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博 士 ( 工 学 ) 糸 永 貴 範 学 位 論 文 題 名

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Academic year: 2021

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博 士 ( 工 学 ) 糸 永 貴 範

学 位 論 文 題 名

凝集 沈 澱を 前処 理と した ノ ヽイブリッド 浸漬型 メンブレンノヾイオリアクター

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  生物反応槽に直接膜を浸漬させ,単一槽で生物処理と固液分離を同時に行う浸漬型メンブレンバイオ リアクター(Membranebioreactor,MBR)の下水処理への適用が注目を集めている。活性汚泥法に代表 される 従来の生 物学的排水処理と比較して,MBRの利点は@生物反応槽内の微生物濃度を増加させる ことが可能となり,生物処理の効率が向上すること,◎汚泥の沈降性に左右されない完全な固液分離が 可能であること,◎細菌を含まなぃ処理水が得られること(UF膜使用時はウィルス除去も可能)等が挙 げられ る。しか し,膜ファウリングの進行に伴う膜透過性能の低下がMBR普及を妨げる主な原因とな ってい る。MBRの膜ファウリングはバイオマスを含む混合液と膜聞との物理化学的な相互作用によっ て引き起こされるため,どのような混合液を形成するかが重要である。

  一 方 , 都市 下 水 中に 存 在 する 有 機 物の う ち , 粒径O.1皿m以 上の 割 合 はCOD及びTOCべ ースで 60‐80%を占める。これらの有機物は,粒径0.1皿m未満の有機物と比較して生物学的酸化速度が非常に 小さく,また凝集沈殿処理の除去対象物質である。従って,生物処理の前処理として凝集沈殿処理を導 入することは,生物学的排水処理単独のケースと比較して,量及び質的に有利な有機物が生物反応槽で 処理されるため,水処理プロセスとして効率が高められる。

  このような背景から,本論文では従来の下水処理システムよりもはるかに高度で効率的なシステムと なりうる凝集沈殿を前処理としたハイブリッド浸漬型MBR(以下ハイブリッドMBR)を提案する。ハイ ブリッ ドMBRで は,凝 集沈殿に よる前 処理によ り大半 の有機物 を高速に 除去し た結果, 後段のMBR では量及び質的に生物分解しやすい有機物が処理されるため,従来法と比較して処理時間の短縮と処理 水質の 改善が図 られる と考えら れる。 同時に, ハイブ リッドMBRではMBRへの 有機物負 荷を低減さ せるこ とにより ,MBRの問題点であった膜ファウリングの抑制を試みた。本論文ではパイロットスケ ール装 置を用い た長期連続実験を実行することにより,ハイブリッドMBRの処理性及び運転性につい て検討を行った。

  本 論 文 は 第 1章 か ら 第 6章 で 構 成 さ れ , 各 章 の 内 容 は 以 下 の 通 り で あ る 。   第1章では,従来の都市水代謝システムの問題点を指摘し,新しい下水処理システムの必要性を説い た。ま た,新し い下水処理システムの核となるMBRの問題点である膜ファウリングについて指摘した 上で,膜ファウリングの改善と処理水質の向上を両立させうる凝集沈殿を前処理としたハイブリッド MBRを提案した。

  第2章では,凝集剤として鉄系無機高分子凝集剤(PolySihcatoIron,PSI冫を用いた噴流攪拌固液分離 装置(JetM瓜dSeparator JMS)による都市下水の凝集沈殿処理について検討を行った。また,PSIと ポリ塩化アルミニウムくP01yaluminumchloride,I}AC)を用いた際に観察されたJMSの処理性について

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比較 を行 った。最初沈殿池流出水を対象としたジャーテス トの結果より,PSI注入量lOmg‑Fe/L以上 で濁度の除去率が平衡に達した。最大の 濁度除去を与えるpHは,5.5以下であったが,連続実験にお ける 凝集 剤注入条件は,後段の生物処理を考慮してpH無調 整,PSI注入量lOmg‑FefLとした。上述し た条件下にてJMSを用いた連続実験により,都市下水の凝集沈殿処理 では最初沈殿池流出水の質的変 動が 緩和 され ,濁 度80% ,TOC50%,全リン77%及び全窒 素25%の除去率が得られた。PSI,PACで は, 凝集 沈殿 にPAC使用 時の 処理 性が 若干 優れ てい た が, 汚泥の再利用を視野に入れ てMBRの前処 理の凝集沈殿処理に用いる凝集剤にはPSIを採用した。

