博士(工学)内田 学位論文題名
極地氷床中に存在する空気包接水和物結晶の 分布と生成過程に関する研究
学位論文内容の要旨
努
極 寒のた め表面 積雪層 が融解 しな い南極 やグリ ーンラ ンド 氷床で は,空気は堆積した雪にその まま 捕捉さ れる 。すな わち, 氷床中 には 過去の 大気が 連続的 に貯蔵 され ていることになる。この 特質 を活か して 過去の 大気変 動や環 境変 動の歴 史を探 るため ,南極 やグ リーンランドで氷床氷を 掘 削 採 取し , そ の 氷 コア 試料に 含まれ る過去 の大 気の分 析研究 を行う ことが 近年 非常に 盛んに なっ てきて いる 。特に 過去約20万年にわたる炭酸ガス濃度と気温との関係が見いだされたことは,
氷 床 氷 コ ア 研 究 の み な ら ず , 地 球 環 境 研 究 の エ ポ ッ ク メ イ キ ン グ な 発 見 で あ っ た 。 深 層掘削 氷コア を観察 すると ,気 泡はグ リーン ラドダ イス リー氷 コアで 約1600m南極 ボスト ー ク氷 コアで 約1250mの深 さで完 全に 消滅し ている 。氷床 深部で は高 い静水 圧のた め,気 泡が 高圧
・低 温で安 定な 空気包 接水和 物結晶 に変 化して いるか らであ る。す なわ ち氷床深部では,過去の 大気 は気泡 では なく空 気包接 水和物 結晶 として 保存さ れてい るので ある 。このため過去の大気状 態を 正確に 再現 するに は,空 気包接 水和 物結晶 の物理 的,化 学的研 究が ぜひ必要であった。しか しな がら, こう した研 究は現 在まで ほと んど行 われて こなか った。
そ こで本 研究で は,氷 床氷中 に存 在する 空気包 接水和 物結 晶の分 布を測定し,その特徴を明ら かに するこ と, さらに 結晶自 身の氷 床氷 中での 生成過 程を, 実験も 含め て明らかにすることを目 的と した。 結晶 分布測 定の結 果から ,南 極ボス トーク 基地で 掘削さ れた 約2500mの氷コ ア中 の空 気包 接水和 物結 晶の数 密度や 平均体 積は 気候変 動とと もに変 化して いる 事が明らかになった。ま た空 気包接 水和 物結晶 は氷床 中で成長している.ことも明らかになった。さらに氷中に人工空気包 接水 和物結 晶を 生成す る実験 で得ら れた 結果と ,氷床 氷中の 天然結 晶の 分布とを比較し,氷床氷 中で の空気 包接 水和物 結晶の 生成過 程を 考察し た。
第1章 で は , 空気 包 接 水和物 結晶の 研究の レビュ ーを 示す。 第2章では ,包接 水和物 の一 般的 性質 にっい て解 説した 。
第3章で は, 南極ボ ストー ク氷コ ア中に 含ま れる空 気包接水和物結晶の分布測定の結果を示す。
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この詳 細な空 気包接 水和物 結晶 の分布 測定か ら,い くっ かの新 事実が 明らか になっ た。まず間氷 期の水 中に含 まれる 空気包 接水 和物結 晶は, 氷期の 氷中 の結晶 に比べ て数が 少なく 個々の体積が 大きい ことを 明らか にした 。っ まり結 晶分布 は気候 変動 ととも に変化 してお り,過 去の気候変動 を示す 指標に なり得 ること を示 した。 さらに 空気包 接水 和物結 晶の体 積密度 と,過 去の氷床高度 の変動 の指標 である 含有空 気量 との相 関を表 す関係 式を 提案し た。一 方空気 包接水 和物結晶は約 500m深 で生 成 されは じめ, 数密度 ,体 積密度 ,平均 体積と もに 深さと ともに 増加す る。そ して1 250m以 深で は 気 泡 は 完全 に 消 滅 し, 空気包 接水 和物結 晶の体 積密度 は深 さ変化 を示さ ず,大 き な結晶 は成長 し小さ な結晶 は消 滅して いくこ とがわ かっ た。観 測結果 から, 空気包 接水和物結晶 の氷床 中での 成長速 度は結 晶の 構成分 子であ る気体 分子 の拡散 によっ て律速 されて いることも明 らかに した。 また粒 界上の 空気 包接水 和物結晶の直接観測から,氷/水和物結晶の界面工ネルギー が水の 結晶粒 界工ネ ルギー と等 しいこ とを示 した。 さら にこの 値を用 いて氷 中の気 体分子の拡散 係数を 求めた 。
