian　Chinese　drug　Co．

　（双流舵画材公司）

Aug．，　1987

Jun．，　1987

Nov．，　1988

Sept．，　1988

Oct．，　1988

Nov．，　1988

Jul．，　1988

Jun．，　1987

Jul．，　1987

Nov．，　1988

6849 8147 10108 10074 10193 10106 9772 8146

1　O（r73

10107

San－kuai－wa 　（三塊瓦）

Chengdushi　herb　clinic 　（成都市中草薬診療所）

Chengdushi　street　stall 　（成都市露店）

Aug．，　1989

Aug．，　1989

10377 10378

Tong－chui－cao 　（銅錘草）

Chengdushi　Qingshuiqiao　herb　store 　（成都市青石橋脚薬店）

Chengdushi　street　stall 　（成都市露店）

Aug．，　1989

Aug．，　1989

10381 10383

＊　The　numerals　show　the　specimen　reference　number　of　the　Museum　of　Materia　Medica，　Re－

search　lnstitute　for　Wakan－yaku，　Toyama　Medical　and　Pharmace　utical　University　（TMPW）．

　「酸漿草」は四川省では古くから民間的に尿路感染，湿疹，打撲，捻挫，白帯下，小児の瘡積などの治療に用いら れてきた3・4・7）．また，「三塊瓦」は清熱利尿，活血散炭薬とされ，熱淋，尿血，打撲傷その他に応用され2）・「銅錘草」

は駆擁血薬として打撲傷，筋骨の疹痛麻痺，白帯，尿路結石，脱肛などに用いられている3・4）・

　今回，四川省の各地市場でこれら3種の薬物を入手したところ，明らかに原植物が異なると思われ，それぞれ Oxalis属植物に由来すると思われた．そこでこれらの平等を確証する目的で，帰化植物をも含め中国および日本に 共通して分布する・Oxatis属植物のうち入手しえた8種8）と，今後中国へ帰化することも予想される日本の帰化植物

1種の，主として小葉および葉柄を比較組織学的に検討した．

実　験　の　部 　1．実験材料

　1．市場品

　実験に供した「酸漿草」，「三塊瓦」，「銅錘草」（TABLE　I）はすべて富山医科薬科大学和漢薬研究所民族薬物資料 館〔TMPW〕に保管される．　No．は同資料館の整理番号・中国産の植物はすべて四川省産・

　2．比較植物

　種の同定は中国産のものは沈地徳教授，日本産のものは清水建美教授による．標本はとくに記載しないかぎり TMPW所蔵標本である．　KANAは金沢大学理学部・

　　i）Onalis　corniculata　L．カタバミ：（中国）南川県金仏山山麓，　J．　N．　Ye　1001；重慶市郊外黄挽極，　J．：N．　Ye　1002；

纂江県野江大橋付近，J．　N．　Ye　1003；峨眉県峨眉山保寧寺，　S．　L　Yang　488100；江油県城郊外，　S．　G．　Liu　1012；綿 陽市，S．　G．　Liu　lO11；南坪県九塞溝，　S．　G．　Liu　1010．（日本）富山県富山市杉谷，」．　N　Ye　1008；東京都墨田区，

N．Nomura　67；鹿児島県霧島山，　K　Matsubae　47；秋田県湯沢市，　Y．　Abe　12；山口県下関市，　S．　Miura　18．

　ii）O．　grifithii　EDGEW．　et　HOOK．ミヤマカタバミ＝（中国）南川県，　J．　N　Ye　1013；重慶市南山，　J．　N．　Ye　1006；

峨門門龍洞，S．　L．　Yang　488102．（日本）富山県金剛堂山，　R　Shibata　15；滋賀県伊香郡余呉町，　A．　Kanei　62．

　岱）O．　corymbosa　DC．ムラサキカタバミ：（中国，帰化植物）重慶市南山，　J．　N．　Ye　1005；纂層理纂江大橋付近，

J．　N．　Ye　1004；峨州県麻子鎮，　S．　L　Yang　488101．（日本，帰化植物）三重県亀山市，　A．　Sano　140；富山県富山市，

Y．　Saeki　41；山口県下関市，　C　Miura　18；石川県金沢市，　K．　Yamamoto　2．

　iv）0．ノbntana　BuNGEエゾタチカタバミ：（日本）東京都八王子市高尾山，　T．　Makino　70767〔KANA〕．

　v）αacetose〃a　L．コミヤマカタバミ：（日本）北海道夕張市，　Y．　Murata　13030〔KANA〕；山梨県塩山市大菩 薩嶺～裂石，NFukuoka　5052〔KANA〕．