  第3章では,都市下水を用い た長期連続実験を通じて,凝集沈殿を前処理としたハイ ブリッドMBR の処 理性 及び 運転 性に 関 してMBR単独の処理と比較するこ とによって検討を行った。ハイブリッド MBRで は,MBR単独による処理と比較して,極めて低い有機 物及びりン濃度の処理水が得られた。ま た,PSI,PAC使用 時に お ける ハイ ブリッドMBRの処理水質 はほば同程度であった。本研究で観察さ れた膜ファウリングは,高い混合液粘度によって膜表面に肥厚なケーキ層が形成される可逆的膜ファウ リングと溶解性有機物が原因であり薬液 洗浄でなければ解消されない不可逆的膜ファウリングとに分 類された。ハイブリッドMBRでは,◎低い生物分解性の高分子有機物 が凝集沈殿によって除去された ことにより,不可逆的膜ファウリングの進行が抑制されること,◎混合液粘度が低く維持されるため可 逆的膜ファウリングを回避することが可 能であった。MBR単独による 処理では混合液粘度の上昇より 高いMLSS濃度 の運 転を 行 うこ とが 出来 ず,MLSS濃度lOg几 が上 限値 とし て示 唆さ れた 。ー方,ハ イブ リッ ドMBRでは 高いMLSS濃度 においても安定した運転 の継続が可能であった。また,混合液粘 度はMLSS濃度とフロックの粒径によって 支配されていた。

  し かし なが ら, ハイ ブ リッ ドMBRで は, 凝集 剤添 加 に起 因するアルカリ度の消費に 伴って,MBR 部における硝化反応が不安定であったこと及び脱窒素処理を念頭に置いていなかったため,システム全 体での全窒素除去率が40%に留まったこ と等の問題点が提示された。

  第4章では,溶解性有機成分(Diss01vedorganicmatter DOM)及び細胞外高分子物質(Extraceuular polymericsubstances,EPs)の膜フんウリングに及ばす影響について検討を行った。また,連続実験で 観察された膜ファウリングのメカニズムを評価するため回分ろ過試験を行った。溶解性有機炭素では膜 ファウリングとの関連が確認されたが, 糖・タンパク質で定量されるDOMでは膜フんウリングとの関 連が確認されなかった。また,連続実験中に観察された急激な膜透過性能の低下は,回分ろ過試験の結 果,コロイド成分(1皿m前後)が原因であった。このコロイド成分の発現は,汚泥中にEPSとして保持 されていた糖・タンパク質がバルク中に放出されたことに由来すると示唆され,可逆・不可逆どちらの 膜ファウリングにも属さず,混合液の固 液分離性を著しく低下させた。

  第5章では ,循環型に比して省スペース・省エネルギーで脱窒素を行い,さらに高い稼働率で膜ろ過 を行 うこ とのでき.るMBRとし て,膜分離槽内に仕切り板を挿入した新規硝化脱窒同時 反応型MBRを 提案した。実都市下水を原水としたパイ ロットスケール実験を通じ,新規MBRの処理性及び運転性に ついて検討した。槽内に仕切り板を挿入 した新規MBRでは,単一槽内 で部分的及び断続的に無酸素状 態を形成することによって硝化・脱窒反応を同時に進行させることが可能であった。仕切り板を設置す るこ とに より全窒素の除去率は約30%向上し,前凝集沈殿 を含んだシステム全体でのT.N除去率は 66.2%となった。またTOCについては91.5%,全リンは汚泥の引抜を行った結果,97.2%の除去率が 得られた。新規MBRでは,脱窒反応に伴って発生するアルカリ度によ り硝化反応を安定させることが 可能となり,第3章で問題となっていた窒素処理性が改善された。

  第6章では ,本論文の総括を行い,また今後の課題を指摘した。

  本論文では,生物処理を主体とした従来の下水処理システムにかわる凝集沈殿を前処理としたハイブ リッ ド浸 漬型MBRを提案した。 都市下水の凝集沈殿に用いる凝集剤にはPSIが適していた。ハイブリ     −1222―

