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養殖サケ科魚類の卵内感染による 垂直伝播の防除技術に関する研究

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Academic year: 2021

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     博士(水産科学)小原昌和 学 位論文題名

養殖サケ科魚類の卵内感染による 垂直伝播の防除技術に関する研究

学位論文内容の要旨

  内 水 面 の サ ケ 科 魚 類 養 殖 で は 、1970年 代 前 半に 韜 け る 伝 染性 造 血 器 壊死 症 (IHN) の発 生 お よ び 拡大 を 契 機 と して 消 毒 法 お よび 隔離施 設 で の ふ 化 飼 育 を 基 本 と し た 防 疫対 策 が 確 立 され た 。 こ れ によ り 、 種 苗 生 産 に 韜 け るIHNの 発 生 が 抑 止 さ れ 、 養 殖 生 産 の 安 定 化 が 図 ら れ てき た 。 し か し、 伝 染 性膵臓 壊死症 (IPN)や 細菌 性腎臓 病(BKD) に 韜 い て は 、 汚 染 種 卵 の 導 入 に よる 伝 播 事 例 が高 い 割 合 を 占め 、 垂     f

直 伝 播 に 対 す る 防 疫 対 策 が 課 題 とし て 残 さ れ てい る 。 垂 直 伝播 が 問 題 視さ れ て い る 疾病 に 、IPN、IHN、BKDお よ ぴ細 菌 性 冷 水 病( 以下、

冷 水病 と 称 す ) があ る 。 こ の 中 で、BKDお よ び冷 水 病 で は 卵内 感染が 確 認 さ れ て い る が 、 感 染 経 路 や その 条 件 な ど の感 染 機 序 に つい て 不 明 な 点 が 残 さ れ て い る 。 そ の た め、 本 研 究 で は、 養 殖 サ ケ 科魚 類 に 認 め ら れ る 病 原 細 菌 の 卵 内 感 染 機序 の 解 明 と 防除 技 術 の 開 発を 目 的 として 、第1章 では、 主に冷水病原因菌(戸,psycカropカil um)を対象 に 人 工 感 染 試 験 に よ り 感 染 経 路 韜 よ び 条 件 を 検 討 し た 。 第2章 で は 等 調 液 洗 卵 法 の 除 菌 効 果 と 卵 内 感 染 の 防 除 効 果 を 、 第3章 で は 未 受 精卵消毒による感染防除効果を検討した。

  第1章 第1節 で は 、 産 卵 親 魚 の 体 内 に お け る 卵 内 感 染 を 検 討 す る ため体腔液および精液中の尸, psヅcカropカil um、せっそう病原因菌(瓜 salmoカicida)およぴBKD原因菌(月.salmoカゴヵar um)の生菌数、ならぴ に 排 卵 さ れ た 未 受 精 卵 内 に お け る感 染 の 有 無 を調 べ た 。 そ の結 果 、 体 腔 液 中 のF.psycカropカilumおよ ぴ イ .salmoロicidaの 生菌 数 は

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104CFU/ml以 下であり、々,salmoロjカar umはl08〜loCFU/mlであった。

し か し 、 未 受 精 卵 内 か ら 病 原 細 菌 は 分 離 さ れ ず 、 産 卵 親 魚 体 内 に お いて卵が感染している可能性は低いと考えられた。

  第2節 で はF,psycカropカil umによ る 人工 感染 試 験を 行い 、 卵内 感 染 経 路 を 検 討 し た 。 卵 表 面 を 汚 染 して から 授 精・ 吸水 さ せた 卵、 授 精 後 に 表 面 を 汚 染 し て 吸 水 さ せ た 卵 お よ ぴ 汚 染 卵 を 授 精 せ ず に 吸 水 さ せ た 不 受 精 卵 の い ず れ に 韜 い て も 卵内 感染 が 成立 した 。 また 、人 為 的 に 吸 水 さ せ た 未 受 精 卵 で は 、 吸 水10分 経 過 時 ま で 卵 内 感 染 が 成 立 し た 。 そ し て 発 眼 卵 も 得 ら れ た 。 ま た、 卵内 感 染は 卵表 面 に存 在す る 汚 染 菌 の 濃 度 に 依 存 し 、l07 CFU/ml以 上 の汚 染条 件 で成 立し た 。以 上か ら 、F.psヅcカropカil umは 授精 時ではなく、卵の 吸水過程において物 理的に卵内ヘ侵入することが推察された。

