室内水槽におけるニホンザリガニの卵発生に伴う卵色の変化
Change of egg color with egg development of the Japanese
endangered freshwater crayfish
Cambaroides japonicus
under
laboratory condition
清田環希
1・川井唯史
2**
KIYOTA Tamaki
1, KAWAI Tadashi
21男鹿水族館GAO 2北海道立総合研究機構中央水産試験場
1 Oga Aquarium GAO 2Hokkaido Research Organization, Central Fisheries
Research Institute
1〒010–0673 秋田県男鹿市戸賀塩浜字壺ヶ沢 93 番地先 2〒046–8555 北海道余市郡
余市町浜中町238
*問合せ先:[email protected]
Abstract
A natural habitat of the freshwater crayfish Cambaroides japonicus (De Haan, 1841) in Odate City, Akita Prefecture, Japan is designated as a natural monument by the Japanese government. Change of egg color of C. japonicus with the development of their eggs were observed in aquaria in Oga Aquarium GAO in Akita Prefecture, Japan. The egg color was dark brown immediately after spawning, then the color changed to black, and eyed eggs appeared before egg hatching. 要旨 秋田県大館市におけるニホンザリガニ生息地は国が指定する天然記念物となっている.ニホン ザリガニの卵の発達に伴う色の変化は秋田県男鹿水族館の水槽内で観察された.卵の色は産卵直 後が深い茶色で,その後黒色となり,卵の孵化直前は卵内で眼が見られ発眼卵となった. キーワード:繁殖,発生,発眼卵,保護,天然記念物 1 はじめに ニホンザリガニCambaroides japonicusは, 北海道,東北地方の一部に分布する日本固有の ザリガニであり,清澄な水環境を伴う河川源流 域や湖沼を生息場とする.秋田県大館市内には ニホンザリガニ生息地として国指定の天然記念 物に指定されている場所があり(鏑木,1932), これまで多くの生息地調査が行われ(籠屋, 1978; 笹木, 2003; 平田ら, 2018; 鬼久保ら, 2019),市内の大館鳳鳴高校が参画した保護活 動も取り組まれてきた(工藤ら,2017;河田ら, 2019).こうした活動の主な目的の一つに,人工 孵化技術の確立がある. 本種の繁殖周期としては,晩夏に脱皮した成 熟サイズに達した雌雄が晩秋に交尾し,その際 にメスの腹部にはオスから渡された精包が付着
火内 第15号(2021年) 清田環希・川井唯史 したまま越冬し,翌春に産卵が行われ卵は初夏 に孵化するまでメスの腹部に抱かれて保護され, 孵化した稚エビは一定期間メスの腹部で保護さ れるが数週間後に独立することが知られている (川井ら,1994). 既存研究で,孵化直前あるいは孵化後の生態 に関する知見が集積し始めており,稚エビの育 成方法(鬼久保・川井,2020),また野外で採集 された抱卵個体から,孵化直前の卵は内部が透 けて見えることなどが報告されている(川井 ら,1990). 一方で,産卵から孵化までの過程に関しては 知見が得られておらず,特に繁殖個体の飼育管 理を行う上での基礎となる,卵発生に伴う卵の 色の変化は,重要な情報であるにもかかわらず 不明である.孵化後の日数と卵色の関係を明ら かにすることにより,野外生息地での繁殖周期 の推定や効率的な繁殖試験の遂行に寄与できる ものと考えられる. そこで,本稿では室内水槽で交尾から孵化ま でに成功し,卵発生に伴う色の変化を記録した ので報告する. 