　vi）O．　bowieana　LoDD．ハナカタバミ：（日本，帰化植物）高知県，　T．　Makino　70777〔KANA〕。

　vii）0．　obtriangulata　MAxlM．オオヤマカタパミ：（日本）群馬県勢多郡，　T．　Yamazaki　7118〔KANA〕．

　viii）O．　pes－caprae　L．ナオキパナカタバミ：（日本，帰化植物）山口県下関市丸山町，　K　Oka　33207〔KANA〕．

　ix）0．　brasiliensis　LODD．ブラジルカタバミ：（日本，帰化植物）兵庫県西宮市夙川，　Y．　Takita　23〔KANA〕．

　IL　観察部位および一般的形態

　比較検討した各植物は，それぞれ葉の形状は類似するが，茎の有無，根茎の有無，鱗茎の有無などでかなり形態を 異にし，各植物を内部形態学的に比較するには小葉および葉柄が適当であると判断されたので，ここでは両器官につ いて詳説し，他の部分については一部の種についてのみ記載する．

　外部形態：葉はすべて3枚の相同型の小葉からなり，小葉の大きさや形に種間差がある．詳細をTABLE　IIに示

す．

　内部形態：葉においては，1枚につく3小葉の内部形態はそれぞれほぼ同様であった．

　小葉の中央部横切面はほぼ直線状か，主脈部を中心に大きく開いたV字形となる．主脈部上面は突出せず，下面側 への突出形状は種により差異がある．表皮細胞の形状や大きさなどに種間差が認められ，気孔は表皮面から著しく陥 入する．柵状組織は主脈部上面側にも発達し，通常1細胞層，まれに主脈部やその付近で2層となる種がある．柵状 柔細胞の形状や大きさに種間差がある．大型の柵状柔細胞中にはシュウ酸カルシウムの単晶9）が含有され，結晶の表 面は粗雑で細かいすじが多数認められるかあるいはやや平坦．種により主脈部下面表皮下の柔細胞が著しく大型とな る．主脈の維管束は並立型のものが主弓馬のほぼ中央に1個存在し，機械組織は発達しない．葉縁部は円形またはや や鈍形，機械組織は発達しない．

　表面視では，葉肉部の表皮細胞の形状に種間差が認められる（以下，表面視における表皮細胞の形状は上面のもの について記載する）．気孔が上面にも分布する種がある．単細胞毛がとくに下面表皮に多く認められ，表面に細粒状 突起を有する．また種によりこん棒状の腺毛が認められる（以下，毛の記載については下面のものについて行う）．

　葉柄では横切面の形状ならびに大きさ，下郎および内皮の有無，繊維からなる維管束しょうの有無などに種間差が 認められた．

　III．比較植物の内部形態的特徴 　1．　0．corniculgtaカタバミ

　小葉の主脈部横切面（Fig．1－B3）の厚さは200～310μm，下面は幅広く葉肉部の1．4～2倍程度に突出する。葉肉 部は厚さ150～210μm．柵状柔細胞は径10～23μm，長さ35～55μm．主脈部の下面表皮下の柔細胞は径20～60μm．

下面表皮細胞は類円形で，個々の細胞は明りょうに外面へ突出する．表面視（Fig．1・B1，2）では，上面表皮細胞の輪郭 は明瞭な波状を呈する不定形．単細胞毛は先端が鋭形で，太さは径13～18μm，壁の厚さ1～2．5μm．気孔は両面に 認められ，下面に多い．