  第3節 で は 、 人 工 感 染 試 験 に よ り 卵 内 感 染 の 有 無 を 確 認 し た 。 吊. salmoカjカar umの卵内感染は確認されたが、イ,salロonicidaでは卵 内 感 染 は 確 認 さ れ な か っ た 。 こ の 違 い を 検 討 す る た め に 、F. psycカropカil umまたはイ,salロ〇カicidaで汚染したニジマス卵内にお け る 菌の 消長 を 調べ たと こ ろ、F.psヅcカropカilum汚染 卵 では 、日 数 の 経 過 に 伴 い 卵 内 生 菌 数 が 増 加 し 、発 眼期 に は107 CFU/粒程 度 まで 増 殖 し て い る こ と が 確 認 さ れ た 。 一 方 、4.salmoねicida汚 染 卵 で は 、 吸 水 後 卵 内 へ の 菌 侵 入 が み ら れ た が、 増殖 せ ず、 発眼 卵 では 卵内 感 染 が 成 立 し て い な か っ た 。 さ ら に 、 卵 内 か ら 分 離 さ れ た 一 般 細 菌

(Comamoカas属、Pseudomonas属およびSpヵゴぎ〇ロ〇カas属)を用いた人工 感染試験でも、卵内感染が認められた。

  第4節 で は 、 走 査 型 電 子 顕 微 鏡 (SEM) によ ル ニジ マス 吸 水卵 およ ぴ 病 原 細 菌 汚 染 卵 の 卵 門 形 態 を 観 察 し た 。 飼 育 水 中 で 吸 水 さ せ た 卵 で は 、10分 後 ま で 卵 門 管 内 が 開 口 し て い た が 、30分 以 降 の 卵 で は 卵 門 管 の 閉 塞 が 観 察 さ れ た 。 排 卵 さ れ た未 受精 卵 の卵 膜表 面 には 、卵 膜 孔 管 は 観 察 さ れ ず 、 卵 門 の 大 き さ は 細菌 に比 べ ては るか に 大き いこ と か ら、細菌が卵門から十分に侵入できると推察された。

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  垂 直 伝 播 機 序 とし て 、 親 魚 体内 に お け る 卵内 感 染 と 人 工 採卵 に 伴 う 体 外 伝 播 の 問 題 が指 摘 さ れ て いる が 、 体 内 にお け る 感 染 の 可能 性 は 低 く 、 体 外 伝 播 の 可能 性 が 高 い こと が 考 え ら れた 。 不 受 精 卵 およ び 受 精 卵 と も に 感 染 が 成 立 し た こ と 、 吸 水10分 経 過 ま で の 卵 で は 感 染 が 成 立 し 、 発 眼 卵 が 得ら れ る 時 期 とも 一 致 す る こと 、 さ ら に は 卵門 管 が 開 口 し ている 時期と も一 致する ことか ら、卵 内感 ・染は 、精子 侵入に 伴つ て 起 こ る の で は なく 、 吸 水 過 程に お い て 卵 門か ら 細 菌 が 囲 卵腔 ヘ 侵 入 す る こ と に よ り 成立 す る と 考 えら れ た 。 ま た、 表 面 が 高 度 に汚 染 さ れ た条件であれば、尸, psアcカropカil,umや々,salロDカjカar um以外の病原細 菌 お よ ぴ 一 般 細 菌で も 卵 内 へ の侵 入 が 起 こ るも の の 、 感 染 成立 の 可 否 は 菌 種 に よ っ て 異な る こ と が 明ら か に な っ た。 こ の 原 因 と して 、 囲 卵 腔 お よ び 卵 膜 に 存 在 す る り ゾ チ ー ム 等 の 生 体 防 御 物 質 に 対 す る 菌 の 耐 性 の 違 い が 考 えら れ 、 今 後 感染 機 序 を 明 らか に す る 上 で 重要 ぬ 課 題 であると考える。

  次 い で 、 第2章 第1節 お よ び 第2節 で は 、 人 工 採 卵 で 行 わ れ て い る 等 調 液 洗卵 法 の 除 菌 効果 を 調 べ た 。そ の 結果 、試 験規模 ではl04程 度、

事 業 規 模で もl04〜 程 度 の 細 菌 ま たは ウ イル スが除 菌・除 去され るこ と 、 汚 染 卵 で あ って も 洗 卵 を すれ ば 卵 内 感 染を 防 除 で き る こと が 明 ら かになった。

