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博 士 ( 工 学 ) 細 井 浩 貴 学 位 論 文 題 名

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博 士 ( 工 学 ) 細 井 浩 貴

学 位 論 文 題 名

走 査 型 ト ン ネ ル 顕 微 鏡 に よ るカ リウ ムを ド ー プ し た フ ラー レン 薄膜 に 関す る研 究

学 位 論 文 内 容の 要旨

  フラー レンC60はサッ カーボー ル型と いう特異な立体構造を持つ「炭素の新しい同素体」であ り、1985年にKrotoとSmallyによって発見された。5年後には、Iくratschmerらが黒鉛電極間のアー ク放電 を用い ること でC60の大 量合成 法を確 立した 。また 、1991年に はカリ ウムを ドープ した C60が臨 界温度18Kで超伝 導性を 示すこと が報告され、C60の研究は一気に加速した。C60は7匸電 子が分 子全体 に広が った電 子状態 を持っ クラスタ であり 、その 対称性から電子準位が縮退して いる。 この縮 退した 電子準 位によ り、カ リウムを はじめ とする アルカりおよびアルカリ士類金 属をド ープし たC60結晶 は、他 の導電 性有機 分子結晶と比較して大きな導電率を有する。また、

従来の 導電性 有機分 子固体 は導電 率に異 方性のある場合が多いが、高い対称性をもつC60分子に より構 成され た結晶 は等方 的な導 電性を 示すため 、新し い有機 導電性材料として注目されてい る。なかでも、カリウムをドープしたKエC60結晶は、ドープ量に応じて結晶構造が面心立方(fcc)一 体心正方(bct)一体心立方(bcc)構造と変化するとともに、半導体―金属(超伝導体)―半導体―絶縁 体と相 転移す ること から、 クリス タルエ ンジニア リング 、バン ドエンジニアリングの観点から も非常 に興味 深い。 なかで も、比 較的臨 界温度の高い超伝導体であるK3C60は、明確な超伝導の 発現機 構が提 唱され ておら ず、数 多くの 研究が行われている。しかしながら、K3C60も含む有機 導電体 として のKエC60の 基礎デ ータは 多くはない。また、KxC60の持っ機能を積極的に応用して デバイ スを構 築する 際には 、薄膜 化したC60,KエC60表面・界面の構造および電子状態の評価が 必要不可欠である。

  走査型 トンネ ル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscpe:STM)は1982年にBinnig,Rohrerらによ り開発 された 表面観 察装置 である 。STMは探 針・試 料間に 流れる トンネル 電流を プロー ブとし て いる た め 試 料表 面 の 構造およ び電子 状態を 原子分 解能で 観察す ること が可能 である。 この STMを用 いて、Au,Si基板 上に数 原子層 成長したC60の分 子像が ぃくっかの研究グループにより 観察さ れてお り、C60と基板問の格子不整合やC60分子から基板への電荷移動に関する報告がなさ れてい る。し かしな がら、 基板の 影響が ほとんどないと考えられるほど十分な厚さを持つC60薄 膜およびC60その薄膜にカリウムをドープしたKエC60薄膜に関する観察例はほとんどない。また、

光電子 分光で 得られ るフェ ルミ準 位近傍 における 状態密 度が理 論計算による結果と一致してい な いこ と が 知 られ て い るが、STMを用い たトン ネル分光(Scanning Tunneling Spectroscopy:

STS)測 定 に よ り 、KーC60薄 膜 の 電 子 状 態 に 関 す る 知 見 を 得 る こ と が 可 能 で あ ろ う 。   本研究 では、 超高真 空中で 作製し たC60およ びKエC60薄膜表面 のSTM観察を行うことにより表 面構造 の評価 を行っ た。STMで 観察さ れた分 子像か ら、Au基 板上成 膜したC60薄膜はfcc構造の

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(311)面を 有することがわかった。この結果は、X線回折を用いた測定結果とも一致する。また、

この薄膜にカリウムをドープすると、x=3ではfcc構造の(311)面、x‑4はbct構造の(112)面となる こ とがSTMお よ びX線 回折(X‑RayDiffraction:XRD)に よ り 測 定さ れ た 。 また 、STMを 用い て KエC60薄膜のトンネル分光を行った結果、カリウムドープ量の変化に応じて、半導体(x ̄0)ー金属