第4章 では ,実 験室で 行っ た人工 空気包 接水和 物結 晶の生 成に関 する研 究結果 を示 した。 氷床 中で気 泡が完 全に水 和物結 晶に 遷移す る時間 は数千 年か ら数万 年と推 定され ている が,この長い 遷移時 間の原 因は核 生成頻 度が 極めて 低いこ とによ るも のであ ること を明ら かにし た。核生成さ え起こ れば,10日間 程度の 極めて 短い時 間で結 晶の 生成を 実験室 内で行 うこ とに成 功した。さら に核生 成率の 圧力依 存性に っい て調べ ,その 結果か ら空 気包接 水和物 結晶の 核生成 モデルを提案 した。
第5章 では ,氷 中の特 定の 気泡に 着目し て行っ た人 工空気 包接水 和物結 晶の生 成実 験の結 果を 示す。 まず, 気泡か ら空気 包接 水和物 への変 化過程 を再 現する ことに 実験的 に成功 した。気泡か ら空気 包接水 和物へ の変化 の反 応速度 の温度 ,圧力 依存 性を調 べ,任 意の条 件にお いて反応速度 を与え る式を 得た。 さらに 反応 速度の 温度依 存性か ら, 反応が 水分子 の拡散 によっ て律速されて いるこ とを明 らかに した。
第6章 では 二酸 化炭素 包接 水和物 を氷結 晶表面 上に 生成, 解離さ せる実 験を行 い, 炭酸ガ スと 氷との 反応を 調べた 。生成 実験 の結果 ,二酸 化炭素 包接 水和物 は低温 ほど多 く生成 され反応速度 も大き いこと ,およ び氷床 氷中 では気 泡表面 に生成 され ている 可能性 が高い ことが わかった。ま た常圧 下で包 接水和 物を解 離さ せる実 験の結 果から 氷表 面上に 生成さ れた包 接水和 物は解離条件 下でも 長時間 安定に 存在し てい る事を 示した 。
第7章 で は 第4,5,6章 で 得 た人 工 空 気 包 接 水和 物 結 晶 の 生成 実 験 の 結 果を , 第3章 で得 た 天然結 晶の分 布の結 果と比 較し ,空気 包接水 和物結 晶の 氷中で の生成 過程を 考察し た。結晶核生
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成過程にっいては実験から得られた核生成モデルにより空気包接水和物結晶が氷中の気泡表面に 核生成される確率を計算した。その結果はボストークでの空気包接水和物結晶の生成開始深度が 500mであるという結果をよく説明する。しかしボストーク氷コアでは気泡から結晶への相変化 が完了するのは約1250m深である。気泡から空気包接水和物を生成する実験で,相変化速度は非 常に大きいことを示しているので,相変化がある深さで一斉に起こっていない原因は核生成にあ ることが明らかになった。また結晶成長の律速機構の考察から,気泡から空気包接水和物結晶へ の相変化は,主として水分子の供給によって律速される事を明らかにした。また天然結晶の分布 観察から,相変化後の氷中での結晶成長は主に空気分子の拡散によって律速されていることを示 した。
第8章には本論文の総括を述べている。
学位論文審査の要旨
極寒のため表面積雪層が融解しない南極やグリーンランド氷床では,空気は堆積した雪にその まま捕捉され,氷床中には過去の大気が連続的に貯蔵される。このため,南極やグリ―ンランド の氷床氷を掘削採取し,その氷コア試料に含まれる過去の大気の分析研究を行うことが近年非常 に盛んになってきている。特に過去約20万年にわたる炭酸ガス濃度と気温との関係が見いだされ たことは,氷床氷コア研究のみならず,地球環境研究のエポックメイキングな発見であった。
深層掘削氷コアを観察すると,気泡はある深さで消滅し,高圧・低温で安定な空気包接水和物 結晶に変化している。すなわち氷床深部では,過去の大気は気泡ではなく空気包接水和物結晶と して保存されているのである。このため過去の大気状態を正確に再現するには,空気包接水和物 結晶の物理的,化学的研究がぜひ必要である。
