• 検索結果がありません。

博士(工学)内貴 猛 学位論文題名

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "博士(工学)内貴 猛 学位論文題名"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

     博士(工学)内貴   猛 学位論文題名

血管内皮表面上におけるりポ蛋白の 流速依存性濃縮現象に関する実験的検討

学位論文内容の要旨

  本研究は,動脈硬化症の局在化機構に関して流体工学的観点より検討を行ったものである.

  動脈硬化症は,コレステロールに富んだ粥状斑点の形成およびその終局的な硬化により血管 壁の内膜の部分が異常に肥厚するという病変である.この血管病の発病並びに進展の第一の要因 として,血中コレステロールの濃度が挙げられているが,ヒトにおける動脈硬化症は,それだけ では説明できないようなもうーつの特徴を持っている,それは,そのほとんどが比較的大きな動 脈の分岐部や彎曲部など,流体力学的見地より見て血流の乱れやすい場所に局所的に発症・進展 するということである,このことから血流の関与が強く示唆され,今日まで,30年以上の長き に渡ってさまざまな角度から研究が行われてきた,その結果,この血管病の局在化に流れによっ て誘発されるせん断応力,特に低壁せん断応カが最も深く関与していることが判明した,しかし ながら,それが具体的にどのような役割を果たしているのかは未だ不明な点が多く,現在も,世 界中 の 研 究者 が そ の機 構 の 解明 を 目 指 して 研 究を続 けている といっ た状況で ある,

  著者が所属している研究分野でも早くからこの問題に関心を抱き,主に流体力学的観点から 理論的・実験的検討を行ってきた,本論文は,動脈硬化症の局在化機構として,コンピュー夕・

シミュレーションによる血中リポ蛋白の血管壁への物質移動の理論的解析の結果に基づいて当 研究分野の狩野および和田により提唱された仮説,すなわち「血管内皮表面上におけるりポ蛋白 の流速依存性濃縮現象」,に関して,その真偽を検証する目的で行った一連の実験的研究の成果 をまとめたものである.この仮説は,血管壁が血漿に対して半透性を有することによる一種の濾 過作用により,血管内皮表面上でりポ蛋白の濃縮が起こり,その濃度が血管壁における水透過速 度を変える血圧に比例し,流速,従って壁せん断速度,にほば逆比例して変化することから,血 管系の全体を通じて血管内皮表面上におけるりポ蛋白の濃度が流れの状態,特に壁せん断速度の 大小,に応じて局所的に異なった値になっており,そのためにコレステ口一ルの血管壁への取り 込 み も 局 所 的 に 異 な り 動 脈 硬 化 の 局 在 化 を 招 い て い る と い う も の で あ る ,   本研究の目的は,上述の仮説を実験的に検証することであるが,不透明な血管内の,しかも,

ごく壁近傍の流れの場で,動的な平衡状態において起こっているこの現象を,血管断面における りポ蛋白の濃度分布を直接測定して実証することは,現時点では全く不可能であり,したがって 間接的な方法に頼らざるを得ない.そこで本研究では,培養血管内皮細胞単層および半透膜チュ ーブを血管のモデルとして用い,その中に血漿蛋白またはそのモデルおよびトレーサとしての螢 光ポリスタイレン微粒子を含んだ培養液を生理的範囲内の流速および水透過速度で灌流し,管壁 における水透過速度がりポ蛋白の壁面濃度に応じて変化することを利用して,その水透過速度が

188

(2)

流速によっても変化するか 否かを調べたり,螢光の強 度を測定することにより壁面近傍における りポ 蛋白 のト レ ーサ とし ての螢光 ポリスタイレン微粒子の濃 度が流速および水透過速度に よっ て変化するか否かを調べる ことにより,この現象が生 理的条件下において実際に起こりうるか否 かを検討した.本論文は, 全体として6章より構成され ている.

  第 1章 で は , 本 研 究 を 行 う こ と の 必 要 性 , お よ び 研 究 の 目 的 に つ い て 述 べ た ,   第2章 では ,本 研究 を始 め るに 至っ た背 景 ,本 研究で実験 的に検証しようとした仮説「 血管 内皮表面上におけるりポ蛋 白の流速依存性濃縮現象」 ,およびそれを実験的に観察する際に必要 となる壁近傍の分子濃度を 測定する方法について述べ た.