  第 3節 で は 、 長 野 県 内 の 養 魚 場 に お け る 洗 卵 実 態 を 調 べ た。 調 査 し た21養魚場 では 、主に 簡便法 (O.9〜1%食塩水)または標準法による等 調 液 が使用 され、 濯ぎ 洗卵(8件 )また はシヤ ワー 洗卵単 独(6件) 、あ るい は両者 を併 用した 洗卵(7件 )が行 われていた。等調液使用量では、

卵1万粒 あたり1〜 2Lの事 例が最 も多く (12件 )、1L以下 の事例 (4件)

も み ら れ た 。 使 用量 が 少 な い 事例 は 、 在 来 マス を 飼 育 す る 養魚 場 で あ り 、 こ の う ち 、 濯ぎ 洗 卵 の 事 例が3件 で あ っ た。 在 来 マ ス 養殖 で はBKD の防除が重要な課題であり、々. salロ〇ロjカar um保菌魚の体腔液中の生 菌 数 が 非 常 に 高 いこ と が 本 研 究で 示 さ れ た こと か ら 、 洗 卵 程度 の 低 い 事 例 に っ い て は 、シ ャ ワ ー 洗 卵の 採 用 と 使 用量 の 増 加 に よ る改 善 が 必 要であると考えられた。

    ―209ー

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  このように、等調液洗卵法は、受精率向上の目的で普及した技術で あるが、卵表面を除菌することにより卵内感染の防除に効果があるこ とが示された。しかし、卵表面の汚染程度が高い場合には、洗卵して も菌が残ることから、卵内感染リスクを低下させるために、未受精卵 表面を消毒する必要があると考えられた。

  最 後に、 第3章 では、ポ ビドン ヨード剤(以下、ヨード剤とする)

の 消 毒 効果 に及ば す阻害 物質の 影響およ ぴ消毒 による 感染防 除効果 を検討した。通常、採卵(搾出)した卵には体腔液およぴ潰卵成分が 混じるが、混入率が高い場合には、消毒効果の低下がみられた。無洗 卵状態の卵では、尸.psycカropカil umに対してはヨード剤消毒(200倍 液,15分)が有効であったが、イ.salmoカゴcidaおよぴ月.s.に対しては 不十分であった。一方、イ,salmoロicidaでは汚染卵を濯ぎ洗卵また はシャワー洗卵することにより、月. salmoロinar umではシヤワー洗卵 することにより、十分な消毒効果が得られた。また、卵内感染を防除 するためには、受精卵をヨード剤液中で吸水させる方法(吸水消毒)で は不十分であり、授精前の未受精卵をヨード剤で消毒する方法(未受 精卵消毒)が有効であることが示された。

  本研究の成果から、養殖サケ科魚類にみられる卵内感染は、人工採 卵された未受精卵の表面が細菌で高度(107 CFU/ml以上)に汚染され ていた場合、卵表面の病原細菌が吸水過程中に卵門を介して囲卵腔に 侵入することにより成立す・ると考えられる。感染リスクを低下させる た め に は、 等調液 洗卵法 および 未受精卵 のヨー ド剤消 毒が有 効であ り、消毒効果を高めるためにも、等調液洗卵法とヨード剤消毒が一体 的に実行されることが重要であると考える。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

養殖サケ科魚類の卵内感染による 垂直伝播の防除技術に関する研究

  サケ科 魚類の内 水面養 殖では,1970年代前半における伝染性造血器壊死症(IHN)の発生およぴそ の被害拡大を契機として,卵,飼育用水およぴ施設の消毒,隔離施設での孵化飼育を基本とした防疫 対策が確立された。これにより,種苗生産に韜けるIHNの発生が防止され,養殖生産の安定化が図ら れてき た。しか し,伝 染性膵臓 壊死症(IPN)や細 菌性腎臓病(BKD)では,汚染種卵の導入による伝 播事例が高い割合を占め,垂直伝播の防止が課題として残されている。垂直伝播が問題視されている 疾病には,IPNおよぴBKDのほか,細菌性冷水病(以下,冷水病と称す)カ§知られている。BKD諮よ ぴ冷水病に関しては,卵内感染を起こすことが実験的に証明されているが,感染経路やその条件など の感染機序については不明な点が多く残されている。

  本論文では養殖サケ科魚類に認められる病原細菌の卵内感染機序の解明と感染防除技術の開発を 目的に,主として冷水病原因菌Flavobacteriump.ゴychrop範|脚を対象とした人工感染試験を行い,