そこで本研究では,氷床氷中に存在する空気包接水和物結晶の分布を測定し,その特徴を明ら かにすること,さらに結晶自身の氷床氷中での生成過程を,実験も含めて明らかにすることを目
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爾 広
郎 夫
三
晋 耀
隆 武
市 堂
前 堤
古 本
授 授
授 授
教 教
教 教
査 査
査 査
主 副
副 副
的 と した。 結晶分 布測 定の結 果から ,南極 ボスト ーク 基地で 掘削さ れた約2500mの氷コ ア中の 空 気 包接 水和物 結晶の 数密度 や平均 体積 は気候 変動と ともに 変化 してい る事が明らかになった。ま た 空気 包接水 和物結 晶は氷 床中で 成長 してい ること も明ら かに なった 。さらに水中に人工空気包 接 水和 物結晶 を生成 する実 験で得 られ た結果 と,氷 床氷中 の天 然結晶 の分布とを比較し,氷床氷 中 での 空気包 接水和 物結晶 の生成 過程 を考察 した。
第1章 では , 空 気 包 接水 和物結 晶の 研究の レビュ ーを示 す。 第2章 では ,包接 水和物 の一般 的 性 質に っいて 解説し た。
第3章 では ,南極 ボスト ーク氷 コア 中に含 まれる 空気包接水和物結晶の分布測定の結果を示す。
こ の詳 細な空 気包接 水和物 結晶の 分布 測定か ら,い くっか の新 事実が 明らかになった。まず,空 気 包接 水和物 結晶の 分布は 気候変 動と ともに 変化し ており ,過 去の気 候変動を示す指標になり得 る こと を示し た。そ して気 泡が完 全に 消滅す る深さ 以深で は, 空気包 接水和物結晶は成長してい る こと がわか った。 観測結 果から ,空 気包接 水和物 結晶の 成長 速度は 結晶の構成分子である気体 分 子の 拡散に よって 律速さ れてい るこ とも明 らかに した。
第4章で は,実 験室で 行っ た人工 空気包 接水和 物結 晶の生 成に関 する研 究結果 を示 した。 核生 成 さえ 起これ ば,10日 間程 度の極 めて短 い時間 で結晶 の形 成する ことを 実験的に示すことに成功 し た。
第5章で は,氷 中の特 定の 気泡に 着目し て行っ た人 工空気 包接水 和物結 晶の生 成実 験の結 果を 示 す。 気泡か ら空気 包接水 和物へ の変 化の反 応速度 の温度 ,圧 力依存 性を調ベ,反応が水分子の 拡 散に よって 律速さ れてい ること を明 らかに した。
第6章で は二酸 化炭素 包接 水和物 を氷結 晶表面 上に 生成, 解離さ せる実 験を行 い, 炭酸ガ スと 氷 との 反応を 調べた 。二酸 化炭素 包接 水和物 は低温 ほど多 く生 成され 反応速度も大きいこと,氷 表 面 上 に 生 成 さ れ た 包 接水 和 物 は 解 離 条件 下 で も 長 時間 安 定 に 存 在し て い る 事 を示 し た 。 第7章 でtま 第4,5,6章 で 得た 人 工 空 気 包接 水 和 物 結 晶 の生 成 実 験の 結果 を,第3章 で得た 天 然結 晶の分 布の結 果と比 較し, 空気包接水和物結晶の水中での生成過程を考察した。その結果,
氷 床中 の空気 包接水 和物結 晶の生 成を 律速し ている のは, 核生 成であ ることを明らかにした。ま た ,気 泡から 空気包 接水和 物結晶 への 相変化 は,水 分子の 供給 によっ て律速され,結晶成長は空 気 分子 の拡散 によっ て律速 されて いる ことを 示した 。
第8章 には 本論文 の総括 を述べ てい る。
これを 要する に,著 者は 空気包 接水和 物結晶 生成に 関し ,多く の新知 見を与えたもので,応用 物 理学 ,結晶 工学の 分野に 対して 貢献するところ大なるものがある。よって著者は,博士(工学)
の 学位 を授与 される 資格あ るもの と認 める。
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