　葉柄の横切面（Fig．2－A1，2）は楕円形～類円形で，上部がわずかに凹回する．皮層は4～6層の柔細胞からなり，

厚さ115～200μm．本中のみ内皮が発達しない．繊維からなる維管束しょうが，師部の外側に維管束全体を包囲する ように環状に発達する．

　茎の横切面（Fig．2－D）は類円形，径1，150～1，650μm．最外層は表皮で，気孔がある．皮層は厚さ80～265μm，

4～6層の柔細胞からなり，薄膜性の内皮を有する．中心柱は茎の直径の4分の3以上を占める．内しょう中には2

TABLE　II．　External　Morphologies　of

Elements ^Species

O．　cornicttlota O．　gnfithii O．　corymbosa ^{O．　fontana} Leaflet

　Outline

　Shape　of　the　corner 　Length　（cm）

Width　（cm）

Petiole 　Length　（cm）

Presence　of　stem Presence　of　bulb

obcordate rotundate

O．　5－1．　6 1．　0－2．　0

2．　4－8．　5

　十

obcordate obtuse

1．　2－3．　6 1．　9－S．　O

4．　0－19．　0

obcordate rotundate

1．　0－3．　5 2．　0－5．　0

5．　0－27．　0

　十

obcordate rotundate

1．　el．　8 1．　2－2．　6

3．　5－9．　0

　十

～3層の繊維が環状に発達し，内層部には厚膜細胞も混じる．並立維管束は8～14個が環状に配列する．道管はらせ ん紋，心隈，有縁孔紋などを有する．木部繊維は茎の基部に近い部位ほど発達する。髄は大型で柔細胞からなる．

　茎の根に近い部位，とくに土を被っていたような部分では内部形態はかなり異なる．すなわち茎の基部になるに従 って内皮細胞がコルク化し，次いで皮層が脱落し，さらに繊維環（内しょう部）の内側にコルク層が形成され，最終 的に繊維環より外側はすべて脱落する．この変化と平行して放射組織の細胞が厚膜木化する．

　2．　0．griPtthiiミヤマカタバミ

　o．cornicutataに比して全体にやや大型で（Fig．1c3），以下のような特徴を有する．主脈部の下面表皮細胞は外壁・

が明瞭に肥厚する．下面表皮下の細胞は大型で径30～105μm・柵状柔細胞は類円形，楕円形，倒三角形などを呈し，

径17～40μm，長さ20～45μm．表面視（Fig・1－C1，2）では，上面表皮細胞がゆるい波形を呈する多角形を呈し，両 面に単細胞性で長さ30～80μmの腺毛があり，気孔は下面にのみ存在する．

　葉柄は他種に比して大型で，横切面（Fig．　2－B）の径は1，350～2，050μm，上部は凹入し，皮層は厚さ430～710μm．

内皮は明りょう．内しょう中に繊維は発達しない．

　3．0．ceryntbosaムラサキカタバミ

　小葉の主脈部（Fig．1－D3）は，下面が幅広く瘤状あるいは半円形に大きく突出し，厚さ280～470μm，下面表皮下 の1～2層の柔細胞がとくに大型で径40～145μm．表面視（Fig．1－D1，2）では上面表皮細胞の輪郭は波状．両面に 0．griffthiiと同様の腺毛がある．また表皮下に褐色で大型の結晶性物質1ωが認められ，表面視では肉眼的にも小点と

して観察される．

　葉柄の横切面（Fig．2－c）は類円形～楕円形で上面は凹縛しない．表皮下に厚角細胞からなる犀皮がある．維管束 しょうを欠く．

　4．　o．fontana：＝ゾタチカタバミ（Fig．3－A）

　全体に0．cornieutataに類似するが，以下の点で区別される．葉肉部は厚さ63～155μm，柵状組織は長さ15～35 μm，表面視では表皮細胞の輪郭線は顕著な波形を呈しない．

　葉柄の横切面は上面が寺入しない．内皮が存在し，数個の内皮細胞の壁全体がコルク化する．

　5。　0．acSteseUaコミヤマカタバミ（Fig．3・B）

　0．8rκ顕’乃”に類似するが，以下の点が異なる．小葉は薄く，主脈部の厚さは180～260μm，葉肉部の厚さは72～

123μm．葉柄は径670～740μm，皮層の厚さは210～290μm．

　6．o．　bo”ieanaハナカタバミ（Fig．3－C）

　比較植物中最も大型．小葉の主脈部横切面の形状はO．　corymbosaに類似する．主脈部の厚さは650～920μm主 脈部の上面表皮細胞も大型で，径100～140μm，厚さ93～125μm．下面表皮下第2層目の細胞がとくに大型で，径 80～190μm．葉肉部の表面視では上面表皮細胞は多角形で，輪郭はほぼ直線的．1細胞性と3～6細胞性の2種類の 腺毛が両面に存在する．腺毛の先端はこん棒状．非腺毛を欠く．