感染経路およぴ卵内侵入条件を検討し,等調液洗卵法の除菌効果と卵内感染の防除効果ならびに未受 精卵消毒による感染防除効果を明らかにした。

  第一章では,まず,冷水病,せっそう病あるいは細菌性腎臓病の感染を耐過した採卵親魚の体腔液 中の原因細菌数を測定し,冷水病原因菌Fp刪ぬーD 帥ゴ|伽およぴせっそう病原因菌イer〇舳々as sa伽弸jcjぬはlmLあた り104CFU,BKD原因菌 風加jぬcf釘ゴ伽駟伽伽むar卿はl0810CFU存在する ものの,未受精卵内から,これら病原細菌を分離することはできず,産卵親魚体内において卵が感染 している可能性が低いことを明らかにした。次いで,Fp.ゴ閃カゃmロ伽を用いて卵の人工感染試験を 行い,卵表面汚染後に授精・吸水させた卵,授精後に表面を汚染して吸水させた卵および汚染卵を授 精せずに吸水させた不受精卵を作成した。卵表面のFpー.閃々r叩加J伽汚染濃度が107CFU/ml以上の 汚染条件下で,いずれの卵でも卵内感染が成立した。人為的に吸水させた未受精卵では,吸水lO 経過 時 ま で 卵内 感 染 が成 立 し た。 し か も, 受 精 卵か ら は 発眼 卵 が 得 られ た 。 この よ う に,F pりけ9mロ伽は授精時ではなく,卵の吸水過程においても物理的に卵内ヘ侵入することが明らかにな     2111

     

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った。F psycrophilum汚染卵では,日数の経過に伴い卵内生菌数が増加し,発眼期にはl07CFU/粒程 度 まで 増 殖 した 。 囲 卵腔 でA salmonicidaは 生存で きなかっ たが,Fpsychropj|脚 および兄 馳伽弸むaH珊は生存し,囲卵腔内で細菌が生存できるかどうかが,その後の卵経由感染の重要な要因 であることを明らかにした。さらに,走査型電子顕微鏡(SEM)観察により,ニジマス吸水卵および 病原細菌汚染卵の卵門形態を観察した。飼育水で吸水した卵では,10分後まで卵門管内が開口してい たが,30分以降の卵では卵門管が閉塞していた。排卵された未受精卵の卵膜表面には,卵膜孔管は観 察されず,卵門の大きさは細菌に比べてはるかに大きいことから,細菌が卵門から侵入する可能性が 高いことを明らかにした。

  第二章では古くから人工採卵で実施されている等調液洗卵法の除菌効果を検討し,試験規模では卵 表面に存在した細菌またはウイルスが104程度,事業規模でも10ヰ〜5程度除菌あるいは除去されるこ とが明らかとなり,汚染卵であっても洗卵をすれば卵内感染を防除できることを示した。しかし,卵 表面の汚染濃度が高い場合には,洗卵しても菌が残ることがあることから,卵内感染のりスクを低下 さ せ る た め に は , 未 受 精 卵 表 面 を 消 毒 す る 必 要 が あ る こ と が 明 ら か と な っ た 。   第三章 では,長野県内の養魚場において実施されている洗卵実態を観察した。調査した21養魚場 では,主に簡便法(091%食塩水)または標準法による等調液が使用され,洗卵程度の低い事例に ついては,シャワー洗卵の採用と洗卵液使用量の増加等の改善が必要であることを示した。さらに,

ポビドンヨード剤(以下,ヨード剤とする)の消毒効果に及ばす阻害物質の影響および消毒による感 染防除効果を検討し,洗卵により体腔液およぴ潰卵成分を除去した場合に,十分な消毒効果が得られ ることを明らかにした。結論として,受精卵をヨード剤液中で吸水させる方法は,卵内感染を防止す るには 不十分であるが,授精前の未受精卵をヨード剤で消毒する方法が有効であることを示した。

  以上,本研究は従来対策が難しいとされてきた,垂直感染を起こす病原体の卵内侵入機序の一端を 明らかにし,簡便でかつ有効な防除手法を提案し,同時に受精率の向上と卵消毒効果の向上が図られ ることを示したもので,これらの成果は水産科学に寄与するところ大と考え,審査員一同は申請者が 博士(水産科学)の学位を授与される資格のあるものと判定した。

参照

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