(x 3)―半導体(舮4)的に振る舞うことを示した。

  本論文は以下の構成でその詳細を論述している。

  第1章では本論文の背景と目的、概要を述べている。

  第2章 ではC60分 子およ び結晶 の構造 と電子状態について述べている。また、C60結晶にカリウ ムをド ープし たKxC60で は、xが 連続的 に変化するのではなく、x=3,4,6の相しか存在しないこ とおよびその構造と電子状態にっいて述べている。

  第3章 で は 、STMの動 作原理 につい て述ぺ 、STMを用 いたト ンネル 分光であ るSTSに っいて も 簡単に述べている。

  第4章 では本 研究で使 用した 実験系 につい て述べ ている 。KxC60薄膜は酸素の影響により導電 率が著しく低下することが知られている。本研究では、C60薄膜へのカリウムドープ量をKエC60薄 膜の抵 抗率変 化から 決定し ている ため、 薄膜作 製、ドー プおよ び抵抗 率測定 、STM観察を大気 に曝す ことな く超高 真空中 にて行 う必要 がある 。これら を実現可能とするために作製した真空 系にっいても詳細を述べている。

  第5章 では第4章で述 べた実験 系を用 いた抵抗率測定の結果にっいて述べている。C60薄膜をカ リウム 蒸気に 曝すと 、薄膜 の抵抗 率はド ープ直 後から急 激に減少し、最小値をとり、その後、

飽和することが知られている。抵抗率の変化はこの時、KxC60の組成は最小値でx−―3、飽和する 点でx=6なる。 本研究で は、こ の抵抗 率変化と組成の関係を用いてカリウムのドープ量を決定し ている 。また 、x=3から6の中間 点で抵 抗率変 化が小 さくな る領域 は、XPSの 測定結 果で報告さ れてい るよう にKエC60の組成がx=4であ る。抵 抗率のカ リウム 暴露時 間依存 性の測 定において K4C60の組成を示唆するような抵抗率変化が測定されている例はない。

  第6章 では、 第5章で 述べた抵 抗率測 定により組成を決定したKエC60 (x=0,3,4)薄膜表面の STM観察 の結果 について 述べて いる。 カリウ ムをド ープし たKxC60薄膜 のSTM観 察の報告例はい く っか 存 在 す るが 、ドー プ量を 制御し た試料 を用い てSTM観察 を行っ た例は ない。STMで観察 された 分子配 列をも とに結 晶学的 な構造を検討した結果、Au基板上に成膜したC60はfcc(311)面 を有することが明らかになった。また、K3C60の場合にはfcc(311)面、K4C60ではbct(112)であるこ とがわ かった 。STMを用 いたI‑V特性の 測定結果 におい て、x=0では約1.5eV、x=4では約0.7eV のバン ドギャ ップが存在しており、構造の変化に伴って、電子状態も半導体的(x 0)―金属的

(x 3)―半導体的(x 4)に変化していることを示唆している。

  第7章 では、KxC60薄膜のSTM観察か ら得ら れた結 晶構造 および 配向の 方位を 確認するために 行 ったXRD測 定 の結 果 に つ いて 述 べ て いる 。XRD測 定か ら はSTM観 察の結果 を支持 するX線 回 折パターンを得た。

  第8章では本論文の成果を総括する。

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学位論文審査の要旨 主査    教授    武笠幸一 副査    教授    池田正幸 副査   教授   岡田亜紀良 副査   助教授   末岡和久

学 位 論 文 題 名

走査型トンネル顕微鏡によるカリウムを ドープしたフラーレン薄膜に関する研究

  フラ ーレンC60はサッ カーボ ール型 とぃう 特異な立体構造を持つ「炭素の新しい同素体」であ り、1985年にKrotoとSmallyによって発見された。C60は″電子が分子全体に広がった電子状態を 持つ クラス タであ り、その対称性から電子準位が縮退している。この縮退した電子準位により、