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ッ ドMBRでは,従来の処理方式と比較して極めて低い有機物及びりンの濃度の処理水が得られた。ま た ,ハイ ブリッドMBRに窒 素除去 プロセス を組み 込むこと によっ て,全窒素濃度lOmg[L以下の処理 水が得られた。連続実験で観察された膜透過性能の低下は,混合液粘度が原因である可逆的膜ファウリ ングと溶解性有機物が原因である不可逆的膜ファウリングとそのどちらにも属さないコロイド成分が 原 因であ る三っに 分類され た。ハ イブリッ ドMBRでは,MBRへの 有機物負 荷を低減 させる ことによ り ,MBR単独と比 較して膜 ファウ リングの 進行が 抑制され た。こ れらの結 果よルハ イブリ ッドMBR は 従 来 の 下 水 処 理 シ ス テ ム よ り も は る か に 高 度 で 効 率 的 な 下 水 処 理 シ ス テ ム で あ っ た 。

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学位論 文審査の要旨 主 査    教 授    渡 辺 義 公 副 査    教 授    高 桑 哲 男 副 査    教 授    眞 柄 泰 基 副査    助教授    岡部   聡

学 位 論 文 題 名

凝集 沈澱を前 処理と したハイ ブリッド浸漬型 メン ブレンバイオリアクター

  生物反応槽に直接分離膜を浸漬させ,単一槽で生物処理と固液分離を同時に行う浸漬型メンブレ ンバイオリアクター(Membrane bioreactor, MBR)の都市下水処理への適用が注目を集めている。

活性汚泥法に代表される従来の生物学的都市下水処理法と比較して,MBRの利点はぐD生物反応槽 内の微生物濃度を増加させることが可能となり生物処理の効率が向上すること,◎汚泥の沈降性に 左右されない完全な固液分離が可能であること,◎細菌を含まなぃ清澄な処理水が得られること (UF膜使用時はウィルス除去も可能)等が挙げられる。しかし,膜ファウリングの進行に伴う膜透 過性能の低下がMBR普及を妨げる主な原因となっている。

  著者は都市下水中に存在する有機物のうち,粒径O.lロm程度以上の粒子に起因するCOD及び TOCは60‑80%を占めること、これらの有機物は生物学的酸化速度が非常に小さい点に着目し、

MBRの前処 理として 凝集沈殿処理の導入したハイブリッド浸漬型MBRシステムを提案した。ハ イブリッド浸漬型MBR(以下ハイブリッドMBR)では,凝集沈殿による前処理によルコロイドより 大きな有機物を高速に除去できるので,後段のMBRヘ流入する有機物の生物学的酸化速度の増加 と有機物負荷の低減化が可能である。これによって、通常のMBRよりも短い滞留時間で高度の処 理水が得られ、膜ファウリングも低減化される。本論文ではパイロットスケールの実験装置を用い た長期連続実験によって,ハイブリッドMBRの処理性及ぴ運転性にっいての上記の優れた特性を 検 証 す る と 共 に 、MBRに お け る 膜 フ ァ ウ リ ン グ の 機 構 と そ の 軽 減 化 を 検 討 し た 。   本論文は6章で構成される。各章の内容は以下の通りである。

  第1章では,従来の都市水代謝システムの問題点を指摘し,新しい下水処理システムの必要性を 説いた。また,新しい下水処理システムの核となるMBRの問題点である膜ファウリングについて の既往の研究を紹介した上で,膜ファウリングの改善と処理水質の向上を両立させうる凝集沈殿を 前処理としたハイブリッドMBRを提案した。

  第2章では,凝集剤として鉄系無機高分子凝集剤(Poly Silicato Iron,PsDを用いた噴流攪拌固液 分離装置(Jet Mixed Separator JMS)による都市下水の凝集沈殿処理について検討を行った。下水 処理場の最初沈殿池流出水を原水としたジャーテストの結果より,PSI注入量lOmg‑Fe/L以上で

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濁度の除去率が平衡に達した。最大の濁度除去を与えるpHは,5.5以下であったが,連続実験に おける凝集剤注入条件は,後段の生物処理を考慮してpH無調整,PSI注入量lOmg‑Fe/Lとした。