2 研究対象地域及び研究手法 供試個体は大館市内の天然記念物指定地に おいて2019 年 7 月 22 日に関係者の立ち会い の下で採集した.その大きさは頭胸甲長(眼窩 の後縁から頭胸甲部の正中線の後縁まで)がオ ス27.3 ㎜でメスが 26.8 ㎜であった.これらを 秋田県男鹿市の男鹿水族館まで 運び,縦45 ㎝,横 170 ㎝,高さ 44.5 ㎝の FRP 製水槽(アース 製,水量が約270 ℓ)に,径 3 ㎜ 程の砂利を敷いた縦 17cm,横 17 cm,高さ 17 cm のポリスチ レン製水槽(スペクトラムブラ ンズジャパン製,水量約5 ℓ)を 設置して 1 個体ずつ収容した. 飼育水は水道水をチオ硫酸ナト リウム(Na2S2O3)でカルキを抜 いたものを約0.6 ℓ/min かけ流した.水槽は飼 育個体を展示水槽に導入する前の水槽であり, 上部には発泡スチロールの板を置いて遮光し, 薄暗い環境とした.給餌は2~3 日に 1 回,人 工飼料(キョーリン製ザリガニのエサ)を与え, 適宜クリCastanea crenataの落ち葉を与えた. 水温はデジタル水温計(アズワン製ASF―250T) を用いて毎朝9 時半頃に記録した. なお,既存の飼育経験からニホンザリガニは 交尾時に雌雄が激しく闘争し,どちらかが死亡 することが多い.それを避けるため仕切りを用 いて別個にし,2019 年 12 月 14 日から 15 日に かけて雌雄を混生飼育し,連続的に交尾の有無 と交尾後には精包の付着の確認を行った. 3 結果 飼育期間中の水温は図1 に示した.12 月中旬 以降水温は10 ℃を下回り,1 月と 2 月は 7 ℃ 程で推移し,その後に昇温し 4 月には水温が 10 ℃以上で推移した. 2019 年 9 月上旬にオスが脱皮し,メスは同 年9 月 23 日に脱皮を確認した.2019 年 12 月 14 日に交尾が観察され,同時に精包の付着が確 認され,メスを単独の飼育に切り替えた.2020 年3 月 9 日に産卵を確認し,その後,卵はメス の腹部で抱かれた. 産卵から13 日後の 2020 年 3 月 22 日には卵 が灰褐色となり,産卵から69 日後の 5 月 14 日 には卵が黒色となり,産卵の 97 日後である 6 図1 飼育水槽における水温の推移.
Figure 1 Change of water temperature in rearing aquaria in Oga Aquarium GAO in Akita Prefecture, Japan.
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 水温 (℃ )
月14 日には卵の中の孵化直前の稚仔が見える, いわゆる発眼卵となり,産卵の102 日後の 6 月 19 日には卵から孵化した稚エビが見られた(図 2).なお,飼育期間中,抱卵メスは歩脚で卵を しごくような行動が頻繁に観察された. 4 考察 本試験では抱卵した個体に刺激することが 原因の脱卵を防ぐため,産卵数は計数していな いが,過去の知見によると大館市産のニホンザ リガニの抱卵数は 33~69 粒であり,平均的に は 50 粒程を抱卵していたと推察される(川井 ら,1990).今回の実験では合計 27 粒の孵化が 確認されているため,およそ抱卵したうちの半 数が孵化したものと思われ,平均的な卵数が生 まれていたと仮定すると,半分程が孵化したと 考えられる.水温別(5 ℃,10 ℃,15 ℃,20 ℃) に卵の孵化率を比較したNakata et al. (2004) では,15℃が最も高い孵化率を示し,5℃と 10℃ ではそれよりも孵化率が低く,20 ℃では最も 低い孵化率であることが報告されている.なお, 20 ℃という高水温下では,卵にカビが付着し て死亡することが多いためと考えられる.本飼 育実験の水温は10~15 ℃前後を推移しており, 最も高い孵化率の水温帯と低い孵化率の水温帯 図2 卵の発生に伴う色の変化.A は産卵(3 月 9 日)から 13 日後(3 月 22 日)で灰褐色,B は産卵から 69 日後(5 月 14 日)で黒色,C は産卵から 97 日後の 6 月 14 日,D は産卵から 102 日後の 6 月 19 日.清田環希撮影.