  第3章 では ,血 管壁 のモ デ ルと して 多孔 質 フィ ル夕上に播 種培養したウシ大動脈由来内 皮細 胞単層を用い,これを平行 平板型流路の一部になるよ うに装着し,循環システムを用いてウシ胎 児血清 またはりポ蛋白を含んだ培 養液を37゜C,一定圧力,定 常流の条件下で流量を色々変 化さ せて灌流し,内皮細胞単層 表面におけるりポ蛋白の濃 度におよぼす流速(壁せん断速度)の影響 について検討を行った.そ の結果,灌流液中に巨大分 子が存在しない場合には流速を変化させて も水透過速度は全く変化し ないが,血清やりポ蛋白を 含んでいる灌流液を用いた場合には,灌流 速度の変化に応じて水透過 速度が可逆的に変化し,灌 流速度が小さいほど,そして灌流液中の血 清濃度,したがってりポ蛋 白の濃度,が大きいほど, 水透過速度が小さくなることがわかった.

また,分子サイズの大きい りポ蛋白の方が分子サイズ の小さいアルブミンよりも大きな変化を起 こすことがわかった.以上 の結果を水透過速度と細胞 単層表面上における巨大分子の濃度との関 係を用いて灌流速度と巨大 分子の表面濃度との関係に置き換えると,壁せん断速度が小さいほど,

そして,巨大分子のサイズ が大きいほど,内皮細胞単 層表面上における巨大分子の濃度が高くな っていることになり,生理 的条件下において,内皮細 胞単層上において確かにりポ蛋白の流速に 依存した濃縮現象が起こる ことがわかった.

  第4章 では ,透 析用 半透 膜 チュ ーブ を血 管 のモ デル とし て用 い て第3章 で行ったと同様 の灌 流実験を行った.その結果 ,内皮細胞単層を用いた場 合と同様に,灌流液中に血漿蛋白やりポ蛋 白が存在する場合にのみ, 流速の変化に応じて管壁に おける水透過速度,したがって巨大分子の 壁面濃度が可逆的に変化し ,半透膜表面上でも細胞単 層の場合と同様の流速に依存した巨大分子 の濃縮現象が起こることが わかった.また,分子サイ ズの影響に関しても直径の大きいりポ蛋白 の方がアルブミンよりもこ の現象に大きな影響をおよ ぼすことがわかった.以上の結果より,先 の内 皮細 胞単 層 を用 いた 流れの実 験で観察された流速に依存 した水透過速度の変化が内皮 細胞 の生理的機能によるもので はなく,単なる物理的現象 ,すなわち,流速に依存したりポ蛋白の濃 縮現象によるものであるこ とが明らかになった.

  第5章 では ,血 管壁 のモ デ ルと して 培養 血 管内 皮細胞単層 を,そして,リポ蛋白のモデ ル並 びにト レーサとしてりポ蛋白とほ ぼ同じ大きさの螢光ポリスタ イレン微粒子を用い,第3章 で行 ったと同様の灌流実験を行 い,細胞単層およびその近 傍の灌流液におけるりポ蛋白の濃度変化を 螢光頭微鏡と光度測定装置 により直接測定した.その 結果,細胞単層近傍における螢光微粒子の 濃度が流速および灌流圧に 依存して変化し,流速が小 さいほど,そして灌流圧が大きいほど大き くなることがわかった,ま た,細胞単層近傍における 螢光微粒子の濃度にほぼ比例して内皮細胞 単層に取り込まれる微粒子 の量も増大することがわか った.本研究で用いた螢光微粒子は,低密 度リポ蛋白と同程度の大き さであり,低密度リポ蛋白と同様の挙動を示すと考えられることから,

生体血管内においても,ほ ぽ間違いなく,血管内皮表 面上で本研究で観察されたと同様の低密度 リポ蛋白の流速に依存した 濃縮現象が起こっており, 低密度リポ蛋白の濃度が血管内の流れの状     ―189―

(3)

態に応じて局所 的に異なっているものと推測された.

  第6章では,本研究の結論および将来への展望を述べた

190

(4)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

血管内皮表面上におけるりポ蛋白の 流速依存性濃縮現象に関する実験的検討

  動 脈硬 化 症は、コレス テ口ールに富んだ粥状斑点 の形成およびその終局的な硬 化により血管 壁の内膜の部分が異 常に肥厚するという病変であ り、そのほとんどが比較的大きな動脈の分岐部 や彎曲部など、流体 力学的見地より見て血流の乱 れやすい場所に局所的に発症・進展するという 特徴を持っている。 本論文は、その局在化機構と して、コンピュー夕・シミュレーションによる 血中 リポ 蛋 白の血管壁へ の物質移動の理論的解析の 結果に基づいて狩野および和 田により提唱 された仮説、すなわ ち「血管内皮表面上における りポ蛋白の流速依存性濃縮現象」、に関して、