上述 した条件 下におけ るJMSを用い た連続実 験により ,凝集沈殿 処理によ って、濁度80%,

TOC50% , 全 リ ン 77% 及 び 全 窒 素 25% の 除 去 率 が 得 ら れ る こ と を 示 し た 。   第3章では,都市下水を原水とした長期連続実験により,ハイブリジドMBRの処理性及び運転 性 に 関し てMBR単独 の 場合 と 比 較検 討 した 。 ハイブリ ッドMBRでは ,MBR単独の 場合と比 較 して,極めて低い有機物及びりン濃度の処理水が得られた。また、膜ファウリング機構にっいては,

高い混合液粘度によって膜表面に肥厚なケーキ層が形成される可逆的膜フんウリングと溶解性有 機物が原因であり薬液洗浄でなければ解消されない不可逆的膜ファウリングに分けて検討した。そ の結果、ハイブリッドMBRでは,@生物学的分解性の低い高分子有機物が凝集沈殿によって除去 されたことにより,不可逆的膜ファウリングの進行が抑制されること,◎混合液粘度が低く維持さ れるため可逆的膜ファウリングを低減化できること、を明らかにした。MBR単独の場合は、混合 液粘 度の上昇 により高 いMLSS濃度の 運転を行 うことが 出来ず,MLSS濃 度lOg/Lが上限値とし て示 唆された 。一方,ハイブリッドMBRでは高いMLSS濃度においても安定した運転の継続が可 能であった。また,混合液粘度はMLSS濃度と活性汚泥フロックの粒径によって支配された。ハ イブ リッドMBRで は,凝集剤添加に起因するアルカリ度の消費に伴うpHの低下による硝化効率 の減少が生じたり、前段で有機物の大半を除去することによる低脱窒素効率が問題となる場合があ る 。 そ れ を 解 消 す る に は 、 凝 集 沈 殿 処 理 過 程 の 最適 化 が 課題 で ある こ と も指 摘 し た。

  第4章で は , 溶解 性 有機 成 分(Dissolved organic matter,DOM)及 び 細胞外 高分子物 質 (Extracellular polymeric substances,EPS)の膜ファウリングに及ぼす影響について検討した。そ のために、連続実験で観察された膜ファウリングを評価するための回分膜ろ過試験を行い、溶解性 有機炭素と膜ファウリングとの関連を明らかにした。また,ハイブリッドMRBでも膜透過性能の 低下が観察されたが、これは過度の凝集沈殿処理による極端な有機物負荷の低下によって細菌が粗 コロイド寸法に破壊されたと推論した。この場合は、可逆・不可逆どちらの膜ファウリングにも属 さず.膜近傍に粗コロイドの濃度分極が形成されるためと考えた。このことからも、凝集沈殿処理 過程の最適化の重要性を指摘した。

  第5章では,省スペース・省エネルギーで脱窒素を行いながら高い膜透過性を維持できるハイブ リッ ドMBRとして ,膜分離 槽内に仕 切り板を 挿入した新規硝化脱窒同時反応型MBRを提案し、

都市下水を原水としたパイロットプラント実験によって,新規ハイブリッドMBRの処理性及び運 転性を検討した。槽内に仕切り板を挿入した新規ハイブリッドMBRでは,単一槽内に部分的及び 問歇的に無酸素ゾーンを形成することによって硝化・脱窒反応を同時に進行させることが可能であ った。仕切り板を設置することにより全窒素の除去率は約30%向上し,前凝集沈殿を含んだシス テム 全体でのT‑N除去率は 約70%とな った。ま たTOC除去率は90%以上,全リン除去率も汚泥 の引抜を行った結果,95%以上であった。新規ハイブリッドMBRでは,脱窒反応に伴って発生す るアルカリ度により硝化反応を安定させることが可能とたり,第3章で指摘した問題は改善された。

  第6章では,本論文の総括を行い,また今後のハイブリッドMBRに関わる研究課題を示した。

これを要するに、著者は循環型社会の構築に必要な高度な都市下水処理を可能にする新しいハイブ   リッド浸漬型MBRを提案し、その有効性をパイロットプラント実験によって実証すると共に、

MBRの膜ファウリング機構にっいても新たな知見を得たことにより、都市水代謝工学と下水処理 工学の発展に貢献すること大である。よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される 資格あるものと認める。

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参照

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