Figure 2 Change of egg color with egg development in the Japanese endangered freshwater crayfish
Cambaroides japonicus under laboratory conditions in Oga Aquarium in Akita Prefecture, Japan. A, 22nd March 2020 after 13days of spawning on 9th March 2020 (dark brown); B, 14th
May 2020 after 66 days of spawning (black); C. 14th June 2020 after 97 days of spawning; D,
19th June 2020 after 102 days of spawning. Photo by T. Kiyota.
火内 第15号(2021年) 清田環希・川井唯史 孵化が確認され,これは孵化率が5 割程度であ ったと推定されることから,今後は産卵後の水 温を最も孵化率の高い 15 ℃で推移させること により,さらに高い孵化率を得ることが期待さ れる. ニホンザリガニの卵の色は,産卵直後は灰褐 色であること(川井,1994),さらに孵化の直前 には発眼卵になること(川井ら, 1990)は,以前 より観察されていたことであるが,今回の飼育 実験により孵化後の日数と色の関係が示された. そのため,今後は野外で抱卵したニホンザリガ ニを採集した場合や室内水槽で本種を繁殖させ る場合,卵の色が灰褐色の場合は,産卵してか ら2 週間程度であり,黒色の卵が得られた場合 は産卵から数か月は経過しており,発眼卵が得 られた場合も,1 週間程度で卵の孵化が起こる と想定できる.これにより,生息地での繁殖周 期の推定や効率的な繁殖試験の遂行に寄与でき るものと考えられる. 5 まとめ 秋田県大館市の市街地にある国の天然記念 物に指定された区域に生息するニホンザリガニ を男鹿水族館で飼育し繁殖させ,産卵から孵化 に至るまでの卵の色の変化を記録した.産卵直 後の卵の色は深い茶色を呈し,その後は黒色に 変わり,孵化直前は卵内で体が形成され,眼が 見える発眼卵となった.これはニホンザリガニ の繁殖生態の基礎情報として保護活動に寄与す る情報である. 謝辞 飼育実験用の個体を提供して下さり原稿に 貴重な御助言を頂いた大館郷土博物館の鳥潟幸 男学芸員,水族館での飼育試験の機会を与えて 下さった男鹿水族館の本川博人館長に深謝しま す.英文部を校閲していただいたDr. David M. Hudson of The Maritime Aquarium at Norwalk, CT, USA にお礼申し上げます. 引用文献 平田つかさ・石橋珠生・石橋友梨・時田雄貴・ 高田優仁・笠井崇賢・下澤優紀・山本真奈未・ 柿野亘・杉浦俊弘(2018):スギ人工林地内小 水路におけるニホンザリガニ生息個体数分 布と伐採が及ぼす影響.青森自然誌研究,23, 125 -131. 鏑木外岐雄(1932):ザリガニ棲息地天然記念物 調査報告書動物之部第二輯.史跡名勝天然記 念物保存協會編,東京,刀根書院,91-93. 川 井 唯 史 (1994):ザリガニ Cambaroides japonicusの産卵生態.釧路市立博物館紀要, 18, 49 -52. 川井唯史・三宅貞祥・浜野龍夫(1990):分布南 限のザリガニ Cambaroides japonicus (De Haan, 1841) の個体数密度と再生産に関す る研究.甲殻類の研究,19, 55-61. 川井唯史・浜野龍夫・松浦修平(1994):北海道 の 小 川 と 小 湖 に お け る ザ リ ガ ニ Cambaroides japonicusの脱皮時期と繁殖周 期.水産増殖,42, 465 - 470. 河田健登・肥田宗友・鳥潟幸男・川井唯史 (2019):大館市内のニホンザリガニの分布 に関する情報と博物学的知見.火内,14, 53-61. 籠屋留太郎(1978):尾去沢産ザリガニの保護に ついて.上津野, 4, 24 - 36. 工藤晴香・肥田宗友・鳥潟幸男・川井唯史 (2017):国指定天然記念物生息地のニホン ザリガニの大館市民における認知状況およ び分布南限生息地の現状と歴史. 1-9. 火内,14, Nakata K, Matsubara H, and Goshima S
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