　葉柄は径2，000～2，800μm，皮層の厚さは680～830μm，葉と同様の腺毛がある．

　7．　0．ebtriengulata三三ヤマ三三バミ（Fig．3－D）

　本種の特徴は小葉の両面に，こん棒状～棒状で先端が鈍形の毛が存在することで，毛は幅が広く径48～67μm，壁

Nine　Oxalis　spp．　Used　in　This　Study

O．　acetosella O．　bowieana O．　obtriangulata O．　pes－caprae O．　brasiliensis

obcordate　obcordate　（roundly）

rotundate　rotunadte

O．　7－1．2　4．　3－7．0

0」8－2．0　　　　　　4．〔ト7．7

2．　7－6．　5 14．　0－19．　0

obdeltoid 　acute

1．　｝1．　8 1．　4－6．　0

4．　0－25，　O

obcordate rotundate

O．　4－1．　9 1．　｝1．　6

6．　5－10．　5

　十

obcordate rotundate

O．　8－1．　8 0．　8－2．　0

1．　5－5．　0

　十

は薄く厚さ約1μm．辺縁部では先端が鋭形のものも混じる．

　葉柄の横切面は上面がやや凹幽する．毛は先端が鋭形のものと鈍形のものの2種類があり，前老が多い．

　8．0．pes・capreeオオキバナ民心バミ（Fig．3－E）

　小葉の主脈部下面の突出はやや幅広く低い．表面視では上面表皮細胞は多角形で，まれに気孔が認められる．下面 に単細胞性の腺毛が存在する．

　葉柄の横切面は上面が凹入しない．表皮細胞の外壁が肥厚し，厚さは5～10μm．

　9・0・brasiliensisブラジルカタバミ（Fig．3－F）

　本種の特徴は，柵状組織が部分的に2層となること，および細胞壁の厚さが4～10μmに肥厚した単細胞毛が多数 存在することである．また上面表皮細胞は大型で，主脈部では径75～115μm，厚さ73～105μmとなる．

　全体に0．pes－capraeと類似するが，　i葉柄の横切面は上面がわずかに突出し，表皮細胞の外壁は厚さ6～12．5μm．

　IV・市場品の性状および原植物

　「酸漿草」（Fig．4）：商品はすべて詠草の乾燥品で，全形品のものと細かく刻まれたものがある．全形品を復元す ると，葉は3小葉からなり，形態はO．　cornicutataによく合致する．しばしば破折した花および円柱形のさく果が認 められる．細切品では葉の復元は困難である．色は葉身部が緑白色で葉柄が淡褐色，あるいは全体に淡褐色を呈する

ものもある．味は少し苦く，臭気はほとんどない．

　入手したすべての「酸漿草」は，内部形態的に。．　corniculataに合致した．

　「三蓋瓦」（Fig．5）：全形品のものと細かく刻まれたものがあり，花や果実は認められない．全形品では葉は汚れ た緑白色，葉柄は淡く赤紫色を帯びる．本品は外部，内部形態的にO．　griifiithiiに合致した．

　「銅錘草」（Fig．6）：全形品で，地上部のみからなり，全体に葉柄が目立ち，わずかに花を認める．全体に淡褐色．

本品は外部，内部形態論に0．corymbosaに合致した．

結論および考察

　1）比較剖検した中国および日本各地に野生あるいは帰化するOnalis属植物9種（O．　corniculata，0．　griiOithii，

0．‘匪y〃ibosa，0．ノbntana，　O．・acetose〃a，　O．・bowieana，0．　obtriangulata，0．　pes－caprae，0，　bras〃iensis）は，小葉にお いては横切面での主脈部の形状と厚さ，柵状組織の形態，下面表皮下の柔細胞の径など，表面視では上面表皮細胞の 形状と気孔の有無，毛の種類など，葉柄においては横切面の形状と径，内皮および維管束しょうの有無，皮層の厚さ などにより，それぞれ種を区別することができた（TABLE　IV）．

　2）　現在四川省で市販されている「酸漿草」はすぺてカタバミ科の0．corniculataの花期および果実期の全草，

「三塊瓦」はO．　griLOithiiの下草，「銅錘草」はO．　cory〃ibosaの花期の地上部であることを組織学的に確証した．

　3）本研究で取り上げた3種の民間薬は，四川省で広く利用されており，それらの効能が利尿や浄血にある点に共 通性が認められる．しかし，同一市場に基源が酷似した薬物が別薬物として存在している事実は，たがいにわずかな がらも薬効が異なることを意味しているとも考えられ，今後薬効的な検索が望まれる．

　4）Oxzzlis属植物は世界各地に広く一般的に分布している．薬用としての同属植物は，中国以外の地ではインドで 0．corniculataの地上部が寒剤として11），また直腸の脱出，排尿時の灼熱感，いぼ，うおのめなどに内，外用され12），