カリ ウムを はじめ とする アルカ りおよび アルカリ土類金属をドープしたC60結晶は、他の導電性 有機 分子結 晶と比 較して大きな導電率を有する。カリウムをドープしたKーC60結晶は、ドープ量 に応じて結晶構造が面心立方(fcc)ー体心正方(bct)一体心立方(bcc)構造と変化するとともに、半導 体―金属(超伝導体)一半導体―絶縁体と相転移することから、クリスタルエンジニアリング、バ ンド エンジ ニアリ ングの 観点か らも非常 に興味深い。しかしながら、K3C60を含む有機導電体と してのKエC60の基礎データは多くはない。また、KエC60の持つ機能を積極的に応用してデバイスを 構築する際には、薄膜化したC60,KエC60の表面・界面の構造および電子状態の評価が必要不可欠 である。

  物質 表面の 構造お よび電 子状態 を原子 分解能 で観察す ること が可能である走査型トンネル顕 微鏡(Scanning Tunneling Microscpe:STM)を用いて、Au,Si基板上に数原子層成長したC60の分子像 がい くっか の研究 グループにより観察されており、C60と基板問の格子不整合やC60分子から基板 への 電荷移 動に関 する報告がなされている。しかしながら、基板の影響がほとんどないと考えら れるほどの十分な厚さを持つC60薄膜および薄膜にカリウムをドープしたK〜C60薄膜に関する観察 例は ほとん どない 。また、光電子分光で得られるフェルミ準位近傍における状態密度が理論計算 によ る結果 と一致 してい ないこ とが知ら れているが、STMを用いたトンネル分光(Scanning Tunn eling Spectroscopy:STS)測定により、KーC60薄膜の電子状態に関する知見を得ることが可能である。

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  本論文 では超高 真空中 で作製 したC60お よびK、C60薄膜 表面のSTM観察ならびに抵抗率測定に よ る表面 構造の評価ならびに電子状態の評価を行った結果について述ぺている。論文の要旨は以 下の通りである。

    1. STMで観 察され た分子 像から 、Au基板上に成膜したC60薄膜はfcc構造の(31l)面を有す     る こ と が わ か っ た 。 こ の 結 果 は 、X線 回 折 を 用 い た 測 定 結 果 と も 一 致 す る 。     2. C60薄膜にカリウムをドープすると、x=3ではfcc構造の(311)面、x=4はbct構造の(112)面     とな る こ と がSTMお よ びX線 回 折に よ り 測 定さ れ た 。 カリ ウ ムを ドープ したKエC60薄膜     のSTM観 察 の 報 告 例 は い く っ か 存在 す る が 、ド ー プ 量 を制 御 し た 試料 を 用 い てSTM観     察を行った例はない。

    3.KエC60薄 膜は酸素 の影響 により 導電率 が著し く低下 することが知られているため、本研     究 では 、 薄 膜 作製 、 ド ー プお よ び 抵 抗率 測 定 、STM観 察 を 大 気に 曝 す こ とな く 超 高 真     空中に て行っ た。抵 抗率の変 化は、K〜C60 (x=3) の組成 におい て最小 値をと り、飽和す     る点 でx=6と なる 。 ま た 、x=3か ら6の 中 間 点で 抵 抗 率 変化 が 小さ くなる 領域は 、XPSの     測定結 果で報 告され ているよ うにKエC60の組 成がx=4で ある。 抵抗率 のカリ ウム暴露時間     依存 性 の 測 定に お い てK4C60の 組 成を 示唆 するよ うな抵 抗率変化 が測定 されて いる例 は     他 にな い 。STMを用 い てKエC60薄 膜の ト ン ネ ル分 光 を 行 った 結 果 、 カリ ウ ム ド ープ 量     の変 化 に 応 じて 、x=0で は約1.5 eV、x=4では 約0.7 eVのバ ン ドギャ ップが 存在し てお     り、構造が変化し、半導体(x ̄0)ー金属(x 3)ー半導体(x 4)的に振る舞っていることが     分かった。

  本論文 はカリウムをドープしたフラーレン薄膜について、表面・界面の構造および電子状態を 評 価した もので、有益な多くの知見を得ており、電子材料物性工学ならびに表面科学分野に貢献 す るとこ ろ大きなものがある。よって著者は北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あ るものと認める。

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