その真偽を検討する 目的で行った一連の実験的研 究の成果をまとめたものである。この仮説は、

血管 壁が 血 漿に対して半 透性を有することによる一 種の濾過作用により血管内皮 表面上でりポ 蛋白の濃縮が起こり 、その濃度が血管壁における 水透過速度を変える血圧に比例し、流速、従っ て壁せん断速度、に ほぼ逆比例して変化すること から、血管系の全体を通じて血管内皮表面上に おけるりポ蛋白の濃 度が流れの状態、特に壁せん 断速度の大小、に応じて局所的に異なった値に なっており、そのた めにコレステ口ールの血管壁 への取り込みも局所的に異なり動脈硬化の局在 化を招いているとい うものであるが、不透明な血 管内の、しかも、ごく壁近傍の流れの場で、動 的な平衡状態におい て起こっているこの現象を、 血管断面におけるりポ蛋白の濃度分布を直接測 定して実証すること は、現時点では全く不可能で ある。そこで本研究では、まず、間接的な方法 として、管壁におけ る水透過速度がりポ蛋白の壁 面濃度に応じて変化することを利用して流れの 影響を調べることを 考え、血管壁のモデルとして 多孔質フィル夕上に播種培養したウシ大動脈由 来内皮細胞単層を用 い、これを平行平板型流路の 一部になるように装着し、循環システムを用い てウシ胎児血清また はりポ蛋白を含んだ培養液を37°C、一定圧力、定常流の条件下で流量を色々     ー191−

猛 夫

之 一

   

   

楯 克

野 澤

本 原

狩 下

山 河

授 授

授 授

教 教

教 教

査 査

査 査

主 副

副 副

(5)

変化させて灌流し、内皮細 胞単層表面におけるりポ蛋白 の濃度におよぼす流速(壁せん断速度)

の影響について検討を行っ た。その結果、灌流液中に巨 大分子が存在しない場合には流速を変化 させても水透過速度は全く 変化しないが、血清やりポ蛋白を含んでいる灌流液を用いた場合には、

灌流速度の変化に応じて水 透過速度が可逆的に変化し、 灌流速度が小さいほど、そして灌流液中 の血清濃度、したがってり ポ蛋白の濃度、が大きいほど 、水透過速度が小さくなることを見いだ した。また、分子サイズの 大きいりポ蛋白の方が分子サ イズの小さいアルブミンよりも大きな変 化を起こすことがわかった 。以上の結果を水透過速度と 細胞単層表面上における巨大分子の濃度 との関係を用いて灌流速度 と巨大分子の表面濃度との関 係に置き換えると、壁せん断速度が小さ いほど、そして、巨大分子 のサイズが大きいほど、濃度 が高くなっていることになり、理論的検 討の 結果 示唆 され た りポ 蛋白 の流速に依存した濃 縮現象が生理的条件下で培 養血管内皮細胞単 層上において起こることを 実験的に確認した。

  次 に、 透析 用半 透 膜チ ュー ブを血管のモデルと して用いて先に行ったと同 様の灌流実験を行 った。その結果、内皮細胞 単層を用いた場合とほとんど 同様の現象が起こることを認め、先の内 皮細 胞単 層を 用い た 実験 で観 察されたりポ蛋白の 流速に依存した濃度変化が 内皮細胞の生理的 機能によるものではなく、 単なる物理的現象、すなわち 、流速に依存したルポ蛋白の濃縮現象に よるものであることを明ら かにした。

  最 後に 、よ り直 接 的な 方法 として培養血管内皮 細胞単層およびりポ蛋白と ほぼ同じ大きさで あり、したがって低密度リ ポ蛋白と同様の挙動を示すと 考えられる螢光ポリスチレン微粒子を用 いて灌流実験を行い、細胞 単層およびその近傍の灌流液 におけるりポ蛋白の濃度変化を螢光頭微 測光 装置 によ り直 接 測定 した 場合にも細胞単層近 傍において螢光微粒子の流 速および灌流圧に 依存 した 濃縮 現象 が 起こ るこ とを確認するととも に内皮細胞単層に取り込ま れる微粒子の量が 細 胞 単 層 近 傍 に お け る 螢 光 微 粒 子 の 濃 度 に ほ ぼ 比 例 し て 増 大 す る こ と を 明 ら か に し た 。   こ れを 要す るに 、 本論 文は 、動脈硬化症の局在 化機構として提唱されてい る理論的仮説、す なわち「血管内皮表面上に おけるりポ蛋白の流速依存性 濃縮現象」が生理的条件下で起こること を確証づける多くの新知見 を得たものであり、生理工学 および血管病理学に対して貢献するとこ ろ大なるものがある。よっ て著者は、北海道大学博士( 工学)の学位を授与される資格があるも のと認める。

‑ 192

参照

関連したドキュメント

[r]

[r]

[r]

modeling tool has been developed that comprises simple eddy viscosity concept without any

   第 3 章では,都市下水を用い た長期連続実験を通じて,凝集沈殿を前処理としたハイ ブリッドMBR の処 理性 及び 運転 性に 関 して

[r]

[r]

[r]