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一一

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　　　　　　　Fig．1．　Leaves　of　Oxalis　corniculata（A），0．87顔ψガ（B）and　O．ωり’〃めosa（C）

A：Sketdl　of　O．ω7π’c〃lata．　A1－4～Cレ4：Detailed　drawings　of　the　leaves　of　O．ω編。露伽4（A），0．，gU・lffthii（B）and O．　corymbosa　（C）．　［1，2，　upper　（1）　and　lower　（2）　epidermises　in　surface　view；3，4，　transection　of　midrib　（3）　and　1eaf margin　（4）］．

Ai乙《ゴp

　　　　　　　cx 　　　　P言 1’一1　Z：X　en

c

B

凹

hy

鶴 ^凹

100　pm

ep

　　　　　Fig．　2．　Petioles　and　sterns　of　Oxalis　corniculata　（A），　O．　gnffthii　（B）　and　O．　eorymbosa　（C）

Ai，2：　Diagram　（1）　and　detailed　drawing　（2）　of　the　transection　of　the　petiole　of　O．　corniculata．　A3：　Diagram　of　the transection　of　the　stem　of　O．　corniculata．　B，　C：　Diagram　of　the　transection　of　the　petiole　of　O．　gn：t7iithii　（B）　and　O．

cor．vmbosa　（C）．

欧米諸国ではO．　acetose〃aの新鮮葉および根茎が利尿，解熱13・14⊃，防腐，抗壊血病薬14⊃などとして使用されている．

さらに日本でも0．corniculataを民間的にたむし，なまず，やけど，淋病，帯下，痔疾などに内，外用している15）．

中国を含めて，これらの薬効には利尿，排尿障害改善の薬効が共通しており，とくにインドと中国の共通性は，酸漿 草が『新修本草』収載品である点を考えると，薬物知識の伝播をさぐる上で興味深い．日本では中国の知識をそのま ま受け継いだものと考えられる．

　5）O．　COIツmbosaは南アメリカ原産の植物であり，日本へは江戸時代に移入されたとされるが16），中国へ持ち込ま れた時期は定かでない．本植物は本来観賞用に導入されたものであり，中国で薬用にされるに至った経緯は明らかで ないが，おそらく他の薬用同属植物との形態的な類似性に起因するのであろう．なお本植物は現在では世界中に広く 帰化していると思われるが，中国以外ではアルゼンチンで皮膚の軟化剤として利用されている例17）がある程度で，他 の地域では薬用にはされていないようである．

　謝　辞：本研究にあたり，中国産の比較植物の同定をされた華西医科大学薬学院（成都市）の沈学徳教授，日本産 の植物の同定をされかつ材料をご提供くだされた金沢大学理学部の清水建美教授，また材料の蒐集にご協力くだされ た華西医科大学薬学院の鄭虎教授および王天志氏，成都中医学院薬学系の劉小軍教授の諸氏に深謝の意を表す．

　List　of　abbreviations－bs：　bundle　sheath，　ca：　clustered　crystal，　cs：　single　crystal，　cx：　cortex，　en：　endo－

dermis，　ep：　epidermis，　epl：　lower　epidermis，　epu：　upper　epidermis，　f：　fiber，　h：　hair，　hg：　glandular　hair，　hy：

hypodermis，　m：　pith，　mph：　phloem　medullary　ray，　mxy：　xylem　medullary　ray，　p：　parenchyma　cell，　pa：

palisade　parenchyma，　ph：　phloem，　s：　sieve　tube，　se：　sclerenchyma　cell，　sp：　spongy　parenchyma，　sto：　stoma，

v：　vessel，　vb，　vascular　bundle，　xy：　xylem．

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A：0。ノ「ontalm．　B：0．　acetoselta．　C：0．ゐow彪ana．　D：0．　oゐ’riangulata．　B：0．ρ鰐。caprae．　F：0．　brasiliensiS．11，2，

transection　of　midrib（1）and　leaf　margin（2）；3，4，　upper（3）and　lower（4）epide面ises　in　surface　view；5，　trans㏄・

tion．　of　petiole1．

Fig．　4．

　　　　　　　（A）

“Suan－jiang－cao”in　Chongqing重慶（A）and　in　Chengdu成都（B）Markets　of　Sichuan　Prov．

f

購麟麟　撫鰍蕪隅棚蕪㈱野鴨議癬騰，欄翻雛擁購獺騰購嚢㈱纒㈱総懸購轟｛ll麟

　　　　　　（A）　（B）

　　　　　　　Hg．5．“San・kuai－wa”in　Chengdu（成都）Markets

騒

灘灘獺紙雛灘購撫弓懸麟騨灘三島購灘瞬購繍懸醐麟 F19．6．‘‘Tong－chui・cao”in　Chengdu（成都）Market

引用文献および注

1）日本生薬学会第35回年会（1988年9月，新潟）で発表．講演要旨集，p．123．

2）四川中薬誌協鎖編写組編，“四川中薬誌”，第1巻，四川人民出版社，成都，1980，前言，p．1；三塊瓦，　p．9．

3）四川省中薬研究所編，“四川常用中草薬”v四川人民出版社，成都，1972，編後説明：酸漿草，p．1326；三塊瓦，

　p．　179；岬町草，p．1182．

4）中国科学院四川分院中医中薬研究所主編，“四川中薬誌”，第1冊，四川人民出版社，成都，1960，酸漿草，第3

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　　：冊，p．1945；三塊瓦，第1冊，　p．154；銅錘草，第3冊，　p．1957．江蘇新医学院編，“中薬大辞典”，上海科学技 　　術出版社，上海，1977，酸漿草，下冊，p．2298；三塊瓦，上冊，　p．61；銅錘草，下冊，　p．2164．

5）a）蘇敬著，岡西為人重輯，“重輯新修本草”，学術図書刊行会，兵庫県川西市，1978，p．270；b）唐慎微，“重修 　　政和経史証類備用本草”，張存恵重刊本影印，人民衛生出版社，北京，1957，p．282．

6）李時珍著，鈴木真海訳，木村康一新註校定，“新註校定国訳本草綱目”，第5冊，春陽堂，東京，1974，p．314．

7）成都市衛生局革命委員会編，“成都中草薬”，四川人民出版社，成都，1971，p．575；成都市中医学会編，“農村常 　　見疾病治療手冊”，四川人民出版社，成都，1966，p．13；成都市衛生局編，“民間常用草薬彙編St（修訂本），四川 　　人民出版社，成都，1965，p．147；“重慶中草薬手冊”，四川人民出版社，成都，1976，　p．987：重慶市衛生局編，

　　tt重慶草薬”，第1集，1960，　p．214．

8）侯　寛昭編，“中国種子植物科属詞典”，修訂版，科学出版社，北京，1982，p．349；中国科学院西北植物研究所編 　　著，“秦嶺植物誌”，第1巻，第3冊，科学出版社，北京，1981，pp．115－117；北京師範大学生物系賀士元ら編，

　　“北京植物誌”，上冊，北京出版社，北京，1984，pp．488－491；遼寧省林業土壌研究所編著，“東北草本植物誌”，

　　第6巻，科学出版社，北京，1977，pp．1－4；原　　寛，植研，24，101（1949）．なお，中国に分布するとされる 　　8種のうち，O．　stricta　Lオツタチカタバミは入手できなかった．

9）単晶は粗雑なものが多く，集晶と判断できそうなものもあるが，ここではすべて単晶とした．

10）本物質はジャベル氏液に溶解し，濃塩酸，水酸カリウム，エーテル，メタノールに不溶，メチンンブルーで濃染 　　され，塩化第二鉄試液で変色しない．

11）　W．　Ainslie，　“Materia　Indica，”　Vol．　II，　A．　and　R．　Spottiswoode，　London，　1826，　p．　324．

12）J．　F．Dastur著，伊藤和洋訳，“インドの自然療法”，本郷企画，東京，1982，　PP．30，43，250，　Fig．296．

13）　M．　Stuart　ed．，“The　Encyclopedia　of　Herbs　and　Herbalism，”　Orbis　Publishing　Ltd．，London，1979，　p．231．

14）　L．　Palma，　“Le　piante　medicinali　d’ltalia，”　Societa　Editrice　lnternaziomale，　1964，　Torino，　p．　326．

15）大塚一節，“漢方と民間薬百科”，主婦の友社，東京，1966，p．145．

16）北村四郎ら監修，“週刊朝日百科世界の植物”，43号，朝日新聞社，東京，1976，p．1035．

17）　M．　Toursarkissian，　“Plantas　Medicinales　De　La　Argentina，”　Editorial　Hemisferio　Sur　S．　A．，Buenosaires，

　　1980，　p．95．